溢れ過ぎた箇所から亀裂が走り侵食波が噴き出す。それは風船が破裂して内部の空気が漏れ出す事と良く似ていると言う説があった。
奇しくも侵食現象とはそうやって発生している。
「……やはり、予想通りでしたか」
ミゾレに誘われる形で参加した人生……いやこの世界出身初のカウンターサイドダイブ作戦を終えて千冬と楯無は疲労が重なる身体のまま、学園長室に来ていた。其処では留守を任せていた真耶と学園の長である学園長が難しい顔をして話していた。
時刻は夕方の6時頃、既にクラス代表を決める模擬戦は終わっており結果はイングランド国家代表候補生のセシリア・オルコットの勝利で終わった事も真耶経由で知り、2人と交えて会議を行い双方の情報を交換した結果、ミゾレの話が現実となって居る事を知った。
「……私も臨時ニュースで初めて知りました。よもやこの様な形で勃発するとは」
学園長は学園長室の壁際に大型の空間投影ウィンドウを開いた。其処に流されて居るのは『臨時ニュース』と銘打って放送されるニュース番組であった。
『現在、各地にて原因不明の超常現象が発生しています‼︎ 更に異形の未確認生物が多数、現れ被害が拡大しています。警戒区域やその周辺区域では避難活動が続けられています。政府を始め各国もこの異常事態、未確認生物の早急な鎮圧の為にIS部隊の投入を急いでいると発表しました』
ニュースの映像では遠方から撮影されたのか崩壊した建物が映し出され異形の怪物、侵食体の姿が見えた。
続いてハザードマップなる発生地域の図面が表示される。日本地図にて赤い円が超常現象(侵食地帯)が発生した区域。殆どがIS企業の本社やISコアがある研究施設に集中している。つまり……大半が都市部に直撃している事を意味していた。続いても世界地図でやはり有名所のIS企業がある地域に分布しているのが分かる。
スタジオに映り変わり専門家気取りの人間の解説話が映し出されるが、知って居る手前役に立たないので其処は無視した。
「お、織斑先生……。アレが、侵食体、なんですよね?」
「ああ、映像で見えた限りまだ雑魚の部類だそうだ。……ただ」
『速報です‼︎ たった今、国家代表を含む国家代表候補生による編成のIS部隊が各地の超常現象の発生地域へ突入を開始したとの情報が入りました‼︎』
何せこの世界の人間が生まれて初めて遭遇する『侵食現象』。現在進行形でIS不敗神話が罷り通っている状態ならば最初に最強のカードを切るのは当然の帰路だ。
「マズいわ……‼︎ エタニウムシールドが無い以上、ISを侵食地帯に投入しても甚大な犠牲を出すだけ……‼︎」
その現実をむざむざと思い知った楯無はこの状況を最悪だと思った。しかし、既に時は既に遅かった。
『此方、東京都世田谷区近くの警戒区域上空です‼︎ たった今、政府直属のISが超常現象が発生した区域に突入……え?な、何故かすぐに降下して、ああ‼︎ つ、墜落⁉︎』
『そ、速報です‼︎ 突入した国家代表候補生が搭乗するISが撃墜され、あ、ああ、た、食べられ……⁉︎』
『此方、フロリダ州からお伝えしています‼︎ アメリカ軍所属のISが超常現象発生地域に突……墜落⁉︎ 墜落してしまいました⁉︎ き、緊急事……え、な、何があ、頭が⁉︎ 目が、うぎゃあぁぁかばた⁉︎』
「……私は、悪夢でも見ているのだろうか?」
「織斑先生、紛れもなく……現実だと思います」
次々と速報のニュースが飛び込んでは悲惨な現実が次々と立て続けに報告される。中にはカメラマンやリポーターも巻き込まれて即座にブラックアウトするケースもあった。
「……墜落した先に侵食体が居たら、どうしようも無いわ」
世界最強のISが戦う事すら叶わずに『環境』と言う存在を前に成す術無く掃討されて行く。この調子だとその他の地域も同様の結末を辿っているだろう。多数のISや国家代表、国家代表候補生を失うと言う何処の国においても大打撃となるだろう。
「……あ、あわわ……‼︎ あ、あんなアッサリと」
「侵食現象に抵抗出来なければあっという間に壊滅、か」
「見るも無惨な光景ね……」
意気揚々に突入したは良いが結果は、未確認生物を鎮圧する所か逆に蚊取り線香の煙で駆除される蚊の様に駆逐される結果に終わった。その後、スタジオに戻れば司会や専門家による国家代表や代表候補生に対する罵倒の羅列と言う醜い姿が映されたので即座にウィンドウは消された。
「さて、今回の件でもはや隠し通す事は不可能ですね……」
「ええ……IS学園に侵食現象が発生していない事だけが唯一の救いですね」
「しかし、この件で各国は恐らく多数の代表候補生を失い剰え、国家代表も失われました。となれば……」
ISをダシにIS学園の生徒を引き抜いて対応に当たらせようとする可能性が高い。現に何人か代表候補生が在籍しているから尚更だ。
「……あの時、ミゾレ君と話しましたが……悪戯に犠牲者を出す可能性が高いですよ」
カウンターとして覚醒すれば侵食現象に抵抗は出来る。しかし、戦えるかは別問題で、エタニウムをウォッチにチャージしなければ、何れは死ぬ運命にある。更に男性であれば女尊男卑が横行する世の中で過剰労働に追い込む可能性が高い。そうなれば悪循環に陥りかねない。
「「「…………」」」
「ハァ……今年度最大級に頭が痛い話だな。確実に今日中に会議が始まってIS委員会の連盟で紛糾するぞ。今回の事態は世界規模だからな……」
「各国の国家代表も全員纏めて昇天か、或いは再起不能かの2択でしょうからね……」
対策は無い訳では無い。しかし、何れは消えて無くなる。その前に自分達で対抗策を確立させなければならない。
「……確実にIS委員会からの連絡が入るでしょう。はぁ、疲れていると言うのに、また頭を痛めねばならんのか。恐らく生徒達もこのニュースは知っているだろうな」
「そちらの件は私が主導で何とか落ち着かせます。自信はありませんが……」
「……私もロシア政府から言われそうな気がするわ。少し前にロシアで侵食現象が起きたし……はぁ、言い訳が通じるかどうか怪しいわ」
三者三様に直面するであろう今後の事態に頭を痛めるのであった。
「……こ、こう?」
「ああ、それで良い」
アンカレッジ船内居住区。
アンカレッジは小型艦船に入る故に居住区のスペースも然程、広くは無い。が、4、5人程度は過ごせるスペースはある。その部屋の1つをクーリェの部屋として貸している。
IS学園が引き取ったとは言えそれは表向きの話であり、何れはこの世界から引っ越す故に艦内に部屋を確保させたのだ。
そして、現在はクーリェにエタニウムをウォッチにチャージさせるやり方を教えていた。先ずコレが出来なければ延命は出来ないからだ。
「……うう、生きる為にやっぱり怖い事しなきゃいけないの?」
「平々凡々で過ごせるならそれに越した事は無いが、現実は非情だからなぁ。まぁ、10歳前後のチミっ子に押し付ける問題じゃないだろうがな……」
『……極力、戦闘になる様なケースは避けて頂ければ幸いです』
「それは難しいな。裏世界において確率なんて言葉程、信用ならねぇモノは無い。幸い、初ダイブは無事に終了したから其処だけは信用出来るな。本当に其処だけはな」
確率なんて本当に信用ならない。それなら宝籤で一等を当てている。……買った事無いけど。
「うう〜……」
『ミゾレさん。……危惧していた事が発生しました』
其処でモネカから通信が入る。危惧していた事態とは言うがほぼ予想通りの展開だろう。
「危惧するも何も、時間の問題だったろ。ギリッギリの所で持ち堪えていた糸が切れただけだ。世界各地に侵食現象が多発したとかそう言うのだろう」
『はい。それで予想通り多数のIS操縦者を投入した結果。侵食現象の侵食波により次々と侵食症候群を発生するか、IS自体が
——だ、ろうな。
「既存の兵器で最初は如何にかする。……当たり前の行動ではあるがな。さてと、恐らく……織斑教諭辺りが泣き付いてくるだろ」
『本当に予想出来てしまいますね……』
「その辺は良い。其処はビジネスライクとして付き合うだけだ。で、モネカ。裏世界の座標周辺の地域の解析はどうだ?」
『あ、はい。少なくとも既存の座標情報と該当する情報はありませんでした。余程、遠いのか或いは次元界面に阻まれているのか……後者の方が高そうですね』
「ま、少しずつ開拓するしか無ぇな。勢い余って影の殿堂辺りを掘り当てたら最悪だけど」
『影の殿堂、ですか?』
「今は知らなくて良い。ただ一言で言えば、実力もクソも無いマヌケの墓場と言う事だよ」