無くしたモノはひょっこり視界へと出て来るモノだ。
それが大切なモノだったら尚更だ。
第六アリーナ。
次元艦船アンカレッジ、船内居住区画。ミゾレの部屋。
「……漸く、この部屋も片付ける事が出来るな」
次元艦船の居住区画。アンカレッジは他の次元艦船と違い小型故にそのスペースも小さい。それでもこの世界の人間から見れば大きい船に該当するらしいが……。
現在、ミゾレは船内にある自分の部屋の片付けをしていた。大破した際に、居住区画もダメージを受けた為だ。幸いコレと言った物は無いので被害と言えば壁やら天井の破損と言った具合である。
『主要部の修理は概ね完了しています。現在、エタニウムドライブを含め戦術支援、船体制御及び、航行に必要なシステムの最適化を進めています』
「ああ、この世界基準の座標情報の取得も進めておいてくれ。近い内にIS学園に繋がる座標の深度1程度のカウンターサイドにダイブし、エタニウムの回収を試みる。……序でにクーリェや簪の初ダイブも済ませておくか。自分の命くらいは自分で繋いで貰わないとな」
部屋に流れ込んだ残骸等を片付ける傍らでこの後の予定を纏める。予定としては準備が整い次第、この世界基準でのダイブを試みる予定だ。それからIS学園の学園長の契約により簪の分のエタニウムの確保も視野に入れている。
『初ダイブで命を落とすカウンターの死亡率はかなり高いですからね……。クーリェちゃんの場合、私達の世界に渡航する以上、そのタイミングで初ダイブなら自殺行為ですからね』
元の世界に帰るとなれば恐らく深度10レベル。……第4種侵食体を通り越して第5種侵食体が湧いて来る環境である可能性が高い。そんな中でシャドウ型まで割り込まれれば堪ったモノでは無い。
「俺の時は散々だったよ。師匠はシャドウに出喰わすまで何の説明もしてくれなかったからなぁ。……今となっては良い社会経験だな。上司の無茶振りと言うモノを早々に知れて何よりだった」
『新人研修はまた延期だ‼︎』とかで、結局はその機会は来なかったのだが。
『……しかし、本当にシャドウは現れるんでしょうか? 確かにシャドウは初ダイブを行うカウンターを狙って出現する
「どんな世界でも確率なんてアテにならんだろう? 並行世界の女パイセンやら女版堅物少佐殿やら、オカルトが跋扈している上に前回の記録を見ちまった上に、今現在の状況を鑑みるにありえんとは言い切れないだろう。擬似的に人工太陽やらブラックホールも作っちまうくらいだしよ」
『……そうですね。私達の世界も相当に何でもありですからね……。この世界の進捗技術のデータを見て少し視野が狭窄気味でした』
「それにシャドウが居るか居ないか云々よりも、2人はカウンターとして現実の匂いが強く染み込んで居るからな……。今後の事を考えても経験を積んでおくべきだろう」
——何時迄も付き合える余裕は無いからな。と……コレは。
瓦礫やらを片付けて行くとあるモノが視界に入った。青いペンライト……アイドルとかのライブで観客が手に持って振るうアレである。だが、それは電池切れで光る事は無い。
『ミゾレさん、それは……』
「…………ああ、此処でくたばるつもりは無ぇよ。君の居ない世界で死んで堪るかってんだ」
モネカの言葉は届いて居ないのか、ミゾレは埃が付いたペンライトを手に取り埃を払い、切れた電池を取り出して処分する。ペンライト自体は捨てず、備え付けの机の引き出しの中に入れた。
「さてと、この部屋の掃除はこの程度で良いだろ。元々、そんなにモノは無ぇからな」
『え、あ、はい。そ、そうですね。って、アレ? えーと、アンカレッジの近くに誰か、アレは……確か、更識 楯無さんのお付きの布仏本音さん?が居ますね……。後、簪さんも一緒みたいです』
通称のほほん。のほほんとしているからそんな呼ばれ方をしている。奇しくも本名を略したらそうなると言う何と言う偶然。彼女も楯無経由で此方の事情を知っている。
「何かあったかねぇ……。楯無とはさっき面を合わせたからその線は無ぇな……つーか、のほほんと簪ってどう言う組み合わせなんだ?」
若干、訝しみながらもアンカレッジから降下扉を開いて飛び降り2人の前へと着地した。
「うわ〜、ミゾッチ〜。この船大きい〜‼︎」
「本音、五月蝿い……」
本音はアンカレッジを見たのは初めてなのでその大きさを見て興奮している様だ。相変わらず袖はブカブカでありそれを上下に振るっている。隣の簪は呆れ気味だ。
「この組み合わせは珍しいな」
「えー、私はかんちゃんのお付きの専属メイドなんだよ〜。セットなのは当然なのだ〜」
「本音、恥ずかしいから止めて……」
えへんと寝ぼけ眼で胸を張るが……ミゾレの反応は全く違った。
——え゛っ⁉︎ メイドってアレだろ?
「パンチ1発で地面にクレーターを作ったり主人を眠らせる為に猛獣用の麻酔銃を使ったり、テロ級の激辛料理しか作れなかったり、アホみたいに強い連中の事だろ? メイドって言う連中は」
「私は〜、そんな超人じゃないよ〜‼︎」
「ミゾレ君って、メイドにどんなイメージを……?」
「そんなイメージ」
——だって知っているメイドってそんな連中ばだかりだもん。リリーに関しては半分、殺しに来ていると本気で思っている。
「で、何の用だ?」
「ミゾッチ知らないの〜? 今日はね〜、おりむーとセッシーのクラス代表を決める模擬戦の日なんだよ〜。だから〜、一緒に行こ〜って」
「そうか、知らんかった。割と真面目に興味が無かったからな」
「私も興味無いのに、本音が煩くて……」
簪に限っては完全に整備室から引き摺り出された形らしい。序でに言うなら道連れも欲しかった様である。
「ええ〜、ミゾッチもかんちゃんも、興味が無いの〜?」
「「無い」」
2人同時にそう言い切る。ミゾレに至っては元の世界に帰還する事が最優先事項。簪に至っては極めて間接的ではあるがその当事者が自身の専用機開発契約を放棄された要因なのだ。
其々、別の理由で他人の模擬戦なぞ見ている暇は無い。
「そもそも、他人の戦闘行為を高みの見物する暇あるなら訓練でもしていろよ。見るのも勉学とは言うが……俺からすれば見て実戦しねぇと意味が無いだろ」
——そんな悠長な事して居られる余裕あんのかって話だったからな。
「うう〜、ミゾッチ厳しいー‼︎」
「そう言う訳だ。誘ってくれた所、すまんが後が痞えているからな……。序でに簪、時間に余裕はあるか?」
「……何?」
「学園長の契約に則り、準備が出来次第にエタニウムの採掘にカウンターサイドに向かうぞ。
昨日、エタニウムを渡したが、それだけで足りる筈が無いからな。今は俺が居るから良いが……何れは自力で如何にかしなければならない」
「!」
その言葉に簪は息を呑む。自身の状態は説明を聞いた故に理解している。能力を使わなければ人並み(ミゾレ認識で)程度には生きられるとは言え、簪自身はまだ自身のカウンターとしての能力が分からない。その為、無意識に使ってしまっている可能性がある。
「……分かった」
「決まりだな、後はクーリェも一緒に連れて行く。何事も初めが1番危険だからな……理由は現場で話すとするか」
「え〜、かんちゃん。何処かに行くの〜?」
「うん、私の身に関する事だから……」
「悪いがのほほんさんは連れて行けねぇ。一緒に行けば誇張抜きで死ぬぞ」
「うへぇー、ミゾッチの言う言葉は逐一トゲが多いよぉ〜」
「実際問題、そうなのだから仕方ないだろうが……。取り敢えず、此方の用意が済み次第また連絡を入れる」
「うん、必要なモノとかは?」
「……武器の1つや2つ、合った方が良いだろう。ISに搭乗せずに使える武器があるなら用意した方が良い。……余裕をこいて死ぬバカは腐る程居るからな、裏世界と言うカウンターサイドと言う場所は」