カウンター・ストラトス   作:夢現図書館

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幕前の波紋

 

 

 

『ミゾレさん。進捗は如何でしょうか?』

 

「良くは無いな。予備部品倉庫自体が侵食体による攻撃で大破しその大半がダメになっちまっているのが痛手だな……配線関連は何とかなるが、実験的な意味で搭載されて設備関連となると部品が足りん都合上、お手上げに近い。モネカはその辺のデータとかは無いのか?」

 

『うーん……戦闘機体の駆動部のデータで宜しければありますよ?』

 

「……うん、役に立ちそうに無いな」

 

 アンカレッジの故障箇所。其処はドローンで侵入するには困難な場所でありミゾレは滑車を用いて侵入してスパナや工具による手作業で対応していた。

 

『あ、外部よりアンカレッジに接近中。あー、あの人達ですね……』

 

「ん? そうか、つーか、今何時だ?」

 

『この世界基準だと、午前7時半です。朝になっています』

 

 つまる所、完全に徹夜で修理作業をしていたと言う事になる。寝食を完全に忘れて作業に没頭していた様だ。

 

「……そうか。リリーが居なくて助かった。居たら、確実に睡眠手榴弾を放り込まれていた所だ」

 

——その際、問答無用だからな……。如何してカウンターってのは頭のネジがぶっ飛んで居る様な連中ばっかなんだろうな。

 

『如何しましょうか?流石に入って来ようとはして居ない様ですけど……』

 

「……中身が散らかって居る状態だからな。動力部の方は応急修理は終わっただけマシだな。向こうの要件が終わったら再開しようか」

 

『その前に休息を取る事を推奨します。流石に徹夜の連続は身体に悪いですよ? 幾らカウンターでも疲れない訳じゃないんですからね』

 

 人工音声の声は出来の悪い弟を心配する姉の様な声音だ。その声音が脳に響かせながら滑車を滑らせて作業位置から出る。

 

「分かった分かった。現状じゃあ頭打ちになるのは目に見えて居るからな……如何にかして鋼材を確保せねばならんな……。降りた後、別の指示があるまでステルスモードに移行しておいてくれ」

 

 工具箱に工具類を仕舞い、その近くに置いて居た水入りのペットボトルを一気飲みして空になったソレを潰す。

 脱ぎ置いていた上着を肩に掛けて歩き出す。包帯を巻いた所は既に外している。出血して居た箇所は殆ど止まっているからそれ以上は邪魔でしか無いからだ。

 

「……来たか。更識から聞いていたが、予想よりもデカい戦艦だな」

 

 飛び降りる形で降下した先で千冬から開口一番にそう言われる。

 

「……コレでも小さい方だ。で、朝っぱらから何の用だ? こちとら、修理で忙しいんだがな……」

 

 自分が降りた直後、ステルスモードに移行しその全容が視認出来なくなる。

 

「……瞬時に完全ステルスによる迷彩か。何処の国の軍事組織でも其処までの技術は確立されて居ない。お前の存在が公になれば、凡ゆる組織が欲しがるだろうな」

 

「下らん。この世界の国政事情に係って余裕は無い」

 

 後の事情が痞えている上に、留まるつもりは無い。其方の事情は自分達で進めてくれと言う事である。

 

「フッ……お前の性格が読めて来たな。本題に入ろう。学園長がお前のIS学園に生徒として在籍する用意を整えた」

 

「……ほう。昨日の今日、手が早いな」

 

「正直な所……中々、面倒な橋渡りにはなるが……構わないな?」

 

——どんな設定で落とし所を作ったのやら。

 

「核心を言ってから断りを言え」

 

「……異邦人である事実は極力、公言しないで欲しい。知って居るのは私と学園長、更識、後1人信用出来る者に伝えている。合計4名だ。理由はお前も分かって居ると思うが、この世界に於いては並行世界や別次元の世界の概念は空想の絵空事に過ぎないと言う認知だ。その上、お前やその艦船は未知の技術や概念の塊だ。誰も彼も放っておかんし手に入れようと躍起になるだろう。そうなればお前も面倒だろ?」

 

「否定はしない。技術躍進のネタは貪欲に追い求めて然るべき行動だ。ロストテクノロジーを発掘する為に此方の世界でも大半の組織が毎日、裏世界で危険な発掘作業に今も勤しんでいるさ」

 

「それを踏まえて、お前がIS学園に編入した経緯に関しては殆どの情報が秘匿事項の特待生と言う形になった」

 

 そう言う千冬は頭を抱えていた。言ってしまえば『何から何まで謎の転校生』と言うアホみたいな設定だった。

 

「……もう少しマシな設定は思いつかなかったのかねぇ。良くそんな分かりません尽くしのパーソナルデータで罷り通るな」

 

「お前の目的は分かっている。その目的の邪魔にならない様にするにはそうする他に無かったとの事だ。昨日はIS学園は治外法権で国家、政府、組織と言った第三者組織から干渉は受けないとは言ったが……形骸化している節がある」

 

「……学園と言う体裁上、親関連からの干渉を禁止すると言うのはカルト宗教のやり口と同類だ。完全に封殺すると言う事はバッシングをより受け易くする諸刃の剣だ」

 

 千冬の後半の言葉をミゾレはバッサリと言い切った。その反応に千冬は返って清々しく思えた。

 

「……全く遠慮が無いな。他にも架空のペーパーカンパニーの組織を作ると言う案もあったがこの国の法律の都合、危険な事は明白でな……その案は却下された。かと言ってお前の視点から見てこの世界でお前の様な特異なケースに該当する場合、何の後ろ盾が無いと言うのは凄く危険な状態だ」

 

「ふむ。そう言う特異ケースに該当する奴が個人である場合の危険と言うのは?」

 

「例として挙げるが……恐らく今は分からん単語が出て来るが取り敢えずスルーしてくれ。

 ISには量産型と専用機と言う大別された区分がある。その専用機持ちのケースとして挙げる。そして、IS操縦者にはIS企業のテストパイロットたる企業代表とかや国家政府の専属たる国家代表と国家代表候補生とかと言った役職見たいなモノがあってな。専用機持ちはほぼ全員が何らかの組織に帰属している。

 その中でも『代表候補生でも無いが専用機持ち』と言うケースが出たとする。つまり個人で強大な力を有する状態……。コレは非常にマズいケースでな。言ってしまえば凡ゆる国家や企業が専属操縦者として招けれる上にISも付いてくると言う事だ」

 

 千冬は教師らしく順を追った説明をする。奇しくも野外授業見たいな形になっている。

 

「……昨日も軽く言ったが、ISには数に限りがある。正確にはISがISである『ISコア』がな。量産型である機体や専用機を合わせて500にも満たない。そして、そのコアの製造法は完全なブラックボックスで増産する事が出来ない」

 

「成程、取り合う訳だ。此方でも似たようなケースがあるから容易に想像出来る。機密情報が篭ったブツが宙ぶらりんとなればそりゃ獲りに掛かるわな」

 

「……フッ、理解が早くて助かる。その通りだ。アラスカ条約で現存し限りあるISコアを分け合ったがそれで納得して満足する程、どの国も利口では無かった。

 ISコアの取り分が少ない国はもっと欲しい。取り分が多かった国も逆転を恐れて確保したい。

 そんな思惑がありどんな国であってもISは喉から手が出る程欲しいモノだ。量産型であってもコアが有れば専用機として組み立て直す事が出来る。専用機のコアも元々は量産型に組み込まれたコアであったケースも少なく無いしその逆も然りだ。

 ISが1機があるか無いか、存在するだけでも国家の軍事力は変動するから、当然だ。

 其処にお前と言う存在が現れてみろ? まだ非公開ではあるが遅かれ早かれバレる可能性があるが生身でISを圧倒し、未知の世界の艦船を所有している。そして何処にも所属していない……。先述の例に当て嵌めた場合……強引な手段であっても手に入れようとする国家は山程、現れるだろう」

 

 千冬の説明は確定と言える事実であった。そして分かりやすい説明でもあった。

 

「其処で、学園長がお前の後ろ盾になる形を取ったのだ」

 

 そして、続けてそんな状態のミゾレに学園長が後ろ盾となる事で第三者の介入を防ぐ策を取ったのだ。一教師が生徒に肩入れするのは好ましく無いのだが敢えてその行動を取ったのだ。

 

「……そんな真似、随分と無茶では無いのか?」

 

「普通ならばな。が、お前は状況的に普通とは言えん。其処は学園長の思惑があるのだろう。私が考えても如何しようも無いから考えるだけ無駄だな。む、話し込んでしまったな……そう言う訳だ。今日からお前はIS学園の生徒だ」

 

「……今日から? 随分と急だな……‼︎」

 

「昨日の件で一般生徒達にもお前の姿が見られた。流石に姿を完全に見せないのは少し面倒だ。お前の事情は把握している……授業云々は形だけでも受けてくれ。後、先にも言った通り異世界絡みは公言するなよ?」

 

「ああ、学生らしくって奴だな。此方の世界の話題はする気ねぇよ……話す理由が無ぇよ」

 

「それで良い。学園である以上……いやIS学園は各国から生徒が来る。何処に目と耳があるか分かったモノでは無いからな」

 

「おおぅ……諜報員とか多そうだな。アンカレッジの存在もバレる訳には行かないな」

 

「それも言える。ステルス迷彩はしている様だが……その際の周りの木々のしなり具合をみても『何かある』と分かる違和感がある……その辺は学園長が何とか融通してくれるそうだ」

 

「…………そうか」

 

「……お前からしたらやり辛いかも知れんが出来る範囲で話は合わせてくれ。長くなったが、最後に私の事は織斑先生と呼べ」

 

「……悪いな、それは無理」

 

 にべもなくミゾレはそう応えた。

 

「何故だ?」

 

「俺の中で『先生』と呼ぶのはたった1人だ。『先生』と出会わなければ俺はとっくの昔に死んでいた……だから、先生と呼ぶのはその人だけだ。織斑教諭」

 

「…………命の恩人と言う訳、か。まぁ、教諭も教師の呼称であるからな。一応、認めてやる……しかし……」

 

「あん?」

 

「……流石にシャワーの類はして来た方が良いのでは無いか? 今の今まで敢えて言わなかったが油汚れが酷いぞ。今日から編入するが時間の多少のズレは誤魔化せる」

 

「……徹夜で艦船の修理をしていたからな。分かったよ、ちょっと待ってろ……着替え位はして来るよ」

 

「良いから、早く行け。馬鹿者」

 

 

 

 

 

 

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