裏世界に防壁など無い。
無数にも思える群勢が侵攻者の精神を圧し折りに来るからだ。
「はぁ……はぁ……‼︎ コレ、予想以上に疲れるんだけど?」
その後、何回も侵食体の群勢が立て続けに襲来して来た。狼の姿をした地上戦力に加えて、蜂か鳥の姿をした飛行戦力、更には後方からの砲撃役の侵食体。
如何にエタニウムシールドを装備してISを纏っていても継戦を続ければ疲労も蓄積されて行く。如何に世界最強のISと雖も、常に戦闘を継続出来る訳では無い。学園最強の楯無でもインターバル無しのエンドレスに近い転戦は初めての経験だ。それが集団戦ともなれば同士討ちを懸念してより神経を使うから更に疲労も増す。
「小型ばかりだから何とかなるものの……。止めどなく襲来されるとキリが無いな……」
「さ、流石に疲れた……」
『……カウンターと雖も、ISのエネルギーも考慮すると、補給が無い以上、長期戦闘はジリ貧でしかありませんね』
ISは火力、機動力も既存の兵器を大きく勝るが、継戦能力が低いと言う弱点がある。シールドバリアに加えてエネルギー系の武装もあり、起動させるだけでもエネルギーを消費する上に攻撃を受ければシールドバリア故にエネルギーが削られる。
これまでISの戦闘は試合と言ったインターバルのある戦いであり、軍事面でもその機動力や火力からのゴリ押しが利きやすい短期決戦が主軸の戦闘が多かった。仮に撃墜されても近くに友軍等で離脱は出来なくも無いが此処は裏世界……救援なんて呼べる筈も無い。
ましてや初めての裏世界での戦闘。侵食波と言う現象が跋扈する中での初めての戦闘……普段とは違い軽微とは言え身体能力に影響があり、普段よりも動きが鈍いのだ。
「そんなお前達に朗報だ」
「え? 朗報って……?」
『侵食体多数、接近‼︎ まもなく可視圏内に進入します』
「追加注文が来たぞ」
「まだ来るの⁉︎」
「う、流石に……少し休憩を挟みたい……」
追い討ちと言わんばかりに更に侵食体の追加の群勢に楯無は思わず悲鳴をあげた。簪も戦い続けだった所為か、弱音が溢れた。
「まだ、第1種や第2種ばかりなんだからまだマシだろ」
——第3種以上が現れたら流石に介入するけど。素人に第3種は荷が重い。
「そりゃ貴方の基準の場合はね⁉︎ そもそもこんなに溢れて来るモノなの⁉︎」
「本当にキリが無いな……‼︎ こんな規模の群勢がIS学園に現れたら被害覚悟は免れんな」
大挙して現れた侵食体の群を螺旋槍で薙ぎ払いながら楯無は叫ぶ。視線を向ければ千冬は叫びながらバイターの頭をカチ割って倒して行く。クーリェも簪も疲弊しながらも武器を振るい応戦している様子が見て取れる。
——……しかし、確かにここまで湧いて出て来るのはイマイチ不自然だな。人数差で片付けれる問題か?いやいや、フェンリル小隊は少数精鋭がモットーだし……。
「モネカ。侵食濃度に変化は無いか? 此処まで湧かれるとこの周辺の侵食濃度は跳ね上がると思うんだが……」
ミゾレは荒地の岩の上に陣取りながら眼下で応戦している千冬達を見守りつつこの状況を分析する。
『いえ、上昇は軽微と言えます。……元から多数跋扈していたと考えるのが自然かと。ですが、一斉に大挙して集結するのは異例の事態だと思います。……確かに現在の編成は新人カウンター2人に一般人2人で初ダイブ作戦。ですが、此処までの規模は初めてです』
「…………モネカ。少し調べて欲しい事がある。俺達も既存の認識にハマっているかも知れないからな。クーリェと簪、そして楯無のISのISコアだっけか? それらのエネルギー周波数が検知されるかどうか、だ」
——確か論文とかで特定の周波数に下位種の侵食体が誘引されるとかなんとかって記事があった気がする。
『了解しました。速やかに実行します』
——憶測が正しければ……マズいやも知れんな。戦力が偏りがちなこの世界だと下位種相手でもテラサイド戦役に匹敵するやも知れねぇ。
『……。検証完了。ISコアから発せられる周波数はエタニウム共鳴発信機に類似した周波数領域が検出されました。大まかに言ってしまえば、ISコアは侵食体を引き寄せる……と言う事になります』
「……予想通りだな。つまり」
『はい……彼方の世界では世界各地にISが分配されていますので、同時多発的に侵食現象が発生する可能性が濃厚と言えます。私達の世界のように対侵食戦の整備が全く進んでいません』
——やれやれ……亀裂が入ると其処を介して雪崩れ込むんだよなぁ。次元抑制装置も無いから尚更、垂れ流しに近い状態になる。
「はぁ、はぁ……もう、無理……‼︎」
『これ以上はクーリェの身体が持たないかも知れません……』
「銃火器も巻き添えの可能性があるから、躊躇されてしまうわね……‼︎ ミゾレ君、流石にこれ以上は厳しいわ……」
「人海戦術の恐ろしさを身を持って知ったな……。際限が無く湧かれるのがこんなにも厄介とは」
そのタイミングで集結した侵食体の群を撃退出来た様である。が、これ以上の長期戦闘は難しい様である。
戦闘区域を見渡せば大量の侵食体の死骸が転がっている。コレだけ仕留めれば一体辺りのエタニウムが少量と言えども相応の量を確保出来たと言えるだろう。
「ルー、楯無。今すぐにISを仕舞え」
「おい、ミゾレ⁉︎ 流石にそれは危険過ぎるぞ‼︎」
侵食地域は危険地帯だと理解させられたこの世界でISを解除する事、それは危険行為に他ならない。ISには非展開でもタイムラグはあるとは言え絶対防御は機能する。しかし、連続戦闘が祟り残量エネルギーが心許ないし簪に至っては未完成故に誤作動の懸念から機能していない(クーリェと簪はカウンターなのでまだマシかも知れないが、楯無は危険)。
「良いからやれ。それでも来たら、俺が片付けてやる」
言質をしたので、2人は其々のISを解除した。
「モネカ。如何だ? 周辺地域の侵食波の波長とか次元跳躍とか確認されたか?」
『いえ……異常は確認されません』
「そうか。ドローンを解放し侵食体の残骸からエタニウムを回収して精製機に放り込んでおいてくれ。そろそろ回収しとかないと別件で侵食体が湧くからな。ステルスモード解除、一旦艦内に退くぞ」
『了解。アンカレッジ、ステルスモード解除。安全の為に戦闘員の全員の搭乗の後に追撃を避ける為に上空へ離脱します』
「や、やっと休める……」
「此処まで休憩無しで戦ったのは何時ぶりか……」
「流石は世界最強。息が乱れていないな」
「流石に少し舐めていたな。お前基準の雑魚ばかりだから良かったものの……」
「第3種とかの大群が来られたら持ち堪えられないかも知れないわ。流石に数が多過ぎる……」
「今回の湧き方は特異現象だった様だ。普通ならば此処まで集結しない」
「何……?」
「理由は後で話すさ。取り敢えず、アンカレッジに帰還するぞ」
付近で待機していたアンカレッジが飛来しステルスモードを解除して着陸。ミゾレ達を乗せた後、上昇して行った。