クーリェの能力の発露。それ自体は問題無いのだが
——個人的状況柄、カウンターが増えるのは良いんだが相対的に死亡率が跳ね上がるんだよな。
バルディッシュを振るい
クーリェの能力は無機物に意思を宿らせるタイプの能力と思われる。……如何もその意思とやらは以前から居たらしいが、その辺は割愛。そして、もう一つ考慮するべき点として、本人自体が戦いに向いていない性格だと言う事。そりゃ年齢10歳の奴に戦争しろだなんて言えないのだが……此方の世界基準だと大半が幼稚園児程の幼い子供でも『戦うしか無い』と言う結論に至っている(と言うか自分もそうだったし)。
—— コレ終わったら一先ず、自衛程度の認識を持たせるか。
戦闘行為を嫌がる奴を戦場に放り込んでも無駄死にでしかない。
『ミゾレさんッ‼︎』
「おう、今終わらせる。時間を掛けすぎたな」
第1種の下位侵食体の防衛ラインを突破し通信が入った直後、ビーストの頭の下に潜り込んだミゾレはバルディッシュを突き立て顎下から脳天を貫通させ、そのまま後方に引き裂き断ち切った。
『グオ、……オォォ……‼︎』
「2発」
そしてもう片方のバルディッシュで開いた傷口から縦に振り下ろしてビーストの胴体を両断した。
「成体になりかけの個体だったか、存外に柔かったな。まぁ、今の状況で凶暴な奴が出て来られても困るが」
両断された胴体が訓練場の床に倒れる衝撃で震動が走る。何はともあれ第3種侵食体は無事に撃破された。
「か、勝ったの……?」
熊のぬいぐるみと一緒に黒いISを纏ったクーリェが恐る恐ると言った形でミゾレに近寄って来る。視界の隅で見ていたが、熊のぬいぐるみが下位侵食体を多数、潰していた。
「まぁ、危なげなくな。取り敢えず臨時収入と言う事でエタニウムを回収しておくか。いずれにせよ、必要事項だからな」
「え、エタニウム……?」
——今回は第3種侵食体が居るからな。それなりには期待出来る筈だ。
掃討完了した訓練場に駆逐された侵食体の死骸からエタニウム原石を回収する。雑魚の第1種侵食体、多数に加えて第3種侵食体……。掻き集めればそれなりの量となった。
常々思う、自身のウォッチがエタニウムの原石のまま喰らえると言う事実を。精錬すれば如何しても量が減ってしまうからだ。
「ふむ……。コレだけの量が有れば往復出来る程度にはなるな」
6割程度は次元艦船であるアンカレッジに回し3割程度は自身のウォッチに放り込んだ。残り1割は懐具合が芳しく無い為にクーリェと簪の分に回した。酷い内訳だと自覚はあるが、個人的にも限界はあるのだ。理解しろとは言わない、そも『こう言う業界』だと。一先ず、現在のCRFは5割程度にまで回復した。まだまだ万全とは言い難いが、窮地は脱したと言えるか。
「……此方、ミゾレ。想定外の第3種侵食体は排除した」
『ミ、ミゾレさん‼︎ 想定外に次ぐ想定外の状況です‼︎ つい先程、次元跳躍を確認しました。高濃度の侵食波が検出、侵食波のシグネチャータイプ。……タイプ:タイラント。識別名はソードです‼︎』
「タイラントソードだと? 奴は深度問わずに出没するが現実世界に浮上する事は稀な筈だが……何に引き寄せられた?」
——全く、彼方は此方の都合を良く無視して来るよな。
『現在、更織さんが孤児院の子供達を逃す為に応戦中、と言いたいのですがエタニウムシールドも無いので交戦は不可能ですッ‼︎』
「あのアホは死にたいのか……? 対象地域に侵食現象が発生して何分だ⁉︎」
——逃げろと言ったのに何を考えているんだ⁉︎
『崩壊点は孤児院玄関前‼︎ 既に2分が経過‼︎ 更織さんはバイタル異常‼︎ 恐らく幻覚及び幻聴の症状が発生していると推測されます‼︎』
高位の侵食体の眼前でそんな状態だと危険極まりない。
「え、えっと何が起きているの?」
クーリェは不安げな様子だ。何せ自身の知らない状況が立て続けに起きている。不安になるのも仕方がない。
「……。ルーとやら、孤児院の玄関前に向かって俺を投げろ。走って向かっては到底、間に合わん」
『ズッ……ズッ……』
「えっと、如何して?って言ってる」
「説明している余裕は無い。あの水色のねーちゃんが死亡する瀬戸際だ。怪我とか衝撃とか気にしなくて良いからさっさとやってくれ」
——あのパワーなら問題は無かろう。それに訓練場と孤児院の建物の玄関口は一本道。問題は無い筈だ。
「ひ、人を安全に移動させれないって」
「構わない、やってくれ。その後、お前は好きにしろ‼︎」
——その程度で怪我するんなら、とっくの昔に死んでいる。……師匠のシゴキで。
「わ、分かったって‼︎」
熊のぬいぐるみはミゾレを掴み大きく振り被って訓練場の入り口に向かって豪速球レベルの速度で投擲した。
——接敵まで数秒‼︎ 一瞬だけなら発動しても行ける筈だ。師匠から『使い方が粗い』と良く怒られた。
ぶん投げられた事で凄まじい圧力が全身に襲い掛かる。もっと速い加速度を体感した事がある為、常人ならば気絶しているレベルでもミゾレは耐えれた。最も無傷とは行かないが。
一瞬で孤児院の廊下を突破、すぐさまに玄関先で見える巨大な第3種侵食体であるタイラントソードの背中部が見えた。幻聴か幻覚を認識しているのか地面に膝を突いて頭を押さえている楯無の姿も見える。
今、まさにタイラントソードが楯無に向けて大剣を振り下ろそうとしている瞬間であった。
「させるかッ‼︎」
速度は重さ。加速が乗った一撃は比例してその破壊力が増す。すれ違い様に振り上げられた大剣にバルディッシュを振るう、その一撃はバルディッシュ其の物も道連れにその大剣を破壊した。
『ぐ、ォォォォォぉぉぉぉおぉおおぉ⁉︎』
突然の奇襲を受けた上に体勢を崩したタイラントソードは呻き声をあげて怯んだ。
破壊した後、もう片方のバルディッシュを地面に突き立て力付くで減速させ着地する。大剣に叩き付けた方のバルディッシュはもはや使い物にならない為にその場に捨てた。
「テメェ、逃げろつったろうに何、やってやがんだ⁉︎ お前、そんなに死にてぇのか⁉︎」
「こ、今度はちゃんと本物⁉︎ 本当のミゾレ君よね⁉︎」
『ぐぉお、グォォォォォォォ……‼︎』
合流の喜びに浸っている余裕は無いので、その言葉は無視して眼前に聳えるタイラントソードに意識を向ける。大剣を一撃で破壊され体勢を崩したが数秒も経たぬ内に体勢を立て直した。
——さて、本音を言えば此処で退却して欲しい所なんだがな。楯無は侵食波の影響で肉体崩壊が始まる直前……。俺は相手しても良いが、そうは考えないでくれよ……。
『グォォォォォォォ……‼︎』
タイラントソードは武装が破壊されたのか、戦況は不利と判断したのか、地面に溶け込むかの様に沈んで行き視界から消えた。
「き、消えた……?」
「状況不利と判断したら速やかに撤退する……当然の判断だ。長居は無用、一先ずこの付近から退避するぞ。話は後で聞く」
——コレだけの規模。恐らくCSEレベルは維持されるだろうな……しかし現状で対処出来ない。恐らくコレでこの世界に裏世界や侵食体の事が発覚したと言えるな……頭が痛くなる……。
此処に留まれば楯無が冗談抜きで死ぬ為に、侵食地帯から離脱、楯無が子供達を逃したと言う方向へ向けて移動し、活動限界ギリギリの所で辛うじて侵食地帯を抜ける事が出来た。