ポケットモンスターNAVY ~暴投モンスターボール~   作:サンダーゴリラ

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レポート39 タマムシシティ/享楽の街

 カポエラーの“トリプルキック”が、カスミのラプラスを打ち倒した。

「ふう……やっとラスイチか」

 ラプラスには苦戦させられた。バクフーンを倒され、カポエラーも満身創痍だ。

「安心するには早いわよ? この子はあたしの本命なんだから!」

 現れたのは、紫色の五芒星が重なっている形状のポケモン、スターミー。

「カイリュー!」

 対するのは、進化した身体にすっかり慣れ、鼻息の荒いカイリュー。ほんとうはブラッキーに任せようとしたのだが、カイリューがボールから出たがっていたので、仕方なく。

「まったく、出たがりなんだから……やるからには勝つからね。“りゅうのまい”!」

 攻撃と素早さを上げ、つぎの攻撃に備える。

 が。

「スターミー、“れいとうビーム”」

「あーらら」

 一撃で戦闘不能になった。

 こおりタイプの光線は、ひこうタイプも加わったカイリューには絶大な威力を発揮する。進化したことで弱点が悪化したのだから、皮肉な話だ。

「あとで反省会ね」

 倒れたカイリューをモンスターボールに収める。

 正直チリアは、“れいとうビーム”を撃たれる可能性を予想していた。負けを計算して戦うのもシャクだったが、やる気満々のカイリューを抑えつけるほうが、気が咎める。

「ブラッキー」

 当初の予定通り、ブラッキーを繰り出す。

「まずは“あやしいひかり”」

 スターミーは『こんらん』状態になる。

「くっ……負けないわよ! “みずのはどう”!」

「“あくのはどう”!」

 ふたつの波動がぶつかる。技の威力もタイプ相性も、ブラッキーが勝っている。──のだが、“みずのはどう”の追加効果によりブラッキーも『こんらん』を負ってしまった。

「あなたにはポリシーってある? あたしのポリシーは、攻めて、攻めて……攻めまくることよ! ポリシーを持った戦いには、必ず結果が伴うわ!」

「ずいぶん体育会系ね。そういうの、参考にならないな」

 結果的に、“あくのはどう”で攻め続ける戦法にて、勝負を制したのはチリアだった。

 カスミは倒れたスターミーを労いつつ、はっきりと悔しそうに肩を落とす。

「やるじゃないオジャマムシ……あんたの実力、素直に認めるわ……」

「……どうも。オジャマムシじゃなくてチリアよ」

「はい、これ。ブルーバッジよ!

 水の滴を模した、水色のバッジを受け取る。カントー地方のジムバッジもこれで3つ目である。

「ジョウト地方かあ……ねえ、ジョウトには強いトレーナーがたくさんいるの?」

「うん、たくさんいる」

 そのなかでも自分が一番だと思っているチリアではあるが、いまほど強くなるにはたくさんのトレーナーたちの力を借りた。彼らのことは、『強いトレーナー』と認識している。

 ちなみに主にチリアの修行に付き合わされたトレーナーたちは、チリアを『魔女』と認識している。

「あたしもいつか、あんたみたいに旅に出て、強いトレーナーとたたかうわ!」

「ジムリーダーはいいの?」

「いいってわけじゃないけど……まさか死ぬまでハナダでジムリーダーやるわけないでしょ? 人生長いんだから、もっといろんなことして楽しまないと!」

 旅の始まりを見据えているカスミ。

 対照的に、チリアはこのカントー地方を巡ることで旅を終わらせようとしている。長い人生について考えるには、少女は若かった。

「そういえばジョウトってなにが美味しいの? おすすめのグルメ的なのはある?」

「知らないわ。どの街にも、なにかしら名物っぽいものはあるでしょ」

「なによお、あんたそれでもジョウトを制覇したトレーナーなの?」

「だってわたし、食べ物の味とか興味ないし」

「……あのケチャップ坊やといい、最近の子は舌がおかしいのね」

 

 

 ヤマブキシティまで戻り、こんどは西のゲートから7番道路を経由し、大都会へ。

 

────

 ここはタマムシシティ。

 虹色の大きな街。

────

 

 たくさんのマンションが並ぶなかで、目を引くのはゲームコーナー。そしてタマムシデパート。

 歳相応の少女らしく、チリアはショッピングが好きだ。

 ファッションが好きだ。雑貨が好きだ。人間のために造られた、流行という曖昧な評価に沿うように産み出された製品が、どうにもおもしろい。

「やっぱり都会はこうでなきゃ。ヤマブキシティもすごく大きかったけど、大型商業施設(デパート)って最高ね」

 なので、タマムシデパートでもショッピングを堪能していた。

 洋服店での試着に次ぐ試着。

 雑貨屋ではすべての商品を見て回り。

 書店では可能な限り雑誌を立ち読みして。

 家電量販店ではあらゆる電化製品を試して。

 ポケモンの用品もそこそこに見渡して。

 ちなみに実際に購入する商品はほんのすこし。

 そんなふうに時間をかけて観光するものだから、やはり、連れ歩かされるポケモンたちには疲労の色が見える。

「眠たそうな顔をしているわね。もっとがんばんなさいよ」

 仕方がないので、ポケモンたちをモンスターボールに入れて休ませる。

「さて、荷物は増やしたくないけど、買わなくちゃいけないのは……それにしてもコガネとおなじく、ここも大概ポケモン用品が多いわね」

 薬やアイテム、わざマシンのみならず、ポケモン用のアイテムも売られている。

「これは……お面?」

「ふんふん、ふふーん」

 アクセサリーを眺めるチリアの隣で、大柄な男が機嫌の良い鼻歌とともに、おなじく商品を物色していた。

「ほーう、これはナイスな仮面……」

 思わずチリアは男を二度見する。

 その男が、覆面レスラーだったからだ。

「ん? なにか用かな?」

「いえ失礼。なんでも……」

 そそくさと目を逸らすが。

「その目……ま、まさかっ! おれさまのこのかっこいいマキシマム仮面が欲しいのか!?」

 はっきりと首を横に振るチリア。

「ダメだ、ダメだ! これだけは上げられない!」

 覆面レスラーは──マキシマム仮面といったか。尖ったデザインの仮面を頭ごと抑えて、チリアの否定に気づかない。

 なのではっきり言ってあげる。

「……そんな仮面は欲しくない。目立つから見ちゃったけど……商品のお面を物色してたのよ」

「あれ? そうか……ちなみにおれさまのオススメはこれだ!」

 仮面の男は、3つのお面を手に取った。『ナエトルおめん』、『ヒコザルおめん、』『ポッチャマおめん』。ジョウト地方ではなじみのないポケモンだ。

「どれもシンオウ地方のポケモンだ! 3つとも買おうかとおもっている! 『ナエトルおめん』はこれから会いに行くあいつに……『ヒコザルおめん』はジュンのやつにお土産に上げるか! そして『ポッチャマおめん』は自分用だな!」

「あなた、シンオウ地方から?」

 お面を見比べる男は、少女の問いにはっとした。チリアの存在を忘れていたようだ。

「そうだ! よくわかったな!」

「察しはつくわよ」

「ちょっとした遠征だ! ナントカという山に遊びに行くところなのだ! ふふふ……あいつは『ナエトルおめん』を喜ぶだろうな」

 カントー地方で山というと、「オツキミ山」だろうか。

「お前さんはここが地元か?」

「いえ、ジョウト地方から。この街のジムに挑戦するの」

「そうかそうか! ジムチャレンジはいいぞー!」

 仮面の男は親指を立てて、チリアに暑苦しい笑みを向けた。

「ファイトだ!」

「……どーも」

 男は意気揚々と、3つのお面を持ってレジへ向かって行った。

「リングはおれの海♪ 荒れる海原、大波小波……」

 歌いながら。

「……おもしろい不審者だったな」

 少女は静かにアイテム売り場を後にした。

 

 

「おお! 未来のレジェンド! スロットで遊ぶのかい?」

 いつものジム男と出会ったのは、タマムシジムではなく、あちこちで目まぐるしくスロットが回るタマムシゲームコーナーだった。

 賭け事は趣味ではないものの、なんとなく寄ってみただけだったのだが。

「オレも景品のポケモンを狙ってるんだけどよー。なかなかコインが溜まらなくて!」

「……運じゃないわよ、スロットって」

「運じゃないのか!?」

 かつてチリアは、コガネシティのゲームコーナーで3日かけて数百枚のコインを稼いだのだが、それは最短期間、最小限の努力で掴んだ成果だ。本気で稼ぎたいのならばより大きな労力を費やす必要がある。

「どんな景品ポケモンが欲しいのか知らないけど、賭け事に身を投じるということは、人生を捧げるのとおなじよ。努力の前に覚悟が足りないんじゃなくて?」

「恐いなお前……」

 そっとスロットマシンから離れる男をしり目に、チリアもゲームコーナーを後にする。

 無論、行き先はポケモンジム。

『タマムシシティポケモンジム。リーダー、エリカ。自然を愛するお嬢様』

「にひひ! このジムはええ! 女の子ばっかしじゃ!」

 老人は嬉しそうに、タマムシジムの窓に貼りついていた。チリアは無視して、タマムシジムに入る。

「うわー……華やかだこと」

 木々・花々で彩られたジムは、迷路状になっていた。なるほどこの迷路を踏破した先にジムリーダーのエリカがいるのだろう。

「バクフーン。ぜんぶ焼き払っちゃいな」

 そうチリアが言い終わる前に、後ろに控えているバクフーンは首を横に振った。

 主人の笑えない冗談はいつものことだった。

 さて。その迷路自体はチリアにとって簡単なものだった。ジムトレーナーとの戦いも、くさタイプに有利なポケモンが多いチリアのパーティで手早く突破する。

「とはいえ、状態異常の技が多いのはきつかったわね。油断ならないわ、くさタイプ」

 バクフーンを『ねむけざまし』で起こして、体力を万全に快復させる。向かう先は迷路のゴール、ジム全体を見下ろせそうな高台だった。

 待ち構えていたのは紅葉模様の着物の女性。

「あなたがジムリーダーね?」

「はあーい……」

 気の張ったチリアの対照的に、女性は気の抜けた返事で応えた。

「きょうも良い天気ですね。ついウトウト眠ってしまいそうだわ……わたくしタマムシジムのエリカと申します」

 あまりにも「穏やか」を体現したエリカの姿勢に、チリアは言葉を失った。

 舐めているのか、とほんのすこし苛立ちさえ覚える。

「……わたしはチリア。ジョウトから来た」

「……まあ! あなたジョウトの方? はじめまして!」

 ぱっと花が咲いたように微笑むエリカ。

 苦手だな、と第一印象が決まった。

「それで本日は……そうそう、わたくしと試合をなさりたい。わかっております」

「それ以外にないでしょう」

 エリカの呑気さに辟易して、チリアは浅くため息をつく。

「早くやりましょう。おしゃべりじゃなくて、試合をなさりに来たのよ」

「ええ、そのとおりですわね」

 エリカは着物のたもとからモンスターボールを取り出す。

「生け花の修行とともに、ポケモン修行も続けてきたんですもの……わたくし、負けませんわよ!」

 エリカの目が、きっと吊り上がった。

「へえ……なんだ、そういう好戦的な顔もできるんじゃない」

 ようやくジムリーダーらしいエリカの一面を見れて、ようやくチリアも笑うことができた。妖艶で、獰猛な笑みが。

「行きなさい、ワタッコ!」

「バクフーン!」

 タイプ相性で勝るチリアだが、その分、くさタイプは豊富な技で妨害してくるのはわかっている。

「“やどりぎのタネ”」

 やはり開口一番、一定時間ごとに体力を吸収される技を喰らってしまった。

「バクフーン、“ふんえん”!」

 噴き出す火炎がワタッコを一撃で倒すが、“やどりぎのタネ”の状態はまだ継続している。エリカに合わせて、チリアはポケモンを交代させた。

「モンジャラ!」

「カポエラー!」

 チリアはノーコンなので、ボールはあらぬ方向へ飛んで行った。なので茂みのなかからカポエラーが現れた。

「“つばめがえし”!」

 特性『テクニシャン』により技の威力は高い。──が、モンジャラは耐えて“ねむりごな”で反撃した。

「おっと……カポエラー、起きなさいよ」

 一応呼びかけるが、そう簡単に『ねむり』状態のポケモンは覚醒しない。

「いまです! モンジャラ、“ギガドレイン”!」

 体力を吸収されてしまうが、ここでカポエラーは目を覚ます。

「じゃあもう一回、“つばめがえし”!」

 ようやく、モンジャラは戦闘不能となる。エリカは顔色を変えることなく、3体目にポケモンを交代させる。現れたのはウツボットだった。

「“リーフストーム”」

 カポエラーの攻撃の前に、尖った葉が混ざった嵐が襲い掛かる。高威力の技に呑まれて、カポエラーは戦闘不能になってしまった。

「なんて速攻。状態異常技で来るかと思ったのに……」

「ジムリーダーですもの。()()()()()というものは見極めていますのよ」

「それもそっか……カイリュー!」

 舐めていたのは、こちらだったのかもしれない。相手はジムリーダー。ポケモンバトルに関しては百戦錬磨だ。本来、チリアよりも最強に近い実力を持っているはずの相手である。

 少女は気を引き締めて、竜とともに戦闘に集中する。




バクフーン ♂
 おくびょうな性格

トゲチック ♂
 さみしがりな性格

アーボック ♀
 しんちょうな性格

ブラッキー ♂
 まじめな性格

カイリュー ♀
 なまいきな性格

カポエラー ♂
 ようきな性格
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