ポケットモンスターNAVY ~暴投モンスターボール~ 作:サンダーゴリラ
煮えたぎる溶岩の海の上を、足場を回転させながら進む。途中で立ちはだかるジムトレーナーは、ミニリュウ、ハクリューといったドラゴンポケモンと、みずタイプのシードラをよく使ってきた。
「ジムリーダーがどんなポケモンを使ってくるのか、大いにヒントは得られたと思うけど……どう予測しても、楽には勝てなさそうだな」
ジムトレーナーも実力者が揃っていたが、苦戦はしなかった。足場の仕掛けもチリアにとっては難しくなかったので、すぐにジムの最奥までたどり着く。
「わたしがイブキ! 世界で一番のドラゴン使いよ」
どこかで見たことがあるようなマント。その下には青いボディスーツをまとっており、彼女の身体のラインがはっきりと見える。
「強気な格好ね。尊敬するわ」
流行りのファッションには一家言あるチリアだが、イブキの前衛的な服装には舌を巻くばかりだ。
そのボディラインを保つために、どれほどの努力をしているのだろう。
「なに? わたしが強そうだって? ふん! 見た目ばかりじゃないわ。実力も、ポケモンリーグ四天王にだって負けてなんかないわよ! どう、それでも戦うの?」
「当然よ。相手がジムリーダーだろうと四天王だろうとチャンピオンだろうと、戦って、勝つためにここに来たんだもの」
チリアはモンスターボールを手に、周囲を見渡す。
バトルフィールドの外には溶岩の海。
──ボールを投げるのに挑戦するのは、やめておこうと思った。
「……そう、わかったわ。大口をたたくのね」
こちらを見下したように鼻で笑い、イブキもモンスターボールを構える。
「じゃ、始めましょう! わたしもトレーナー。どんな相手だって、全力でぶつかってあげる!」
合図とともに、ジムバトルが始まった。
「ギャラドス!」
イブキの繰り出した1匹目は、ギャラドス。ジムトレーナーたちは使っていなかったのですこし意外でもあった。見た目は竜に似ているがドラゴンタイプではない。
対してチリアの1匹目はトゲチック。
「まずは念のため、“しんぴのまもり”」
状態異常を防ぐ障壁を貼る。
「つぎ、“じんつうりき”!」
念動力は大きなダメージにはならない。いかりの湖で赤いギャラドスと戦ったときも感じたが、ギャラドスというポケモンは攻撃力もさることながら、頑丈だ。
「甘いわ! “りゅうのいかり”!」
衝撃波に吹き飛ばされるトゲチック。チリアはおさげを指先でいじりながら、浅くため息をつく。
「様子見もしていられないか……トゲチック、倒しにかかるよ! “げんしのちから”!」
いわタイプの特殊な岩石は、ひこうタイプを持つギャラドスに効果抜群である。大ダメージにたじろいだ隙を逃さず──
「もう一回、 “げんしのちから”!」
2発目の攻撃で、ギャラドスは戦闘不能になった。嬉しそうに飛び回るトゲチックの様子を見て、チリアは「よし」と頷く。
「ふん! 1体目をクリアしたくらいでいい気にならないでよね! いよいよドラゴンタイプで相手をしてあげるわ」
イブキが2体目に繰り出したのは、青く細長い身体をしたドラゴンポケモン、ハクリューだった。このフスベジムのトレーナーとの戦いでなんどか相まみえたが、それらのどれよりも屈強に見えた。
「べつに、ギャラドスを倒したからいい気になってるわけじゃないわ。トゲチックの能力が上がったから、
“げんしのちから”には低確率で、能力をすべて上げる効果がある。さらに重ねたいところだが──恐らくその余裕はない。
「トゲチック、“バトンタッチ”!」
トゲチックはモンスターボールに戻って行く。チリアが交代で繰り出したのは、アーボックだった。
“バトンタッチ”はパワーアップした能力を、交代するポケモンに引き継がせる技だ。“げんしのちから”で向上したトゲチックの力は、アーボックに同様の効果を及ぼしている。
「能力が上がっていようと、たかがアーボックで……!」
「“こおりのキバ”」
イブキの言葉を遮って、冷気をまとった牙がハクリューに突き立てられた。
「こ、こおりタイプ!?」
「このくらいの対策はしてるわよ。──おっと、ツイてる」
技の追加効果で、ハクリューの身体は『こおり』の状態異常になった。これも低確率で発動する効果だ。
「チャンスよ。アーボック、このまま……!」
「調子に乗るな!」
突如、ハクリューが
──否。凍りついた身体から、抜け出したのだ。
「……『だっぴ』ね」
「そう! ハクリューの特性は『だっぴ』! 状態異常は効かないものと思いなさい!」
凍りついた皮が、崩れて砕ける。その皮を脱ぎ捨て、艶のある鱗を輝かせたハクリューは、鋼の尾をアーボックに叩きつけた。
「“アイアンテール”!」
得意なタイプの技ではないとはいえ、能力が高いポケモンなだけに、技の威力も高い。
「そうそう都合よくいかないか……“こおりのキバ”!」
アーボックにしても、こおりタイプの技は専門外だ。効果抜群だからこそある程度の威力は発揮しているが、大きな期待はできない。ハクリューを戦闘不能に追い込むまでに、3発も使う必要があった。
そしてハクリューという障害は、これでクリアというわけではなかった。イブキが繰り出す3体目は、またハクリュー。すなわち2体目のハクリューである。
「蛇でありながら、竜に立ち向かってくる度胸は褒めてあげるわ。だけどここまでね。能力が上がっていようと、技の威力は大したことはない。状態異常も期待できない。そのアーボックもここまでよ! “りゅうのはどう”!」
ハクリューが放つ衝撃波を受けて、アーボックは──
「──まだだ」
それでも、倒れない。
まだやれることはある。
「アーボック、“いえき”!」
アーボックは口から、粘性の液体を放つ。どくタイプの技だが、攻撃技ではない。
「続けて“へびにらみ”!」
ハクリューの身体が痺れる。特性の『だっぴ』は発動する様子がない。
「どうしたのハクリュー!? ……はっ! そうか“いえき”は……!」
「特性を無効にする技よ。相手の特性を把握できるまで、使いどころが難しいと思ってたけど……」
ハクリューは『まひ』の状態に苦悶している。
「くっ……いい気になるんじゃないわよ! ハクリュー、“りゅうのはどう”!」
痺れる身体でも、ハクリューはアーボックに追いすがった。どうにか発せられた衝撃波は、こんどこそアーボックを戦闘不能にする。
「十二分に仕事をしたわね、アーボック。わたしの天才的手腕によって、きみは竜を越えていたわ」
珍しくポケモンを褒めて、チリアはアーボックを交代させる。3匹目として繰り出したのは、バクフーンだ。溶岩の熱気の漂うバトルフィールドで、どこか心地よさそうにしている。
「“スピードスター”」
この状況において、信用して使える技はこのノーマルタイプの光線のみである。ドラゴンタイプにほのおタイプの技はあまり効かない。かくとうタイプの“きあいだま”は、威力はともかく命中が不安だ。
「負けるな、ハクリュー! “りゅうのはどう”!」
ハクリューは、身体が痺れて動けない。
「“たたきつける”! “でんじは”! “だいもんじ”!」
ハクリューは、身体が痺れて動けない。
「トレーナーが焦っても、状態異常はどうにもならないわよ。バクフーン、攻撃を続けなさい」
「くうっ……!」
冷静さを欠いている様子のイブキだが、この状況においてもまだ、チリアには勝ち誇ることはできなかった。
まだ勝負は終わっていない。
残るイブキのポケモンは、どんな1匹なのか──それがわからないうちは、まだ余裕な態度にはなれない。
しばらくの攻防のあと、結局ハクリューは戦闘不能となった。バクフーンの体力にはまだ余裕があるが、こんどはこちらが“でんじは”による『まひ』状態に陥っている。
「あと1匹? これからがほんとうの勝負よ!」
イブキが最後に繰り出したのは、キングドラ。みずタイプとドラゴンタイプを併せ持つ、シードラの進化系である。
「おっと、想定内とはいえこれは最悪かも……」
3匹目のハクリュー、あるいはその進化系であるカイリューだとしたら、まだ戦いようはあったが──
「キングドラ、“ハイドロポンプ”!」
高威力の水タイプの攻撃により、バクフーンは『ひんし』となった。
「みずタイプ相手なんだから当然か。さて……」
残るポケモンは、ブラッキーとトゲチック。キングドラに対して有利な攻撃技は持ち合わせていない。戦略らしい戦略も、現時点では思いつかない。
「つまり──ここからの戦いはポケモン任せってことか。やな感じ」
:
自分のポケモンを信用していないわけではない。
ポケモンが嫌いとはいえ、憎悪までは向けていない。
しかしポケモンバトルにおいて、チリアが重きを置いているのはポケモンというより、みずからの戦略である。書物で学習した大量の知識と、実戦経験による裏付け。たった4匹のポケモンでジョウトポケモンジムを制覇目前に迫っているのも、やはり自身が天才であることに尽きる──と考えている。
「ブラッキー、“あやしいひかり”!」
「キングドラ、“りゅうのはどう”!」
8つ目のポケモンジムにて、最後の1匹との戦い。
タイプ相性。妨害戦略。どれをとっても、キングドラに対抗できる確証がない。つまり有効な戦略が思いついていない事態。
「“だましうち”!
「“ハイドロポンプ”!」
正直なところ、敗北もやむなしと考えていたが──ブラッキーはチリアの想定を超えて、キングドラに喰らいついている。
「ええい、しぶといわね!」
「ブラッキーは頑丈なのが取りえなのよ。“おんがえし”!」
チリアは戦いに集中しているが、どこかで困惑すら覚えていた。
──思えば、アーボックやバクフーンだってそうだ。ポケモンたちはチリアの想定を超える働きをしている。そんな状況が、チリアにとっては不思議でしょうがないのだ。
やがてキングドラは『こんらん』を振り切って、“ハイドロポンプ”でブラッキーを倒した。チリアは残された最後の1匹、トゲチックを繰り出す。
「“じんつうりき”!」
トゲチックはギャラドスとの戦いでダメージを受けている。キングドラの攻撃に、一発だって耐えられるかわからない。
負けるだろう。
チリアのなかには、覚悟にも似た諦めがあった。
──のだが、放たれた“じんつうりき”にキングドラがひるみ、動きが止まったことが、勝負の命運を分けた。
「うそー!?」
「トゲチック!」
イブキの悲鳴と同時に、チリアはトゲチックに攻撃を指示する。
ふたたび放たれた“じんつうりき”を受けて、キングドラは意識を失った。
戦闘不能。すなわち──
「勝った……?」
トゲチックは喜び、チリアの頭上を飛び回る。いつものように「鬱陶しい」と振り払ったりせず、勝利したはずのチリアは呆然と立ち尽くしている。
「このわたしが負けるなんて……信じられない。なにかの間違いよ……」
事実を受け容れられないのはイブキのほうもおなじであった。彼女はわなわなと打ち震え、涙さえ浮かべた瞳でチリアを睨む。
「わたしは認めないわ」
「ええ?」
イブキの意外な発言で、チリアは我に帰る。とりあえずすり寄ってくるトゲチックを押しのける。
「負けて言うのもなんだけど、あなたの考え方ではポケモンリーグに挑戦なんてムリに決まってるわよ」
「考え方って……わたしがポケモンのことを嫌いってことが?」
「そんなこと考えてたの……?」
引くイブキの様子から、どうやらチリアは失言してしまったようだ。自分がポケモン嫌いであることは、他人からしてみれば印象が悪い。それはこの旅で学んだ、数少ない項目のひとつである。
とはいえ、自分の意見をぼかすほうが「やな感じ」と思うのだが。
「じゃあ、ジムバッジはくれないってこと?」
「そうよ!」
「勝ったのに?」
「そ、そうよ!」
「あなたが負けて、わたしが勝ったのに?」
「そ、そ、そうよ!」
イブキは明らかに動揺しつつ、戦闘不能のキングドラをモンスターボールに収める。
「あんな勝ち方、ほとんどラッキーじゃない!」
「でも、ポケモンバトルってそういうものじゃないの? 技が外れたり、急所に当たったり、ひるんだり、状態異常になったり……」
「ぐっ……」
論破してしまった。
が、それでもイブキは譲らない。
「その考え方が甘えだというのよ! わたしはジムリーダーとして誇りを持っている。単なるバトルの勝敗で、ライジングバッジは渡さないわ! あくまでも実力と精神性を認めた相手にしか……」
「わかった。なるほど。それも道理ね」
チリアはイブキに背を向けた。
ジムリーダーは、自身が認定したトレーナーにジムバッジを進呈する。その裁量はジムリーダー個人に任されているといっても、過言ではないはずだ。
「ちょっ、どこに行くの?」
「どこにって……ポケモンセンターかな。バッジをくれないというのなら、ここにはもう用はないわ」
あまりにも、あっさりと。
裁定に対して交渉もせず、勝利に対して執着もせず。
「ポケモンリーグは諦める」
少女は、
バクフーン ♂
おくびょうな性格
トゲチック ♂
さみしがりな性格
アーボック ♀
しんちょうな性格
ブラッキー ♂
まじめな性格