カウンターは場所によって立場が異なってくる。ある者達は必要悪だと言う。ある者達は人類の砦だと宣う。
ある者達は、彼らを憎む。
「済まん。……流石にこれ以上は隠し通すのは無理だった」
某日。IS委員会の廊下にて。
ミゾレは歩きながら千冬から今回の経緯を聞いている。
「世界各地に侵食現象が乱立した以上、自然現象と断定する方がアホらしい思考回路だ。それに後手に回るよりも此方が主導権握る方が得策だと、其方の大将が言ったからな」
——そう言う契約だ。主管を握っておく方が都合が良い。
世界規模で小〜大規模で発生した侵食現象による災害。それらに対して各国政府は国家代表、代表候補生を中心としたIS部隊を各地に派遣。
しかし、結果は散々なモノであり碌な戦闘行動が取れず、辛うじて生還出来た者も戦闘しなかったのに酷い有様だった。内臓が腐敗していたり筋肉繊維が溶けていたり、中にはストレートに身体の一部が変異して見るも無惨な状態となっている者もいた。現代医学では原因が全く分からず如何する事も出来ないと言う判断が降りた。
この無様な結果を受けて各国政府やIS委員会は速やかに対策会議が行われた。何せ最大戦力たるISが呆気なく壊滅してしまった。色々な意味で今回の件は混乱の種となり批判やら責任やらの批難の声が相次いだ中での緊急対策会議だ。
当然、その会議にIS学園も出席が要請された。IS学園は多数のISが集結しており尚且つ代表候補生も何人か在籍、そして世界最強たる織斑 千冬の鎮護の地。理論上、最も戦力と防衛能力が高い組織と言える。
そんな矢先にIS学園の学園長から『今回の件は、世界規模?そして、別次元の概念が伴う現象。その現象に詳しい人間が偶然、この世界に迷い込んだ。会議に参加する機会を設けます』と言う声明が出された。
早い話が今回の現象を良く知る人間がIS学園に居ると言う。然も、この世界の住人では無く別の世界の住人と言う半信半疑な話でもあった。
「……さて、IS委員会と言えば女尊男卑の総本山と言える「知るか、そんな事」……そう言うと思ったぞ」
「主義主張云々カンヌンで勝てるなら好きにすれば良い。思想統一なんてくだらねぇ事も言わんし、知った事じゃねぇ。……話が通じないんならとっとと滅んどけ。悪足掻きするよりもさっさと次の世界に期待する方がマシだろ」
「バッサリ言うな……」
「……俺は救世主でも何でも無い。一介のエグザイラーに過ぎん。話はしてやる。だが、この世界の人間で何とか切り抜けろ。お前らの為に戦わんからな」
「私もそれが当然だと思う。ただ、女尊男卑の連中は物分かりが悪い連中が多くてな……相手が男性だとそれが顕著になる」
「今すぐ帰って良いか? 女だとか男だとかのセクシャルハラスメント絡みの問題は手に余るからよ」
「いや、此処まで来て反故にするのは勘弁してくれ……。元々IS業界って言うのは風当たりが悪いのだから……」
初っ端から宜しく無い空気の中、IS委員会本部の大会議室前にまで到着する。この扉を潜ればIS委員会の面々や、今回の為に各国政府から派遣された代表の面々が待っている。
「先に言っておくがくだらん真似したらその時点で切るからな」
「分かった。と言っても政府の人間が其処まで頭が回るかは甚だ疑問だ。女尊男卑が横行している所為だな。一応、女尊男卑の概念が無い世界の者だとは通達はされているが……何処まで堪えが効くかは不安しか無いな」
「マトモに会話すら成立しないとか、この世界は本当に大丈夫なのか? ゲームが始まる前に、内輪揉めで全滅するんじゃねぇの?」
「ゲームだと?」
——あ、ヤベェ。コイツは言えんな。
「……気にすんな。ただの言葉の綾だ」
「……そうか。では、行くぞ。……極力、暴れないでくれると助かる」
「向こうの出方次第だ。生憎、俺は何方かと言われると過激派なんでな」
「この時点で聞きたくなかった話だな」
——おーおー、随分とまぁ雁首揃ってやがるな。然も大半が女性と来た……。余程、女尊男卑と言うのが大事らしいな。……見る限り日本人とやらが多いか。
大会議室は円形の形で周囲に席が並んで円卓の形相を成している。正面にはIS委員会の役員だか幹部だかが座っている。その周囲には各国の外交担当かその辺りの面々だろう。此方はそれなりに男性が居る。
「……へぇ、随分と権力塗れで肥え太った面構えが揃ってんな? 碌に戦場に出た事が無いって言うのが素人でも分かるな」
「「「っ⁉︎」」」
「ッ⁉︎ ミゾレ⁉︎」
唐突な暴言発言。その言動にIS委員会の人間は烈火の如く顔が赤くなった。怒りの余りに興奮していると思われる。しかし、此処で怒り出してしまえば、相手の思う壺。その程度の抑制は働くらしい。
千冬はミゾレのいきなりの暴言発言に内心、慌てたが此方の都合に合わせて貰おう。
「織斑教諭。何を慌てる? 俺は事実を言っただけだ。権力云々でピーピー騒いで解決する現象では無い事は先に教えただろうが」
「そ、それはそうだが……仮にもIS学園の上層部で」
「そんな事情、知るか。女尊男卑だか何だか知らんが、叫ぶだけで勝てるんなら、話すだけ人生の無駄だ」
千冬の言葉にミゾレはぶった斬る。確かに知る由も無い事だ。態度は酷い有様ではあるが、相手が物分かりが悪い女尊男卑思想ならばこの程度が丁度良い。
「……み、Ms.オリムラ……。その、彼、なのか?」
「え、ええ。はい、その通りです……その、結構、苛烈な面がありますので」
「織斑教諭。其処まで遜る必要あるのか?」
「貴様は少しは私の心情を察しろ……‼︎」
「悪い無理。こちとら毎回毎回、クズ共を相手にしていたんだ。口も悪くなるさ」
「その労働環境が気になるな……」
各国代表やIS委員会の面々は突然始まった織斑 千冬と件の人物とのコントみたいなやり取りを見せられて困惑する。尚且つ、あの千冬相手にボロクソな言動を取れる者は早々居ないから尚更だ。ある噂によれば、千冬に対して真正面から腕をへし折ったと言う話もある。
「ご、ゴホン‼︎ えーと、彼はこう言う性格ですので不快感があると思いますが……今回の現象について我々よりも深く知っている方です。表向きはIS学園の生徒と言う形でしたが、こう言う事情がありました。
前回と同じ形式で構わないな?」
「ああ、構わん。くだらん内容ならば無視するがな。……余りにもふざけた内容ならば、それ以上、話す価値は無ぇ」
酷い場合は破談になる。余りにも酷い態度で、不快感はあるが現状の説明を出来るのは彼だけだと言うのだから此処は堪えるしかない。
そして、出来る限り情報を引き出さねばならない駆け引きとなるからだ。その事実に気付いた一部の代表団はIS委員会の面々が余計な事をさせない様に席の裏で動いた。
「で、では最初の質問だが……今回起こったあの超常現象は何だね?」
アメリカ合衆国のプレートの席の政府代表が先陣を切り口を開いた。
「アレは『侵食現象』と呼ばれるモノだ。その地域を『侵食地帯』と呼ぶ。発生する要因としては裏世界、カウンターサイドと現実世界、ノーマルサイドが丁度、重なる事で発生する」
「うら、世界……?」
「現実と呼ばれるこの世界の裏側に存在している世界さ。恐らくあらゆる別次元の『現実』の裏に裏世界が存在していると考えられる」
「……別次元、そう言えば、君は」
「この世界から見てエグザイラー、となる。無論、元の世界に帰らねばならん理由が沢山あるがな。話を戻す。
その危険度に応じて第1段階から第5段階に分類され、段階が上がれば上がる程、異常な現象や人体に著しい悪影響、現実の崩壊と言った様々な現象が観測される。裏世界から『侵食波』と呼ばれるモノが噴出して現実を侵食していく。今回のケースだと大半の地域が第3段階って所だな」
「……その、侵食地帯だったか。我々はISを派遣した……しかし、報告によれば何も出来なかった。その理由は分かるのか?」
次はイングランドの代表が続ける形で質問する。
「簡単な事だ。侵食現象に対して何の対策もせずに突入すれば『侵食症候群』を発症する事になる。
突入した人間、取り残された人間……大小あれど侵食症候群に陥り、身体を破壊される。初期症状としては幻覚、幻聴と言った精神異常の症状が発生する。第3段階ならば早い段階で発症するだろう」
「ISにはシールドバリアがあるのだが、防げないのか……? 侵食波とかは」
その次は日本の政府代表。その口調はやや震えている。その答えは聞けば自分達の常識は脆くも崩れてしまいそうな質問だ。
「無理だ。実際問題、シールドバリアなんぞ簡単に粉砕されるケースが観測されたからな。まぁ、エネルギーが尽きたら一緒か」
シールドバリアが役に立たない。その事実に唖然とする代表団一同。
「侵食波と言うのは機械……正確にはAIだな。それすらも汚染しAI暴走させ、破壊兵器と化すだろうよ」
「ミゾレ。ISのISコアには自我がある。それもAIの括りだとしたら……?」
「第3段階の侵食現象は一般的に高レベル。その侵食波を受けた場合、汚染の度合いは異なるだろうが制御が難しくなるだろうな。最悪、暴走して二次被害が発生ってオチも普通に起こり得る」
「今すぐに本国の連絡を入れて、作戦に投入したISの調査をしたまえ‼︎」
その話を聞いた代表の1人が側付きの人間に本国に連絡を入れる様に通達した。人はダメでもISは大丈夫だと思ったんだろう。続ける形で他の代表も本国に連絡を入れていく。
「……あの侵食地帯と一緒に現れた化け物達は何なんだ?」
「アレは侵食体だ。色んな種類が確認されていて危険度に応じて幾つか種類分けされている。共通する事は現実世界に強い憎悪を抱いて高い攻撃性を持っていると言う事だ。
小型の類ならば、一般的に流通している銃火器等で対処は出来るだろうが、大型の第3種侵食体クラスとなると厳しい戦いを強いられるだろう」
そもそも侵食波の対策が無ければ戦う事すら叶わないのが実情だ。
——さて、次は恐らく対策関連の質問だろう。しかしカウンターの事を話せば……。人手不足もある上に女尊男卑だ。……酷使する姿が手に取る様に分かる。それが男性ならば尚更……。
思い浮かぶは故郷と言って良いのかかなり微妙なラインではあるがグロニアでは内戦が続いておりカウンターは極めて高い作戦が強要される。外部からの傭兵も募っているが劣悪な環境故に締結する事は稀だ。
そしてカウンターとして覚醒するのは大半が10代……。他人事と言えばそれまでだが、苦い思い出がある以上……其処の点は非情に成りきれない。そもそも、カウンターが何人居るかすら分からないし、戦うに値する意志があるかすらも不明瞭。そんな状態で送り込むのは危険過ぎる。
「……言っておくが、この世界は貴方方の棲まう世界だ。俺はこの世界からは部外者であり、この世界の為に戦うつもりは毛頭無い。貴方方の世界は貴方方自身の手で如何にかして貰う。
俺には元の世界に帰還しなければならん理由が山程ある」
ハッキリと言っておくし、大事な事だから2回も言う。そもそも客人に戦わせる程、烏滸がましい連中ならばそれまでだ。
「……君の意見はその通りだ。我々の世界、我々の国で起きた現象。対処するのは我々だ。
しかし、侵食波を如何にか出来なければ、意味が無いだろう。その対策位はあるのだろうか?」
「勿論、あるさ。だが、俺はタダ働きはしない主義だ。欲しければ対価を要求させて貰う。それが嫌ならば自力で侵食現象への対策を立てて立ち向かうと良い」
至極当たり前の宣言。別に取り合わなくても良い。本来ならば自分達で立ち向かって乗り切るのが自然だ。そもそも、ミゾレと言うワイルドカード自体が反則行為に他ならない。
其処でミゾレは踵を返して扉の方へと向かう。
「話は以上だ。後は、貴方方で勝手にやってくれ」
「……何と言うか傍若無人な態度だったな」
「俺らの業界であそこ迄懇切丁寧に説明する方が珍しい方だ。それよりもIS委員会とやらが沈黙しているのが予想外だったが」
——金切り声を上げて騒いでいるイメージがあったが。
「……各国政府の要人のボディーガード連中が動いていた。恐らく余計な真似をされると破談になるって理解した瞬間にな。それに私に対してお前の態度が効いたんだろう」
「あん?」
「私はISで世界最強の女だ。そんな奴に対してお前の態度はISに関連する人間からすれば卒倒モノだ。生身で私の腕をへし折るわ黒板を破壊するわ、ISすらも破壊した噂も当然掴んでいるだろう」
——あー、そう言えばそんな事があったな。
「……ISの性能に威を借りている上にそのISですら歯が立たない連中が現れたんだ。敵わないから歯噛みするしか無い」
「それよりもカウンターの事は話さなかったんだな」
「……酷ぇ絵面を好き好んで見たいと思うか?」
「お前の基準でそう言うのだと、相当なんだな」
「ああ。そう言う事だ。さてと、各国政府の連中が如何動くかねぇ……」
「コレばかりは分からん限りだ。少なくとも今年は本当の意味で動乱の時期だろうな」