やたらと風通しの良くなった教室。
立ち込めるは恐怖と戦慄。
「ふん、全く……。とんだ面倒な奴が来たモノだ」
——だからと言って骨を折るか? コレで手加減……本気だった場合、肋骨すらも粉砕して相手は立ち上がる事すら出来ないだろうな。
「ソイツは褒め言葉と捉えて良いのか?」
「褒めておらんわ、馬鹿者」
ミゾレの反応に対して千冬は呆れる他に無い。腕が折られて尚もその態度は変わらない。
「編入初日で黒板諸共、壁を粉砕するとは私の教師人生の中で1番の衝撃的な日だな。昨日の馬鹿共の騒動が可愛く思える。今日の授業の日程が狂うだろうが、全く……」
「黒板が無ければ授業が出来んか?」
——言ってくれるわ。まぁ、有れば有用であり無くても多少、支障が出る程度ではあるのだがな。各生徒の空間ディスプレイで表示させれば良いだけの話だ。
「……まぁ、良い。私だからこの程度で済んだな。で、ミゾレ。仮に相手がIS操縦者なら如何していた?」
「そんなモノ。使う前に再起不能に追い込むに決まって居る。最強だか何だか言うが、常日頃から起動して居る訳では無かろう?仮にそうだとしても必ず隙はある。何も相手の都合の良い土俵で戦ってやる必要は無いしやり方は色々とあるだろ?」
それはISを使う前か使えない機会で倒しちまえば良い。相手が真正面からご丁寧に相手してくれるなんて妄想に耽り過ぎだからだ。酷い時は建物ごと葬り去るやり方もある。と言うか先輩なら建物をぶった斬ってソレを落とす派手なやり方をするだろう。
「お前達も見ただろう? お前達もコイツに面白半分で喧嘩を売るなよ。五体満足で明日を拝みたかったらな。では、自分の教室に戻れ‼︎」
——取り敢えず外野が邪魔だ。流石に彼処まで派手な物音を立てれば気になって仕方あるまいが……二次、三次被害を広げる訳には行かないな。コイツの相手には務まらん。素手でISを破壊したとは聞いたが強ち嘘では無いな……。
「「「は、はいッ‼︎」」」
骨を折られたにも関わらずこの程度で済んだと言い放つ。言われた廊下に集まって居た生徒達は蜘蛛の子を散らす様に自分達のクラスに急いで戻って行った。
危険材料としてこの光景を使い恐怖と戦慄を助長させた。千冬も内心、ミゾレがこんな行動をした理由を察して居た。事情込みとは言え他にやり方が無かったのかと毒吐くが。
「……さて、長くなったが貴様の席は、窓際の後ろが空いているから其処に座れ。言っておくが」
「売られた喧嘩は買うが売る喧嘩はバーゲンの時に品切れたから今、無ぇよ」
「なら良い」
——逆上せ上がった餓鬼共には良い反面教師だな。ISが有れば、女であれば何でも上手く行くと言う思い上がりを叩き潰すのに丁度良かったからな……。卒業してから現実を見て後悔するよりはマシだからな。新卒で現実を理解して潰れられると学園に苦情が飛んでくるからその対応が面倒だしな……毎年、決して少なくない量のバックレ苦情の電話が来るからな。相変わらず減る気配が無い。
自分から騒動を起こすなと言うがミゾレは自分から騒動を呼ぶ理由は無いと否定した。そして、其の儘進める千冬も中々、強かであった。
「さて、山田先生」
「え?ひゃ、ひゃい⁉︎」
唐突に話を振られた山田先生こと山田 真那は素っ頓狂な声を上げて現実に意識が引き戻される。
「……色々と衝撃的な光景だったのは認めるが、教師にまで呆然とされるのは困るのだが……。兎も角、教室がこんな状態だからな。壁の修理に時間が取られるだろうから、視聴覚室で授業を行う事にする。その為、業者に修理の依頼と授業関連の調整をする為に私は教室を離れる。故に山田先生は今日1日、授業は自習とか復習等で進めてくれ。出来る限り早く戻って来るから頼んだぞ」
「え、え?えぇ⁉︎ お、織斑先生⁉︎」
——気持ちは痛い程(物理的にも)分かるのだが、色々と用事が立て込んでしまった。後は任せたぞ。
必要な事とは言え真耶からすれば千冬から事前にミゾレの話は聞いて居たのだがいざ、実物を目の当たりにして制御出来るか今更、不安になって来て涙目になってしまう。そんな心情を知ってか知らずか千冬は時間が推して居る為に早々に教室を離れてしまった。
「「「…………」」」
沈黙に包まれる教室。怒涛の展開について行けない生徒達、そして俄然せずに指定された席に座り青空を見て居るミゾレ。唐突に叩き付けられた事態に真耶は内心、パニックに追い込まれた。
「じ、」
「自習してて下さい‼︎」
そして真耶の渾身の叫びが教室内に木霊するのであった。目の前であんな光景を目の当たりにすれば逃げ出したくなるのも無理は無かった。
——流石にちょいとやり過ぎたか……。人間とカウンター能力者がリアルに殴り合ったら大概の場合、超人的な身体能力の差でカウンター能力者が勝つ。
コレはカウンター犯罪が凶悪化する理由でもある。警察もカウンター能力者による犯罪、カウンター犯罪の対策の為に新たな課を創設したがその成果は見るも無惨で見るに堪えられぬ有様。超人的な身体能力に超常の能力。その前に法の番人たる警察は成す術も無かった。多数の殉職者や再起不能となり退職者を出して事実上の閑職状態に追い込まれた。その結果、警察の権威と信用は失墜の一途を辿る事となった。今や軍事会社の方が信用があると言う矛盾した事態になった。
『自習』と言う名目で事実上、教員が居なくなった教室。未だに困惑が尾を引いている。興味、侮蔑、関心と言った感情から一気に恐怖の感情で埋め尽くされた。
最初はどう接しようか考えていた生徒達だが、この一連の光景を目の当たりにして尚更、どう接すれば良いか分からなくなり遠巻きに眺めてヒソヒソとした声音を出すしか無くなった。
——しかし、如何にも悪手だったのかも知れんな。変な意味で注目されるのは癪に障る……かと言って既に賽は投げた。大勢の人間が集まる場所に縁が無かった所為か……コレは早くも歯車が狂いそうだな。
「ねぇ、誰か話しかけてよ。折角の男子だし」
「でも、織斑先生に骨折出来る奴でしょ……。殺されるんじゃ……‼︎」
「ISが、専用機が有ればあんな奴……」
ヒソヒソと囁く様な声が聞こえる。大体はミゾレの行動に関する拡散された恐怖であった。
「見た目はカッコいいけど……」
「さっきの行動と言い、ちょっと怖い」
「千冬様に喧嘩を売るなんて、どんな神経しているのよ……‼︎」
「ねぇねぇ〜。ミゾッチ〜」
その陰鬱と恐怖の空気を打ち壊すかの様なのほほんとした声音が一際、強く印象に残る様にミゾレの鼓膜を叩いたのであった。
ハイスクールddよりも筆が乗るのは何故だろうか。