ポケットモンスターNAVY ~暴投モンスターボール~   作:サンダーゴリラ

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レポート40 シオンタウン/魔女は自転車に乗らない

「つぎで最後の1匹ね」

 “にほんばれ”で照らされたバトルフィールドに、ウツボットが倒れて、カイリューが君臨している。

「ほんとうにお強いですわ……状態異常に屈することなく、確実に弱点を突いてくる」

「そっちこそ。有利なタイプで一気に片づけようと思ってたけど、想像以上に手こずっちゃった」

 それぞれのポケモンがモンスターボールに戻されていく。

「最後まで手を抜かないわよ。──アーボック!」

「ええ、もちろん! 手加減なんかなさらず、さあ存分に! キレイハナ!」

 頭部に二輪の花を咲かせた小柄なポケモン、キレイハナ。

 チリアが投げたボールは迷路のなかに消えていったが──アーボックは賢いので、自力でバトルフィールドまで戻ってきた。

「えーと、お待たせ。アーボック、“こおりのキバ”!」

 凍てつく牙はキレイハナに大きなダメージを与えるが。

「“こうごうせい”」

 太陽のエネルギーにより体力を回復させられた。先ほどウツボットが使った『にほんばれ』により、フィールドは晴れの状態だ。せっかくのダメージはほとんど無駄になった。

「そういうことなら高威力の技が必要ね。──アーボック、あれを使うわよ」

 体力を回復させないために、一撃で決めなければならない。アーボックにはその準備がある。

「“ダストシュート”!」

 巨大な毒の塊が発射される。

「キレイハナ!」

 ──が、寸でのところで回避される。

「危ない危ない……手厳しくてらっしゃる! “ソーラービーム”!」

 反撃として放たれた光線はアーボックに直撃するも、効果はいまひとつ。アーボックは素早く這って距離を詰めて──

「もう一度、“ダストシュート”!」

 近距離から放たれた毒塊はこんどこそ直撃し、キレイハナを戦闘不能にした。

「おみそれいたしました……」

 少女は汗を拭った。こんなに身体が火照るのは、“にほんばれ”のせいだけではなさそうだ。

 

 

「どうぞ、ハーブティーです」

 試合のあと、なぜかチリアはお茶をごちそうされることになった。

「ふうん……初めて飲んだ。特においしくはないのね」

 チリアは気を遣わない。

「あら、お口に会いませんでしたか?」

 エリカもハーブティーを口にする。やがて、顔をしかめる。

「お砂糖を入れ忘れましたわ」

「………………」

 チリアは、だんだんとこの女性が気に入ってきた。

「そうそう、これも忘れてしまうところでしたわ。……このレインボーバッジ、差し上げなくてはなりません」

「いまなのね」

 花びらの形をした虹色のバッジを受け取った。

「負けるというのは悔しいものですね……でも、強い方がいるということは励みにもなります」

「そっか。わたしは、自分より強いひとがいなくなるまで戦うつもりよ」

 ハーブティーをくいっと飲み干す。

「最強になるからね」

「まあ」とエリカは口元を隠して、穏やかに驚いていた。

「大変な道のりですわよ。わたくしより強いお方だって、たくさんいますもの」

「あなただって、ジム戦という縛りがなければ相当強いでしょ。……いつか本気で悔しがらせてあげる。そんな澄ました態度が取れないくらいにね」

「態度……? わたくしはいつもこうですけど……」

「……天然ものか」

 チリアは別れを告げて、席を立った。やはり、エリカのことはすこし苦手かもしれない。

 

 

「はい! きみ! ストップ! 自転車に乗ってないひとはサイクリングロードに入っちゃダメなのでーす!」

 タマムシシティの西から18番道路を通ろうとするが、ゲートで門前払いを喰らってしまった。

「自転車って……持ってるわけないでしょ。乗ったこともないわよ。だいたい、ポケモンと旅するのに自転車なんて邪魔でしょ。──いや、そういえば最近は折り畳み式の軽くて速いのがあるんだっけ」

 これから自転車を手に入れるのはあまりにも手間だ。タウンマップによると、別ルートからセキチクシティに行くことも可能らしい。

「にしても遠回りねえ。ま、いいか」

 というわけで。

 わざわざヤマブキシティに戻って、東の8番道路へ。トレーナーを蹴散らしているうちに町にたどり着いた。

 

────

 ここはシオンタウン。

 尊さのにじむ町。

────

 

 小さな町だが、ラジオ局と「たましいのいえ」という霊園施設が有名だ。

 ただの通り道と思って訪れただけの町だが、チリアはほんの気まぐれで、その霊園を訪ねてみた。ポケモンたちの墓が並んでいる。

「……いつかお世話になる日が来るのかしらね」

 バクフーンは、チリアのつぶやきに首を傾げた。

「言っとくけど、お世話になるのはきみたちよ。生きているものはいつか死ぬでしょ。でもめんどうだから、くれぐれも死なないようにね」

 バクフーンはまた、首を傾げた。

「やあ、よく来たね」

 そんな霊園を歩く少女たちに、老人が声をかける。

「ふむふむ……きみはポケモンを大事に育てているようだ」

「まあ……それなりに」

 ポケモンのことは嫌いだが、自分の手持ちは例外としている。それに、いずれ彼らには最強のポケモンになってもらう予定だ。育て方にも気を遣っているつもりである。

「わしはフジ。ここの管理をしておる」

「そう。すぐに出て行くわ。用があって来たわけじゃないの。お邪魔したわね」

 気まぐれで訪れただけで、知っているポケモンの墓があるわけでもない。このフジという老人も、チリアの様子からそれを察知して話しかけてきたのかと思ったが。

「いやいや、構わんよ。ゆっくりしていってくれ。ここはポケモンを愛するひとが集まる場所。どうかきみも祈ってくれんか? ポケモンたちも、きっと喜ぶことじゃろう」

「……うん」

 チリアはポケモンを愛してなどいないし、リアリストな思考なので慰霊に意味を感じていない。

 しかし、さすがにこの霊園の空気くらいは読める。

 いくつもの墓には、いくつもの花が添えられている。思い出の品も。そして墓に参るひとたちは、ポケモンたちとの思い出にじっくりと浸っている。

 その喪失が、触れざる傷というわけではないのならば──過去を振り返り、祈りを捧げる場所は必要なのだろう。

 

 

 海上の桟橋として構成された、「釣りの名所」と呼ばれる12番道路。迷路のような道がある13番道路。海沿いの道に風車が並ぶ14番道路──を通りがかったところで。

「またきみか」

 透き通ったスイクンの結晶体の角が、太陽の下で輝いている。

「こんどこそやる気?」

 連れ歩いていたアーボックがチリアの前に出て、好戦的に舌を覗かせている。

 が。

「あ──」

 スイクンはバトルに応じることなく、道路沿いに走り去って行った。

「またチリアかー! だがつぎこそ負けないぜ!」

 マントの男が駆けつける。

「またミナキかー……」

 どうにも、この男とスイクンはセットで現れるようになっている。どちらにも会いたいわけではないのだが。

「ここまで追いかけてきたせいで、スイクンの目指しているところがさらにわかってきたんだ! ほんとうならこの情報を独り占めしたいところだが──」

「じゃあべつにいいけど」

「わたしはスイクンの前では正直でありたいんだ。だからきみにもヒントを教えてあげよう!」

「聞いてないわね」

 しかし熱弁するミナキを置いていくのも哀れなので、チリアのほうは彼の話を聞くことにした。

「スイクンは北のほうの……水辺を好み……高台になったところ……そんな場所に現れるらしい!」

「ふうん」

「それがいったいどこなのかは、まだわたしにもわからない。どちらが先に発見できるか、競争だぜ!」

 彼の研究が正しければ、なんとなく居場所に想像がつく。

「わたしのほうはべつに、スイクンに関して正直である必要はないわよね? 競争っていうのならばなおのこと」

「え? もしかして心当たりが!?」

「じゃあね、ミナキ。わたしはセキチクに用事があるから」

「ず、ズルいぞ天才!!」

 

 

 14番道路を抜け、段差ばかりの15番道路を通って、ようやく──

「やっと着いた……」

 

────

 ここはセキチクシティ。

 賑わい移りゆく街。

────

 

 この街にはかつてサファリゾーンという施設があったのだが、現在は閉園している。

「代わりにできたのが、パルパークっていうのね」

 ポケモンセンターでの休憩中、ガイドブックを斜め読みするチリア。やがてその施設の概要を知ると。

「捕獲ショー……わたしには完全に縁のない施設だわ」

 一気に興味を失った。

 翌日、当初の予定のとおりセキチクジムへ挑戦する。

『セキチクシティポケモンジム。リーダー、アンズ。毒のことならなんでもござれ』

「おーす! 未来のレジェンド!」

「はいごきげんよう」

 いつものジム男と目を合わせることなく、まずはジム全体を見回す。

「なにこれ?」

 なんの仕掛けも見当たらない、ずいぶんシンプルなジム。そこに立っていたのは、黒い忍び装束にピンクの襟巻をたなびかせる少女。

 その少女が、5人いた。

「リーダーのアンズだ。たくさんいるぜ! だれがほんものかわかるかな!?」

「だれがって……」

 ジムのあちこちにいる()()()()()は、どれもおなじ顔をしている。キキョウシティの舞妓たちを思い出したが、おなじく5人姉妹というわけでもないらしい。

「なるほど、変装か。ほんもののアンズを当てればいいのね?」

「理解が速いな! そういうことだ!」

「……でもわたし、いま初めて彼女の顔を見たのよ? 身体的な特徴も知らないし、見分けらんないわよ」

「べつにチャンスが1回ってわけじゃないぞ? 全員と戦えば、いずれは当たるよな!」

「……しらみつぶしはアリなのね。多少面倒だけど、ジムトレーナーとの戦いだと思えば」

 まっすぐ歩き出すチリア。ジム男は「あ」となにか言いかけるが──

「いたっ」

 少女は壁に激突した。

「言い忘れたけど……セキチクジムはからくり屋敷。見えない壁で仕切られてる!」

「言い忘れんなよ……!」

「ごめん!」

 帽子の位置を直し、男を睨む。連れ歩いているトゲチックはあたふたしている。

「変身に、見えない壁? どくタイプのジムだと聞いてきたけど、まるでエスパータイプのジムね。すっごく面倒だけど……」

 チリアは見えない壁に触れ、そのまま壁伝いに歩き出す。

標的(ゴール)は5つ、目には見えている。ゆっくりクリアしていきましょう」




バクフーン ♂
 おくびょうな性格

トゲチック ♂
 さみしがりな性格

アーボック ♀
 しんちょうな性格

ブラッキー ♂
 まじめな性格

カイリュー ♀
 なまいきな性格

カポエラー ♂
 ようきな性格
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