『……差し出がましく負い目があるのですが、1つお願いがあります。その事を話したくて私はクーリェに貴方の下へ向かう様に言いました』
「荒唐無稽な内容でなければな」
「……正直な所、貴方の存在自体が荒唐無稽な気がするのだけどね」
「楯無、話が拗れるから今は黙ってくれ」
——……この世界に俺自身の影響を過剰に遺すのは得策では無い。……この世界で発生する概念はこの世界で立ち向かうべきだからだ。
『クーリェは性格上、戦いに向いていません。それはミゾレさんもご理解頂けた筈。私としても無理強いはしたくはありません。
……仮に侵食体と言った侵食現象が発生しなかったとしても必ずやクーリェは苦手で怖い存在であるISに関わざるを得なかった。ですが……』
「その前に質問があるが、良いか? 楯無」
「何かしら?」
「ISの適性。適性ってそんなに重要なのか?」
ミゾレから素朴な質問。確かに管理局でもカウンター能力の出力に応じてS級やらA級と言ったランクはあるが、最低ランクのD級だからと言って弱いと言う訳では無い。そもそも非公認のカウンターが多いので殆ど意味無い状態である。
「勿論。適性値が高い程、ISをより自在に操れるわ。Aランクは高い数値として、IS関連に関わる様に政府が政策として施行する程だわ」
——馬鹿じゃ……。あー、グロリアだとカウンターだからと言って1人で一個中隊に突撃させていると聞いた事、あるな……。似た様なモンか。
『先述した通り、クーリェは適性値はS。……仮に嫌だとクーリェが声に出して言えたとしても、周りは、大人達は、ロシアは、絶対に納得しないでしょう。数少ないIS適性値Sの存在。身内も居ないし頼れる人脈も無い……その状態でISから切り離すのは極めて困難です』
「孤児1人の意見を聞ける程の度量は無ぇって事だな……。侵食現象と言う危険地帯に抵抗力がある、その上にISと言うこの世界の戦力。重なれば嫌でも戦力として数えるだろうな」
もはや、侵食現象を隠す事は出来ない。そしてカウンターの有用性が見出されれば必ずその状況になる。
『はい。現状、今後の事を考えるとそうなる事は目に見えて分かります。……恐らく直ぐにでも出撃させるでしょう』
「無駄死に確定だ」
ミゾレはバッサリとその結末を言い切った。カウンターと言えど初作戦で命を落とすケースが後を絶たないのが現実だ。
『…………』
「さて、無駄な前置きはこの程度で充分だ。ルーよ、本題を話してくれ」
『……無理を承知でお願いしたい事。それはクーリェを貴方の居るべき世界に連れて行って欲しいんです』
——やれやれ、半分くらい予想は出来ていたがそう来るか。話を聞く限り普通の手段じゃクーリェとISを切り離すのは極めて難しい。となれば荒事な真似になる。
「…………」
『普通の手段ではクーリェをISから切り離すのは極めて困難です。現状、励ますくらいしか出来ませんでした。……誠に身勝手ではありますが、全く別の世界であれば多少なりとも安心は出来るかと』
「……………」
「ミゾレ君。そもそも、そんな真似して大丈夫なの? 異世界人なんて人権とか戸籍とか国籍とか」
「不可能ではない。実際に別次元から来た奴が普通に店開いていたり、ある意味、タイムスリップしてんじゃんと言いたくなるような連中もいやがる。そんなアホ軍団に全くの並行世界から移民が1人増えた所で大して問題になんねぇよ」
——つーか、これ以上増えても今更感が半端無いんだよな。気にするだけ時間の無駄。
『……‼︎』
「カウンターは確かに対侵食戦における重要な戦力だ。それは否定しない。……が、全員が全員、タスクフォースカンパニーでの傭兵をしている訳ではない。
カウンターの中にはCRFの内容が非戦闘型能力の者も居る。そう言う奴を戦場に放り込む様な真似は早々、しない。そう言う者達の為にもエタニウムの供給網はちゃんと整備されているから其処は問題無い」
ミゾレは傭兵で周りも傭兵連中なので血の気が多い連中ばっかりだ。
『……貴方から見てクーリェのカウンター能力は?』
「正直に言えばやっぱ判断に苦しむ類。非戦闘型と言っても通じるんじゃねぇのか微妙な所だ。ま、本人の意思を尊重するのが普通だ」
——まぁ、普通、ならな。管理局の支配が浸透している場所は兎も角、ソレ以外は犯罪の温床だしな。コレは今言う必要は無いし、まだ知る必要は無い。
「クーリェ本人の意思確認は其方でやってくれ。自分の未来は自分で決めるモンだ、誰かにとやかく言われる筋合は無いだろう」
『ええ、勿論です』
「言っておくが、最低限の自衛は出来る様になってくれ。必ず裏世界を通過しなければならない。
100%、侵食体の連中と遭遇するのは目に見えて分かっている。俺とて必ず守り切れると言う保証は断言出来ない、裏世界じゃ何が起こっても可笑しくない環境だ。
最後にキツい言い方にはなるが此方の世界も安全とは言い切れない。侵食現象は毎日起こると言って良い……浄化作戦は速やかに行われるが、何処の世界にも平和な環境は無いんだ。それでも比較的、治安が良く侵食現象が起こり難い場所は知っているから、其処に話をつけてみよう」
——ルシード辺りなら、大丈夫だろう。彼女、子供好きだし、多分大丈夫。
『分かりました……。それも含めてクーリェを説得します。ありがとうございます、こんな無茶なお願いをしてしまって』
「……礼は要らん。或いは間違った選択かも知れない。10歳程の幼女相手には酷かも知れないが、後悔しない選択をと言っといてくれ」
『ええ、伝えておきます』
そう言うとルーの人格は隠れクーリェの主人格が表面化。その直後に虚空の方へ向かって意識を向けている。如何やら、ルーと会話しているのだろう。
「あらら、私の懸念事項が変な形で解決しそうね」
「ん? 如何言う事だ?」
「クーリェちゃんの身柄は如何なるのかと言う事よ。半ば勢いでその未知のカウンターに会いに来た。その後の事、考えていなかったでしょ?」
「あー、そうだった。特に考えて居なかったわ」
「貴方って結構、その場の勢いで物事を決めるタイプなの?」
「まぁ、結果オーライじゃね?」
「全くもってオーライじゃないわよ。専用機持ちの子を如何やって連れ出すつもりなのよ?」
「ISと言うか専用機に乗りたくねぇんだろ? その辺に捨てとけば良いだろ。それに空港の職員が一々孤児院の子供の顔なんて覚えて居られるかよ」
「貴方って言う事、やる事、本当に無茶苦茶よね……」
「細かい事、気にする余裕が無いだけだ」
「…………ね、ねぇ」
其処でクーリェが声を掛けて来た。ルーとの話が纏ったのだろうか。
「おう、話は纏ったのか?」
「……う、うん。IS、乗らなくても良いの?」
「俺はこの世界の基準は理解出来ん。使うか使わないか本人の意思に依る」
「怖い事、嫌。乗りたく、ない……‼︎」
「10歳の幼児にする必要の無い戦闘を強いる方がクソボケだ。嫌なら嫌って言えば良いんだよ」
「……貴方の世界に行けば、怖い事しなくて、良いの?」
「流石に絶対的な確約は、出来ないな。ただ……」
「ただ……?」
「
——元の世界に帰ったら即行でグロリアに行ってあの連中に借りを返しに行くか。個人的理由と言う事で。しかし、クーリェがカウンターに覚醒した理由……何となく分かった気がする。例えるなら……戦いたくない、そう言う理由で覚醒したのかねぇ……矛盾している気もするが。
この世界の問題諸々は取り敢えず楯無や学園長に丸投げする事にして、ミゾレと楯無はクーリェを連れてロシアから飛行機で出国し、IS学園へと戻った。
クーリェの家だった孤児院は半壊。クーリェは専用機をその場で放り捨てており、後日、政府関係者がそのISを無事回収した。クーリェ本人はIS学園が半ば強引に身元を引き受ける形に収まった。