CRFは現実改変力であり人間の可能性だ。
彼らは驚くべき力を持っているが……その代償は決して軽くは無い。
その力は命を浪費する。
——さて、この状況……どう切り抜けるか。
「……っ‼︎」
訓練場の中央に第三種侵食体のビースト成体とスカージとバイター多数。訓練場の出入り口は1つしか無く二分された形となっていた。楯無に孤児院の子供達は避難させたが……クーリェと呼ばれた幼女は位置的に避難させ損ねてしまった。
「クーリェ、だったか? ISを展開しろ‼︎」
「ッ‼︎」
熊のぬいぐるみを抱えたクーリェは身構える。当然の反応だ、まだ10も数えるかどうかの年頃。見知らぬ人間に指示される謂れは無いだろう。
「戦えとは言わん。お前自身の身を守る為にそのISを使え‼︎ シールドバリアがありゃ多少、生存率は上がるだろ‼︎ そんでもってさっさと逃げろ‼︎」
——正直な所、カウンターとは言えど素人を守りながら戦うなんて無茶はこの状況下じゃキチい……。然もデザイアーだとな。
そうこう言っている間に斥候として現れた犬か狼と言った姿のバイターが複数体、飛び掛かって来る。
「邪魔だ、退け」
最初に飛び掛かって来た1匹の頭を掴み棍棒の如く振り回し後続して襲って来たバイターを殴り殺す。比較的、弱い個体なのかあっさりと絶命する。が、その後方で構えていた銃口の様な頭部を持つ侵食体であるスカージが光弾を放って来る。侵食体にしては偶然の連携だろう。
「偶然にしては雑だな」
その光弾、ミゾレに向かって飛来したモノは武器として使っていたバイターで薙ぎ払って防ぐ。その間に新たな侵食体が地面から浮上しね湧いて来る。……正直な所、CRF抜きで戦うにも限界はある……かと言って、なけなしの残量を此処で使うのも気が引ける。
「……うう、何で、こうなるの?」
——何でまだお前は此処に居るんだよ……。
後ろで泣き言が聞こえた。一応、言われた通りISを展開したクーリェだが、見た事の無い怪物……侵食体が多数湧いて来る光景を見て竦んでいるのか、動かない。恐らく行動よりも恐怖の方が勝っているのだろうか。
見た目の厳つさだけなら、目の前の侵食体連中よりもクーリェのISの方が軍配が上がると言うのに。
「ええい‼︎ さっさと逃げろと言っただろうがッ‼︎」
——1人で防衛しつつ大将をブッ飛ばすって言うのは本来、無茶な話なんだよ‼︎
状況は切迫している為、そう叫びつつ襲って来るバイターを蹴り飛ばしてスカージにぶつけて黙らせる。奥にいるビーストはまだ静観している様だ。
『ミゾレさん‼︎ まだ幼い子供相手にちょっと言動が荒いですっ‼︎』
——じゃあ、どうしろって言うんだよ‼︎
「ヤベ……動いたかッ‼︎」
大地が振動する。静観していたビーストが前足を踏み鳴らしつつ行動を開始したのだ。自分1人だけなら何とかなるが、恐怖で身体が竦んでいるクーリェを庇いながらとなると、自身のCRFの都合上かなりマズい状況だ。
『高密度のエネルギーを観測‼︎ 長距離砲撃が来ます‼︎』
「ルーちゃん、助けて‼︎」
クーリェのその叫びと同時にビーストの口部から高エネルギーのレーザーが放たれた。
「は……?」
砲撃が飛来した。しかし、妙な感覚を覚える。
——おいおい、何だこりゃあ⁉︎
「ッ‼︎」
ミゾレとクーリェの眼前に見えた影。それは毛糸の様な質感、いいや
『こ、これは……‼︎』
——見た目通りならクーリェの引き摺っていた熊のぬいぐるみとほぼ同じ……だが、自立して動く様な素振りも無かった上に此処までデカくは無かった筈だが……。何処ぞの人形遣いに似た系統なのかも知れない。
「え……ぷ、プーちゃん?えっ、ルーちゃん?」
クーリェ本人も困惑している。だが、ミゾレから見ればこの光景は間違いなく現実を改変する能力である事に間違いは無い。咄嗟に使ったのだろう。
『ズッ……ズッ……‼︎』
巨大な熊のぬいぐるみは頭部を振り向かせる。ぬいぐるみ故に無表情なのでかなり怖い。コレが人形特有の恐怖と言うモノか。なまじ侵食体よりもこう言うファンシーな物が動き出すと怖く思えてしまうのは何故だろうか?
「うん……うん……‼︎ 分かった。ルーちゃんが、あの……アレを倒すのを手伝って欲しいって言ってる……」
アレと言うのは目の前に居る侵食体共の事だろう。突然、現れた熊のぬいぐるみに困惑しているのか警戒しているのか、動揺している様にも思える。獣の勘と言うべきか。
「そのルーってのは熊のぬいぐるみで良いのか?」
「えっと、ルーちゃんでプーちゃん?良く……分からない……」
「其処の所は今は良いや。そもそも元よりそのつもりだ。後で答えられる範囲で質問に答えてやる。事情は省くが訳あって俺は今、全力は出せねぇ状態だ。本来ならあんな雑魚、伸す事はワケねぇってのに不甲斐ねぇ限りだ。ツー訳でそのちびっ子を守ってやってくれ」
「えっと、う、うん。え、えっと……武器、使える?」
「あるならな。流石にCRF抜きの素手で殴り合うのは限界がある」
——素手で暴れる輩は大概、無意識の内にCRFを怪力に回しているからな……。
「こ、コレ……」
クーリェは自身のISの武装の1つである番となる長柄状の槍型武器。 刃の部分はエネルギー状になっていた。
それは俗に三日月斧、或いはバルディッシュと呼ばれる武器。それをミゾレの足元スレスレに投げ付ける。……拙い投げ方のフォームを見る限り投げ渡したかったのだろうと推察されるが其処を考えるのは邪推と言えるだろう。
「ん、サンクス。さてと、仕切り直すとしますかね」
訓練場の床に突き刺さった一対のバルディッシュの柄を掴んで抜き構え直す。やはり武器があるのと無いのでは勝手が変わって来る。……1人でも多く守りたいのならば持つべきだ。
「ルーとやら、デカいのは俺が片す。雑魚までは手が回らん可能性があるから、仕留め損ねは任せて良いか?」
「う、うん。分かったって……」
——やはり、懸念事項が解消されると動き易い。さて……狩るとしようか。
侵食体も困惑から脱したのか再び動き始めた。クーリェと言う不安要素が消えた今、今度は気兼ねなく暴れられる。
何故なら自分が前線を押し上げ突っ込んでいる間に自身の背後、クーリェの眼前に侵食体が浮上してくる可能性があった為に、前進出来なかった(故にさっさと逃げろと言った)。
だが、今はルーと言う助っ人(熊?)が来た以上、流れが変わった。
「邪魔だ、お前らに拘っている暇は無ぇんだよ‼︎」
バルディッシュを振り回し、頭部をぶった斬り胴体に突き刺し其の儘、振り回して叩き付けぶった斬り、侵食体が湧いている敵中のど真ん中へ進行を開始する。
視界の隅に見えたのは熊のぬいぐるみが腕を振るって侵食体を圧し折り、叩き潰して圧倒している光景。コレなら向こうの心配は無さそうだ。
——熊のぬいぐるみが大暴れしている光景って、冷静に考えるとかなりホラーだよな……。