ポケットモンスターNAVY ~暴投モンスターボール~   作:サンダーゴリラ

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レポート30 エンジュシティ/舞えブラッキー

 自宅の掃除を済ませて、清潔になったソファに腰かける。

「……マスターボール」

 先ほどウツギ博士から受け取ったばかりの『貴重品』を、じっと見つめる。

「舞妓さん」

 点。

「マスターボール。エンジュシティ。スズの塔。焼けた塔。ライコウ。エンテイ。スイクン。虹色の羽。ラジオ塔。ロケット団。噂。みんなのために大活躍。ウツギ博士」

 点と点。

 点と点と点と……

 それらを繋いだときに、脳裏に浮かぶ模様は──

「──ただの想像だ。仮定だ。推測だ」

 答えを口にすることなく、チリアはソファから立ち上がった。

 舞妓たちの目的を明らかにするためには、やはり彼女たちに会う必要がある。

「お母さん。わたし、また旅に出てくるね」

 母親は自室で仕事をしていた。彼女は娘に視線をくれないまま、返事の代わりにひらひらと手を振った。

 ワカバタウンには、きょうも爽やかな風が吹いている。

「トゲチック、“そらをとぶ”」

 目指すはエンジュシティ。疑念を打ち払うために、少女たちは飛ぶ。

 

 

 エンジュシティの歌舞練場。通称、エンジュ踊り場。

 チリアがここを訪れるのは二度目だった。最初に来訪したときは、ステージにロケット団員が乱入していて、踊りを観たりなんかできなかったが──

「まあ、今回は観光目的じゃないんだけど」

 踊り場の扉を開けようとした、そのとき。

 ()()()()()

「わ」

 勢いよく扉から出てきた人物とぶつかる。転びそうになったチリアを、すんでのところでトゲチックが受け止めた。

「──っと。ナイス、トゲチック」

 チリアとぶつかった人物──その少年は、尻もちをついてうつむいていた。

 赤髪の少年、シルバーだった。

「……ちょっと、危ないじゃないのよシルシル」

「なんで、なんで……」

 チリアからの変な呼び方など耳に入っていない様子で、ぶつぶつとシルバーは呟く。

「シルシル……シルバー?」

「なんでオレは勝てないんだ……相手はただの舞妓さんじゃないか……」

「………………」

 舞妓に負けてきたらしい。

 以前エンジュ踊り場を訪れたとき、客の男が「ポケモンの腕前も達者なんやで」と言っていたのを思い出した。

「! お前、チリア……」

 いまさらになって、シルバーは目の前に立つ少女に気づいた。

「よっぽどショックを受けてるみたいね、あんた」

「見てたのか……そうだよ、オレは勝てなかった」

 ゆらりと、力なくシルバーは立ち上がる。

 べつに敗戦した場面は見ていないのだが、あえて告げないでおく。

「舞妓さん5人抜きなんて簡単だと思ったのに……コテンパンにされちまった」

「5人と連戦? それはなかなか難儀ね」

「……どうせお前も、舞妓さんに挑戦しに来たんだろ?」

 違うのだが、それもあえて告げないでおく。

「ロケット団を潰したからって、あんまり調子に乗るなよ。──ここの舞妓さんたち、馬鹿みてーに強いからな」

「馬鹿みてーに、ときたか」

「さあ行けよ。やってみろよ。オレはなかには戻らない」

 少年はゆっくりと歩み始める。

「お前が勝つところなんて、見たくないからな」

 すれ違いざまに言葉を残して、そのままシルバーは走り去っていった。

「わたしが勝つって思ってんだ……それにしても下手な応援。まあ、素直に『がんばれ』なんて言われても気味が悪いけど」

 さて。

 そもそも、戦うつもりでここに来たわけではないのだが──シルバーの勘違いのおかげで、やる気になってしまった。

「かたき討ちってわけじゃないけど、これで勝てたらつぎにシルバーに会ったとき、マウントが取れる」

 

 

「ようお越しやす」

 歌舞練場のステージの上で、5人の舞妓が並んでいた。

 おなじ柄の着物に、おなじ顔……に見えるのは化粧のせいだろうか。否。よく目を凝らしても顔立ちがそっくりだ。

 五人姉妹……というか、五つ子だろうか。チリアには並んだ彼女たちの見分けがつかなかった。

「どうぞ」

 そう舞妓に誘われ、チリアはステージに上がる。観客席にはだれもいない。歌舞練場は、耳がキンとなるほど静かだった。

「うちは舞妓のタマオ」

 ひとりの舞妓が進み出る。

「あんさんとはキキョウの街でお会いしましたなあ」

「……そうなんだ」

 出来事自体は憶えている。キキョウでトゲピーのタマゴを受け取ったあと、舞妓に話しかけられたのだ。

 ただ、その舞妓がこの5人のうちのだれであったのかが判断できない。

「ホウオウを招き寄せるためには、正しい心でポケモンと触れ合うことができる──そんなひとが必要なんどす。うちらは、もしもそんな人が出て来はったら、目印となるふしぎなタマゴを渡すよう、ポケモンじいはんにお願いしておりました」

 旅に出る前、ウツギ博士から頼まれて、30番道路に住む「ポケモンじいさん」と呼ばれる老人から、ポケモンのタマゴを預かったことがある。

「そしてポケモンじいはんからウツギはんを通じて、タマゴはあんさんに渡されたのどす」

「ウツギ博士が一枚噛んでいたのは予想してたけど、あのポケモンじいさんまで……ややこしいことをするわ」

 チリアは連れ歩いているトゲチックを一瞥した。あのとき、まるで興味を持たないままウツギ研究所まで持ち帰ってタマゴが、まさか自分のポケモンになるとは思ってもいなかった。

「せやけど……心の清らかさだけではポケモンの力に負けてしまう。ちゃーんとポケモンを扱えるか? いまからそれを試させてもらいます」

「心が清らかって……そんな自覚はないけれど、とりあえずバトルするってこと?」

 舞妓──タマオは笑顔を以て肯定する。

「いいわ。やりましょう」

「ほな、あんさんとポケモンの絆の強さ、しっかり見させてもらいますー」

 タマオは舞うように一回転して、モンスターボールを投げた。

 彼女が繰り出したのはブラッキー。見慣れた、漆黒の体毛に黄色い模様のポケモンだ。

「そういうことならこっちも……」

 チリアはトゲチックを戻し、べつのモンスターボールを投げた。

 ボールは真横に飛んで行く。ブラッキーは、客席に現れた。

「………………」

「……わたしのなにを試したいのか知らないけど、ノーコンで不合格ってことはないわよね?」

「………………」

「ねえってば」

 

 

「もう戦えるポケモンおらんのどすわ……」

 ブラッキー同士の戦いは、チリアに軍配が上がった。

「けっこう時間かかったわね……」

 ブラッキーは頑丈なこともあり、戦いは拮抗したが、それでもチリアたちが満足に戦えたのは、先の修行の成果だろう。

「なかなかお強いどすなあ」

 つぎの舞妓が前に出る。

「あんさんにはウバメの森で助けられました。うちが方向音痴な舞妓のコウメ」

「ああ、あのときの」

 助けた──と言うが、あのときウバメの森を抜けられたのはマグマラシの嗅覚のおかげだったはずだが。

「あんさんがヤドンの井戸でロケットはんをやっつけて、困っていたガンテツはんを助けてあげはったのは、うちがこの目で見ましたえ」

 それも、自分のためだ。

 あのガンテツという職人が必要だったのだ。

「なんでもいいから……ほら、はやくやりましょう」

「ええ、もちろん。うちはポケモンで勝負させてもらいまひょ!」

 ウメコのモンスターボールから飛び出したのは、薄紫色の体毛を持つ、尾が二又に別れたポケモン。ブラッキーとおなじくイーブイの進化系のひとつ、エーフィだ。

「ブラッキー、まだいけるわよね?」

『キズぐすり』を構えるチリア。ブラッキーはエーフィを見据えたまま、力強く鳴いた。

 

 

「ほんまお強いどすなあ!」

 エーフィとの戦いはすぐに決着がついた。あくタイプとエスパータイプなのだ。タイプ相性が決定的となり、ブラッキーは楽に勝利した。

「大したものどすなあ」

 3人目の舞妓がウメコと交代した。

「あんさんにはこの場所で、ロケットはんを追い払ってもらいました。あのときはおおきにー」

「ああ、あなたがあのときの」

 この踊り場で、ロケット団に絡まれていた舞妓だ。たしかにあの場では、チリアに助けられたが──

「けどほんまはうち、強いんよ? 能ある女は爪隠す。うちが舞妓のサツキ。いざポケモンで勝負させてもらいまひょ!」

 サツキが繰り出したのは、燃えるような朱色の体毛のブースター。

「いよいよあなたたちが使うポケモンの法則性に確信を得た。ブラッキー、このまま行くわよ」

 恐らく、ブラッキーが不利なタイプは出てこない。

 

 

「うーん、あんさんもポケモン上手どすなあ」

 ブラッキーはブースターにも勝利した。『やけど』を負うこともなく、まだ体力にも余裕がある。

「見事な戦いぶりどすなあ」

 サツキが下がり、4人目の舞妓と代わる。

「あんさんには氷の上で背中を押してもらいました。草履で氷をスケートする、うちが舞妓のサクラ」

「ゾーリがコーリに、って言ってたわね」

「やめておくんなまし」

 舞妓は咳払いをする。

「あんさんが竜の穴で長老の試験に見事合格しはったのも、祠の外からちゃあんと見てましたえ」

「そんなところまで潜り込んでたの。そのときの話の内容も聞いてた?」

「? いえ、詳しくはよく聞こえまへんでしたが……でも、ライジングバッジとミニリュウを受け取りましたでしょ?」

 チリアは静かに安堵する。

 あのとき、竜の穴で長老に相談した悩みは、だれにでも聞かせられることではない。

「ではポケモンで勝負させてもらいまひょ!」

 やはり4匹目も、イーブイの進化系。針のように硬い体毛が特徴のサンダースだ。

「でんきタイプ……ってことは『まひ』に注意ね。さあ、ブラッキー」

 

 

「惜しいわあ。あとちょっとで勝てそうやったのに」

 早々に『まひ』の状態異常を喰らってしまい、バトルは接戦となった。それでもギリギリ、ブラッキーは勝利を収める。

「さあ、うちが最後どす」

 これで5人目。

「コガネの地下で見かけたあんさん、大層頼もしかったどすえ。地下でもくるくる踊りを踊る、うちが舞妓のコモモ」

「憶えてる。あのときあなたは『伝説の』という言葉を口にしてたけど、それって今回、わたしを呼び出したことに関係している?」

「はて?」

 舞妓は露骨にとぼける。

「ラジオ塔を乗っ取ろうとしたロケットはんを、見事食い止めたあんさんの大活躍はほんま惚れ惚れするほどやった。その強さ、こんどはうちに見せておくんなはれ」

「どうでもいいけどあなたたち、ロケット団のことをロケットはんって呼ぶの、ちょっと変だと思うわよ」

 ブラッキーは息を切らしているが、目からやる気の火が灯ったままだ。いつもなら交代させているところだが──

「このままブラッキーでやるわ」

 とっておきの『かいふくのくすり』を握りしめる。

「いざ、ポケモンで勝負させてもらいまひょ!」

 コモモが繰り出すのは、頭部と背中に魚のようなヒレを持つ、みずタイプのシャワーズ。

「さあもうひと踏ん張り。勝つわよ、ブラッキー!」

 

 

「お見事! どすなあ……」

 ブラッキー1匹にて、舞妓5人抜きを達成した。

「うん、お見事。よくやったわブラッキー。あとでモーモーミルクを飲ましてあげる」

 座り込んだブラッキーの背中を、チリアはなんども撫でる。

「うちらの目に間違いはおまへんでした」

 チリアに歩み寄る、舞妓の──だれだったろうか。もはや、立ち位置から名前を照らし合わせるのも億劫だ。

「あんさんこそこれを持つのに相応しいおひと……さあ、受け取ってくださいまし」

 差し出されたのは、ガラスのように透き通った鈴だった。手に取るときのチリンとした音までも、透き通って聴こえた。

「なにこれ?」

 問いの答えを得る前に、歌舞練場の扉が開かれ、幼い少女が飛び込んできた。

「おねえさん! 大きなポケモンの影がスズの塔の上に! あれはひょっとすると……」

 その報告を受け、舞妓たちはいっせいに出口のほうへと歩き出す。

「ほなチリアはん! うちらは一足先にスズの塔へ行ってますえー!」

「待て! あなたたちにはまだ訊きたいことが──」

 引き止める前に、舞妓たちは踊り場を出て行ってしまった。

「ああもう、やな感じ! なんなのよあいつら……」

 深いため息をついて、とりあえず足元のブラッキーをモンスターボールに戻す。

「とにかく、ポケモンセンターに行こっか」

 そのあと──スズの塔に行かざるを得ないのだろう。




バクフーン ♂
 おくびょうな性格

トゲチック ♂
 さみしがりな性格

アーボック ♀
 しんちょうな性格

ブラッキー ♂
 まじめな性格

ハクリュー ♀
 なまいきな性格

バルキー ♂
 ようきな性格
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