希望と言う言葉程、忌々しい言葉は無い。
何故なら、絶望が無ければ希望は存在を維持出来ないからだ。
侵食現象。侵食波。侵食体。そして侵食症候群。それらの単語がこの世界に出回る事に然程、時間は掛からなかった。
各国政府は
そして最大の問題は時間制限があると言う事。彼は元の世界に帰還する事を急いでいる。この事に関してIS学園も把握しているらしく、引き留めずに送り出す事を決めているとの事。
具体的にその方法は明かされなかったが、彼は全てを話した訳ではない事を如実に示す結果となった。
「……世界中は大騒ぎね。侵食現象が発生した地帯は依然と維持されたまま。進行しようにも誰も彼もが足踏みして立ち入る事すら出来ないのよねぇ」
ミゾレの存在が公となった翌日。第六アリーナに着艦しているアンカレッジに楯無が訪れていた。
「ま、対策出来なければ遅かれ早かれ侵食症候群で死亡する事は目に見えている。楯無、お前さんの場合は奇跡的にならなかっただけだ」
修理が必要な箇所にドライバーやらスパナやらを持ち込んで修理を続けているミゾレはぶっきらぼうにそう返す。
「奇跡的に、ね。……本当にそうかも知れないわ。それで、エタニウムシールドってのはどれくらい用意出来そう?」
「……そうだな。半日程、ダイブ作戦に費やして上で、他の修理が必要な所もまだまだ残っている関係上……。日に……10個出来れば上出来って所か。
後、幾ら高性能のエタニウムシールドであっても高レベルの侵食波には耐え切れないからな」
「抵抗出来る時間が短くなる、よね」
「それもあるが限度が超える様なレベルだと機能すらしない場合がある」
「うわ、それは厄介ね……。そんな時こそカウンター」
「いや、カウンターでも物理的な激痛に苛まれかねないとされている」
「…………」
その言葉に楯無は二の句を継げれなかった。エタニウムシールドは万能では無く限界はあるらしい。
「……それに日に10個、か。多分、「嫌ならば勝手にやれ」……でしょうね」
楯無が言わんとした事はミゾレに叩き潰された。まぁ、否定はしない。それに2個はオマケで造ってくれたが、次からは有料だとされている。忘れがちだが、彼は傭兵だ。断じてボランティアでは無い。
「で、そんなつまらん話を言いに来たのか?」
「本当、仕事と言うか現実にしか興味が無い子ね。少しくらいゆとりを持った方が良いわよ?私の知る限り、貴方はずっと艦船の修理とか裏世界とかそう言う話しかしないじゃない」
逆を言えばミゾレの趣味嗜好とかそう言う個人的な事は何一つ知らないのだ。見れたとしても侵食現象やそれ関連の内容ばかりだ。試しにモネカに聞いても『お話する事は出来ません』と一点張りだった。
「生憎と、そう言う生活だったからな」
「…………そう。プライベートが無さ過ぎるのも……いえ、貴方の世界ではそんな余裕すらも許されないの?」
「人によるな。……少なくとも、俺には無さそうだけどな。無論、承知の上だ。カウンターとはそう言う連中……前にも話した筈だがな」
其処でミゾレは配電盤の蓋を閉め、他の箇所に手を加え始める。
「……はぁ。貴方は如何して堅い雰囲気に持ち込もうとするのかしらね」
「それだけ、深刻な問題に直面しているんだよ」
参ったわね、と楯無は考えてしまう。自身は人たらしと良く言われるが、此処までガチガチの堅物だと付け入る隙が見当たらない。会話は出来ているが、明確に線引きと言うか壁があるのはありありと分かる。
「……はぁ。私としては真面目過ぎる話ばかり続くと気が滅入るんだけど、伝える事を伝えましょうか。
貴方の存在、そして侵食現象が公になった事で世界情勢が一変した。……IS委員会はIS学園の対侵食現象に対抗する為の最前線と定めたわ」
「…………」
「各国政府も貴方の話し方を見て長ったらしい説明をするのは得意じゃないと察したのね。
侵食現象を知っている事からその対策も知っている……ならば、直にその術を学ぼうと言う腹積りね」
ミゾレは現在、IS学園に居る。IS学園は部外者からの干渉を禁止と言う名目はある(形骸化以下略)。それを差し引いても学園長が後ろ盾になっている上にカードを見せていない状態で殴り合い消耗するのは普通に考えて愚策だ。
「それくらいならば良いだろう。生き残れるなら、な」
「怖いセリフを言わないで頂戴」
初ダイブ作戦に参加した時は軽く絶望を覚えた。体験した事のないエンドレスにも思える戦闘行為。相手が雑魚だから良かったものの、体力やスタミナは無尽蔵にある訳では無い。
「で、IS学園は今回の件を受けて事情が変わったわ」
「事情ォ?」
「対侵食現象、侵食体に対して対抗しなければならない。侵食現象の発生条件の都合上、その最前線基地と機能する以上、非戦闘員は置いておけない。貴方も戦えない人を置いておけないでしょう?」
「ああ……俺にも其処まで余裕がある訳では無い。とっとと避難させた方が得策だ。
下手に置いておくとそいつらが侵食体と化して余計なトラウマを生みかねんからな」
「……心情を察してくれてありがとう。目の前でそんな光景を目の当たりにしたら戦意喪失しかねないしトラウマになるわ。
だから生徒に2択を迫ったわ。1つ、対侵食現象や侵食体に対して戦うか。もう1つはIS学園の外へ避難するか。あ、専用機持ちは責任があるから続投よ」
「で?その結果は?」
「1年生の大半は恐怖が優ったのか、避難する事を選択したわ。2年生と3年生の整備科は残ってくれるわ。ISは有っても整備する人員が居なければ鉄の塊に過ぎないもの」
——無理に戦場に連れて行く必要は無い。ただ、懸念事項と言えば避難先で侵食現象が起きればお陀仏になりかねん事くらいか。
「……此処からが重要だけど、学園長は貴方に各専用機持ちや戦闘教員に対侵食体に対しての指導をお願いしたいそうなの」
「戦闘関連はお前らは常日頃からやっているだろ?」
流石に面倒臭いと思われているのが分かる。
「アドバイザーだけでもお願いできない?」
「……エタニウム採掘でコキ使ってやるから覚悟しろよ?」
対価としてエタニウム確保の人手を要求された。お金は彼にとってこの世界では余り役に立たないと見ている様だ。確かにエタニウムは必須資源。当然の要求だ。
「交渉成立ね。何れ別れる時が来るけれど、その時までは改めて宜しくね?」
「……やれやれ、遭難からとんだ事態にまで発展したモノだ。さて、細かい所は終わったから後はドローンに任せるか」
其処でミゾレは修理を一旦打ち切った。後は整備ドローンに任せる様である。
「……あら、終わり?」
「仕事が終わる訳ねぇだろ。バカにしてんのか?」
「……世辞辛い事を言わないでくれないかしら?」
——この仕事が終わるんなら俺らは死ぬ事になるけど。