ポケットモンスターNAVY ~暴投モンスターボール~   作:サンダーゴリラ

108 / 161
レポート33 ポケモンリーグ/ライバル

「ニューラ、“でんこうせっか”!」

「バクフーン、“かえんほうしゃ”!」

 各1匹目の戦いを制したのは、タイプ相性で勝るバクフーンであった。シルバーはすぐにニューラを収めてつぎのボールを手に取る。同時にチリアもバクフーンを引っ込めた。

「ゴルバット、“あやしいひかり”!」

「トゲチック、“しんぴのまもり”!」

 すんでのところで『こんらん』状態を回避する。反撃の“げんしのちから”はゴルバットの体力を大幅に削いだ。

「負けるな、ゴルバット! “どくどくのキバ”!」

「“じんつうりき”!」

 至近距離で念動力を受けて、ゴルバットは地に落ちた。シルバーは続けて、コイルが3匹連なったような──進化した姿のレアコイルを繰り出した。

「いけない。でんきタイプ……」

「レアコイル、“ほうでん”だ!」

 電撃を浴びて、トゲチックもまた地に落ちる。

「……やはり、タイプ相性がモノを言うわね」

 チリアはつぎのモンスターボールを手にする。

「お互い、特定のタイプを得意にしているわけじゃないから、まるで後出しじゃんけんみたい。──悪態ではないわよ。こういうバトルも楽しい」

 投げたボールは、岩壁に跳ね返った。3本目の足のようにも見える大振りな尾に、頭部の天辺に尖った角を持つ格闘ポケモンのカポエラー。しばらくの修行でチリアのノーコンにも慣れており、陽気にステップを踏んでいる。

「楽しい? フン! なにをのんきなことを……」

「あんたは楽しくないの?」

「……行くぞ、レアコイル」

 レアコイルが攻撃態勢に入るや、チリアとカポエラーも息を合わせて技を発する。

「“トリプルキック”」

 カポエラーは頭部の角を軸に、コマのように回転する。

 1発、2発、3発──徐々に威力が上がる三連脚で、レアコイルの体力は大幅に失われた。

「くっ──!」

「もともとの技の威力は高くないけど、特性の『テクニシャン』で強力になってる。効果も抜群だし、いくら頑丈なレアコイルでも参るでしょ」

「まだだ! “でんじは”!」

 しかしこれは失策であった。カポエラーは、トゲチックが残した“しんぴのまもり”により『まひ』状態を免れる。

「はい、とどめ。“でんこうせっか”!」

 効果はいまひとつ──ではあるが、攻撃力が低い技の威力を上げる『テクニシャン』の特性もあり、レアコイルを『ひんし』にするには十分であった。

「そうそう、長いこと忘れてたな……これが()()()っている気分なんだ」

 少女は、おさげを指でくるくるといじる。

「自分で認めるのはシャクだけどさ。やはりバトルの間は満ち足りた感覚がある」

「よほどこれまで、くだらない人生を送ってきたんだな! ──ゴースト! “くろいまなざし”!」

 シルバーの繰り出す4匹目はゴースト。カポエラーの交代を封じる。

「しまった。カポエラーはゴーストタイプに通用する技を持ってないのに……」

「これでも楽しいか!? “シャドーボール”!」

 なすすべもなく霊気の弾を浴びて、やがてカポエラーは戦闘不能になった。

「アーボック!」

 胸の模様がゴーストを睨みつける。

「べつに、優位に立っていることが楽しいわけじゃないわよ。“へびにらみ”!」

「くっ……“シャドーボール”!」

 攻撃を受けながらもアーボックはゴーストに這い寄り、そのガス状の身体に牙を突き立てる。

「“かみくだく”!」

 大ダメージを受けるゲンガーだが、最後の力を振り絞り──

「仕方ない……“のろい”!」

 体力を犠牲に、アーボックに『のろい』の状態を与えた。

「おっと、これは“しんぴのまもり”では防げない状態変化か……ていうかそろそろ“しんぴのまもり”も時間切れね」

 アーボックを交代させれば『のろい』状態も解除される。しかし振り返ったアーボックの目は、フィールドに留まることを要求していた。

 体力が残っていない状態だからこそ、つぎに『ひんし』になっても一矢報いたいのだ。

「……わかった。じゃあ戦いなさい」

「ユンゲラー!」

 ヒゲを蓄えたエスパータイプのポケモンだ。シルバーの新しい手持ちだろう。

「アーボック、“どろばくだん”!」

 攻撃。状態異常。つぎにつなげるためにアーボックにできることは多いが、今回選択したのは、能力を下げることであった。

「鬱陶しい……“サイケこうせん”!」

 やはり、エスパータイプの技。アーボックに対しては効果抜群で、そのまま戦闘不能になる。

「よくやったわ、アーボック。──じゃあブラッキー、きみもしっかりやりなさい」

 手元から落としたモンスターボールから、黒い影が飛び出す。

「“だましうち”」

 ブラッキーの放つ攻撃はユンゲラーに効果抜群である。

「ユンゲラー、“かなしばり”だ!」

「技をひとつ封じたくらいじゃ無駄よ。“ダメおし”!」

 続く一撃で、ユンゲラーは倒れた。これでシルバーのポケモンは、残り1匹。

「そうか。ここまで来れたのは、運が良いだけじゃなさそうだな。──オーダイル!」

 青い身体のワニポケモン。チリアもブラッキーを引っ込めて、ハクリューを呼び出す。

 2体の大型のポケモンが睨み合い、やがて衝突する。

「ハクリュー、“ドラゴンダイブ”!」

「オーダイル、“こおりのキバ”!」

 凍える牙がハクリューには効果抜群だった。

「もう一発だ! “こおりのキバ”!」

「うわ」

 交代させる間もなく、オーダイルの素早い猛攻にハクリューは倒れた。思わずチリアの口角が上がる。

 残りポケモンの数から、有利なのはこちらのはずだ。しかしシルバーの戦いには一切、諦めの気配がない。不思議なことに、チリアはそんな少年の様子を嬉しく感じた。

「でもわたしたちは負けないわよ。特に、そのオーダイルにはね。──バクフーン!」

 バトルフィールドに躍り出たバクフーンは、首元から激しく炎を吹き出す。

 もはや、オーダイルは研究所から盗まれた個体である事実や、取り戻すべき、という発想はチリアのなかから消えていた。

「はっ! またそいつか。わざわざ不利なタイプを選ぶなんて、お前、楽しむばっかりで勝つ気はあるのかよ!?」

「楽しむ気も勝つ気もあるわよ。それに、もう忘れちゃった? 以前、そのオーダイルにマグマラシで勝っている」

 あれからさらにバクフーンは強くなった。みずタイプへの対策だって用意している。

「“にほんばれ”」

 以前の戦いとおなじく、太陽の輝きがみずタイプの威力を下げる。

「所詮は小細工だ! “たきのぼり”!」

 水流をまとった突撃。日差しのおかげで戦闘不能には至らないが、それでも威力は高い。恐らくもう一度喰らえば、バクフーンは倒れる。

「これが最後の攻撃かもね」

 バクフーンは一瞬、チリアと目を合わせる。いつもの臆病さはどこに行ったのか、力強い目だった。

「とどめにするよ。“ソーラービーム”!」

 背負った炎に光が集まる。

「まずい! オーダイル、“たきのぼり”──!」

「遅い」

 通常、“ソーラービーム”は技のエネルギーを溜めるのに時間を要する技だ。しかし“にほんばれ”により日差しが強いバトルフィールドにおいては、太陽光のチャージは一瞬で完了する。

「なっ……!?」

 愕然とするシルバーに構うことなく、太陽光線が発射される。接近するオーダイルに光線が繋がった。くさタイプの“ソーラービーム”は、効果抜群であった。

「楽しかったわよ。シルバー」

 

 

「……勝てなかった。全力で戦ったのに……」

 シルバーは、倒れたオーダイルをモンスターボールに収める。

「お前が持っていてオレに無いもの……あのドラゴン使いに言われたこと、なんとなくわかったかもな……」

「ワタルのこと? 『きみはポケモンへの愛と信頼が足りない』──だっけ?」

 愛。信頼。チリアはそれを陳腐な言葉と冷笑した。シルバーだってそうだ。しかしワタルが伝えたかったその言葉の意味を、果たしてシルバーはどのように解釈したのだろう。

「わたしはポケモンが好きじゃないし、どちらかというと嫌いだけど、自分の手持ちのポケモンは嫌っていない。強く、健やかにあるように注意している。──あんたもそうじゃないの?」

「………………」

「あんたに勝つことは、わたしにとって旅の目標のひとつだった。強いあんたに勝てて嬉しいよ。きっとわたしは最強のトレーナーになるからさ、シルバーももっと強くなってほしい」

「……オレは最強のトレーナーを諦めたわけじゃない」

 少年は、まっすぐと少女を見据える。

「いまのオレが勝てない理由、きっと見つけ出して強くなる。そしてお前に挑む。そのときは持てる力、すべて出して負かしてやるさ」

「うん。また戦いましょう、シルバー。つぎもわたしが勝つけどね」

 チリアは笑った。

 冷徹でもなく。妖艶でもなく。

 歳相応に少女らしく、晴れやかな笑みだった。

「……フン! せいぜい頑張るがいいさ」

 照れ隠しにとっさにチリアに背を向けて──背を向けたままで、シルバーは問う。

「お前って、なんでポケモンが嫌いなんだ?」

 ポケモンに対する感情なんてどうでもいい──と思っていたが、「嫌い」と明言しながらポケモンリーグまで到達したチリアのことが、いよいよ疑問だったのだ。

 その成績は、さすがに感情と矛盾してはいないだろうか。

「大切なひとがいたの」

「……()()?」

「ポケモンに奪われた」

 考え得る限り最悪だった理由に、シルバーはこの質問を後悔した。

 その「嫌い」の種類は、「嫌悪」を通り越して「憎悪」ではないか。そんなものを抱きながら、よく……

「……よく平気だな」

「わたしの感情やトラウマは、わたしの都合であって、バクフーンたちには関係ないもの。さっきも言ったけど、手持ちのことは嫌ってないしね。長いこと旅して付き合ってれば、不快感も無くなったわ」

 少女の強さに、シルバーは自分が恥ずかしくなった。バトルのさなか、楽しむチリアに「くだらない人生」なんて言った自分を殴りたくなるほどに。

「負けんなよ」

 せめてもの償いに、少女に聞こえないように呟いて、シルバーは目前にしたポケモンリーグから去って行った。

 

 

 セキエイ高原。

 ポケモントレーナーの頂点にして、ポケモンの最高機関、ポケモンリーグの本部。

 チリアとポケモンたちは、ようやくその荘厳な建物の門を潜った。回復施設やアイテムショップが併設されたロビーにほかのトレーナーはおらず、それでいて緊張感が漂っている。普段は緊張とは無縁な性格のチリアも、さすがに身構える。

 チャンピオンロードにもポケモントレーナーはいなかったし、シルバーも言っていたが、バッジを8つ集めてこのポケモンリーグまでたどり着くトレーナーは極めて少ないようだ。

「まー、閑散としてること。──混んでいるより遥かにマシか。挑戦者がわたしだけだというのなら、そのぶん融通が利く」

 気楽に受付を行う。リーグへの挑戦は明日となった。

 すでに日が落ちているし、チャンピオンロードを抜け、シルバーとの激闘を繰り広げ、ポケモンたちもさすがに疲弊している。

 宿泊施設として通された部屋は、さながらホテルのスイートルームであった。

 ポケモンたちと過ごして問題ないというので、さっそくチリアは6つのモンスターボールを解放する。6体のポケモンは、キレイな部屋にそれぞれが浮足立つが──

「整列」

 主人の号令に、さっと一列に並んだ。

「まずは風呂。つぎに食事。それから自由時間。やたらに部屋を汚したり、物を壊したりはしないこと。──まあ貴重な調度品なんかは置いてないし、大丈夫か」

 白い帽子と黄色いバッグを、高価そうなハンガーラックにかけた。

「さあ、全力で休むわよ」

 これまで、激戦と呼べるような戦いは幾度も繰り広げてきた。

 各ジムリーダーへの挑戦。ロケット団のアポロ。舞妓たちに、ホウオウ。そしてライバルであるシルバー。

 あしたはそのどれよりも強い相手との戦いが待っている。四天王と呼ばれる4人のトレーナー。そして「最強」として君臨するチャンピオン。

 その大戦を前にして、チリアは悩むことも緊張することもなく、ただひたすらにリラックスし、やがてキングサイズのベッドでポケモンたちと一緒に眠った。

 

 

「この入り口を入ればすぐに四天王の部屋だ! 手ごわいぞ! 入ったらもう引き返せない。準備はいいか?」

「うん」

 ポケモンリーグに到着して、翌日の午前中。

 チリアは門番のように構えた係員の問いにためらいなく頷き、扉の奥へ進んだ。

「勇気を出して飛び込んでいけ!」

 係員の激励すら、どこ吹く風だ。

「面倒な仕掛けも、前座のトレーナーもいない。ただ四天王という実力者に勝てばいい。旅の最後を飾るには、なんとも単純明快なステージね」

 ただし、その「勝つ」という結果を残すのが困難なのがポケモンリーグ。十分な修行と十分な休息、そして十分なアイテムを得ているが、この最強へと続く道を遂げることができるか、十分な自信があるとは言えない。

「ようこそポケモンリーグへ!」

 最初に部屋に待ち受けていたのは、仮面を着けた若い男であった。

「ボクの名前はイツキ。世界を旅して回り、エスパーポケモンの修行に明け暮れた。そしてようやく四天王のひとりになったんだ」

「……わたしはチリア。エスパータイプが得意なのね。それ、言っちゃっていいの?」

「いいともさ!」

 イツキは、大仰に腕を広げる。

「ボクの使うポケモンはエスパータイプを持つポケモンばかり! それを明かしてもなお、きみに勝利してみせる!」

「ふうん。自信満々なわけだ」

 それが油断に繋がってくれるならばありがたいが──さすがに四天王と呼ばれるような男が、実力に驕ることはないだろう。チリアは静かに覚悟を決める。

「ボクはもっと強くなる! ここで負けるわけにはいかない!」

「それはこっちのセリフよ。わたしだって最強を目指している」

 ローブのような翼を広げ、せいれいポケモンのネイティオが襲い掛かってくる。

 エスパータイプ相手にアーボックとカポエラーは相性が悪いため、ほかの4匹で迎え撃つ。続くルージュラ、ナッシー、ヤドランはいずれも強敵だったが、相性の良い技を駆使して勝利し──

「残り1匹でも諦めない。それがエスパーの恐ろしさ!」

 イツキの切り札を引き出した。2体目のネイティオだった。

「“あやしいかぜ”!」

 ゴーストタイプの技はブラッキーに効果いまひとつだが、追加効果で能力を下げられる。

「ひるまないよ、ブラッキー。“あくのはどう”!」

 わざマシンで覚えさせた黒い波動が、ネイティオに大きなダメージを与える。

「能力を下げられたせいかな。倒し切れないか……!」

「ゼロでなければ力は無限。まだボクは諦めないよ! “つばめがえし”!」

 迫るネイティオの翼に、ブラッキーはまっすぐに向かって行った。

「“でんこうせっか”!」

 激突し、すれ違う2体のポケモン。倒れたのは、ネイティオだった。

「……参ったよ」

 イツキは肩を落とす。

「負けたからといって、ボクのやることは変わらない。トレーナーの頂点に立つため戦い続けるだけ」

「そっか。あなたも最強を目指しているんだね」

 最強。

 という目標は、ともすれば夢物語のように聞こえるだろう。しかし最強に近いステージであるこのポケモンリーグで、その夢を笑う者はいない。

「最強の座への道のりは厳しいよ。きみはつぎに進んで、四天王のほんとうの恐さ、確かめるがいい!」




バクフーン ♂
 おくびょうな性格

トゲチック ♂
 さみしがりな性格

アーボック ♀
 しんちょうな性格

ブラッキー ♂
 まじめな性格

ハクリュー ♀
 なまいきな性格

カポエラー ♂
 ようきな性格
  1. 目次
  2. 小説情報
  3. 縦書き
  4. しおりを挟む
  5. お気に入り登録
  6. 評価
  7. 感想
  8. ここすき
  9. 誤字
  10. よみあげ
  11. 閲覧設定

▲ページの一番上に飛ぶ
X(Twitter)で読了報告
感想を書く ※感想一覧 ※ログインせずに感想を書き込みたい場合はこちら
内容
0文字 10~5000文字
感想を書き込む前に 感想を投稿する際のガイドライン に違反していないか確認して下さい。
※展開予想はネタ潰しになるだけですので、感想欄ではご遠慮ください。