ポケットモンスターNAVY ~暴投モンスターボール~   作:サンダーゴリラ

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レポート34 ポケモンリーグ/四天王戦

「……ファ、ファ、ファ! 拙者は四天王のキョウ! いまに生きる忍びよ!」

 特徴的な笑い方だな、と思った。

 笑う男は、忍び装束の男。

「さっきのイツキといい、四天王ってコスプレ好きなひとが多いのかしら」

「コスプレではない」

「男のひとって好きよね、忍者。あなたみたいな年齢にもマニアはいるんだ」

「マニアではない」

 キョウは顔をしかめつつ、モンスターボールを構える。

「とにかく、勝負といこう。拙者の戦い方、一筋縄ではいかんぞ! 相手を惑わせ毒を喰らわせる……まさに変幻自在、妖しの技よ!」

「毒……か」

 アーボックを通じて、どくタイプの恐ろしさは知っているつもりだ。状態異常はチリアも多用している。

「四天王だから当然だけど、楽な戦いじゃなさそうね」

「……ファ、ファ、ファ! 力だけでは及ばないポケモンの奥深さ、たっぷりと味わうがよい!」

 アリアドス、モルフォン、フォレトスといったむしタイプのポケモンはバクフーンで対処できたが、バトルのなかでやはり『どく』の状態異常を喰らってしまう。

「アーボック、“あなをほる”」

 唯一、どくタイプであるがゆえに『どく』状態にならないアーボックにてベトベトンを倒す。

「ようやくあと1匹……!」

「あと1匹? ファ、ファ、ファ。最初からこいつを頼りにしていたのさ! クロバット!」

 飛び出したのは四枚羽のこうもりポケモン。ゴルバットがさらに進化した姿だ。

「まずは“かげぶんしん”!」

「“こおりのキバ”!」

 効果抜群を期待したアーボックの牙だが、食らいついたのは残像だった。

「続いて“つばさでうつ”!」

 前の戦いのダメージもあり、翼の一撃でアーボックは倒れた。チリアは即座にアーボックを納めて、つぎのボールを投げる。

 真後ろに飛んで行ったが、トゲチックは空中で身をひるがえし、バトルフィールドに降り立った。

「む……おぬし、投擲が不得手なのか」

「ほっといて」

「あの小童といい──まあよい。クロバット、”どくどくのキバ”!」

「“げんしのちから”!」

 ひこうタイプを持つクロバットに、“げんしのちから”の威力は大きい。

「うーぬぬぬ……“かげぶんしん”!」

「よく狙いなさい! “じんつうりき”!」

 放たれた念動力は、高速で飛ぶクロバットを確実に捉えた。体力が尽き、クロバットは地に落ちる。

「おお! おぬし、やりおるな!」

 敗北が決まったというのに悔しがる様子もなく、キョウは頬を緩めて感心した。

「なんで嬉しそうなのよ」

「嬉しいというわけでは……まあ、若者の躍進は喜ばしいものだ。それに、拙者は持てるすべてを出し尽くした。それで敵わぬなら、さらに精進するだけよ」

 先ほど戦ったイツキもそうだったが、キョウにも、より強くなろうとする向上心がある。彼らにとって四天王の立場は、到達点ではなく通過点なのだろう。

「おぬし! つぎの部屋に進み、自分の実力、試すがよい!」

 

 

 第三の部屋には、上半身が裸の道着姿の男が、胡坐を組んで座っていた。

「おれは四天王のシバ!」

 かくとうポケモンを使うのだな、と確信した。

「わたしはチリア」

「おれは自分たちが持っている可能性を信じて、いつも限界まで鍛えている。そうして強くなったおれたちに敵うと思うか?」

「思うわよ。わたしだって、わたしと、わたしのポケモンを信じている」

「ほう、恐れはなさそうだな 」

 シバは立ち上がる。

「良い顔をしてる。それでこそ戦うに相応しい」

「そうでしょ。顔の良さにも自信があるほうよ」

「………………」

 シバは首を傾げた。彼がなにに違和感を覚えたのか、チリアにはわからなかった。

「まあいい! いくぞ! チリアとやら。おれたちのハイパーパワー、受けてみるがいい!」

「はいっ……!?」

 横文字が飛び出すのは意外だった。

「ウー!  ハーッ!」

 シバはモンスターボールを投げた。独特な掛け声だな、と思いつつも、チリアはカポエラーを繰り出した。偶然にも、シバの1匹目もカポエラーであった。

「「トリプルキック!!」」

 バトルフィールドに計6発のキックが舞う。おなじポケモン同士の戦いは、否が応でも両者のプライドを刺激する。

 しかしチリアに、かくとうタイプで意地を張り合うつもりもない。

「カポエラー、“つばめがえし”」

 効果抜群の技を持っていたチリアのカポエラーに、軍配が上がった。

 その後もエビワラー、サワムラーといった格闘ポケモンや、イワークといった大型のポケモンが飛び出すが、辛くも退ける。

「さあ、倒れた者の分まで存分に戦え!」

 最後に立ちはだかったのは、四本腕の筋骨隆々なポケモン、カイリキーだった。トゲチックで“じんつうりき”を狙うが、“いわなだれ”を受けて倒されてしまった。

「ハクリュー!」

 パワー自慢の相手には、こちらもパワーのあるポケモンで迎え撃つ。この選択が吉と出るか凶と出るか──すくなくともチリアは、「吉」を信じている。

「“ドラゴンダイブ”!」

「“クロスチョップ”!」

 クレバーな戦略はいくらでも思いつく。しかしポケモンリーグという最高峰での戦いだからこそ、力押しで勝てないようであれば、これより先では通用しない。

「ここが踏ん張りどころ! “クロスチョップ”!」

 カイリキーの攻撃が届く前に、ハクリューは“しんそく”を発動させる。細長い身体を矢のようにした突撃にて、カイリキーはついに倒れた。

「どうしたことだ! ……おれたちが負けるとは!」

 シバは膝をついて、やがてふたたび胡坐を組んだ。

「負けたおれになにも言う資格はない! つぎの部屋に進むがいい!」

「潔いのね」

 たしかに。

 いまの絶好調ともいえるチリアに、アドバイスも応援も不要であった。

 

 

「あたくし、四天王のカリン! あなたがチリアね」

 ウェーブがかかった髪の女性が、余裕のある笑みを湛えて少女を迎えた。

「ふうん、なかなか面白そうね」

 チリアの顔をまじまじと見つめるカリン。この良い顔のどこがおもしろいというのだろうか──チリアはまったくおもしろくなく、むしろ不愉快であった。

「どうも。あなたはどんなタイプの使い手? 教えたくないんならべつにいいけど」

「構わないわよ? あたくしが愛してるのはあくタイプのポケモン! なりふり構わぬ戦いを得意にしているの。どう? 素敵でしょ? あなたで相手になるかしら?」

「あくタイプのポケモンならわたしも使っているわ。なりふりは……構っているかもしれないけど」

 タイプ相性や状態異常、あらゆる戦略を考慮し戦っているチリアだが、最近はポケモンがどのように戦いたがっているか、その様子を注視するようにしている。

「あらそう。一体、どんな戦い方を見せてくれるのかしら。がんばってあたくしを楽しませてほしいものね」

「やな感じ。偉そうにさ」

 自尊心の高さ、という点では、どうやらチリアとカリンは性格が似ている。

 しかしこの場にはそれに気づくものがだれもいない。

「じゃ、始めましょ!」

 カリンがまず繰り出したのは、ブラッキー。チリアには見慣れた黒いポケモンだった。

「だったらこっちも!」

 チリアもブラッキーを使うことにする。あくタイプを得意とするカリンに対し、胸を借りるつもりで挑戦だ。

 レベルにほとんど差はない。──だからこそ防御力の高いポケモン同士、バトルは長期化する。最終的に、両者の“だましうち”が交差し、立っていたのはカリンのブラッキーだった。

「良いブラッキーだったわ。でもあたくしのほうが一枚上手だったようね」

「“かげぶんしん”に“あやしいひかり”……すっかり翻弄されてしまったけど、勉強になったわ」

 チリアは戦闘不能になったブラッキーをボールに戻す。

 シバとカポエラー同士の戦いで勝てたのは、チリア側がタイプ相性の良い技を持っていたからだ。相手の得意タイプに限った土俵ではさすがに一歩及ばぬことを、少女は痛感する。

「でも負けてたまるか。わたしだって、わたしが得意なふうに戦ってやる」

 ブラッキーは、カポエラーの格闘技で撃破する。

 その後にカリンが呼び出したのは、ラフレシアにゲンガーと、意外にもあくタイプではないポケモンだった。いずれも厄介な技を使う相手だったが、どうにか撃破する。

「アーボック、“かみなりのキバ”!」

 4匹目、ヤミカラスを倒す。これでカリンのポケモンはあと1匹だ。

「これぐらい、追い詰められたうちに入らないわ!」

 最後に繰り出されたのは、ヘルガー。ロケット団のアポロが使っていた個体を思い出したが、あのヘルガーよりもずっと強そうだ。

「さあ、ここからは攻撃的にいくわよ!  “わるだくみ”」

 特殊攻撃を上げる技だ。なるほど、明らかに攻撃を準備している。

「だったらアーボック、“どろばくだん”!」

 命中を下げるも、ヘルガーの鼻先はまっすぐにこちらを向いている。やがて“かえんほうしゃ”が発射された。

 鱗が焦げるほどの威力。『やけど』こそ免れたものの、もう一発でも攻撃を受ければアーボックは倒れるだろう。

 ふつうであれば──というか、いつもであればほかのポケモンに交代させている。チリアにはハクリューやバクフーンといった、ヘルガーに有利に戦えそうなポケモンが控えている。

 しかし。

「アーボック。きみなら勝てる」

 チリアのなかには、ヘルガーを倒すまでの筋道が描かれていた。

「あら、交代させないの? そのアーボックはたしかに立派だと思うけど、このヘルガーに勝てると思って?」

「思ってる。わたしのポケモンは最強になるの」

 ここが、正念場。カリンは越えるべき壁だ。

 アーボックは再度、“どろばくだん”を放つ。じめんタイプの技なので、そもそもヘルガーに効果は抜群だ。

「最強ねえ。でもあたくしに言わせてみれば──強いポケモン、弱いポケモン。そんなの他人の勝手」

 ヘルガーは攻撃技を“あくのはどう”を放った。しかし命中が下がった状態。わずかな照準のずれを逃さず、アーボックは爬行して黒い波動を回避する。

「ほんとうに強いトレーナーなら、好きなポケモンで勝てるようにがんばるべき」

「わたしはポケモンが好きじゃない。どちらかというと、嫌い」

 最後の攻撃。

 チリアが選択したのは、“どろばくだん”──ではなく、どくタイプの強力な技、“ヘドロばくだん”だった。

「でも自分のポケモンたちに関しては、好きよ。仲間だもの」

 ヘルガーは倒れた。

「好きなポケモンだから、あなたに勝てる」

 

 

「良いわよ、あなた。大事なことわかってるわね」

 敗北したカリンは、じつに満足気だった。

「やはり『魔女』と呼ばれるだけあって、ただ者じゃないわね」

「……魔女?」

 少女は首を傾げる。

「なにそれ? あなたのこと?」

「ええ……? いや、いいわ。気にしないで」

 チリアは自分が世間でどのようにあだ名されているのか、自覚していない。

「先に進みなさい。チャンピオンがあなたを待ってるわ」

「うん。さようなら、カリン」

 扉の先に進もうとするチリアだったが、背後の「ちょっと待って」というカリンの声に足を止めた。

 呼び捨てが気に喰わなかったのだろうか、と思ったが、どうやら違う。

「チリア。あなたはどうして、ポケモンが嫌いなの?」

「………………」

 チリアは沈黙した。その問いに、シルバーには簡単に答えたのに。

「教えたくないのならば構わないけど……」

「……じゃあ」

 少女は、いたずらっぽく冷笑した。

「教えてあげない」

「まあ、悪い子ね」

 廊下に敷かれた赤い絨毯の上を歩く。その後ろにはバクフーンがついてくる。

 これからチャンピオンとの戦いなのだ。ポケモンが嫌いになった理由──そんなトラウマを思い出している余裕はない。

 失ったこと。奪われたこと。

 絶望したこと。崩壊したこと。

 いまだけはみんな、忘れてしまおう。

「待っていたよ!」

 黒いマントの、赤髪の男がチリアを迎えた。

「ワタル。やっぱりあなたか」

 チョウジタウンでロケット団を相手に共闘した、カイリュー使いのポケモントレーナー。

「チリアちゃん! きみの実力ならいずれここまで来ることはわかっていた」

「……お久しぶり。言いたいことがいくつかあるけど」

 コガネシティのラジオ塔がロケット団に占拠されたとき、結局、来てくれなかったのかとか。

「あとででいいわ。いまはとにかく──」

「──そうだね。もはやなにも言うことはない! ただどちらが強いか戦って決めるだけ!」

 戦いに来たのだ。勝ちに来たのだ。

 このポケモンリーグとは、そういう場所だ。

「最強のトレーナーとして、リーグチャンピオンとして、ドラゴン使いのワタル。いざ参る!」

「最強のトレーナー予定、チリア。勝つ」




次回、ジョウト地方編最終回
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