ポケットモンスターNAVY ~暴投モンスターボール~ 作:サンダーゴリラ
「録音するの?」
チリアは、オーキドがテーブルの上に置いたボイスレコーダーを一瞥した。
「下手な発言はできないわね」
「はっはっは! たしかに失言には気をつけてほしいところじゃが……きみほど頭の良い子なら、言葉選びは心得ているじゃろう」
「ところできょうは、あのクルミとかいう小うるさくてあざとい女はいないのね」
「いきなり不適切な表現じゃな!」
ポケモンリーグへの挑戦を終えたチリアは、もろもろの手続きの合間、『オーキド博士のポケモン講座』というラジオ番組に使われるインタビューを受けることになった。
「クルミくんはスケジュールの都合で、コガネに帰らなくてはならなくなったんじゃ。別日に振り替えてしまってもよかったのじゃが、やはり早いうちにきみの話を聞きたい。今夜は番組を代表し、わしがインタビューさせてもらうよ」
「構わないわ」
チリアは脚を組み、テーブル越しにオーキド博士と対峙する。
「なにから話せばいい?」
「聞きたい話は山ほどあるが、まずはなにより、チャンピオン・ワタルとの戦いの感想戦といこうか。試合映像は録画してあるので、ここではあえて、きみの目線で戦いを語ってほしい」
少女は『おいしいみず』をひと口飲んで、ゆっくりと試合を振り返る。
「始まってすぐ、戦況は不利だった。負けるかもと思った」
:
わたしはうしろに連れていたバクフーンを、そのままバトルフィールドに出した。
対して、ワタルの最初のポケモンはギャラドスだった。あの青龍のようなポケモン。
タイプ相性では明らかに不利。
ていうかギャラドスって、ドラゴンタイプ入ってないじゃない。──まあ、そもそもドラゴンタイプ相手にも炎は効き辛いんだけど。
「やば。バクフーン、交代!」
「おっと、いきなりかい」
ワタルは不敵に笑った。ギャラドスが水気をまとっていたから、みずタイプの技を準備していたことは明白だった。
「アーボック!」
投げたボールは腕を振った角度から90度右に飛んで行って、壁にぶつかった。アーボックは壁を這いながら地上に降り立った。
こんなのはいつものことよ。
「おお……」
なのにワタルは、どういうわけか感動した様子だった。普段、どれだけエンターテイメントに飢えているのかしら。
「じゃあ改めて──“たきのぼり”!」
さすがは攻撃の高いギャラドス。強力な一撃だった。バクフーンだったら効果抜群で一発でやられていたかもね。──アーボックはなんとか耐えた。
「アーボック、“かみなりのキバ”!」
龍に、蛇が喰らいついた。
本来、でんきタイプはアーボックの専門外だけど、みずとひこうタイプを持つギャラドスには威力が四倍にもなる。アーボックは深く、強く噛みついていた。
やがてギャラドスの巨体が沈んだ。ワタルは「ほお!」と感嘆した。さっき、わたしのノーコンを見たときとはまた違った様子の感動だった。
「素晴らしいアーボックだね! よく鍛えられている」
「そうでしょう。よく鍛えたわ」
「それほど強い『蛇』には、本物の『竜』でお相手するとしよう」
2体目にワタルが繰り出したのは、オレンジの鱗を持つこれまた大きなポケモン。
「カイリュー……もう出てくるのね」
「“ドラゴンダイブ”!」
その技は命中が高くないから、寸でのところでアーボックは回避できた。しかしさすがはカイリューといったところね。爆風のような攻撃の余波で、それがとんでもない威力であることはよくわかった。
わたしの帽子も飛んで行った。
拾いに行く余裕なんてない
「……都合の良い相手だわ。アーボック!」
わたしの言葉に、ワタルは眉をひそめた。
「なにをしてくる……? カイリュー、気をつけろ!」
「“こおりのキバ”!」
たまたま、ではない。ポケモンリーグでワタルと戦うことは予想のひとつにあった。ドラゴンタイプ──とりわけカイリューへの対策は持っている。
さっきギャラドスにもそうだったように、牙の威力は4倍。
ただ──今回は、それでノックアウトには至らなかった。
「ほんとうに、素晴らしいアーボックだ。それでもあと一歩、及ばない」
カイリューは、アーボックの冷気をまとった牙を振り払い、こんどは逆に喰らいつくように──
「“はかいこうせん”!」
光を放った。
宙に舞い、地面に落下する前にアーボックは意識を失っていた。すぐにモンスターボールに引っ込めたわ。
「……“はかいこうせん”を引き出したのは僥倖だわ。いい仕事をしてくれたわね」
つぎのボールに持ち帰る。
「ブラッキー!」
ボールは後ろに飛んで行った。
投げなきゃいいのに、ついやっちゃうのよ。
ブラッキーはついでに、さっき飛ばされたわたしの帽子を拾ってきてくれた。
「気が利くじゃん」
「きみはほんとうにノーコンなんだね」
「逆に、嘘のノーコンってなに?」
「……だれかに憧れてるとか」
「はあ? ノーコンの有名人がいるの?」
「ええと、いないわけでも……いや、余計な会話だね。バトルを続けよう」
カイリューは“はかいこうせん”の反動で動けない。まずは一手、安心して行動できるわ。こちらの手はもちろん、妨害。
「ブラッキー、“あやしいひかり”」
カイリューは混乱する。これでずいぶん、行動を制限できるわけ。
「続けて“あくのはどう”!」
一応、ブラッキーの持つあくタイプ技でもっとも威力が高い技。さっきの“こおりのキバ”が致命傷だったから、この一発でカイリューは倒れたわ。アーボックはほんとうに上手くやってくれた。
「よし……!」
「ふっ。カイリューを1体倒したくらいで喜ぶのは早いぞ! さあ、つぎはプテラだ!」
岩のような肌の、翼竜のポケモン。しかしわたしの記憶では、プテラはドラゴンタイプのポケモンではなかったはずだ。絶対そうだ。
「“いわなだれ”!」
雨のように降る岩を、ブラッキーは上手く避けた。ツイている。この流れを活かして、もう一度 “あやしいひかり”を使った。
プテラが『こんらん』になったので、
「交代! ハクリュー!」
手っ取り早く勝負を片づけられるポケモンに交代した。
「ほう! きみもドラゴンタイプのポケモンを手に入れたのかい」
「フスベのおじいちゃんから貰った」
「まさか長老……? おっと、いまはバトルに集中しなくてはね。プテラ、“いわなだれ!」
ワタルもフスベの人間なのかな。以前、イブキがワタルの名前を聞いてビビってたっけ。
「ハクリュー、“アクアテール”!」
プテラはいわタイプを持つポケモンだからね。みずタイプの“アクアテール“を二発喰らわせて、戦闘不能になった。これで3体やっつけた。ようやく折り返しだけど、気を抜く間もなかったわ。だってそのつぎにワタルが出してきたのが──
「カイリュー!」
「2体目!?」
インチキかと思った。
まあ、おなじ種類のポケモンを使っちゃいけないなんてルールは無いんだけどさ。
「あえて教えてあげよう。おれは今回、3体のカイリューを手持ちに入れている」
「………………」
インチキじゃないにしても、ちょっとズルいよね。
おさげをいじって、どうにか平静を保った。
「さあ行くぞ! カイリュー、“でんじは”だ!」
ワタルは抜け目なく、ハクリューを『まひ』の状態異常にしてきた。身体が痺れつつも、どうにかハクリューは動いてくれる。
「ハクリュー、“ドラゴンダイブ”!」
こちらの作戦は、力押し。進化先との戦いであり、相手はチャンピオンだもの。ハクリューのほうが劣っていることは認めざるを得ない。だからこそ攻めた。
「ならばこちらも、“ドラゴンダイブ”!」
竜同士の突撃。
──どう甘く見積もっても、互角とも相殺とも言えない。当然のようにハクリューは押し負けた。
「……まだ倒れないか。そのハクリューもまた、よく育てているね」
ハクリューは戦闘不能にはなっていなかった。いつ気を失ってもおかしくないような状態なのに、毅然として立つ相手のカイリューを睨みつけていた。
──なんだか他人事みたいな言い方だけど、ポケモンって、すごいのね。
「ハクリュー。この攻撃が最後になるかもしれない。でも、一矢報いるよ」
ハクリューは鳴いて応えて、痺れる身体で奮い立った。
残念ながら特性の『だっぴ』は発動しなかった。『まひ』が治ってくれればまだマシだったろうに、依然として行動できないリスクがある。
「“しんそく”!」
一矢報いる。その可能性がもっとも高いのは、先制技である“しんそく”だった。
「まさか……!?」
なぜかワタルが驚いた。しかし、その
「“はかいこうせん”!」
情け容赦なしの、“はかいこうせん”。体力がほとんどないハクリューに、強力ながらも反動で動きが封じられる技を使うなんて──よほど、確実に勝ちたかったのでしょうね。たとえば“ドラゴンダイブ”って、命中が高くないし。
「“しんそく”を使えるということは……きみはよほど長老に気に入られたらしいね」
「そういう話は後回しじゃなかったの? バトルに集中、でしょ!」
わたしはカポエラーを繰り出した。ボールは右に逸れて飛んだけど、カポエラーはコマみたいにヘッドスピンしながらフィールドに来た。
「かくとうタイプか。ひこうタイプを持つカイリューには、かなり相性が悪いはずだが……」
「現状、確実にそのカイリューを倒し得るのはカポエラーよ。まずは、“つばめがえし”!」
必中の攻撃。カイリューは“はかいこうせん”の反動で反撃ができない。
「そしてとどめの“でんこうせっか”!」
狙いどおり、着実なダメージを受けてカイリューは戦闘不能となった。
「技のわりにダメージが大きい……そうか! 特性は『テクニシャン』か!」
さすが、正解。威力が小さい技ほどダメージが大きくなる特性ね。ほんとは最大三連撃の“トリプルキック”が自慢なんだけど、かくとうタイプは分が悪いよね。
というか、そもそも今回のワタル相手にかくとうタイプは向いていなかったみたい。だってつぎのポケモンも、ひこうタイプを持っていた。
「リザードン!」
翼を持った、オレンジ色の竜──といっても、このポケモンもドラゴンタイプは持っていないはずなんだけど。
「リザードン。リザードンか……」
初めて相手にするけど、有名なポケモンだし、強いってことは知っている。
そしてこの時点で、ワタルの手持ちポケモンのすべてが明らかになった。6匹目に控えているのはカイリューその3。
で、わたしが使えるポケモンはカポエラー、ブラッキー、バクフーン。
頭のなかで、勝つまでの画を描く。
もはや攻めて、攻めて、攻めるしかない。とはいえ技を使う順序は大事だ。戦略性を忘れてはならない。
「カポエラー、そのまま戦って」
たぶん交代させたほうがいいんだろうけど──カポエラーはリザードンの強さを理解したはずなのに、陽気にステップを踏んでいる。
「“でんこうせっか”!」
まず、先制攻撃で確実にダメージを与える。
「リザードン、“エアスラッシュ”!」
「うっわ」
空気の刃で切り裂かれ、カポエラーは一撃で戦闘不能になった。
「飛行技を使ってくることは予想してたけど……それにしても、1ターン持たせてくれないか」
「わかっていると思うが、おれは最初から手加減していないよ。つぎのカイリューが出るまでもなく、このリザードンできみに勝つつもりだ」
「それはそれは」
わたしが投げたボールは、真上に飛んで行った。
そして背後で、バクフーンが顔を覗かせた。バクフーンは一瞬わたしを見上げて、すぐにリザードンに向かっていった。
「ほのおタイプ対決か。おもしろい! リザードン、“シャドークロー”!」
「バクフーン、“ふんえん”!」
迫りくるリザードンの爪を、バクフーンの首から噴き出る炎が迎え撃つ。当然ながら、受けるダメージはこちらが大きい。
「『やけど』を狙っているとすれば、無駄だよ!」
「知ってるわよ。ほのおタイプは『やけど』しない。──続けて“ふんえん”!」
正直、いまリザードンを相手にまともにダメージを与えられそうなのは、“ふんえん”くらいしかないのよね。“ソーラービーム”も“きあいだま”も効果いまひとつだ。残るひとつの技を使うタイミングを見極めなければ。
「なにを狙っているのか知らないが、容赦しないよ! “ドラゴンクロー”!」
それでもわたしは、“ふんえん”を指示し続けた。
リザードンの攻撃は強烈だったけれど、こっちの“ふんえん”だって効果いまひとつながら、着実にダメージは与えていっている。
つまり、そのときはやがて訪れた。
リザードンの“エアスラッシュ”を喰らって、バクフーンはよろめきつつも、後ろ足で立ち上がる。
首元の炎は、大きく。さらに、大きく。
「まさか……!」
ワタルはようやく気付いたみたい。そりゃそうよね。打たれて打たれて強くなるような、「気合い」は戦術として計算していない。
わたしの狙いは──
「特性『もうか』か!」
「バクフーン、“だいもんじ”!」
大の字に広がった巨大な炎が、リザードンを包み込んだ。
体力が少なくなると炎技の威力が上がる、特性『もうか』。もちろん効果はいまひとつだけど、“ふんえん”でちまちまと体力を削ったリザードンは、どうにかその一撃で地に落ちた。
「ふー……上手くいったか。いい感じよ、バクフーン」
「……運任せ、とまでではないにしても、なかなかに乾坤一擲な策じゃないか。特性を発動させる間もなく、バクフーンが倒れる可能性もあった」
「可能性の話よ。結果的にバクフーンは、わたしの期待に応えた」
大技の“だいもんじ”を最後まで取っていたのは、リザードンの体力を削り過ぎないためね。リザードンの特性もまた、『もうか』。こっちの狙いを悟らせないために、バクフーンだけが『もうか』を発動させた状態が望ましかったの。
「きみは、ポケモンを信頼しているんだね」
「信頼て……わざわざ気持ちの悪い言い回しをしなくたってさあ」
バクフーンはすこし驚いた様子でこっちを振り返った。なに、いっちょ前にショックを受けてるのよ。
「いいぞ、いいぞ! そうこなくっちゃ! それではおれの切り札を見せよう!」
なんだか勝手に昂っているワタルは、予告通りに3体目のカイリューを繰り出した。切り札というだけあって、さっき戦った2体よりもレベルが高いみたい。
わたしはわたしなりに、手持ちのポケモン6匹を最強と呼べるほどに鍛えたつもりなんだけどさ。それでもそのカイリューを見てると、最強のポケモン──そう呼べるようなポケモンがどういうものか、理解できた。
「バクフーン、“ふんえん”!」
『もうか』で威力が上がった炎がカイリューを灼く。効果いまひとつでもそこそこのダメージのはずなのに、カイリューは平気な顔をしてた。『やけど』も負わなかったし。
「さあ、力押しといこう」
悪い予感がした。
「“げきりん”!」
カイリューは、バクフーンを地面に叩きつけた。
あまりにも乱暴に。凶暴に。
とてもチャンピオンの──トレーナーの扱うポケモンとは思えない、野生的な一撃。
「“げきりん”──一定時間、ただ攻撃を続ける暴力的な技。“あばれる”という技のドラゴンタイプ版ね」
「そう。この技を使い始めたら、おれの指示は必要ない。──ふっ、チャンピオンのポケモンが使う技とは思えないだろう?」
自嘲するように笑うワタル。カイリューはつぎの獲物を求めるように、咆哮する。
「ポケモンが言うことを聞かなくなる技なんて……あなたのカイリューに対する
わたしは最後のモンスターボールのスイッチを押して、足元に落とした。出てきたブラッキーは、凶暴化したカイリューにさすがにビビっている様子だったけど、それでも果敢に向かって行った。
けなげよね。わたしだったら、絶対に嫌だ。
「“あやしいひかり”!」
まずは『こんらん』で行動を封じにかかる。“げきりん”を使ったあとは自動的に『こんらん』になるらしいけど、途中で自分自身を攻撃し、行動がストップすれば“げきりん”はキャンセルされるはず。
「『こんらん』による行動制限は、絶対ではない。『ねむり』なんかの状態異常だったらまだ、きみに勝ち筋はあったかもしれないが──」
混乱で、さらに暴れまわるカイリュー。しかしブラッキーを標的として見失うことはなく、“げきりん”による攻撃を喰らわせた。
ブラッキーの防御はかなり高いけど、やはり威力は凄まじいものだったわ。
「──“あくのはどう”!」
反撃の黒い波動は、大したダメージにはならなかったわ。だってほら、ブラッキーって防御の高さに反して、攻撃面はそうでもないからさ。
「カイリューとブラッキー。悲しいかな、そもそも両者の種族差が大きいな。相手がおれでさえなかったら、あるいは3体のカイリューを倒し切ることもできたかもしれない」
二撃目の“げきりん”がブラッキーを襲う。ここでようやく、カイリューの暴走状態が終了した。『こんらん』状態が続いているだけまだマシなんだけど、ブラッキーだって、もう一発でもなにか攻撃を喰らえば倒れてしまうだろう状態だったわ。
「──やな感じだな。あんたの勝ち誇った態度。こっちにはまだとっておきがある!」
体力が削れているのは、カイリューだっておなじだ。
「やるよ、ブラッキー──“おんがえし”!」
間違いなく、ブラッキー史上最大威力の攻撃だった。
──まあ、それが急所に当たるような都合の良い展開にはならず。
「カイリュー、“だいもんじ”……」
すぐさまワタルは反撃を試みたけど、『こんらん』状態が続いているカイリューは、わけもわからず自分を攻撃した。
ようやく運が向いてきたのか──と思ったが、甘かった。さすがチャンピオン。相手の幸運をねじ伏せるような対策を持っている。
「“おんがえし”。ノーマルタイプの技だというのに、素晴らしい威力だ。もう一撃を喰らわせれば……といったところだったのに、惜しかったね」
カイリューが、持っていた『オボンのみ』を食べた。
“おんがえし”と『こんらん』による自傷で膝をついたカイリューだったけど、木の実を食べて再度、翼を羽ばたかせた。『オボンのみ』にはわずかながら体力を回復させる効果がある。でもそのわずかで十分、アドバンテージはワタルに戻ってしまったわ。
こうもバトルを繰り返していると、ポケモンの体力の具合なんて、見ただけでわかるじゃない?
もう一回、“おんがえし”をやっても倒せないことは、明らかだった。──急所に当たるとも思えないし。
「これが最後の一手だよ、チリア」
ワタルとカイリューは、まっすぐにわたしたちを見据えていた。
カイリューの『こんらん』はもう解けているみたいだった。つぎにどんな攻撃が飛んでくるのか──経験上、“はかいこうせん”かもなと思った。
「きみのブラッキーに、カイリューを倒し切るだけの技があるかい?」
「………………」
「まさか、諦めてないよな?」
ワタルの視線は厳しい。
「諦めるくらいなら、最初から夢、見ないよな」
「うっさいわね。心配しなくても、諦めてなんかいないわよ」
夢っていう言葉も、なんだか薄っぺらくて好きじゃない。
でもわたしは、最強という
だって、まだ勝算があったもの。
「さっきも言ったけど、こっちにはまだ
「それは“おんがえし”では──まさか!」
ワタルは驚愕したけれど、口角が上がっていた。
楽しいんでしょうね。
わたしも楽しい。
「ブラッキー、“とっておき”!」
バトルのときに使う4つの技のうち、ほか3つの技を使っていないと発動できない、めんどうな攻撃技。その分、威力はすごいんだけど。
実際に使ったのは初めてだったわ。
だから、ブラッキー史上最大威力の攻撃ってのは、すぐに更新された。
「……ふう」
カイリューが戦闘不能になって、ワタルは清々しい表情でため息をついた。
「強くなったね、チリアちゃん」
:
「これでバトルは終わり。それからワタルは、『ほんとうに強くなったよ。トレーナーのきみが正しくて強い心を持てば、ポケモンもそれに応えてくれる。そうしてトレーナーもポケモンも、どんどん強くなっていくんだ……』って言ったあたりで、あなたとクルミが来たわ」
インタビューは二時間にも及んだ。驚異的な記憶力のチリアがバトルを詳細に語り、その間、オーキド博士が黙っているわけもなく、合間にいくつもの質問を織り交ぜた。長時間の対談に関わらず、少女と老人に疲労の様子はなかった。
とはいえ。
「よし、もうこんなところでいいじゃろう。どうもありがとう」
オーキドは、ボイスレコーダーの電源を切った。
「録音した分、どれくらい使うの?」
「さて、構成次第じゃが……恐らくパートに分けて、合計20分あるかないかくらいかのう」
「だいぶカットするわね。まあ、悪質な編集さえしなければいいんだけどさ」
「するわけなかろう」と肩をすくめるオーキド博士をよそに、チリアはポケギアに目を落とす。
「けっこう夜遅いわね。おじいちゃん、もう眠いんじゃないの?」
「なんのまだまだ! ──と言いたいところじゃが、こうも長く部屋を借りていては迷惑じゃろう。きみとはまだ話したいことがあるが、さすがに日を改めるとしよう」
チリアは立ち上がって、大きく背伸びをした。時間を意識した途端、じわじわと身体が疲労を自覚し始めてくる。
「最後にひとつだけ、質問をさせてくれ」
背伸びをする少女を、オーキドはじっと見つめる。ボイスレコーダーはオフのままだ。インタビューとは異なる雰囲気の問いであった。
「きみはいまでも、ポケモンが嫌いかね?」
──わたしはポケモンが好きじゃない。むしろ嫌い。
彼女のその言葉が、ポケモンを愛し、ポケモンを究めてきたオーキドにとっては理解しがたく──同時に、理解する必要のある言葉だったのだ。
「うん。嫌いは嫌いよ」
少女は、こともなげに頷いた。
「でも、自分のポケモンは好き寄り。仲間だし」
「そうか」
「どうやらわたし、ポケモンバトルは好きみたい。やってて楽しい」
「そうか」
この旅を通じて、チリアは劇的に変化することはなかったのかもしれないが、すくなくとも旅で得たものたしかにあったようだ。
ならば良い。
自分がチリアに「旅」という苦痛を背負わせてしまったのではないか──そんなオーキドの懸念は、杞憂だったようだ。
「……期待した答えじゃなかった?」
「いやあ、まあ……」
とはいえ、ポケモンを好きになってくれていればベストだったわけで。
「……的外れ、というほどでもないかな」
「ならば十分ね。わたしは天才だけどノーコンだから、いつも的には当たらない」
そんな冗談とともに、少女は妖しく笑った。
『ポケモンを愛するあなたにお届け! オーキド博士のポケモン講座! また次回、お楽しみくださいー』
『みんなもポケモン、ゲットじゃぞー!』