ポケットモンスターNAVY ~暴投モンスターボール~   作:サンダーゴリラ

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レポート10 イワヤマトンネル/迷い迷って闇のなか

 旅は迷いの連続である。

 アクタの旅には自由が与えられている。目的も自由ならば行き先も自由。

 そして同時に、決断する責任が与えられている。

 自分がいま、どこに行くべきなのか──どこにポケモンを連れて行くべきなのか。その点に関しては、アクタは一生をかけて悩むことになる。

 

 

「ヘイ! ユーにアドバイス! エレクトリックパワー、ビリビリ強いネー! でもじめんタイプにはパワー吸い取られてしまって、ぜんぜん効かないヨー!」

 クチバジムリーダー、マチスは、別れ際にそんなアドバイスを残した。でんきタイプにとって、じめんタイプは唯一の弱点だった。

「じめんタイプって、イシツブテとか? ──へえ、『ディグダの穴』なんて場所があるんだ」

 タウンマップを頼りに、クチバシティのすぐ東にあるトンネルを訪れた。もぐらポケモン、ディグダが掘ったとされる大きな穴だった。

 トンネルを歩いていると、間もなくディグダに遭遇する。

「捕まれ!」

 ボールが当たらないので、捕まらなかった。

「うわ、ダグトリオだ! 捕まれ!」

 ディグダが進化したポケモンにも、当たらなかった。

 結局、一度もモンスターボールが当たらず、ディグダの穴を通過してしまった。トンネルの先は、2番道路だった。

「新しい場所につながってると思ったのに……まあいいか。ニビシティまで行っちゃおう」

 目的がないわけではない。オツキミ山でカセキを掘っていた、理科系の男を思い出したのだ。

 カセキからポケモンを再生させることが可能だという。

 そして、ニビの科学博物館にはそれに詳しい者がいるのだという。そういうわけでアクタは再び、50円を払って科学博物館を訪れた。ひとりの研究員に尋ねてみる。

「あの、すいません。カセキから、ポケモンを復活させることができるって聞いて……」

「しー!」

 研究員の男は、質問を最後まで聞かないうちに、人差し指で沈黙させた。

 館内ではお静かに──という意味合いではないらしい。男はしきりに周囲を見渡して、「こっちへ」とアクタを裏口まで連れ出した。挙動不審な様子が、逆に目立っていた。

「き、きみはコハクを知っているのか!?」

「なんの話ですか!?」

 アクタは一から説明した。自分がカセキを持っているということ、そして科学博物館ならば、カセキからのポケモンの再生に詳しい者がいるということ。

「でもたしかに、オツキミ山でカセキをくれたひとは、コハクがどうとか言っていました」

「そうか……それはきっとこれだな」

 男はふところから、赤みを帯びた宝石のようなものを取り出した。

「これが、コハク?」

「ああ。内緒だけど、こいつにはポケモンの遺伝子が残ってるとおれは睨んでるんだ! もし生き返らせたら、ポケモンの一大発見だ!」

「そっか、それでさっきは慌てたんですね。ほかの研究員さんにも内緒なわけだ」

「いや、ここの仲間はおれの言うことを信じないんだ」

「…………」

 途端に、男のことが哀れに思えた。

「……それできみに頼みがある! これをグレンタウンの研究所に持って行って、調べてほしいんだ!」

「グレンタウンでは、カセキを再生する研究をしているんですっけ。でも……」

 たしかにきれいなコハクだった。しかしカセキと比べると、これにポケモンの遺伝子が閉じ込められていると、にわかには信じがたい。

「頼むよ! 再生したポケモンは、きみが使ってくれていいから!」

「わかりました。任せてください。必ずぼくが、かわいいポケモンを再生させて見せます」

 途端に掌を返した。

「いや、かわいくなくても……とにかく、よろしく頼むよ!

『ひみつのコハク』なるアイテムを手に入れた。

「グレンタウン……グレン島か。一回、海を渡るのか」

 アクタはタウンマップと睨み合う。

「セキチクシティから、船とか出てるのかな。まずは、クチバに戻って、11番道路を抜けて……」

 再びディグダの穴。ディグダやダグトリオのゲットにも再トライするが、結果は出なかった。

 クチバの東、11番道路。ここからセキチクシティや、シオンタウンに続く分かれ道があるのだが──

「……壁?」

 否。それは巨大なポケモンだった。

 いねむりポケモン、カビゴン。でっぷりと肥えた腹部をさらけ出して、往来の真ん中でひたすら眠っている。

 この巨体なら、ノーコンのアクタのモンスターボールだって当たるかもしれない。戦おうか、とアクタはボールを構えたが……

「……それは違うよなあ」

 やめた。

 カビゴンはこちらに敵意を持っていない。というか、気づいてさえいない。そんな野生のポケモンにこちら側から襲いかかるのは、アクタのルールに反する。

「ていうか、ふつうに勝てなさそうなんだよな」

 アクタはトレーナーとして、相手とのレベル差を測れるようになっていた。戦わずして撤退。とりあえず、セキチクシティへ向かうのは諦めることにした。

「だとしたらどこに──あ、ヤマブキシティが行けそうだ」

 ヤマブキシティは、カントー地方の中央に位置する大都会だ。どのくらい都会かというと、東西南北に接続するゲートが設けられているほどだ。

 タウンマップ片手に、クチバシティを経由し南ゲートへ。

「ごめんね。いま、外の人間は街に入れないようになってるんだよ」

 ゲートで警備員に止められた。

「え、なんでですか。ほら、トレーナーカードならありますよ。怪しい者じゃありません」

「うん、わかるんだけどね。最近、ロケット団っていう悪者たちが街を出歩くようになってさ、困ってるんだ。事態が収まるまで、原則として外の人間は入れないことになってるの。例外は認めてないから、悪いね」

 ゲートを追い出されてしまった。

「ロケット団め……」

 再度、タウンマップを睨む。

「参ったなあ、セキチクにもヤマブキにも行けない。どこの街なら行けるんだ?」

 旅は迷いの連続である。

 とはいえ、目的地さえ定まらないのは、だれだって歓迎しない。

「……イワヤマトンネルを抜ければいいのか」

 アクタはタウンマップを指でなぞる。

「ハナダの東か。ちょうどいいや、自転車の引換券があるんだった」

 数日ぶりに、ハナダシティ。

 アクタは緊張した面持ちで、自転車店ミラクル・サイクルを再訪した。

「すいません、これ」

 ポケモンだいすきクラブを信用するならば、この引換券は100万円の自転車と交換できる。つまり、アクタにとって引換券は、100万円の札束と同義であった。

「あーそれは……! 自転車引換券!」

 店主は引換券を食い入るように見つめる。

「どこでこれを?」

「ポケモンだいすきクラブの会長にもらいました」

「ほう……」

「いや、あの、会長さん、自転車使わないって言ってたので! ぼくも最初は遠慮したんですけどね! でもあの、オニドリルで空を飛べるとか、そうおっしゃってたし、せっかくの厚意を断るほうが、失礼かなって……」

 アクタは勝手に弁明を始めた。自分が悪い人間と思われたくなかったのだ。

「……わかりました! ささっ、これをどうぞ!」

 店主は挙動不審なアクタをまったく意に介さず、例の自転車を持ってきた。

「いいんですか!?」

「いいんですよ!」

 アクタは自転車を手に入れてしまった。

「自転車はコンパクトに折りたたむことができるよ! そのリュックにはさすがに入らないけど……ベルトをお付けしましょう。ほら、リュックに固定できた。背負ってみて」

「はい。──あれ、あんまり重くない」

「フレームが軽いんです! あと、どこのポケモンセンターにも駐輪所はあるけど、盗まれないように気をつけるんだよ。よし、ワイヤーロックはサービスしてあげよう!」

「なにからなにまで……」

「なんのなんの! この自転車はねえ、モノはすっごく良いんだけど、その分、値段がすごいじゃない? 各地を走って、宣伝してくれると嬉しいな」

 それでも、100万円だとだれも手が出ないのでは……とは、言わないでおいた。商売とは大変なものなのだろう。

「そういえば、ポケモンだいすきクラブの会長さんは、どうやって引換券なんて手に入れたんですか? 100万円で買われたわけじゃないでしょう」

「あの会長さんねえ、うちの株式をたくさん持ってるんだ」

「はあ……株ってやつを」

 商売とは、大人とは、複雑なものなのだろう。十歳のアクタには、まだ理解できない世界だった。

 

 

 自転車の乗り心地は、はっきり言って最高だった。

 単純に移動するスピードが速く、旅するトレーナーにとっては非常に重用する。アクタはハナダシティからすぐに、イワヤマトンネルの入り口に到達した。

「すごいなあ、自転車。こんどグリーンに会ったら自慢しよ」

 旅の楽しみが増えた。

 イワヤマトンネル内で乗り回すのは危険と考え、リュックに固定して背負う。

 いざ、突入。

 しかしそこは、アクタにとって地獄にも似た過酷な環境だった。

「いや、暗いな!」

 そこは天然の地下トンネル。舗装はされておらず、道中にたいまつの明かりはない。

 カセキの発掘など、研究資源が豊富なオツキミヤマとは違う。もはや、旅するポケモントレーナーにとっては試練の地とも呼べるダンジョンであった。

 アクタはリュックからランタンを取り出した。しかし安価で小さなランタンが照らすのは、せいぜい数歩先。

「……余計に恐い」

 暗いところは苦手だった。

 このイワヤマトンネルを通過する際の一般的な準備として、ポケモンに“フラッシュ”という技を覚えさせて、広い範囲を照らして歩く方法がある。

 アクタがそれを知っていても、“フラッシュ”を覚えたポケモンや、わざマシンの調達は困難だったろう。

「そうだ」

 フシギソウを放つ。

「あのう、蔓で手を握っててくれる? んで、先を歩いてほしいんだけど……」

 フシギソウはどこか呆れたように鳴いたが、指示通りに蔓をアクタの手に巻いて、歩き出した。

「あ、もうちょっとゆっくり!」

 旅は迷いの連続である。

 頼りない光で、イワヤマトンネルを踏破するのはハードだった。何度も行き止まりに迷い込み、野生のポケモンは容赦なく襲いかかってくる。

 夜よりも暗い道を歩くのは、肉体的にも精神的にもストレスだった。

 アクタは何度も悲鳴を上げた。

 そのたびに、フシギソウの蔦が、ギャラドスの尾が、励ますようにアクタを導いた。

「自信がついたとか、強くなったとか思ってたけど……」

 息を切らして、少年はポケモンとともに歩く。

「結局、ぼくはきみたちがいないとダメだな。いつもありがとね」

 出口の光を拝むのに、2日ほどの時間を要した。

 




フシギソウ
 れいせいな性格
 アクタの介助にはすっかり慣れっこである。

ギャラドス
 がんばりやな性格
 一度暴れ始めると、すべてを燃やさないと凶暴な血が収まらなくなってしまう。一月暴れ続けた記録が残る。
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