ポケットモンスターNAVY ~暴投モンスターボール~ 作:サンダーゴリラ
「……ファ、ファ、ファ! 拙者は四天王のキョウ! いまに生きる忍びよ!」
特徴的な笑い方だな、と思った。
笑う男は、忍び装束の男。
「さっきのイツキといい、四天王ってコスプレ好きなひとが多いのかしら」
「コスプレではない」
「男のひとって好きよね、忍者。あなたみたいな年齢にもマニアはいるんだ」
「マニアではない」
キョウは顔をしかめつつ、モンスターボールを構える。
「とにかく、勝負といこう。拙者の戦い方、一筋縄ではいかんぞ! 相手を惑わせ毒を喰らわせる……まさに変幻自在、妖しの技よ!」
「毒……か」
アーボックを通じて、どくタイプの恐ろしさは知っているつもりだ。状態異常はチリアも多用している。
「四天王だから当然だけど、楽な戦いじゃなさそうね」
「……ファ、ファ、ファ! 力だけでは及ばないポケモンの奥深さ、たっぷりと味わうがよい!」
アリアドス、モルフォン、フォレトスといったむしタイプのポケモンはバクフーンで対処できたが、バトルのなかでやはり『どく』の状態異常を喰らってしまう。
「アーボック、“あなをほる”」
唯一、どくタイプであるがゆえに『どく』状態にならないアーボックにてベトベトンを倒す。
「ようやくあと1匹……!」
「あと1匹? ファ、ファ、ファ。最初からこいつを頼りにしていたのさ! クロバット!」
飛び出したのは四枚羽のこうもりポケモン。ゴルバットがさらに進化した姿だ。
「まずは“かげぶんしん”!」
「“こおりのキバ”!」
効果抜群を期待したアーボックの牙だが、食らいついたのは残像だった。
「続いて“つばさでうつ”!」
前の戦いのダメージもあり、翼の一撃でアーボックは倒れた。チリアは即座にアーボックを納めて、つぎのボールを投げる。
真後ろに飛んで行ったが、トゲチックは空中で身をひるがえし、バトルフィールドに降り立った。
「む……おぬし、投擲が不得手なのか」
「ほっといて」
「あの小童といい──まあよい。クロバット、”どくどくのキバ”!」
「“げんしのちから”!」
ひこうタイプを持つクロバットに、“げんしのちから”の威力は大きい。
「うーぬぬぬ……“かげぶんしん”!」
「よく狙いなさい! “じんつうりき”!」
放たれた念動力は、高速で飛ぶクロバットを確実に捉えた。体力が尽き、クロバットは地に落ちる。
「おお! おぬし、やりおるな!」
敗北が決まったというのに悔しがる様子もなく、キョウは頬を緩めて感心した。
「なんで嬉しそうなのよ」
「嬉しいというわけでは……まあ、若者の躍進は喜ばしいものだ。それに、拙者は持てるすべてを出し尽くした。それで敵わぬなら、さらに精進するだけよ」
先ほど戦ったイツキもそうだったが、キョウにも、より強くなろうとする向上心がある。彼らにとって四天王の立場は、到達点ではなく通過点なのだろう。
「おぬし! つぎの部屋に進み、自分の実力、試すがよい!」
:
第三の部屋には、上半身が裸の道着姿の男が、胡坐を組んで座っていた。
「おれは四天王のシバ!」
かくとうポケモンを使うのだな、と確信した。
「わたしはチリア」
「おれは自分たちが持っている可能性を信じて、いつも限界まで鍛えている。そうして強くなったおれたちに敵うと思うか?」
「思うわよ。わたしだって、わたしと、わたしのポケモンを信じている」
「ほう、恐れはなさそうだな 」
シバは立ち上がる。
「良い顔をしてる。それでこそ戦うに相応しい」
「そうでしょ。顔の良さにも自信があるほうよ」
「………………」
シバは首を傾げた。彼がなにに違和感を覚えたのか、チリアにはわからなかった。
「まあいい! いくぞ! チリアとやら。おれたちのハイパーパワー、受けてみるがいい!」
「はいっ……!?」
横文字が飛び出すのは意外だった。
「ウー! ハーッ!」
シバはモンスターボールを投げた。独特な掛け声だな、と思いつつも、チリアはカポエラーを繰り出した。偶然にも、シバの1匹目もカポエラーであった。
「「トリプルキック!!」」
バトルフィールドに計6発のキックが舞う。おなじポケモン同士の戦いは、否が応でも両者のプライドを刺激する。
しかしチリアに、かくとうタイプで意地を張り合うつもりもない。
「カポエラー、“つばめがえし”」
効果抜群の技を持っていたチリアのカポエラーに、軍配が上がった。
その後もエビワラー、サワムラーといった格闘ポケモンや、イワークといった大型のポケモンが飛び出すが、辛くも退ける。
「さあ、倒れた者の分まで存分に戦え!」
最後に立ちはだかったのは、四本腕の筋骨隆々なポケモン、カイリキーだった。トゲチックで“じんつうりき”を狙うが、“いわなだれ”を受けて倒されてしまった。
「ハクリュー!」
パワー自慢の相手には、こちらもパワーのあるポケモンで迎え撃つ。この選択が吉と出るか凶と出るか──すくなくともチリアは、「吉」を信じている。
「“ドラゴンダイブ”!」
「“クロスチョップ”!」
クレバーな戦略はいくらでも思いつく。しかしポケモンリーグという最高峰での戦いだからこそ、力押しで勝てないようであれば、これより先では通用しない。
「ここが踏ん張りどころ! “クロスチョップ”!」
カイリキーの攻撃が届く前に、ハクリューは“しんそく”を発動させる。細長い身体を矢のようにした突撃にて、カイリキーはついに倒れた。
「どうしたことだ! ……おれたちが負けるとは!」
シバは膝をついて、やがてふたたび胡坐を組んだ。
「負けたおれになにも言う資格はない! つぎの部屋に進むがいい!」
「潔いのね」
たしかに。
いまの絶好調ともいえるチリアに、アドバイスも応援も不要であった。
:
「あたくし、四天王のカリン! あなたがチリアね」
ウェーブがかかった髪の女性が、余裕のある笑みを湛えて少女を迎えた。
「ふうん、なかなか面白そうね」
チリアの顔をまじまじと見つめるカリン。この良い顔のどこがおもしろいというのだろうか──チリアはまったくおもしろくなく、むしろ不愉快であった。
「どうも。あなたはどんなタイプの使い手? 教えたくないんならべつにいいけど」
「構わないわよ? あたくしが愛してるのはあくタイプのポケモン! なりふり構わぬ戦いを得意にしているの。どう? 素敵でしょ? あなたで相手になるかしら?」
「あくタイプのポケモンならわたしも使っているわ。なりふりは……構っているかもしれないけど」
タイプ相性や状態異常、あらゆる戦略を考慮し戦っているチリアだが、最近はポケモンがどのように戦いたがっているか、その様子を注視するようにしている。
「あらそう。一体、どんな戦い方を見せてくれるのかしら。がんばってあたくしを楽しませてほしいものね」
「やな感じ。偉そうにさ」
自尊心の高さ、という点では、どうやらチリアとカリンは性格が似ている。
しかしこの場にはそれに気づくものがだれもいない。
「じゃ、始めましょ!」
カリンがまず繰り出したのは、ブラッキー。チリアには見慣れた黒いポケモンだった。
「だったらこっちも!」
チリアもブラッキーを使うことにする。あくタイプを得意とするカリンに対し、胸を借りるつもりで挑戦だ。
レベルにほとんど差はない。──だからこそ防御力の高いポケモン同士、バトルは長期化する。最終的に、両者の“だましうち”が交差し、立っていたのはカリンのブラッキーだった。
「良いブラッキーだったわ。でもあたくしのほうが一枚上手だったようね」
「“かげぶんしん”に“あやしいひかり”……すっかり翻弄されてしまったけど、勉強になったわ」
チリアは戦闘不能になったブラッキーをボールに戻す。
シバとカポエラー同士の戦いで勝てたのは、チリア側がタイプ相性の良い技を持っていたからだ。相手の得意タイプに限った土俵ではさすがに一歩及ばぬことを、少女は痛感する。
「でも負けてたまるか。わたしだって、わたしが得意なふうに戦ってやる」
ブラッキーは、カポエラーの格闘技で撃破する。
その後にカリンが呼び出したのは、ラフレシアにゲンガーと、意外にもあくタイプではないポケモンだった。いずれも厄介な技を使う相手だったが、どうにか撃破する。
「アーボック、“かみなりのキバ”!」
4匹目、ヤミカラスを倒す。これでカリンのポケモンはあと1匹だ。
「これぐらい、追い詰められたうちに入らないわ!」
最後に繰り出されたのは、ヘルガー。ロケット団のアポロが使っていた個体を思い出したが、あのヘルガーよりもずっと強そうだ。
「さあ、ここからは攻撃的にいくわよ! “わるだくみ”」
特殊攻撃を上げる技だ。なるほど、明らかに攻撃を準備している。
「だったらアーボック、“どろばくだん”!」
命中を下げるも、ヘルガーの鼻先はまっすぐにこちらを向いている。やがて“かえんほうしゃ”が発射された。
鱗が焦げるほどの威力。『やけど』こそ免れたものの、もう一発でも攻撃を受ければアーボックは倒れるだろう。
ふつうであれば──というか、いつもであればほかのポケモンに交代させている。チリアにはハクリューやバクフーンといった、ヘルガーに有利に戦えそうなポケモンが控えている。
しかし。
「アーボック。きみなら勝てる」
チリアのなかには、ヘルガーを倒すまでの筋道が描かれていた。
「あら、交代させないの? そのアーボックはたしかに立派だと思うけど、このヘルガーに勝てると思って?」
「思ってる。わたしのポケモンは最強になるの」
ここが、正念場。カリンは越えるべき壁だ。
アーボックは再度、“どろばくだん”を放つ。じめんタイプの技なので、そもそもヘルガーに効果は抜群だ。
「最強ねえ。でもあたくしに言わせてみれば──強いポケモン、弱いポケモン。そんなの他人の勝手」
ヘルガーは攻撃技を“あくのはどう”を放った。しかし命中が下がった状態。わずかな照準のずれを逃さず、アーボックは爬行して黒い波動を回避する。
「ほんとうに強いトレーナーなら、好きなポケモンで勝てるようにがんばるべき」
「わたしはポケモンが好きじゃない。どちらかというと、嫌い」
最後の攻撃。
チリアが選択したのは、“どろばくだん”──ではなく、どくタイプの強力な技、“ヘドロばくだん”だった。
「でも自分のポケモンたちに関しては、好きよ。仲間だもの」
ヘルガーは倒れた。
「好きなポケモンだから、あなたに勝てる」
:
「良いわよ、あなた。大事なことわかってるわね」
敗北したカリンは、じつに満足気だった。
「やはり『魔女』と呼ばれるだけあって、ただ者じゃないわね」
「……魔女?」
少女は首を傾げる。
「なにそれ? あなたのこと?」
「ええ……? いや、いいわ。気にしないで」
チリアは自分が世間でどのようにあだ名されているのか、自覚していない。
「先に進みなさい。チャンピオンがあなたを待ってるわ」
「うん。さようなら、カリン」
扉の先に進もうとするチリアだったが、背後の「ちょっと待って」というカリンの声に足を止めた。
呼び捨てが気に喰わなかったのだろうか、と思ったが、どうやら違う。
「チリア。あなたはどうして、ポケモンが嫌いなの?」
「………………」
チリアは沈黙した。その問いに、シルバーには簡単に答えたのに。
「教えたくないのならば構わないけど……」
「……じゃあ」
少女は、いたずらっぽく冷笑した。
「教えてあげない」
「まあ、悪い子ね」
廊下に敷かれた赤い絨毯の上を歩く。その後ろにはバクフーンがついてくる。
これからチャンピオンとの戦いなのだ。ポケモンが嫌いになった理由──そんなトラウマを思い出している余裕はない。
失ったこと。奪われたこと。
絶望したこと。崩壊したこと。
いまだけはみんな、忘れてしまおう。
「待っていたよ!」
黒いマントの、赤髪の男がチリアを迎えた。
「ワタル。やっぱりあなたか」
チョウジタウンでロケット団を相手に共闘した、カイリュー使いのポケモントレーナー。
「チリアちゃん! きみの実力ならいずれここまで来ることはわかっていた」
「……お久しぶり。言いたいことがいくつかあるけど」
コガネシティのラジオ塔がロケット団に占拠されたとき、結局、来てくれなかったのかとか。
「あとででいいわ。いまはとにかく──」
「──そうだね。もはやなにも言うことはない! ただどちらが強いか戦って決めるだけ!」
戦いに来たのだ。勝ちに来たのだ。
このポケモンリーグとは、そういう場所だ。
「最強のトレーナーとして、リーグチャンピオンとして、ドラゴン使いのワタル。いざ参る!」
「最強のトレーナー予定、チリア。勝つ」
次回、ジョウト地方編最終回