ポケットモンスターNAVY ~暴投モンスターボール~ 作:サンダーゴリラ
「なるほど……ね」
フーディンをモンスターボールに収め、ナツメは疲れた様子でため息をついた。
「この強さ……予測以上だわ……。完全な未来予知はできないのかも……」
「未来予知なんて、無くなって構わないでしょ。予測ならば情報さえあれば容易いわ」
「……あなたは頭が良いのね」
「そうよ」
まったく謙遜しない少女に、思わずナツメは吹き出す。
「わかったわ、わたしのゴールドバッジをあなたに差し上げましょう」
真円のバッジを受け取った。
「ところでナツメ」
金に輝くバッジを照明に照らしながら、ふと疑問を投げかけた。
「なんでリニアは動いてないの?」
「ああ、その件ね……。ロケット団の残党に、発電所から機械の部品が盗まれたのよ」
なんでもないことのようにナツメは語る。
「えらいことじゃない」
ロケット団の面倒さは身を持って知っている。カントー地方だって、1年前に大きな被害を受けたはずだ。しかしナツメは能天気という様子でもなく。
「大丈夫よ。あしたには解決するわ」
「……それって未来予知? 信用できるの?」
「できるわ」とナツメはたしかに頷いた。
「
「……どの子?」
「わたしの、大切な友だち。これに関しては予知なんか関係ないわね……あの子がカントー地方に帰って来ているんだもの。ならばこの地に悪は栄えないわ」
晴れやかに語るナツメは、非常に嬉しそうに見えた。その人物のことをよほど信頼しているのだろう。
「どこかあなたにも似てるわ、チリア。いつかあの子と出会ったら、きっといい友達に慣れるんじゃないかしら」
「勝手なこと予知をしないでよ。友だちは自分で選ぶわ。それに──そんな正義の味方みたいな奇人とは、気が合いそうもない」
つぎの日。
ナツメの言うとおり、リニアは復旧していた。新聞には発電機が盗まれたという話も、ロケット団の話も載っていなかった。果たして、ナツメが言っていた「あの子」が活躍したのはどうか定かではないが、チリアにとってはどうでもいいことだ。
この日──この日以降も、チリアはリニアを使わなかった。
より良い翼を手に入れたからだ。
:
ヤマブキシティからさらに北上した5番道路の道中で。
「おー……」
チリアとほか5匹の手持ちのポケモンは、震えるハクリューを見守っていた。
やがて発行したハクリューの身体は、膨張し、シルエットを変えていく。
手。足。そして翼。
やがてそこに現れたのは、山吹色の鱗を持った、ワタルとの戦いで見慣れたポケモン。カイリューであった。
「おー」
軽く拍手をするチリア。ほかのポケモンたちも、歓声のような鳴き声を上げてカイリューの周囲に群がる。
「ヤマブキジムでの戦いが良い経験になったのかな。ここまでずいぶん長かったわね」
カイリューは手足と翼に慣れないようであるものの、立ち上がらんばかりに身体を伸ばしたアーボックを、得意げにその腕で抱き上げた。
アーボックも教育係として嬉しいのだ。
しかしカイリューは、至近距離に迫ったアーボックの胸の模様がやはり恐ろしかったのか、すぐに降ろした。
「カイリューか……全体的にスペックが高い。攻撃力もずば抜けている。いよいよエースを任せられるわね。どういう技を覚えさせようかしら。──とりあえず“そらをとぶ”かな。トゲチック、航空担当は代わってもらうからね」
その宣告に、トゲチックは悲しそうに鳴いた。
「べつにいいでしょ。きみは身体が小さいんだし……その代わり、なんか強い技を覚えさせてあげる。“はかいこうせん”とかさ」
さておき、飛行訓練もそこそこに、チリアはさっそくカイリューの“そらをとぶ”で、ポケモンリーグを飛び越えてジョウト地方へ帰還した。
カイリューの最高飛行速度は、マッハ2。
まさかその速度で飛行するわけもないが、カイリューの広い背中の乗り心地に反して、スピードの圧力が苦しく、チリアは帽子が飛ばないように押さえるのに必死だった。
「もうちょっと優しく飛びなさいよ」
地上に降り立って、カイリューを小突いてクレームを入れた。
到着地は、故郷のワカバタウン──ではなく、フスベシティだ。
「もしもし、イブキ? いまフスベに着いたから、ポケモンセンターまで来てよ」
ポケギアでイブキを呼び出す。
「来たわよ。なんなのよ……」
そしてカイリューを見せびらかした。
「どんなもんよ」
「へー! よく進化させたわね。かなりのレベルが必要なのに、やるじゃない。でもまだまだ……」
「それじゃあね」
チリアはカイリューの背中に乗る。
「ええ!? なにしに来たの!?」
「なにって……見せに来たんだけど」
ミニリュウの時代、「様子を見せに来なさい」と言ったのはイブキだ。だからチリアは、カイリューに進化した報告に飛んで来たのだ。
「いまわたし、カントーでジムチャレンジしてるからさ、忙しいんだ」
「急に呼び出したのはあなたでしょ!? わたしだって、わざわざ修行を中断して来たのに!」
「それはどうもありがとう。やっぱりイブキは優しいね」
「感謝さえすれば許されると思わないでよ!? あと呼び捨てにするな! ──あ、ちょっと待ちなさいよ! 飛ぶな! お、おーい……」
:
────
ここはハナダシティ。
花咲く水の街。
────
ハナダジムを訪れるものの、ジムリーダーのカスミという女性は不在らしい。
「せっかくあのジム男がいないと思ったら、そういうことか……」
ならばこのハナダジムへのチャレンジは後回しにしてもいいのだが、いまはトレーナーとの戦いでカイリューの力を試したい気分だ。
というわけでチリアは、ハナダシティからさらに北上し、25番道路を目指した。そこから先はどの街にもつながっていない行き止まりなのだが、修行場として有名なのか、ポケモントレーナーが集まっているらしい。
通称、ハナダの岬。
ゴールデンボールブリッジという橋を渡った先で、おあつらえ向きに複数のトレーナーと連戦するイベント、「6人抜き」が催されていた。
「カイリュー、“そらをとぶ”」
天空からの急転直下の一撃が、エリートトレーナーの使うカメールを戦闘不能にした。
「素晴らしい戦いだった! きみときみのポケモンたちは、ほんとうに強い!」
どういうわけか合計8人と戦ったものの、とにかく「6人抜き」を達成した。景品は『きんのたま』だった。
「これ売るとけっこうお金になるのよね。まあそれよりも、カイリューが戦いに慣れてくれたことが大きな成果ね」
カイリューは誇らしそうに胸を張った。
ハクリューから体型が急変し、当初はぎこちない動きをしていたが、さすがに8人のトレーナーとの連戦で身体の動かし方を心得たようだ。
「ああ、もうこんな時間なんだ」
岬の高台から夕陽が見えた。
良い景色──と感じ入るような能天気さは、チリアにはない。代わりに少女の目に入ったのは、寄り添い合う男女一組のカップルだった。
「ふーん、こういうところがデートスポットになるのね」
なにげないチリアのつぶやきに、びくっとカップルの男の肩が震える。
この場にだれかが来訪することが、よほど都合が悪かったのだろうか。男は相手の女性を残し、岬から走り去っていった。
「…………?」
「もう! なによいきなり現れてっ!」
鼻息荒く怒る女性は、チリアに迫る。
「あんたのことなんていうか知ってる!? オジャマムシっていうのよ!」
「……なるほど。事情はよくわかんないけど、状況はよくわかった」
逢引きの場を見られて逃げるような男と付き合って、彼女も不憫だ──と思うチリアだが、そんな第三者の意見はいまは関係ない。
「ごめんなさい」
自分がデートの邪魔になったのはたしかなので、素直に頭を下げて謝った。
そんなチリアの態度に、女性の怒りはすっかり収まってしまったようで、彼女は居心地が悪そうに腕を組んだ。
「……まあ反省しているならいいけど……あんた、トレーナーよね」
チリアの背後でバクフーンがおろおろしているので、一目瞭然だ。
「ジムバッジは持ってる?」
「持ってるわ。ほら」
バッジケースを開いて見せる。そこには合計10のバッジが輝いていた。
「うわいっぱい……あら? あんたのバッジって、もしかしてほとんどジョウトのジムバッジ? 8つ揃ってるってことは、けっこうやるみたいね……!」
女性は好戦的ににやりと笑う。
「いいわ! ハナダのジムに来なさいよ! 相手をしてあげるから!」
「あなたが?」とチリアが尋ねる前に、彼女は颯爽と踵を返し、名乗った。
「あたしはカスミ! ハナダのジムリーダーよ!」
:
『ハナダシティポケモンジム。リーダー、カスミ。おてんば人魚』
「軍人、超能力者ときて、人魚か。カントーのジムリーダーはキャラが濃いわね」
翌日、チリアは再度ハナダジムを訪れた。きょうはカスミも、ジムトレーナーたちも準備して待っている。
「おーす! 未来のレジェンド! カスミたちがいないもんだから、オレも遊びに行ってたんだ! なははははっ!」
この男もいた。「いなくていいのに」という言葉をぐっと呑み込んだ。
巨大なプールの周囲に、数人のジムトレーナー。シンプルな造りなだけに、目指すべきカスミの姿もはっきりと見えている。白い競泳水着にラッシュパーカーを羽織った、プールサイドに相応しい格好であった。
「来たわねオジャマムシ!」
最低限、ジムトレーナーとの戦いを済ませて、チリアはカスミの前にたどり着いた。
「オジャマムシじゃない。名前はチリア。──ところできのうは定休日とか?」
「そんなわけじゃないけど……一昨日、ロケット団の残党が盗品をこのジムに隠したらしくてさ」
「ああ、リニアの──というか、発電機の部品だっけ?」
「そうそう。その事後調査とかで、一旦お休みにしたの。……だから久しぶりのデートだったのに……!」
「ごめんて」
怒りに震えるカスミとは裏腹に、チリアは水面のようにクールだ。
「ジョウトのジムバッジをたくさん持ってるみたいだけど、舐めてもらっちゃ困るわ! あたしのみずタイプのポケモンは、強いわよっ!」
カスミの繰り出す1体目は、精悍な顔つきの青いポケモン、ゴルダック。チリアは先鋒をトゲチックに任せた。
「ゴルダック、“みずのはどう”!」
「トゲチック、“でんげきは”!」
クチバジムで貰ったわざマシンにより覚えた“でんげきは”。必中の電撃を放つ技だ。トゲチックがでんきタイプでないこともあり、あまり威力は大きくないが、ゴルダックを追い詰めるには十分だった。
「やはりみずタイプには対策しているようね!」
3発目の“でんげきは”でゴルダックは倒れた。カスミのつぎのポケモンは──
「ヌオー!」
じめんタイプを持つポケモンだ。気の抜けた顔だが、緩慢な動きながらもトゲチックから目を離していない。
「電気技は効かないわね。だったらふつうに攻めるか……“じんつうりき”!」
「甘いわ! “あまごい”!」
天井を黒雲が覆い、バトルフィールドに雨を降らせる。
「さあ攻めるわよ! “みずのはどう”!」
続くみずタイプの技に、トゲチックは戦闘不能になった。ゴルダックの“みずのはどう”より威力が高かったのは、ポケモンの能力というより、“あまごい”による雨状態であることが大きい。
「天気、このままじゃ不利ね。バクフーン!」
雨天の下で、バクフーンは元気ではなさそうだ。
「“にほんばれ”」
しかし小太陽を昇らせて天候を晴れに上書きする。これでみずタイプの威力も軽減されるはずだ。
「惜しいわね! ヌオーのタイプは失念していたかしら? この子はじめんタイプも得意なのよ!」
ヌオーは四つん這いになる。
「“じしん”!」
揺れるハナダジム。バトルフィールドの亀裂がバクフーンを襲う。効果は抜群だが──
「失念していなんかいないわ。大ダメージは覚悟していた。そして、バクフーンは一撃では倒れないと知ってた」
体力の限界が近いが、耐えるバクフーン。
「そしてこちらには、ヌオーを一撃で倒せる技の用意がある」
バクフーンは一瞬で、太陽光のチャージを完了させた。
「“ソーラービーム”!」
くさタイプの光線は、みずとじめんタイプもヌオーに4倍もの威力を発揮した。
「挑戦者と思って甘く見ないで。バッジの数で実力を測っているなら大間違い。わたしはポケモンリーグを乗り越えて、この地方に来たのよ」
「ふーん……なかなかやるわね」
バクフーン ♂
おくびょうな性格
トゲチック ♂
さみしがりな性格
アーボック ♀
しんちょうな性格
ブラッキー ♂
まじめな性格
カイリュー ♀
なまいきな性格
カポエラー ♂
ようきな性格