ポケットモンスターNAVY ~暴投モンスターボール~   作:サンダーゴリラ

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ジョウト地方→カントー地方
レポート36 クチバシティ/ゴー・イースト


「そろそろカントー地方に着くかしら」

 高速船アクア号。

 その船内、用意された専用の客室にて、チリアはパソコンを操作していた。ベッドではカポエラーがくつろいでいる。

 ジョウト地方のアサギシティと、カントー地方のクチバシティを航行する連絡船だ。ふたつの街の間の海里は非常に長いが、飛ぶように進む高速船のスピードは、二時間足らずでその距離を縮める。

「こんどはリニアも開通するらしいし、ジョウトとカントーもかなり行き来しやすくなるでしょうね。……それにしても」

 パソコンのディスプレイに移っているのは、カントー地方の各地の情報である。

「このわたしがカントー地方に行くことになるなんてね。ほんのすこし前まで、行動範囲がワカバとヨシノくらいだったのに」

 

 

 二日前に遡る。

「それで、チャンピオンには就任してくれるのかい?」

 フスベシティ。

 竜の穴への入り口を背にした池のほとり。ワタルは世間話もそこそこに、早々に本題に入った。

「就任しなくてもいいの?」

 池ではアーボックとハクリューが遊んでいる。ワタルの物言いに、チリアは意外そうに彼を見上げた。

「『殿堂入り』というかたちで名を残すだけ、という選択肢もあるんだが……できればチャンピオンになってほしいな。きみより以前に──去年の話なんだけどさ」

 ため息交じりに語るワタル。まるで愚痴のようだった。

「殿堂入りを果たしたあるふたりのトレーナーがいるんだが、そのどちらも就任を辞退して……正確には、ひとりは一時的にチャンピオンになってくれたが、結局は辞めてしまってね。とにかく、いつまでも王座に穴を空けるのは体裁が悪い、ということで当時四天王だったおれが、チャンピオンに繰り上がることになったんだ」

「あなた、嫌々チャンピオンをやってるのかよ」

 世界中のポケモントレーナーが憧れるリーグチャンピオンというのは、意外と敬遠されているようだ。

「そんなにめんどくさいのなら、わたしもやめとこうかな」

「そんなこと言わないでくれ……」

「ちょっとチリア!」

 突然、洞窟からイブキが顔を覗かせた。

「ワタル兄さまに迷惑をかけるんじゃないわよ! あと敬語を使いなさい! わたしにもよ!」

「イブキ、お前は引っ込んでいなさい」

「しかし……!」

「お前はいまは修練の時間のはずだ。聞き耳を立てるんじゃない!」

「………………はい」

 すごすごと、イブキは竜の穴に戻って行った。チリアは思わず吹き出す。

「イブキっておもしろいよね」

「才能はあるのに、どうにも未熟な従兄妹だ……」

 ワタルは呆れた様子で、頭を掻く。

「で、チャンピオンになるかどうかだけど……すぐ決めるつもりはないわよ。いまの話を聞いて確信した。わたしはまだ、最強じゃないわ」

「………………」

 なんとなく、ワタルには少女の言わんとしていることが分かった。

「ジムリーダー。四天王。そしてあなたというチャンピオンは、わたしが戦った時点で本気の手持ちじゃなかったわよね」

「……本気じゃない、と言えば語弊がある。おれを含めてジムリーダーと四天王は、どんなポケモンでも愛情を持って、本気で育てている」

「天才のわたしに屁理屈が通用すると思うな。あなたたちにはみんな、もっと強い手持ちポケモンを持っていたはずだ。ワタルもさ、ほんとはもっとカイリューがいるんじゃないの? ほかの地方のドラゴンポケモンとかさ」

 チリアは意地の悪い妖艶な目でワタルを見上げる。ワタルは目を合わせなかった。

「……だれもがみんな、ポケモンを含めて全力全開で戦っていては、ポケモンリーグそのものが成立しなくなる。挑戦者の水準に合わせた、制限が必要なんだ」

「やっぱりね。そんな世界でチャンピオンになっても、最強だなんて名乗れないわ」

 殿堂入りという成績を修めたせいだろうか。チリアは自分のなかで、徐々にモチベーションが小さくなっていくのを感じた。

 もう、いいだろうか。

 最強などという目標(ゆめ)は、諦めていいだろうか。

「……まだある」

 つぶやくようなワタルの声が、チリアの「諦め」に待ったをかけた。

「まだ、ポケモンリーグがきみに与えられるバトルがある。仮にきみがそれを成し遂げられれば、おれたちはきみを最強と呼ぶだろう」

「なにをすればいい? だれに勝てばいい?」

 水面に映る少女は、妖しい笑みを浮かべていた。

「シロガネ山。一般のトレーナーには封鎖されている、チャンピオンロードよりも過酷なダンジョンだ。そこには、『怪物』がいるんだ」

「怪物?」

 

 

「シロガネ山への入山資格は、ジムバッジを16個以上取得していること、なんだってさ。だからカントー地方に追加で8つのバッジを取りに行こうと思う。というわけで」

 チリアは、ウツギ博士に手を差し出した。

「船のチケット、ちょうだい」

「……えーと」

 ウツギ研究所。

 久しぶりに研究所を訪れるなり、持ち物をねだってくるチリアに、ウツギは困惑する。

「持ってるでしょ。アサギ・クチバ間の航行する高速船のチケット」

「たしかに持ってるけど……よく知ってたね?」

「この研究所に存在する物品で、わたしが把握していないものはないわ」

「でもぼく、研究のことでまたカントーに行くことが……」

「ないでしょ。研修と交流会は前期で終了したし、カントーの研究者とはメールでやり取りしてるじゃない。オーキド博士もラジオ収録で頻繁にジョウトに来てるから、わざわざウツギ博士がカントーに行く機会は、ないわ」

 ない、とあまりにも大胆に言い切られ、ウツギは閉口してしまった。

「チケットの期限が切れる前に、わたしが使っておいてあげるわ」

「……いいよ、わかった! そういえばあと何ヶ月かで期限切れだったし!」

 ウツギは潔く諦めて、デスクの引き出しから回数券を取り、少女に差し出した。

「ホウオウとか舞妓さんの件できみに不愉快な思いをさせたようだし、マスターボールも返してもらっちゃったし! そういえばポケモンリーグ制覇のお祝いだってまだだった!」

「強引に自分を納得させようとしているわね」

 それらの「借り」はチリアにとってはどうでもいいことだったが、このチケットで清算できたと思っているなら、それは大きな間違いだった。

 チリアは今後もウツギ博士に要求をするし、それを呑ませる自信がある。

「カントーに行ってもレポート提出は続けたほうがいい? これまで35項を提出したけど」

「あ、ぜひ続けてほしいな。あれはとても研究材料になるし、きみのポケモンたちがどんなふうに育っていくのか、すごく興味がある」

「最強に育つわよ。『怪物』っていうのをやっつけてね」

 

 

『高速船アクア号は、クチバ港に到着しました!』

 船が停まってアナウンスが鳴ったので、チリアたちはほかの乗客とともにアクア号を降りた。

「カントー地方……ポケモンリーグへの挑戦に訪れたくらいで、こういうちゃんとした街は初めてね。まあ、ひとの暮らす街なんて、どこもそんなに変わらないだろうけど……」

 人混みを避けて、のんびりと船を出た少女の前に。

「あ」

 スイクンが現れた。

 すでにほかの乗客は通り過ぎた。桟橋にはチリアとスイクンのふたりきり──否。背後でステップを踏んでいるカポエラー加えれば、ひとりと2体きり。

「……やる気?」

 カポエラーに合図をしようとしたが。

 スイクンはぴくっとなにかに反応したと思うと、そのまま突発的に駆け出した。

 チリアに突撃する──わけでもなく、すぐ横を通り過ぎて、海上を走り去っていく。

「惜しかったな! ここで待ち伏せていれば、スイクンを挟み撃ちにできると思ったのだが……水の上を走って行かれたら手の出しようがない……」

 帽子が飛ばないように押さえるチリアの前に、こんどはマントの男は現れた。

「やっぱりミナキか。あなた、神出鬼没ね」

「しかしこうしてスイクンを追いかけ続けているおかげで、かなりスイクンの行動が読めるようになってきたぜ!」

 さすがはスイクンのために旅をしている男。頭のなかもスイクンのことでいっぱいのようだ。チリアに話しているはずなのに、目線はもう見えないスイクンを追いかけている。

「スイクンは水のあるところに現れる!」

「そしてミナキはスイクンのいるところに現れる」

「ということは恐らく……」

 考え込んだと思った途端、はっと顔を上げた。

「悪いなチリア! 先に行かせてもらうぜ!」

 なにを思いついたのか、踵を返して桟橋から去って行った。

「……どいつもこいつも、なんなのかしらね」

 カポエラーはチリアと一緒に、首を傾げた。

 

 

────

 ここはクチバシティ。

 夕焼け色の港町。

────

 

 そのとおりの色に染まった夕方の時間帯。チリアはポケモンセンターに行く前に、さっそくクチバジムに挑むことにした。

 アクア号の船内では、暇を持て余したトレーナーとバトルをしたのでウォーミングアップは済んでいる。

『クチバシティポケモンジム。リーダー、マチス。イナズマ・アメリカン!』

「でんきタイプを使うのかしら」

 看板を一瞥してクチバジムに足を踏み入れるチリアに、

「おーす! 未来のレジェンド!」

 ジョウトのポケモンジムにいたいつもの男が、快活に話しかけた。

「あんたも神出鬼没かよ」

「まずはポケモンリーグ制覇、おめでとうだな! そしてここにいるということは、カントーでもジムバッジを集めるということなんだろ!? そして……」

 男は急に声のトーンを落とし、耳打ちするようにチリアに囁く。

「バッジを16個集めたあかつきには、『シロガネ山の怪物』に挑むんだよな……?」

「知ってるの?」

 ワタルは、シロガネ山にいるという『怪物』に関して、そのキーワード以外のことを教えてくれなかった。つまり『怪物』の正体は、ポケモンなのか、ポケモントレーナーなのか、それすらチリアは情報を得ていないのだ。

「いや、おれもそういう存在がいるっていうことしか知らん!」

「ほんっと役に立たないわねあなた」

「そんなひどい……」

 さっそくジムチャレンジを開始するチリア。ジムトレーナー3人を早々と倒すものの、問題はジムの仕掛けだった。

 ジムリーダー、マチスのもとに行くには、ジム内にある無数のゴミ箱のなかから、正解のスイッチを二連続で押さなければならない。

「ゴミ箱を探らせるとか、どういう神経しているのよ……」

 ゴミ自体はイミテーションだということは見てわかるものの、嫌悪感を拭いきれない。チリアは顔をしかめながらもスイッチを押した。

『第1ロックが解除されました』

 そして隣のゴミ箱のスイッチを。

『第1ロックが作動しました』

「………………」

 一時間後。

 ようやくバリアが解除され、チリアは金髪にサングラスの男、マチスの部屋を訪れた。

「ふざけた仕掛けを作ってんじゃないわよ!!」

「オー……いきなりクレーム?」

 運任せの仕掛けを解除するのに長時間かかってしまい、少女は怒り心頭に発していた。

「まーまー、落ち着いてよ! こんなに時間がかかるなんて、ミーだって予想外デース! ハハハ! そういや去年、あのキッドは2時間くらいかかったっけ?」

「まさかバトルを始めるまでに夜になるなんて思わなかったわ……早くやりましょう。ぼこぼこにねじ伏せてやるわ」

「ヒュー! 迫力満点だね、ガール!」

 マチスはサングラスを外し、鋭い眼光をチリアに向ける。

「でも、ミーに戦いを挑むなんてユーは身のほど知らず! ミーのエレクトリックポケモン、ナンバーワンねー! 戦場じゃ負けたことアリマセーン!!」

「戦場、ね……」

 ジムトレーナーたちが、マチスのことを「少佐」と呼んでいたことを思い出す。

「ユーも敵のソルジャーみたく、びりびりシビレさせるよ!」

「元軍人さんってわけね。どんな戦い方をするのかしら」

 チリアの背後から、アーボックが躍り出る。

「とにかくカントージムリーダーの実力、見せてもらいましょう」




バクフーン ♂
 おくびょうな性格

トゲチック ♂
 さみしがりな性格

アーボック ♀
 しんちょうな性格

ブラッキー ♂
 まじめな性格

ハクリュー ♀
 なまいきな性格

カポエラー ♂
 ようきな性格
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