——……女は3人寄れば姦しいとは良く聞く話だが、それ以上となると騒がしいとはこの事だな。
アンカレッジには一時的な滞在スペースも設けられている。シャワールームや仮眠室と言った設備がソレである。ソレらはアンカレッジの内側に位置している為に辛うじて無傷であった。
そのシャワールームで油汚れ等を落として予備の服に着替えて千冬と合流して手筈通りの流れを汲むとなったのだが。
「ええい、静かにせんか‼︎ 馬鹿者共ッ‼︎」
——……何処の世界にも追随する連中に手を焼かされる苦労性の人は居るもんなんだよなぁ。知人連中は大将が率先として振り回す人の方が多い気がするけど……社長とか、紅茶爆弾とか、あと鮫。ヤバい……カウンターで本当に真面なのが中将殿くらいしか居ない気がする。
現在、千冬が担当すると言うクラスの前の廊下で待たされている。……のだが壁越しでも易々と声量が貫通して響き渡っているのが分かる。年頃の少女と言うのは如何してこうも騒がしいのか。或いは自分が枯れてしまっているのか……此方の世界の事情は明かさないつもりとは言え、ソレを除いた気の利いた話が出来る自信が無い。
「……全く……。おい、入って来い」
——黙らすには威圧や恫喝が手っ取り早いとは良く言ったモノだな。
千冬の促しの声が聞こえたので、扉を開けて教室の中に入る。
女、女、女……。教室の中を見渡せば女の群。教卓の眼前に野郎が1人、ソレ以外は全て女の群勢と言う光景が広がっていた。白い制服と言うのは中々、目立つ服装と言わざるを得ない。
そしてその大半の生徒は興味深々と言った視線、嫌悪を隠そうともしない視線。
——……ほう、骨がありそうな奴が居るみたいだな?
「自己紹介しろ。言っておくが昨日の其処の馬鹿の様な下らない言い方は止めろ(余り変な事は言うんじゃないぞ?)」
「……ミゾレだ。他に言う事はあるか?」
その直後、千冬がその腕に持つ伝家の宝刀こと出席簿をミゾレの脳天に振り下ろした。その刹那、
「え?」
誰かが呆けた声が教室内に木霊する。舞うはバラバラに切り刻まれた紙片。否、それは丸められた出席簿のページであった残骸であった。
「……ッ‼︎」
千冬は思わず目を見開いた。振り下ろされた出席簿。その持ち手は生存しては居るが、ミゾレにぶつけた筈の部分は綺麗さっぱり消え去っていた。
代わりにその位置にはミゾレの左手が握り潰す形で添えられていた。その掌が開かれると粉々となった紙片が散乱して行く。ミゾレは振り下ろされる出席簿を握り潰す行為でバラバラに切り刻むと言う人智を超えた動作をして見せた。
「「「……」」」
そのあり得ない光景に教室全体が絶対零度の温度の如く凍り付く。主に二重の意味で、である。
1つはたった今、見せた力技で裁断する行為。素手で刃物の様な動作をして見せる行為。そして、もう1つは千冬本人に真正面から喧嘩を売ると言う行為であった。
「……成程、この場での挨拶とはそう言う事か。なら、その礼儀に則るとしようか‼︎ 織斑教諭‼︎」
「ッ⁉︎」
口を開いたのはミゾレだ。呼吸挟まず、ミゾレの回し蹴りが教卓を薙ぎ払い吹き飛ばし其の儘、千冬の顔面に目掛けて叩き込まれる。片手で受け止めるがその衝撃は凄まじくもう片方の腕で黒板に付けて黒板とミゾレの脚に挟まれる形となった。薙ぎ払われた教卓は教室の扉を破壊して廊下に転がる。
「率先として教室を壊すな‼︎ 馬鹿者ッ‼︎」
「其方の礼儀に則っただけだが?」
その態勢が維持されお互いに口を開く。教室内は騒然となり恐怖、畏怖、驚愕の感情が攪拌される様に渦巻いて行く。騒音が響いた為に廊下に興味本位で野次馬達が集まって来る。
「そんな礼儀。この学園には無い‼︎ そう言う礼儀には則らんで良いわッ‼︎」
その言葉と同じくして千冬が腕を伸ばして支えにしている黒板に蜘蛛の巣状に大きな亀裂が軋む音を立てて走る。その光景を目の当たりにしてギャラリーに動揺が駆け巡る。
「……売られた喧嘩は買って損害賠償叩き付けてお代わり3杯してボッタくれって先輩から学んだから」
——喧嘩を売られたら正当防衛でブチのめしてボッタくれるからな。その辺の破落戸とかチンピラなら別に問題ねぇし、侵食災害の影響で警察より傭兵の方が権威とか上だし。
「貴様の言う先輩は外道の極みだな……‼︎ (不味い……骨に罅が入った様な音がした……‼︎ 家計とか火の車なのに医療費と言った余計な出費は避けたいと言うのに‼︎)」
其の儘、拮抗した状態が続く。仲裁に入ろうにも相手は世界最強と言われる織斑 千冬。そして生徒は愚か教員達にも殆どの情報が秘匿状態の全てが未知数のミゾレ。そのミゾレが真正面から千冬に喧嘩を売ると言う現実を前に誰もが介入する事を躊躇している。
「ソレともアレか?パトカー事故で始めて、バンカーバスターで繋げて、戦術核で締める会話の方が良かったのか? ソイツは悪いな、アイツらみたいにパトカーもロケラン、汎用機関銃も核ミサイルも持ち合わせて居ないんだわ」
「お前の知人は常識が無いのか⁉︎ と言うか個人で核ミサイルを所有しているとか非常識にも程があるだろ⁉︎(腕の骨、ミシミシ言って居る……‼︎ どんな脚力だ⁉︎)」
——居るよ。基本的に頭の可笑しい連中しか知り合いに居ねぇよ‼︎ 後、アンバーは人間じゃねぇけど。
恐ろしいレベルの会話方法である。寧ろそれで真面目に会話が成立するのが奇跡としか言いようが無い。
「そうか? 話が通じないなら暴力が畢竟と言えるが如何に?」
——暴力か金の何方かで大半の物事は解決出来るからな……。大概の創作物の主人公サマとかは殆どの場合、暴力で解決して居るしな……。そう考えれば殺し合って解決する手段は
砕ける音が響いた。軋んだ黒板がその耐久性を超過する圧力に屈して千冬本人が減り込んで黒板の裏側に押し込まれ黒板が壁諸共、崩れ落ち残骸の下敷きとなった。
「あ、あわわ……‼︎‼︎」
その光景に立って居る身長の低い女性が泡を吹きかねない顔で顔を青褪めて居た。物見のギャラリーや教室の生徒達も騒然とした様子を見せていた。
「あれ? 手加減したつもりなんだがな……?」
「……アレが手加減とは恐れ入る。貴様、どんな身体能力をして居る?(コレがカウンター能力者と言う訳か……。束と同等かそれ以上だ……‼︎)」
崩れた黒板の残骸を押し除けて砂埃塗れの千冬が這い出て来る。明らかにミゾレの足を掴んでいた腕は圧し折れて居る様な状態となっていた。
「当たり前の様に復帰して来るアンタも大概だ」
「バカを言え、見事に私の右腕が折れた。何て真似をしてくれる」
「……世界最強の腕を折ったんだ。
——モネカの学園のデータベースにクラックし女尊男卑の動向はある程度、把握した。殴り合いになれば確実に連中は死ぬか一生病院だ。口で説明するよりも実演してやる方が早い。
簡単に言えばミゾレは面倒事を避ける為に千冬を当て馬に使ったのだ。恐怖は使い方によっては有益だとミゾレは知って居る。
それに、ミゾレの目的の都合上、この世界に長居するつもりは無いし、この世界の者達と仲良くする必要も無い。壁を作っておき自身が消えた後でもその
——警戒。厄介者で忌避すべき。そう思わせる策が有用と判断したに過ぎない。この世界の情勢に干渉する必要は無いからな。極力避けて艦船の修理を進めたい。話が通じないと思わせれば孤独の中で駒を進めれる。
この学園の生徒は数少ない学園の男子生徒に大いに注目している。此方の事情に干渉されるのはミゾレ自身にとっても干渉して来た者達にとっても余り喜ぶべきでは無い事情がある。
相互不干渉が最も最善なのだ。今、気付いたが眼前で同じ様に呆けた面構えの男子に女子全員が詰め掛けてくれれば万々歳だ。寧ろ、そうであってくれ。厄介な女との関係は既に間に合って居る。
——さて、この策が上手く行くかは時任せだな……。