ポケットモンスターNAVY ~暴投モンスターボール~   作:サンダーゴリラ

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レポート27 竜の穴/穴の底から光が見えた

「念のためポケモンリーグには問い合わせるけどね」

「ちょっと待って!」

 チリアのつぶやきを聞いた途端、イブキは去り行く少女の肩を掴んで引き止めた。

「そ、それはほら……チクるみたいで、卑怯じゃないの……」

「チクるって……ただの問い合わせだって。あなたの裁定が適切か、第三者の視点から確認してもらわないとでしょ。一応さ」

「……そうだわ!」

 なにを思いついたのか、イブキは閃きに目を輝かせる。

「このポケモンジムの裏に『竜の穴』と呼ばれる場所があるの。中央に祠があるからそこへ行ってごらんなさい」

「ええー……」

「もしそこであなたの考えを認められたなら、わたしもあなたがジムバッジを渡すに相応しいトレーナーだと認めてあげるわ!」

「いや、べつにいいわよ。めんどくさいし……」

「いいから!」

 イブキはチリアの両肩を痛いくらいに掴んで、頑として説き伏せようとする。

「それとも、あなたじゃ『竜の穴』に行くことすらムリかしら?」

 挑発のつもりだったが。

「面倒な道のりなの? わたしのポケモン、あんまりひでんわざを使えないからほんとうにムリかもよ」

「……“なみのり”と“うずしお”は?」

「使えない」

「……途中までわたしが一緒に行ってあげるから!」

 あまりにイブキが必死なので、「じゃあいいわよ」とようやくチリアは首を縦に振った。

 

 

 ポケモンセンターで回復を済ませた後、ふたたびフスベジムでイブキと落ち合う。

 ジムの裏手は池になっていた。この奥の洞窟が、竜の穴と呼ばれるダンジョンになっているらしい。

「ハクリューに乗りなさい。──まったく、これまで“なみのり”も使わずによく旅をしてきたわね」

 連れ歩いているアーボックをボールに戻して、イブキとともにハクリューに乗る。ハクリューの長い身体はふたり乗りでも余裕そうだ。

「わざわざ不安定なポケモンに乗らなくても、船とかあるじゃない。そっちのほうが濡れる心配もないしさ。わたしはポケモンより文明の利器のほうが好きだな」

「……やっぱりあなたの考え方って、不純だわ」

 地下に続く『竜の穴』には、湖が広がっていた。その中心には荘厳な社が建てられている。

「あそこが祠?」

「そうよ! ほら、さっさと行くわよ! またハクリューに乗せてあげるから」

「えらく急かすのね」

 イブキの狙いは、祠にいる長老にチリアを否定させることであった。

 長老はポケモントレーナーを見る目があるのだが、いかんせん厳しい。ジムリーダーであるイブキ自身も、手放しに認められてはいない。まだまだ子ども扱いだ。

 フスベシティの長老に認められなかったとなれば、イブキがライジングバッジを渡さなかったことにも、一応の説明がつく。ポケモンリーグに話が伝わったとしても文句を言われることはないだろう。

「ふふふ……」

「なに笑ってるの?」

 思わずほくそ笑んでしまったイブキは、慌てて口元を隠す。

「……祠にいる人物はあなたよりも権力を持っていて、そのひとがわたしのことを厳しく裁定するってこと? で、あなたはわたしが認められないだろうと確信してるの?」

「な、な、なん!? なんのことかしら!? きゃっ──!」

 図星を突かれたイブキは狼狽のあまり、体勢を崩した。湖に落ちてしまいそうになったので、とっさにチリアは彼女の手を取って支える。

 ハクリューがバランスを取ってくれたので、ふたりともが水に落ちることはなかった。

「危ない危ない……だから“なみのり”なんて信用ならないのよ」

「うっ……いや! べつに落ちそうになってないけど!?」

「………………」

 チリアは、だんだんとイブキのことがおもしろく思えてきた。

 

 

「わたしはここで待ってるから、長老とはひとりで会って来なさい」

「うん。帰りも送ってくれるのよね?」

「……いいけど」

 露骨に嫌そうな顔のイブキに送り出され、チリアは祠のなかに入った。

「ごめんください」

 静寂に包まれた祠のなかには、三人の老人がいた。

 両翼にふたりが控え、最奥の上座に長い白髭をたくわえた老爺がいる。

「ふむ……よく来たのう」

 奥の老爺は穏やかな目を少女に向ける。彼が長老であることは明らかであった。

「なーに、心配するでない。なにも言わなくてもわかっておる! イブキのやつに言われてここまで来たのじゃろう? あの娘にも困ったものよ……」

「べつに」

 チリアは長老の前に、無作法に座り込んだ。

 正座もせず、足を崩した横座り。

「わたしは自分の意志で、ここに来ることを選んだ。あなたのような知識と経験のある御仁に、ぜひ訊きたいことがある」

「ほう」

 この緊張感の漂う空間に、すこしも物怖じしていない少女に、長老は興味深そうに髭を撫でた。

「この老いぼれに答えられるものなら、なんなりと」

「ポケモンの気持ちが、よくわかんないの」

 チリアは、ポケモンたちが入ったモンスターボールを4つ、膝の前に並べた。

「前提として、わたしはポケモンが好きじゃない。どちらかというと、嫌い」

 長老は眉ひとつ動かさず、少女の話に聞き入る。

「その意志は彼らポケモンたちにも伝わっているはず。彼らとわたしは──わたしが最強になるという、気まぐれに定めた目標と達成するまでに、道すがらの付き合いでしかない。だから本来、彼らに懐かれることなんてないはずなのに」

「なのに、か」

「ええ。なのに……彼らはいつでも、わたしの想像した以上に期待に応えてくれる」

 不思議でしょうがなかった。

「わたしはポケモンなんて嫌いだと、いつも言っているのに──どうして彼らはわたしを好いている?」

「なるほど」

 老人は、深く、深く、頷いた。

「おぬしはその若さで、ずいぶんと辛い体験をしたようだのお」

 少女の様子から、その背景に察しがついたらしい。

「若きゆえに負った傷だからこそ──傷痕は癒えず、虚構になって残っておる。さぞ苦しいことであろう」

「同情してほしくて、ここに来たわけじゃない」

「そうじゃろうさ。しかしおぬしの持つ疑問には──すでに答えは、おぬし自身のなかにあるはずじゃ」

 チリアはかすかに、眉をひそめる。「わからない」からこそ、恥を忍んで尋ねたというのに。

「名はチリアといったね。疑問に答えを出すにあたり、まずはわしの質問に答えてもらう」

「……なんなりと」

「ではいくぞ……おぬしにとって『ポケモン』とは、どのような存在なのかな?」

 長老の難問に、チリアは答えに詰まる。

「考えたこともなかった。ポケモンはポケモンでしかない。それを言語化するなんて……」

「いまのおぬしには必要なことじゃ。言葉にしてみよ」

「……たとえば、『手下』」

 口に出してみて。

「いや──違うわ。そうやってわざと聞こえの悪い言葉を使うほうが無意味だ」

 長老は深く頷く。

「良いぞ。そうやってみずからの心を向き合うのじゃ。おぬしはこの4匹のポケモンをどう思っておる? 嫌悪や憎悪といった、悪意を向けるべきものだったか?」

 それは違う。

 でも。だとしても。

「ポケモンたちを受け容れなさい。おぬしがかつて、大きな喪失を経験したのだろう。じゃが、自分が()()()()()()()()()なんて、考えてはならんよ」

 愛。

 チリアにとっては疑わしい言葉だが、残念ながらそれに心当たりがある。

 だって、ポケモンたちはいつだって、チリアに付いてきた。

 後ろを連れ歩いているときも。

 前に出て戦うときも。

 いつだって、チリアとおなじ方向を見ていた。

「最強という目標。そこにたどり着くために、おなじ道を歩いてくれるのならば──」

 導き出した答えは、いつものチリアならば絶対に口に出さない。「いい感じ」な言葉であった。

「仲間だ」

 

 

 その後、いくつかの質問を受けたが、最初の問いに比べればじつに簡単なものだった。全部で5つの質問に答えたあと、長老は満足そうに頷いて、外にいるイブキを呼んだ。

「結果はどうかしら? 聞くまでもないと思うけど……あなたでは無理だったでしょう?」

 胸を逸らせて得意そうにチリアを見下すイブキだったが、

「合格じゃ」

「………………」

 数秒、静止して。

「……え! 合格? そんな! 嘘でしょ!」

「へえ。あの質問の答えで、おじいちゃんのお眼鏡には適ったのね」

 長老は優し気な目をチリアに向けて頷く。

「おぬしはポケモンをとても大事にしているようじゃな……そして先ほどまさに、そのことを自覚した。結構なことじゃ。その気持ちを忘れなければ、ポケモンリーグに行っても十分、通用するじゃろう!」

「えっ、でも、お待ちくださいおじい──長老! わっ、わたしだってまだ認めてもらってないのに!」

「こりゃイブキ!」

 狼狽するイブキに、打って変わって長老は厳しい目を向ける。

「この者、技も心も見事なものじゃ。観念してさっさとライジングバッジを渡さんか! さもないと……このことをワタルに言いつけるぞ!」

「!!」

 ワタル。

 その名を聞いた瞬間、イブキの顔色がさっと青くなる。

「わっ、わかりましたわ……さあ、これがライジングバッジよ」

 竜の顔を模した、黒いバッジが差し出される。

「やっとか。ここまで長かったな」

「さっさと受け取りなさい!」

「はいはい、どうもありがとう」

 これで、ジョウト地方のバッジ8つが揃った。バッジケースの空白がすべて埋まり、さすがのチリアも達成感を覚えた。

「イブキよ……お前にしてもチリアにしても、いまだ未熟であることには変わりはない。つまりどちらにも未来がある。──にも関わらず、チリアだけが認められた」

「………………」

「お前になくてこの者にあるもの……それがなにかを、よく考えることじゃ」

 イブキは黙り込んだまま、とうとう口を開くことなく、祠から去って行った。

「やれやれ……あの娘にも困ったものじゃ。実力はあるのだから、もう一皮むけてくれればよいのじゃが」

「でも、おもしろいひとよね」

 イブキに悪印象を持っていないチリアに、老人は身を揺らして笑った。

「良かったら、またイブキとも会ってやってくれ。おぬしの純粋さに触れることで、あやつも己の足らぬ点に気づくかもしれぬ。それに──きっとおぬしたちは良き友になれるだろう」

「純粋なんて初めて言われた」

 チリアの率直さは、多くのひとにとって良い印象を与えない。

「まあ、いいわよ。イブキのことは嫌いじゃない。あのひと強いし、ポケモンリーグに向けて修行に付き合ってもらおっかな」

「そうそう、ポケモンリーグに挑むというのならば、手持ち4匹ではいささか厳しいかもしれんぞ? 爺の余計な世話かもしれんが──わしに認められた証として、これを連れてゆくがよい!」

 長老はふところからモンスターボールを取り、少女に差し出した。当然、中身が入っている。

「え!? く、くれるの!? ありがとう!!」

 チリアはこの日、一番大きな声を出した。

 さっそくモンスターボールを開くと、つぶらな瞳の青い竜が現れた。

「ドラゴンポケモンは我ら一族の象徴! おぬしになら任せられる」

「……助かる。わたしノーコンだから」

 長老はまるで、チリアの致命的な弱点すらも知っているかのように、優し気な目で頷いた。

「おぬしの弱点も、虚構も、いずれポケモンたちが埋めてくれるであろう。わしはこの祠で、それを祈っておるよ」

「──よろしく、ミニリュウ。わたしの仲間になる以上、きみのことは嫌わないようにするね」

 




バクフーン ♂
 おくびょうな性格

トゲチック ♂
 さみしがりな性格

アーボック ♀
 しんちょうな性格

ブラッキー ♂
 まじめな性格

ミニリュウ ♀
 なまいきな性格
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