ポケットモンスターNAVY ~暴投モンスターボール~ 作:サンダーゴリラ
「念のためポケモンリーグには問い合わせるけどね」
「ちょっと待って!」
チリアのつぶやきを聞いた途端、イブキは去り行く少女の肩を掴んで引き止めた。
「そ、それはほら……チクるみたいで、卑怯じゃないの……」
「チクるって……ただの問い合わせだって。あなたの裁定が適切か、第三者の視点から確認してもらわないとでしょ。一応さ」
「……そうだわ!」
なにを思いついたのか、イブキは閃きに目を輝かせる。
「このポケモンジムの裏に『竜の穴』と呼ばれる場所があるの。中央に祠があるからそこへ行ってごらんなさい」
「ええー……」
「もしそこであなたの考えを認められたなら、わたしもあなたがジムバッジを渡すに相応しいトレーナーだと認めてあげるわ!」
「いや、べつにいいわよ。めんどくさいし……」
「いいから!」
イブキはチリアの両肩を痛いくらいに掴んで、頑として説き伏せようとする。
「それとも、あなたじゃ『竜の穴』に行くことすらムリかしら?」
挑発のつもりだったが。
「面倒な道のりなの? わたしのポケモン、あんまりひでんわざを使えないからほんとうにムリかもよ」
「……“なみのり”と“うずしお”は?」
「使えない」
「……途中までわたしが一緒に行ってあげるから!」
あまりにイブキが必死なので、「じゃあいいわよ」とようやくチリアは首を縦に振った。
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ポケモンセンターで回復を済ませた後、ふたたびフスベジムでイブキと落ち合う。
ジムの裏手は池になっていた。この奥の洞窟が、竜の穴と呼ばれるダンジョンになっているらしい。
「ハクリューに乗りなさい。──まったく、これまで“なみのり”も使わずによく旅をしてきたわね」
連れ歩いているアーボックをボールに戻して、イブキとともにハクリューに乗る。ハクリューの長い身体はふたり乗りでも余裕そうだ。
「わざわざ不安定なポケモンに乗らなくても、船とかあるじゃない。そっちのほうが濡れる心配もないしさ。わたしはポケモンより文明の利器のほうが好きだな」
「……やっぱりあなたの考え方って、不純だわ」
地下に続く『竜の穴』には、湖が広がっていた。その中心には荘厳な社が建てられている。
「あそこが祠?」
「そうよ! ほら、さっさと行くわよ! またハクリューに乗せてあげるから」
「えらく急かすのね」
イブキの狙いは、祠にいる長老にチリアを否定させることであった。
長老はポケモントレーナーを見る目があるのだが、いかんせん厳しい。ジムリーダーであるイブキ自身も、手放しに認められてはいない。まだまだ子ども扱いだ。
フスベシティの長老に認められなかったとなれば、イブキがライジングバッジを渡さなかったことにも、一応の説明がつく。ポケモンリーグに話が伝わったとしても文句を言われることはないだろう。
「ふふふ……」
「なに笑ってるの?」
思わずほくそ笑んでしまったイブキは、慌てて口元を隠す。
「……祠にいる人物はあなたよりも権力を持っていて、そのひとがわたしのことを厳しく裁定するってこと? で、あなたはわたしが認められないだろうと確信してるの?」
「な、な、なん!? なんのことかしら!? きゃっ──!」
図星を突かれたイブキは狼狽のあまり、体勢を崩した。湖に落ちてしまいそうになったので、とっさにチリアは彼女の手を取って支える。
ハクリューがバランスを取ってくれたので、ふたりともが水に落ちることはなかった。
「危ない危ない……だから“なみのり”なんて信用ならないのよ」
「うっ……いや! べつに落ちそうになってないけど!?」
「………………」
チリアは、だんだんとイブキのことがおもしろく思えてきた。
:
「わたしはここで待ってるから、長老とはひとりで会って来なさい」
「うん。帰りも送ってくれるのよね?」
「……いいけど」
露骨に嫌そうな顔のイブキに送り出され、チリアは祠のなかに入った。
「ごめんください」
静寂に包まれた祠のなかには、三人の老人がいた。
両翼にふたりが控え、最奥の上座に長い白髭をたくわえた老爺がいる。
「ふむ……よく来たのう」
奥の老爺は穏やかな目を少女に向ける。彼が長老であることは明らかであった。
「なーに、心配するでない。なにも言わなくてもわかっておる! イブキのやつに言われてここまで来たのじゃろう? あの娘にも困ったものよ……」
「べつに」
チリアは長老の前に、無作法に座り込んだ。
正座もせず、足を崩した横座り。
「わたしは自分の意志で、ここに来ることを選んだ。あなたのような知識と経験のある御仁に、ぜひ訊きたいことがある」
「ほう」
この緊張感の漂う空間に、すこしも物怖じしていない少女に、長老は興味深そうに髭を撫でた。
「この老いぼれに答えられるものなら、なんなりと」
「ポケモンの気持ちが、よくわかんないの」
チリアは、ポケモンたちが入ったモンスターボールを4つ、膝の前に並べた。
「前提として、わたしはポケモンが好きじゃない。どちらかというと、嫌い」
長老は眉ひとつ動かさず、少女の話に聞き入る。
「その意志は彼らポケモンたちにも伝わっているはず。彼らとわたしは──わたしが最強になるという、気まぐれに定めた目標と達成するまでに、道すがらの付き合いでしかない。だから本来、彼らに懐かれることなんてないはずなのに」
「なのに、か」
「ええ。なのに……彼らはいつでも、わたしの想像した以上に期待に応えてくれる」
不思議でしょうがなかった。
「わたしはポケモンなんて嫌いだと、いつも言っているのに──どうして彼らはわたしを好いている?」
「なるほど」
老人は、深く、深く、頷いた。
「おぬしはその若さで、ずいぶんと辛い体験をしたようだのお」
少女の様子から、その背景に察しがついたらしい。
「若きゆえに負った傷だからこそ──傷痕は癒えず、虚構になって残っておる。さぞ苦しいことであろう」
「同情してほしくて、ここに来たわけじゃない」
「そうじゃろうさ。しかしおぬしの持つ疑問には──すでに答えは、おぬし自身のなかにあるはずじゃ」
チリアはかすかに、眉をひそめる。「わからない」からこそ、恥を忍んで尋ねたというのに。
「名はチリアといったね。疑問に答えを出すにあたり、まずはわしの質問に答えてもらう」
「……なんなりと」
「ではいくぞ……おぬしにとって『ポケモン』とは、どのような存在なのかな?」
長老の難問に、チリアは答えに詰まる。
「考えたこともなかった。ポケモンはポケモンでしかない。それを言語化するなんて……」
「いまのおぬしには必要なことじゃ。言葉にしてみよ」
「……たとえば、『手下』」
口に出してみて。
「いや──違うわ。そうやってわざと聞こえの悪い言葉を使うほうが無意味だ」
長老は深く頷く。
「良いぞ。そうやってみずからの心を向き合うのじゃ。おぬしはこの4匹のポケモンをどう思っておる? 嫌悪や憎悪といった、悪意を向けるべきものだったか?」
それは違う。
でも。だとしても。
「ポケモンたちを受け容れなさい。おぬしがかつて、大きな喪失を経験したのだろう。じゃが、自分が
愛。
チリアにとっては疑わしい言葉だが、残念ながらそれに心当たりがある。
だって、ポケモンたちはいつだって、チリアに付いてきた。
後ろを連れ歩いているときも。
前に出て戦うときも。
いつだって、チリアとおなじ方向を見ていた。
「最強という目標。そこにたどり着くために、おなじ道を歩いてくれるのならば──」
導き出した答えは、いつものチリアならば絶対に口に出さない。「いい感じ」な言葉であった。
「仲間だ」
:
その後、いくつかの質問を受けたが、最初の問いに比べればじつに簡単なものだった。全部で5つの質問に答えたあと、長老は満足そうに頷いて、外にいるイブキを呼んだ。
「結果はどうかしら? 聞くまでもないと思うけど……あなたでは無理だったでしょう?」
胸を逸らせて得意そうにチリアを見下すイブキだったが、
「合格じゃ」
「………………」
数秒、静止して。
「……え! 合格? そんな! 嘘でしょ!」
「へえ。あの質問の答えで、おじいちゃんのお眼鏡には適ったのね」
長老は優し気な目をチリアに向けて頷く。
「おぬしはポケモンをとても大事にしているようじゃな……そして先ほどまさに、そのことを自覚した。結構なことじゃ。その気持ちを忘れなければ、ポケモンリーグに行っても十分、通用するじゃろう!」
「えっ、でも、お待ちくださいおじい──長老! わっ、わたしだってまだ認めてもらってないのに!」
「こりゃイブキ!」
狼狽するイブキに、打って変わって長老は厳しい目を向ける。
「この者、技も心も見事なものじゃ。観念してさっさとライジングバッジを渡さんか! さもないと……このことをワタルに言いつけるぞ!」
「!!」
ワタル。
その名を聞いた瞬間、イブキの顔色がさっと青くなる。
「わっ、わかりましたわ……さあ、これがライジングバッジよ」
竜の顔を模した、黒いバッジが差し出される。
「やっとか。ここまで長かったな」
「さっさと受け取りなさい!」
「はいはい、どうもありがとう」
これで、ジョウト地方のバッジ8つが揃った。バッジケースの空白がすべて埋まり、さすがのチリアも達成感を覚えた。
「イブキよ……お前にしてもチリアにしても、いまだ未熟であることには変わりはない。つまりどちらにも未来がある。──にも関わらず、チリアだけが認められた」
「………………」
「お前になくてこの者にあるもの……それがなにかを、よく考えることじゃ」
イブキは黙り込んだまま、とうとう口を開くことなく、祠から去って行った。
「やれやれ……あの娘にも困ったものじゃ。実力はあるのだから、もう一皮むけてくれればよいのじゃが」
「でも、おもしろいひとよね」
イブキに悪印象を持っていないチリアに、老人は身を揺らして笑った。
「良かったら、またイブキとも会ってやってくれ。おぬしの純粋さに触れることで、あやつも己の足らぬ点に気づくかもしれぬ。それに──きっとおぬしたちは良き友になれるだろう」
「純粋なんて初めて言われた」
チリアの率直さは、多くのひとにとって良い印象を与えない。
「まあ、いいわよ。イブキのことは嫌いじゃない。あのひと強いし、ポケモンリーグに向けて修行に付き合ってもらおっかな」
「そうそう、ポケモンリーグに挑むというのならば、手持ち4匹ではいささか厳しいかもしれんぞ? 爺の余計な世話かもしれんが──わしに認められた証として、これを連れてゆくがよい!」
長老はふところからモンスターボールを取り、少女に差し出した。当然、中身が入っている。
「え!? く、くれるの!? ありがとう!!」
チリアはこの日、一番大きな声を出した。
さっそくモンスターボールを開くと、つぶらな瞳の青い竜が現れた。
「ドラゴンポケモンは我ら一族の象徴! おぬしになら任せられる」
「……助かる。わたしノーコンだから」
長老はまるで、チリアの致命的な弱点すらも知っているかのように、優し気な目で頷いた。
「おぬしの弱点も、虚構も、いずれポケモンたちが埋めてくれるであろう。わしはこの祠で、それを祈っておるよ」
「──よろしく、ミニリュウ。わたしの仲間になる以上、きみのことは嫌わないようにするね」
バクフーン ♂
おくびょうな性格
トゲチック ♂
さみしがりな性格
アーボック ♀
しんちょうな性格
ブラッキー ♂
まじめな性格
ミニリュウ ♀
なまいきな性格