ポケットモンスターNAVY ~暴投モンスターボール~   作:サンダーゴリラ

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レポート28 スリバチ山/ただの修行

 イブキが先に帰ってしまったので湖を渡ることができず、仕方がないので『あなぬけのヒモ』を使って竜の穴から脱出した。

「お待ちなさい!」

 太陽の下に出た途端、背後からイブキに声をかけられた。

「あなた……!」

「ちょっとぉ。帰りも“なみのり”で送ってくれる約束だったじゃない。なんで先に帰っちゃうわけ? やな感じなんだけど」

「う、うん……だからちょうどいま、引き返そうとしたのよ? ほんとよ? ──ていうかそんなことはどうでもいいでしょ!」

 イブキは咳払いをして、会話の主導権を取り戻そうとする。

「とにかく……今回は悪かったわね」

「先に帰ったこと?」

「違う! バッジを渡さなかったこと!」

 そういえばそうだった──とチリアは思った。竜の穴を訪れることになった経緯など、もはや少女の意識の外にあった。

「べつにいいわよ。おかげで長老のおじいちゃんに会って、疑問に答えが出たし──ほら、ミニリュウも貰った」

 イブキはいまさらながらに気づいた。チリアからすこし離れて連れ歩いている、ミニリュウの存在に。

「長老から……? あ! っていうかこのミニリュウ!」

 イブキはミニリュウに駆け寄る。身構えるミニリュウをじっと見つめたかと思うと。

「やっぱり……“しんそく”を覚えた特別な個体じゃない! あなたどれだけおじいちゃんに気に入られたの!?」

「へー。やっぱりその技、珍しいんだ。参ったわね、わたしって年上に好かれるのかしら」

「わたしがいくら頼んでもくれなかったのに……」

 イブキがミニリュウを撫でようと手を伸ばすと、ミニリュウは長い尾でその手を払った。

「痛あ!? なによこいつ! ミニリュウのくせに!」

「……あなたのそういうところ、長老のおじいちゃんは心配じゃないのかな」

 くせに、は無いだろう。

「ミニリュウはわたしのことまで警戒してるよ。ま、時間をかけて関係を構築していけばいいわ。──時間といえば、レベル上げのほうも時間がかかりそうなのよね。これからすぐに実戦に使えそうなほど育ってないし」

 イブキはミニリュウと睨み合っている。

「……一応確認だけど、イブキってドラゴンタイプジムのジムリーダーなのよね?」

「は? 当然じゃない。きょう戦ったばっかりでしょ」

 自分の手持ちではないとはいえ、ミニリュウ1匹を制御できていない姿から、どうしても疑わしく見えてしまった。

「ていうか呼び捨てって! 『様』を付けなさいよ! 最低でも『さん』付けでしょ!」

「わたし、尊敬してるひとじゃないと敬称を付けないの」

「尊敬をしなさいよ!」

「そんなことより」

 チリアは、ミニリュウの隣に立つ。先ほど「仲間」入りしたばかりのミニリュウは、主人であるというこの少女にまだ慣れていない。

「ミニリュウを強くしたい。いい修行方法、知らない?」

「育成ってこと? そんなのやっぱり経験よ。野生のポケモンやトレーナーとのバトルをひたすら積むに限るでしょ。近道は無いわ」

「なるほど、真理ね」

「そのなかで手っ取り早い修行方法となると……ダンジョンにこもるのが良いんじゃないかしら。さっきの竜の穴とか……スリバチ山なんかもオススメね」

「ええ……山ごもり?」

 チリアは露骨に顔をしかめた。

「ダンジョンなんてほこりっぽいし砂っぽいし、野宿する羽目になったら最悪じゃん」

「……その旅に向いてない潔癖さで、よくバッジを8つ集めたものね」

 長老がどうしてこの少女を強く認めたのか、改めて理由がわからなくなった。

「しっかりしなさい! 修行ってそういうものよ! ポケモンたちは戦いで汚れるんだからね! むしろその汚れを誇りと思いなさい!」

「説得力あるわね」

 チリアは肩をすくめて、ミニリュウを一瞥する。

「うん。では明朝からスリバチ山にでもこもるとするわ。あそこ、チョウジに行くときに通り抜けただけで、奥のほうは探索してなかったし」

「そうなさい。──いい? チリア。この先、なにをするにしても、諦めたら許さないからね!」

 たくましい性格のチリアだが、イブキにはある大きな懸念点を持っていた。

 それは彼女がライジングバッジを渡すことを拒んだ際、チリアがあっさりと引いて、バッジの入手を諦めたことだ。

 ──「ポケモンリーグは諦める」

 その執着の無さが。

 情熱の無さが、気に入らない。

「諦めって……」

「いいから! はいと頷きなさい! 情けない真似をするんじゃないわよ! ──そうでないと、負けたわたしがみじめになるでしょ!」

「……はい」

 少女が頷くと、イブキは「よし」と背を向けた。

「………………がんばって」

「イブキは優しいのね」

「だから呼び捨てにするな!」

 

 

「一日で踏破する。さもなくば『あなぬけのヒモ』で脱出する」

 翌朝、チリアは42番道路まで戻り、スリバチ山に入山した。

「ミニリュウ。きょうはきみがメインで戦ってもらうわ。ピンチになったら交代させるけど、交代したポケモンの戦いもよく見ておくのよ」

 まだ懐いていないミニリュウは、しぶしぶ、といった様子でチリアに付いてくる。

 少々生意気な性格をしているが、一向に構わない。チリアの指示には従っているし、戦闘に関してもどちらかといえば意欲的だ。

 チリアはポケモンが嫌いだ。だが、自分のポケモンまで嫌う必要はない。

 彼らは『仲間』だ。──そのことを自覚してから、なんだか肩が軽くなったような気がした。

「湖を渡るには──ミニリュウ、“なみのり”を」

 ミニリュウは“なみのり”を覚えることができたので、水上を渡る際にも役立った。ミニリュウ自身は気に入らなさそうだが。

 ミニリュウの体格は、細いながらも体長はチリアを越えている。チリアはその首にしっかりと抱き着いて、立ち乗りの姿勢になって湖を渡った。

「乗り心地は悪くないけど、ちょっと不安だな。進化してくれればまだマシになるかな」

 そのためには戦闘は欠かせない。ほんとうは早く山から出たいチリアだが、野生ポケモンとは積極的に戦う必要があった。

 ドラゴンタイプの“たつまき”や、イブキが羨んだ“しんそく”。そしてひでんマシンで覚えさせた“なみのり”といった技で、ミニリュウは順調に戦いに慣れていった。

「ふうん、ドラゴンタイプのポケモンってやっぱり強いのね。もっと手がかかると思ったけど……」

 野生のイシツブテを単独で倒し、ミニリュウは得意そうに胸を張る。が、チリアの目はポケギアを向いていた。

「そろそろいい時間か──回復と、食事にしましょう」

 広いスペースにレジャーシートを広げ、チリアは4つのモンスターボール投げて、ほかのポケモンたちを外に出した。

 4つのボールはあちこちに飛んで行ったが、ノーコンに慣れている彼らは速やかに主人のもとに集まる。

「はいみんなおつかれ。きのみ食べていいわよ。モーモーミルクも」

 バクフーンたちは喜んで食事を分け合った。が、ミニリュウは遠巻きで眺めているだけである。

「ミニリュウ、きみもいらっしゃい。ちゃんと食べて休まないとキツイわよ」

 いまいち乗り気ではなさそうなミニリュウに、きのみを咥えたアーボックが這い寄る。アーボックはミニリュウにきのみを差し出し、喉を鳴らすように鳴いた。

 しかし警戒した様子のミニリュウは、きのみを受け取らない。するとアーボックは胸を張って、腹の模様を見せつけた。

「あれは……『いかく』?」

 相手の攻撃を下げる特性の『いかく』。今回は厳密には威嚇目的ではなさそうだが──びくっとひるんだミニリュウは、やがておずおずときのみを口にした。

「……アーボック、きみはミニリュウの教育係をやりなさい。おなじくヘビに属する体型だし、体長も1.5倍ほど長いし」

 アーボックはしっかりと頷いて、尾でミニリュウの背中を軽く叩いた。ミニリュウはバツが悪そうである。

 バクフーン、トゲチック、ブラッキーはその様子を伺いながらも、仲良く食事している。

「なるほど。手持ちのポケモンたちにも関係性というものが生じてくるか。それぞれ性格があるんだから、考えてみれば当然よね。ミニリュウ以外の4匹はそれなりに付き合いが長いわけだし、コミュニティってものが構築できてるのかしら」

 4匹の関係性は、平和で良好なものに見える。そのなかに生意気な性格のミニリュウが加わったわけだが──それで大きな波が立つわけでもなく、アーボックが制御してくれるであろう。

「ポケモンたち同士も仲良く──ってことか。きみたちみんなで最強のポケモンになるんだもんね。まあ、上手くやんなさいよ」

 和気あいあいとするポケモンたちを横目に、チリアはカロリーバーやゼリー飲料で栄養を補給する。

 トゲチックがモーモーミルクを持ってきてくれたが。

「要らない」

 嫌いじゃなくなったとはいえ、すぐに優しくなるわけでもなかった。

 

 

 スリバチ山の内部は非常に広い。チリアの探索能力を以てしても、修行しながら日中での踏破は困難な道のりであった。

「野宿や嫌だ、野宿は嫌だ……」

 うわごとのように呟くチリア。

 その手には『あなぬけヒモ』が握られている。いざとなったら探索を切り上げて撤退するつもりだ。

「そもそもどこがゴールなのかも知らないし、ミニリュウの育成だって目標地点を決めているわけじゃないし、いつ帰ってもいいと思うのよね……」

 独り言なのに言い訳を始めるチリア。戦い詰めのミニリュウだがまだまだ元気であり、チリアのほうも体力に余裕はあるのだが──いかんせんデリケートで潔癖なので、ダンジョン内に長時間いるという状況に精神のほうが参り始めていた。

 そんな危うい彼女の前に。

「オスッ! わしがカラテ大王である! 暗い洞窟でひとり修行をする男だ!」

 道着姿のポケモントレーナーが現れた。

「なんと珍しい! このあたりにひとが来訪することすら稀だというのに、よもや女子が来ようとは! おぬしも修行か!? それとも迷子か!?」

「一緒にされるのも複雑だけど……前者よ」

「ならばおぬし! わしと戦えっ!」

 唐突ではあるが、ポケモントレーナー同士が出会ったのだ。不思議な展開ではない。それに──チリアは妖しく笑みを浮かべ、おさげをいじる。

「ちょうどいいわ。あなたに勝って、きょうの修行は終わりとしましょう。キリがいいものね。うん、それがいいわ」

「なにをブツブツ言っておる! トオリャー!」

 さっそくカラテ大王はサワムラーを繰り出した。

「相手は格上よ、ミニリュウ。やれる?」

 問いかけるよりも早く、ミニリュウはサワムラーの前に躍り出た。

「明解な答えね。じゃ、やってごらんなさい」

 ここまでの道すがら、積極的に野生ポケモンと戦ったおかげでミニリュウのレベルは上がっており、使える技も増えた。

 ポケモンバトルという分野において、トレーナーとの戦いとは言うなれば「本番」である。修行の成果をどれほど表現できるだろうか。チリアは注意深くミニリュウの様子を伺う。

「ミニリュウ、“たたきつける”!」

 習得したばかりの技を使う。ミニリュウの尾がサワムラーに叩きつけられる。なかなかの威力だ。身のこなしは見慣れたアーボックとは違うものだ。それは単に種族が異なるためか、はたまた経験の差か。

「なんの! サワムラー、“こころのめ”」

「おっとまずい。大技が来そうね」

 “こころのめ”とは、つぎに繰り出す技を必中させる効果がある。すなわち、命中に不安があるほどの大技を使うことが予想される。

 セオリーとしては、ポケモンを交代させることだが──

「できればミニリュウは引っ込めたくないな。ちょっと無茶かもしれないけど──“でんじは”!」

 サワムラーは『まひ』の状態になる。そして狙いどおり、身体が痺れて技を発せられなかった。

「隙を逃さずに行くよ。“しんそく”!」

 それは“でんこうせっか”を代表とする先制攻撃技のなかでも、高い威力を誇るノーマルタイプの技だ。サワムラーはぐらりと体制を崩すが。

「まだだ! “とびひざげり”!」

 戦闘不能には、至らない。

 飛来するサワムラーの膝蹴りをかわすことができず、その強力な一撃で、ミニリュウは倒れた。

「……こんなものよね。上等上等。おつかれさん」

 『ひんし』のミニリュウをモンスターボールに戻す。

 サワムラーとは最初からレベル差があった。薄情かもしれないが、正直チリアはこの戦いに勝利を計算していなかった。

 ミニリュウの戦いぶりはよくわかった。やる気があることもよくわかった。

 冷酷な采配だったかもしれないが、必要な経験だと思っている。

「じゃあかたき討ちをよろしくね、アーボック」

 モンスターボールを投げる。真後ろに飛んで行った。

 ミニリュウの教育係を拝命したアーボックは、即座にチリアの足元に戻ってきて、サワムラーを『いかく』した。

 ミニリュウより格上のサワムラー。しかしアーボックは、そのさらに上のレベルである。




バクフーン ♂
 おくびょうな性格

トゲチック ♂
 さみしがりな性格

アーボック ♀
 しんちょうな性格

ブラッキー ♂
 まじめな性格

ミニリュウ ♀
 なまいきな性格
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