ポケットモンスターNAVY ~暴投モンスターボール~ 作:サンダーゴリラ
カポエラーの“トリプルキック”が、カスミのラプラスを打ち倒した。
「ふう……やっとラスイチか」
ラプラスには苦戦させられた。バクフーンを倒され、カポエラーも満身創痍だ。
「安心するには早いわよ? この子はあたしの本命なんだから!」
現れたのは、紫色の五芒星が重なっている形状のポケモン、スターミー。
「カイリュー!」
対するのは、進化した身体にすっかり慣れ、鼻息の荒いカイリュー。ほんとうはブラッキーに任せようとしたのだが、カイリューがボールから出たがっていたので、仕方なく。
「まったく、出たがりなんだから……やるからには勝つからね。“りゅうのまい”!」
攻撃と素早さを上げ、つぎの攻撃に備える。
が。
「スターミー、“れいとうビーム”」
「あーらら」
一撃で戦闘不能になった。
こおりタイプの光線は、ひこうタイプも加わったカイリューには絶大な威力を発揮する。進化したことで弱点が悪化したのだから、皮肉な話だ。
「あとで反省会ね」
倒れたカイリューをモンスターボールに収める。
正直チリアは、“れいとうビーム”を撃たれる可能性を予想していた。負けを計算して戦うのもシャクだったが、やる気満々のカイリューを抑えつけるほうが、気が咎める。
「ブラッキー」
当初の予定通り、ブラッキーを繰り出す。
「まずは“あやしいひかり”」
スターミーは『こんらん』状態になる。
「くっ……負けないわよ! “みずのはどう”!」
「“あくのはどう”!」
ふたつの波動がぶつかる。技の威力もタイプ相性も、ブラッキーが勝っている。──のだが、“みずのはどう”の追加効果によりブラッキーも『こんらん』を負ってしまった。
「あなたにはポリシーってある? あたしのポリシーは、攻めて、攻めて……攻めまくることよ! ポリシーを持った戦いには、必ず結果が伴うわ!」
「ずいぶん体育会系ね。そういうの、参考にならないな」
結果的に、“あくのはどう”で攻め続ける戦法にて、勝負を制したのはチリアだった。
カスミは倒れたスターミーを労いつつ、はっきりと悔しそうに肩を落とす。
「やるじゃないオジャマムシ……あんたの実力、素直に認めるわ……」
「……どうも。オジャマムシじゃなくてチリアよ」
「はい、これ。ブルーバッジよ!
水の滴を模した、水色のバッジを受け取る。カントー地方のジムバッジもこれで3つ目である。
「ジョウト地方かあ……ねえ、ジョウトには強いトレーナーがたくさんいるの?」
「うん、たくさんいる」
そのなかでも自分が一番だと思っているチリアではあるが、いまほど強くなるにはたくさんのトレーナーたちの力を借りた。彼らのことは、『強いトレーナー』と認識している。
ちなみに主にチリアの修行に付き合わされたトレーナーたちは、チリアを『魔女』と認識している。
「あたしもいつか、あんたみたいに旅に出て、強いトレーナーとたたかうわ!」
「ジムリーダーはいいの?」
「いいってわけじゃないけど……まさか死ぬまでハナダでジムリーダーやるわけないでしょ? 人生長いんだから、もっといろんなことして楽しまないと!」
旅の始まりを見据えているカスミ。
対照的に、チリアはこのカントー地方を巡ることで旅を終わらせようとしている。長い人生について考えるには、少女は若かった。
「そういえばジョウトってなにが美味しいの? おすすめのグルメ的なのはある?」
「知らないわ。どの街にも、なにかしら名物っぽいものはあるでしょ」
「なによお、あんたそれでもジョウトを制覇したトレーナーなの?」
「だってわたし、食べ物の味とか興味ないし」
「……あのケチャップ坊やといい、最近の子は舌がおかしいのね」
:
ヤマブキシティまで戻り、こんどは西のゲートから7番道路を経由し、大都会へ。
────
ここはタマムシシティ。
虹色の大きな街。
────
たくさんのマンションが並ぶなかで、目を引くのはゲームコーナー。そしてタマムシデパート。
歳相応の少女らしく、チリアはショッピングが好きだ。
ファッションが好きだ。雑貨が好きだ。人間のために造られた、流行という曖昧な評価に沿うように産み出された製品が、どうにもおもしろい。
「やっぱり都会はこうでなきゃ。ヤマブキシティもすごく大きかったけど、大型
なので、タマムシデパートでもショッピングを堪能していた。
洋服店での試着に次ぐ試着。
雑貨屋ではすべての商品を見て回り。
書店では可能な限り雑誌を立ち読みして。
家電量販店ではあらゆる電化製品を試して。
ポケモンの用品もそこそこに見渡して。
ちなみに実際に購入する商品はほんのすこし。
そんなふうに時間をかけて観光するものだから、やはり、連れ歩かされるポケモンたちには疲労の色が見える。
「眠たそうな顔をしているわね。もっとがんばんなさいよ」
仕方がないので、ポケモンたちをモンスターボールに入れて休ませる。
「さて、荷物は増やしたくないけど、買わなくちゃいけないのは……それにしてもコガネとおなじく、ここも大概ポケモン用品が多いわね」
薬やアイテム、わざマシンのみならず、ポケモン用のアイテムも売られている。
「これは……お面?」
「ふんふん、ふふーん」
アクセサリーを眺めるチリアの隣で、大柄な男が機嫌の良い鼻歌とともに、おなじく商品を物色していた。
「ほーう、これはナイスな仮面……」
思わずチリアは男を二度見する。
その男が、覆面レスラーだったからだ。
「ん? なにか用かな?」
「いえ失礼。なんでも……」
そそくさと目を逸らすが。
「その目……ま、まさかっ! おれさまのこのかっこいいマキシマム仮面が欲しいのか!?」
はっきりと首を横に振るチリア。
「ダメだ、ダメだ! これだけは上げられない!」
覆面レスラーは──マキシマム仮面といったか。尖ったデザインの仮面を頭ごと抑えて、チリアの否定に気づかない。
なのではっきり言ってあげる。
「……そんな仮面は欲しくない。目立つから見ちゃったけど……商品のお面を物色してたのよ」
「あれ? そうか……ちなみにおれさまのオススメはこれだ!」
仮面の男は、3つのお面を手に取った。『ナエトルおめん』、『ヒコザルおめん、』『ポッチャマおめん』。ジョウト地方ではなじみのないポケモンだ。
「どれもシンオウ地方のポケモンだ! 3つとも買おうかとおもっている! 『ナエトルおめん』はこれから会いに行くあいつに……『ヒコザルおめん』はジュンのやつにお土産に上げるか! そして『ポッチャマおめん』は自分用だな!」
「あなた、シンオウ地方から?」
お面を見比べる男は、少女の問いにはっとした。チリアの存在を忘れていたようだ。
「そうだ! よくわかったな!」
「察しはつくわよ」
「ちょっとした遠征だ! ナントカという山に遊びに行くところなのだ! ふふふ……あいつは『ナエトルおめん』を喜ぶだろうな」
カントー地方で山というと、「オツキミ山」だろうか。
「お前さんはここが地元か?」
「いえ、ジョウト地方から。この街のジムに挑戦するの」
「そうかそうか! ジムチャレンジはいいぞー!」
仮面の男は親指を立てて、チリアに暑苦しい笑みを向けた。
「ファイトだ!」
「……どーも」
男は意気揚々と、3つのお面を持ってレジへ向かって行った。
「リングはおれの海♪ 荒れる海原、大波小波……」
歌いながら。
「……おもしろい不審者だったな」
少女は静かにアイテム売り場を後にした。
:
「おお! 未来のレジェンド! スロットで遊ぶのかい?」
いつものジム男と出会ったのは、タマムシジムではなく、あちこちで目まぐるしくスロットが回るタマムシゲームコーナーだった。
賭け事は趣味ではないものの、なんとなく寄ってみただけだったのだが。
「オレも景品のポケモンを狙ってるんだけどよー。なかなかコインが溜まらなくて!」
「……運じゃないわよ、スロットって」
「運じゃないのか!?」
かつてチリアは、コガネシティのゲームコーナーで3日かけて数百枚のコインを稼いだのだが、それは最短期間、最小限の努力で掴んだ成果だ。本気で稼ぎたいのならばより大きな労力を費やす必要がある。
「どんな景品ポケモンが欲しいのか知らないけど、賭け事に身を投じるということは、人生を捧げるのとおなじよ。努力の前に覚悟が足りないんじゃなくて?」
「恐いなお前……」
そっとスロットマシンから離れる男をしり目に、チリアもゲームコーナーを後にする。
無論、行き先はポケモンジム。
『タマムシシティポケモンジム。リーダー、エリカ。自然を愛するお嬢様』
「にひひ! このジムはええ! 女の子ばっかしじゃ!」
老人は嬉しそうに、タマムシジムの窓に貼りついていた。チリアは無視して、タマムシジムに入る。
「うわー……華やかだこと」
木々・花々で彩られたジムは、迷路状になっていた。なるほどこの迷路を踏破した先にジムリーダーのエリカがいるのだろう。
「バクフーン。ぜんぶ焼き払っちゃいな」
そうチリアが言い終わる前に、後ろに控えているバクフーンは首を横に振った。
主人の笑えない冗談はいつものことだった。
さて。その迷路自体はチリアにとって簡単なものだった。ジムトレーナーとの戦いも、くさタイプに有利なポケモンが多いチリアのパーティで手早く突破する。
「とはいえ、状態異常の技が多いのはきつかったわね。油断ならないわ、くさタイプ」
バクフーンを『ねむけざまし』で起こして、体力を万全に快復させる。向かう先は迷路のゴール、ジム全体を見下ろせそうな高台だった。
待ち構えていたのは紅葉模様の着物の女性。
「あなたがジムリーダーね?」
「はあーい……」
気の張ったチリアの対照的に、女性は気の抜けた返事で応えた。
「きょうも良い天気ですね。ついウトウト眠ってしまいそうだわ……わたくしタマムシジムのエリカと申します」
あまりにも「穏やか」を体現したエリカの姿勢に、チリアは言葉を失った。
舐めているのか、とほんのすこし苛立ちさえ覚える。
「……わたしはチリア。ジョウトから来た」
「……まあ! あなたジョウトの方? はじめまして!」
ぱっと花が咲いたように微笑むエリカ。
苦手だな、と第一印象が決まった。
「それで本日は……そうそう、わたくしと試合をなさりたい。わかっております」
「それ以外にないでしょう」
エリカの呑気さに辟易して、チリアは浅くため息をつく。
「早くやりましょう。おしゃべりじゃなくて、試合をなさりに来たのよ」
「ええ、そのとおりですわね」
エリカは着物のたもとからモンスターボールを取り出す。
「生け花の修行とともに、ポケモン修行も続けてきたんですもの……わたくし、負けませんわよ!」
エリカの目が、きっと吊り上がった。
「へえ……なんだ、そういう好戦的な顔もできるんじゃない」
ようやくジムリーダーらしいエリカの一面を見れて、ようやくチリアも笑うことができた。妖艶で、獰猛な笑みが。
「行きなさい、ワタッコ!」
「バクフーン!」
タイプ相性で勝るチリアだが、その分、くさタイプは豊富な技で妨害してくるのはわかっている。
「“やどりぎのタネ”」
やはり開口一番、一定時間ごとに体力を吸収される技を喰らってしまった。
「バクフーン、“ふんえん”!」
噴き出す火炎がワタッコを一撃で倒すが、“やどりぎのタネ”の状態はまだ継続している。エリカに合わせて、チリアはポケモンを交代させた。
「モンジャラ!」
「カポエラー!」
チリアはノーコンなので、ボールはあらぬ方向へ飛んで行った。なので茂みのなかからカポエラーが現れた。
「“つばめがえし”!」
特性『テクニシャン』により技の威力は高い。──が、モンジャラは耐えて“ねむりごな”で反撃した。
「おっと……カポエラー、起きなさいよ」
一応呼びかけるが、そう簡単に『ねむり』状態のポケモンは覚醒しない。
「いまです! モンジャラ、“ギガドレイン”!」
体力を吸収されてしまうが、ここでカポエラーは目を覚ます。
「じゃあもう一回、“つばめがえし”!」
ようやく、モンジャラは戦闘不能となる。エリカは顔色を変えることなく、3体目にポケモンを交代させる。現れたのはウツボットだった。
「“リーフストーム”」
カポエラーの攻撃の前に、尖った葉が混ざった嵐が襲い掛かる。高威力の技に呑まれて、カポエラーは戦闘不能になってしまった。
「なんて速攻。状態異常技で来るかと思ったのに……」
「ジムリーダーですもの。
「それもそっか……カイリュー!」
舐めていたのは、こちらだったのかもしれない。相手はジムリーダー。ポケモンバトルに関しては百戦錬磨だ。本来、チリアよりも最強に近い実力を持っているはずの相手である。
少女は気を引き締めて、竜とともに戦闘に集中する。
バクフーン ♂
おくびょうな性格
トゲチック ♂
さみしがりな性格
アーボック ♀
しんちょうな性格
ブラッキー ♂
まじめな性格
カイリュー ♀
なまいきな性格
カポエラー ♂
ようきな性格