ポケットモンスターNAVY ~暴投モンスターボール~ 作:サンダーゴリラ
「つぎで最後の1匹ね」
“にほんばれ”で照らされたバトルフィールドに、ウツボットが倒れて、カイリューが君臨している。
「ほんとうにお強いですわ……状態異常に屈することなく、確実に弱点を突いてくる」
「そっちこそ。有利なタイプで一気に片づけようと思ってたけど、想像以上に手こずっちゃった」
それぞれのポケモンがモンスターボールに戻されていく。
「最後まで手を抜かないわよ。──アーボック!」
「ええ、もちろん! 手加減なんかなさらず、さあ存分に! キレイハナ!」
頭部に二輪の花を咲かせた小柄なポケモン、キレイハナ。
チリアが投げたボールは迷路のなかに消えていったが──アーボックは賢いので、自力でバトルフィールドまで戻ってきた。
「えーと、お待たせ。アーボック、“こおりのキバ”!」
凍てつく牙はキレイハナに大きなダメージを与えるが。
「“こうごうせい”」
太陽のエネルギーにより体力を回復させられた。先ほどウツボットが使った『にほんばれ』により、フィールドは晴れの状態だ。せっかくのダメージはほとんど無駄になった。
「そういうことなら高威力の技が必要ね。──アーボック、あれを使うわよ」
体力を回復させないために、一撃で決めなければならない。アーボックにはその準備がある。
「“ダストシュート”!」
巨大な毒の塊が発射される。
「キレイハナ!」
──が、寸でのところで回避される。
「危ない危ない……手厳しくてらっしゃる! “ソーラービーム”!」
反撃として放たれた光線はアーボックに直撃するも、効果はいまひとつ。アーボックは素早く這って距離を詰めて──
「もう一度、“ダストシュート”!」
近距離から放たれた毒塊はこんどこそ直撃し、キレイハナを戦闘不能にした。
「おみそれいたしました……」
少女は汗を拭った。こんなに身体が火照るのは、“にほんばれ”のせいだけではなさそうだ。
:
「どうぞ、ハーブティーです」
試合のあと、なぜかチリアはお茶をごちそうされることになった。
「ふうん……初めて飲んだ。特においしくはないのね」
チリアは気を遣わない。
「あら、お口に会いませんでしたか?」
エリカもハーブティーを口にする。やがて、顔をしかめる。
「お砂糖を入れ忘れましたわ」
「………………」
チリアは、だんだんとこの女性が気に入ってきた。
「そうそう、これも忘れてしまうところでしたわ。……このレインボーバッジ、差し上げなくてはなりません」
「いまなのね」
花びらの形をした虹色のバッジを受け取った。
「負けるというのは悔しいものですね……でも、強い方がいるということは励みにもなります」
「そっか。わたしは、自分より強いひとがいなくなるまで戦うつもりよ」
ハーブティーをくいっと飲み干す。
「最強になるからね」
「まあ」とエリカは口元を隠して、穏やかに驚いていた。
「大変な道のりですわよ。わたくしより強いお方だって、たくさんいますもの」
「あなただって、ジム戦という縛りがなければ相当強いでしょ。……いつか本気で悔しがらせてあげる。そんな澄ました態度が取れないくらいにね」
「態度……? わたくしはいつもこうですけど……」
「……天然ものか」
チリアは別れを告げて、席を立った。やはり、エリカのことはすこし苦手かもしれない。
:
「はい! きみ! ストップ! 自転車に乗ってないひとはサイクリングロードに入っちゃダメなのでーす!」
タマムシシティの西から18番道路を通ろうとするが、ゲートで門前払いを喰らってしまった。
「自転車って……持ってるわけないでしょ。乗ったこともないわよ。だいたい、ポケモンと旅するのに自転車なんて邪魔でしょ。──いや、そういえば最近は折り畳み式の軽くて速いのがあるんだっけ」
これから自転車を手に入れるのはあまりにも手間だ。タウンマップによると、別ルートからセキチクシティに行くことも可能らしい。
「にしても遠回りねえ。ま、いいか」
というわけで。
わざわざヤマブキシティに戻って、東の8番道路へ。トレーナーを蹴散らしているうちに町にたどり着いた。
────
ここはシオンタウン。
尊さのにじむ町。
────
小さな町だが、ラジオ局と「たましいのいえ」という霊園施設が有名だ。
ただの通り道と思って訪れただけの町だが、チリアはほんの気まぐれで、その霊園を訪ねてみた。ポケモンたちの墓が並んでいる。
「……いつかお世話になる日が来るのかしらね」
バクフーンは、チリアのつぶやきに首を傾げた。
「言っとくけど、お世話になるのはきみたちよ。生きているものはいつか死ぬでしょ。でもめんどうだから、くれぐれも死なないようにね」
バクフーンはまた、首を傾げた。
「やあ、よく来たね」
そんな霊園を歩く少女たちに、老人が声をかける。
「ふむふむ……きみはポケモンを大事に育てているようだ」
「まあ……それなりに」
ポケモンのことは嫌いだが、自分の手持ちは例外としている。それに、いずれ彼らには最強のポケモンになってもらう予定だ。育て方にも気を遣っているつもりである。
「わしはフジ。ここの管理をしておる」
「そう。すぐに出て行くわ。用があって来たわけじゃないの。お邪魔したわね」
気まぐれで訪れただけで、知っているポケモンの墓があるわけでもない。このフジという老人も、チリアの様子からそれを察知して話しかけてきたのかと思ったが。
「いやいや、構わんよ。ゆっくりしていってくれ。ここはポケモンを愛するひとが集まる場所。どうかきみも祈ってくれんか? ポケモンたちも、きっと喜ぶことじゃろう」
「……うん」
チリアはポケモンを愛してなどいないし、リアリストな思考なので慰霊に意味を感じていない。
しかし、さすがにこの霊園の空気くらいは読める。
いくつもの墓には、いくつもの花が添えられている。思い出の品も。そして墓に参るひとたちは、ポケモンたちとの思い出にじっくりと浸っている。
その喪失が、触れざる傷というわけではないのならば──過去を振り返り、祈りを捧げる場所は必要なのだろう。
:
海上の桟橋として構成された、「釣りの名所」と呼ばれる12番道路。迷路のような道がある13番道路。海沿いの道に風車が並ぶ14番道路──を通りがかったところで。
「またきみか」
透き通ったスイクンの結晶体の角が、太陽の下で輝いている。
「こんどこそやる気?」
連れ歩いていたアーボックがチリアの前に出て、好戦的に舌を覗かせている。
が。
「あ──」
スイクンはバトルに応じることなく、道路沿いに走り去って行った。
「またチリアかー! だがつぎこそ負けないぜ!」
マントの男が駆けつける。
「またミナキかー……」
どうにも、この男とスイクンはセットで現れるようになっている。どちらにも会いたいわけではないのだが。
「ここまで追いかけてきたせいで、スイクンの目指しているところがさらにわかってきたんだ! ほんとうならこの情報を独り占めしたいところだが──」
「じゃあべつにいいけど」
「わたしはスイクンの前では正直でありたいんだ。だからきみにもヒントを教えてあげよう!」
「聞いてないわね」
しかし熱弁するミナキを置いていくのも哀れなので、チリアのほうは彼の話を聞くことにした。
「スイクンは北のほうの……水辺を好み……高台になったところ……そんな場所に現れるらしい!」
「ふうん」
「それがいったいどこなのかは、まだわたしにもわからない。どちらが先に発見できるか、競争だぜ!」
彼の研究が正しければ、なんとなく居場所に想像がつく。
「わたしのほうはべつに、スイクンに関して正直である必要はないわよね? 競争っていうのならばなおのこと」
「え? もしかして心当たりが!?」
「じゃあね、ミナキ。わたしはセキチクに用事があるから」
「ず、ズルいぞ天才!!」
:
14番道路を抜け、段差ばかりの15番道路を通って、ようやく──
「やっと着いた……」
────
ここはセキチクシティ。
賑わい移りゆく街。
────
この街にはかつてサファリゾーンという施設があったのだが、現在は閉園している。
「代わりにできたのが、パルパークっていうのね」
ポケモンセンターでの休憩中、ガイドブックを斜め読みするチリア。やがてその施設の概要を知ると。
「捕獲ショー……わたしには完全に縁のない施設だわ」
一気に興味を失った。
翌日、当初の予定のとおりセキチクジムへ挑戦する。
『セキチクシティポケモンジム。リーダー、アンズ。毒のことならなんでもござれ』
「おーす! 未来のレジェンド!」
「はいごきげんよう」
いつものジム男と目を合わせることなく、まずはジム全体を見回す。
「なにこれ?」
なんの仕掛けも見当たらない、ずいぶんシンプルなジム。そこに立っていたのは、黒い忍び装束にピンクの襟巻をたなびかせる少女。
その少女が、5人いた。
「リーダーのアンズだ。たくさんいるぜ! だれがほんものかわかるかな!?」
「だれがって……」
ジムのあちこちにいる
「なるほど、変装か。ほんもののアンズを当てればいいのね?」
「理解が速いな! そういうことだ!」
「……でもわたし、いま初めて彼女の顔を見たのよ? 身体的な特徴も知らないし、見分けらんないわよ」
「べつにチャンスが1回ってわけじゃないぞ? 全員と戦えば、いずれは当たるよな!」
「……しらみつぶしはアリなのね。多少面倒だけど、ジムトレーナーとの戦いだと思えば」
まっすぐ歩き出すチリア。ジム男は「あ」となにか言いかけるが──
「いたっ」
少女は壁に激突した。
「言い忘れたけど……セキチクジムはからくり屋敷。見えない壁で仕切られてる!」
「言い忘れんなよ……!」
「ごめん!」
帽子の位置を直し、男を睨む。連れ歩いているトゲチックはあたふたしている。
「変身に、見えない壁? どくタイプのジムだと聞いてきたけど、まるでエスパータイプのジムね。すっごく面倒だけど……」
チリアは見えない壁に触れ、そのまま壁伝いに歩き出す。
「
バクフーン ♂
おくびょうな性格
トゲチック ♂
さみしがりな性格
アーボック ♀
しんちょうな性格
ブラッキー ♂
まじめな性格
カイリュー ♀
なまいきな性格
カポエラー ♂
ようきな性格