一般人が高レベルの侵食波に晒された時、先ずは幻聴や幻覚が見える事でしょう。そして、場合によっては侵食体へと変異する事で立ててデデデでしょョョょうううううう。。。!。
「皆、ちゃんと着いて来ている⁉︎」
ミゾレに避難しろと言われ孤児院の子供達を連れて楯無は孤児院の建物から飛び出し、逃げ遅れた子供が居ないか見渡す。しかし、孤児院に何人、入所していたのかは知らない。少なくとも20人くらいは居たとは思う。
——クーリェちゃんは、彼が言うにはカウンターだから大丈夫だとは思いたい、けど……。
建物の奥から黒煙が上がっている。此処が辺鄙な田舎にあるとは言え、IS操縦者を育成する事を想定とされた孤児院。流石にロシア政府も見て見ぬフリはしないだろう。
『更織さん。心配ですか?』
その時、自身のISの秘匿通信を介して通信が入る。ミゾレと一緒にこの世界にやって来た彼方の世界のAI、モネカだ。
本来、コレはISのコア・ネットワークを介してのみ通話出来る機能なのだが、モネカはその技術を嘲笑うかの様に易々と介入して来た。此方の世界の技術より彼方の世界の方が何倍も技術が発達しているのだと窺える。この事実を此方の世界が知ればますます、放っておいてはくれないだろう……。
「ええ……。彼がどれだけ強いのか、底知れないのだけど」
『カウンターでも無い、エタニウムシールドも無い中で侵食現象が発生している場所に一般人である貴方が飛び込むなんて事は、自殺行為でしかありません。今回は第3段階、一般的に高深度と言われる環境です。意味が理解出来なくても、理解して下さい。今、あの場所は死で溢れている事を』
モネカからはっきりとそう言われる。確かにその通りだろう。今の現状、楯無が出来る事は、何も無い。
「……歯痒い限りね。世界最強のISが合っても、如何にもならない世界があるなんて」
『……慰める言葉がありません。私達も、ギリギリの状態でもあるんです』
「ISを素手でぶっ壊す人間が溢れていると言うのに?」
『そのお話は出来ません。ミゾレさんもしないでしょう』
—— 一体、何と対峙しているのかしらね。
「……やはり、来たわね」
遠い空から複数のISが飛来して来るのが見えた。間違いなくロシア政府に所属するロシア代表候補生達だ。その数、3人。黒煙が見えた事と位置的に次代のIS操縦者を養成する孤児院であって政府も看過出来ないと考えたのだろう。
彼女らは量産機である第二世代機、ラファール・リヴァイヴに搭乗し楯無の近くに降りて来た。代表候補生は大体が10代頃から選ばれる。派遣されて来た者達も高校生くらいの年齢だ。
「サラシキ国家代表‼︎ 状況は如何なっているのですか⁉︎」
代表候補生の1人がISを量子変換して楯無に駆け寄り状況を尋ねる。
「緊急事態よ。孤児院の子供達は何とか避難させる事が出来たけど、職員までは誘導出来なかった」
『第3段階、CSF3.環境下だと、お前を含む生身の人間は持って5分と考えろ‼︎ それ以上は死ぬと思え‼︎』
既に5分以上経過している。恐らく逃げ遅れた者は既に死亡している可能性が極めて高いと言える。
「何が、起こったと言うのですか……?」
——既にこの状況はロシア政府も驚きながらも把握しているでしょうね。……しかし、困ったわ……。全てが謎のIS学園特待生と言う無茶な経歴のミゾレ君が此処にいると言う事実は避けたいわね。それに侵食現象が発生している中でISが突撃してしまえば、死体が出来るだけ。
「な、何アレぇぇぇ‼︎」
「こ、怖いよっ⁉︎」
「え⁉︎」
如何答えたモノかと考えていた矢先、子供達の悲鳴が轟いた。視線の先は孤児院の建物。その建物の壁を破壊して、見た事も無い怪物が這いずり出て来た。
「な、何だアレは⁉︎」
「お、狼に似ていますが狼ではありませんよ⁉︎」
——ッ‼︎ あの時、IS学園の整備室で見せられた侵食体と言う存在に似ている⁉︎
『可視域内に下位侵食体が接近中です‼︎ 比例して侵食濃度が上昇……‼︎ 今の貴方達では低レベルの侵食波でも危険です‼︎ 子供達を連れて退避を‼︎』
「成程、見た事も無い怪物が現れた……。絵空事ではあるが、現実として起きたのならば真実と認めよう‼︎ 行くぞ‼︎」
この3人のリーダー格の少女がISを再展開し手に持つ武器を構え直して突撃。後の2人も続く形で突入する。
『ッ‼︎ 未確認次元跳躍を新たに観測⁉︎ こ、コレは……⁉︎』
——何か、躊躇っている気がするのだけど?
『更織さんッ‼︎ 今すぐにその場から離脱して下さい‼︎』
悲鳴染みたモネカの叫び。その直後、大地を揺るがす地震と共に孤児院の玄関口前に巨大な影が浮上した。その周りには巨大な板の様な物が見える。
「な、何だ、こ」
空間を割く音。
「え……ッ、ッ⁉︎」
空気を割る音。
「な、が⁉︎」
大地を穿つ音。
無情な音が立て続けに3回、響き渡った。
『侵食波のシグネチャータイプ。……タイプ:タイラント……第3種侵食体ですッ‼︎』
黒と赤のカラーリング、生物と言うには歪。上半身は黒と灰色の人型に近いが下半身は蜘蛛の様な多脚擬き……そして、5、6mはあろう巨大な大剣が傍に聳えている。この世界の認識に合わせれば歪で禍々しいISにも映ろうか。
第3種侵食体タイラントソード。
第1種侵食体を掃討したロシア代表候補生は突如不意打ちに近い形で現れたソレにより鎧袖一触の如くその命を絶ち斬られた。1人は首を刎ねられ、1人は身体を袈裟斬りに、1人は頭から両断された。何れも
だが、真に恐ろしい事は闇雲に本能に支配されているビーストタイプとは異なり、冷静にチャンスを狙う知能があるとされている点。
『更織さん‼︎ 一刻も今すぐに退避して下さいッ‼︎ 今の状況では太刀打ち出来ても命の保障は出来ません‼︎』
——今は逃げるのがベスト……‼︎ 彼女の言う通り、今の状態で侵食現象の中で戦うのは危険過ぎる‼︎ 此処は子供達も居る‼︎
「皆、今すぐに逃げて‼︎ 早く‼︎ 此処はお姉さんに任せなさい‼︎」
民家が少ない地域である事に安堵と不安が重なる。民家が少ないと言う事は被害は広がり難い、逆を言えば救援は望めない。望んだとしても悪戯に死者を出しかねないが。
——誰かが此処で足止めしないと……‼︎
国家代表が逃げてばかりでは居られないのだ。例え危険があったとしても、国家代表と言うのはそんなに軽い肩書では無い。
『さ、更織さんッ⁉︎』
「……忠告や警告は有難い程、聞いているわ。でもね、IS国家代表って肩書は、軽くないのよね。大丈夫、何処まで通ずるかは分からないけど、少なくともアイツが子供達の視界から見えなくなるまでは」
——それでも長くても4分半。既に1分が経過している、残り僅かしかない‼︎ 少なくともあの大剣の一撃は絶対に貰っちゃいけない。ISのシールドバリアが質量で叩き潰される。
……シールドバリアは無敵だと勘違いされがちだけど、バリアの耐久性を上回る攻撃を喰らったりエネルギーを中和されると破られる。最も、ミゾレ君の存在でその幻想は早々に壊されたけど。
ならば射撃主体の戦法が得策と考え楯無は展開した主武装である4連装ガトリング内蔵の槍を構えて距離を取って対峙する事を楯無は選択した。
—……ッ⁉︎
『お姉ちゃん、如何して……如何して、私が、
「な、に、……コレ?」
——簪ちゃん、の、声……⁉︎ 如何して⁉︎ 何故、聞こえるの⁉︎
振り向いても何処を見ても簪の姿はある筈が無い。
『本当は嫉妬しているんじゃない? 何故、姉である私じゃなくて、妹の簪がカウンターに覚醒したのか?』
——嫉妬なんか、していない。
『優越感に浸りたいから?いいえ、違う。カウンターサイドの事実は間違いなく発覚するでしょうね? その時、私はどうなる?』
——そんな事、考えるまでも無いでしょ。でも、如何してこんな声が聞こえて来るの?
『IS操縦者は引き摺り下ろされる。何故なら、侵食体、侵食現象に勝てないって今、知ったから‼︎ 頼みの綱のシールドバリアも柔らかいケーキみたいにカットされたわ‼︎ 当然よね、一撃貰えば死んじゃうから。それに彼も言ったじゃない、5分も戦えない奴は死ぬだけだって‼︎』
——…………。
『カウンターでは無いから迫る危機に戦力にならない姉は当主に相応しく無い。日本の……ひいては IS学園の危機に戦力にならない人間が、代表だなんて笑わせるわ』
——……そんな、事は……。
『でも安心して、姉さん。何もしなくて良い。ほら、口から血が出ているでしょ? 立っているのも辛いでしょ? 大丈夫、後の事は私が全部、するから……』
自分の声の連続、そしてその最後に妹である簪の声が聞こえる。
『だから、お姉ちゃんは、暗くて冷たい土の中で死んでね?』
編成条件で未実装ユニットが使用禁止と言う条件を提示されるのは流石にバグだと信じたい。