ポケットモンスターNAVY ~暴投モンスターボール~   作:サンダーゴリラ

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レポート41 セキチクシティ/忍者と魔女

「ふふふ……残念だったわね……」

 アンズに話しかけると、彼女はその場でくるりと回転してみせて──

「っていうのはウソー! あたいがホンモノ! セキチクジムのアンズよ!」

「そりゃそうでしょ」

 チリアがアンズに話しかけたのは、これで5人目だった。

 見えない壁に翻弄されつつ、しらみつぶしにひとりずつ話しかけていったのだが、結局、この5人目にたどり着くまでにすべての偽物に当たってしまった。

「わたしってツイてないのかしら。ジムトレーナーまで完全制覇するつもりはなかったのに……」

「完全制覇? それはあたいに勝ってから言うことね! あんたはあたいに会うためだけにジムを訪れたわけじゃないでしょ!」

「それもそうね。それじゃ、戦いましょうか」

 ふたりの少女は距離を取り、戦闘態勢に入る。

 アンズの1匹目はクロバット。チリアの背後に控えていたバクフーンと対峙する。

「“あやしいひかり”!」

 クロバットの初手は、やはり妨害。タマムシジムの戦いもそうだったが、どくタイプを持つポケモンは状態異常や状態変化に余念がない。

「じゃあ素早く終わらせましょう。バクフーン、“だいもんじ”!」

『こんらん』を振り切って、バクフーンの放つ大の字の炎がクロバットを焼く。

「くっ……火遁か……!」

「ちょっと違うと思うけど」

 クロバットは戦闘不能になった。アンズは2体目、マタドガスを繰り出す。

 バクフーンは『こんらん』していることもあり、このタイミングでチリアもポケモンを交代させることにした。

「マタドガス……あんまりいい思い出がないのよね」

 ロケット団のラムダとの戦いを思い出す。あのバトルで浴びた“だいばくはつ”にはひどい目に遭わされた。ゆえにここで選ぶのは、防御力に自信のあるポケモンだ。

「ブラッキー、“あやしいひかり”!」

 チリアの手元から踊り出た黒影。先ほどの意趣返しとばかりに、マタドガスを『こんらん』に陥れる。

「えーい……! あたいより忍者っぽいポケモンを使っちゃってさ!」

「……もうちょっとバトルに集中したら?」

「マタドガス、“どくどく”!」

 これはマズい、とチリアは顔をしかめた。ブラッキーが負った毒は、ただの『どく』ではなく『もうどく』だ。時間が経つたびに受けるダメージが大きくなる。

 ブラッキーには長期戦を任せるつもりだったのだが、これでは時間をかけることができない。チリアは交代のタイミングを伺いつつ──

「“あくのはどう”!」

 一旦、攻撃に移る。ブラッキーは頑丈だし、根性もあることを知っていたからだ。

「“ヘドロばくだん”!」

 どくタイプ攻撃に、『どく』のダメージ。ブラッキーは毒まみれだ。

 だが。

「……“あくのはどう”」

 ブラッキーはチリアの想定していた限界以上に粘った。技はいつもより冴えている。状態異常を感じさせないほど動きの切れも良い。

「いい感じが過ぎるわ」

 とうとう、ブラッキーはマタドガスを倒してしまった。

 そして猛毒により倒れる──

「はいおつかれ」

 寸前に、モンスターボールに戻した。『ひんし』のギリギリといったところだ。

「凄まじい忍者ね、そのブラッキー!」

「忍者じゃねーわよ。ただのわたしの、仲間」

「そっか。でもあたいたちも負けないわよ! ──アリアドス!」

 そこからは、率直に言って──楽勝だった。

 以降、アンズの繰り出すどくタイプポケモンはすべからくむしタイプを持っていたのだ。

「アリアドス、“どくづき”!」

「カポエラー、“つばめがえし”」

「あ……じゃあ2体目のアリアドス、“サイコキネシス”!」

「カイリュー、“そらをとぶ”」

「ヤバイかも……いや ホントに。モルフォン! “ヘドロばくだん”!」

「バクフーン、“ふんえん”」

「……!! つ、強いっ!」

 そういうわけで、バトルは終了した。

 

 

「そうか……四天王のキョウ、つまりあたいの父上を勝ち抜いて、あんた、ここまで来てるんだね」

 チリアがポケモンリーグを制覇していることを知ると、アンズは得心がいったように頷いた。

「あはは! 道理で強いわけだ。負けたよ、完璧に……」

「そうね。わたしは強くて完璧だから」

 チリアは謙遜も配慮もしない。

「あんたが完璧とは言ってないけど……とにかく、ほらこれ持ってって! ピンクバッジよ!」

「かわいいバッジね」

 ピンク色でハート形のバッジをケースにしまう。

「どくタイプならわたしもアーボックを使ってるから、お父さんのキョウとの戦いでも思ったけど、勉強になったわ」

「へえ、アーボックを? じゃあ特別にこれあげるわ! ときどき相手を毒状態にしてしまう、“どくづき”って技よ!」

 わざマシンを貰ってしまった。

 “ダストシュート”は命中が高くないだけに、気軽に使えない技だと思っていたところだった。この“どくづき”という技は、威力も命中も申し分ない物理攻撃技だ。たしかにアーボックには向いている技だろう。

「ありがとう。だいぶ使いやすい技だわ」

「どういたしまして! その代わり、またあたいと戦ってよね! あたいはもっともっと、強くなるんだから!」

 最強を目標にしているチリアにとって、アンズの向上心は理解できる。

「もっと修行して、もっともっと強くなるわ! あたいの父上にも、あんたにも、二度と負けないようにね!」

「受けて立つわ。わたしも最強になっておくわね」

 

 

 ディグダ。

 ディグダ。ディグダ。ディグダ。

 ときどき、ダグトリオ。

「おんなじポケモンばっかりね。ダンジョンの名前になるだけあるわ」

 クチバシティの東、「ディグダの穴」なる洞窟。一本道の迷うことないダンジョンにて、チリアは問題なく、ディグダの捕獲に失敗し続けていた。

「ディグダが欲しい。下半身がどうなっているのか気になる」

 ホウオウを捕まえなかった少女が、ディグダには強い興味を示していた。トゲチックはバトルに飽きたようにあくびをしながら、チリアの背後を飛んでいる。

 とうとう一度もディグダたちにモンスターボールが当たることなく、洞窟を通り抜けて2番道路に到着してしまった。

 そこからさらに北上し、大きな街に到着する。

 

────

 ここはニビシティ。

 険しき山間の街。

────

 

 ニビ科学博物館。

 現在、メインの展示物をほかの博物館に貸し出しているということで、入場料は無料であった。

 チリアは見栄えのいい迫力満点の標本などには興味がないので、カセキやコハクといった展示物だけでも十分に楽しめた。

 話によると、カセキから太古のポケモンを復元させることが可能らしい。

「カセキにポケモンの全身が残されているわけでもないでしょうし、一部でも遺伝子情報があれば復元可能なのね。というか、それはもはや復元というよりもクローン技術による生成というほうが正しいかしら。ポケモンの研究ってけっこうなところまで行ってるのね。こういうのは研究所で資料を読むだけじゃ実感でなかったわ」

 そんな博物館の感想──というか考察もそこそこに、本来の目的地であるジムへ向かう。

『ニビシティポケモンジム。リーダー、タケシ。強くて堅い石の男』

「おーす! 未来のレジェンド! 見たところ……調子は良さそうだな!」

 今回も眼鏡のジム男が少女たちを迎える。

「カントーのジムリーダーは、ジョウトに負けず劣らず手ごわいヤツらだろ?」

「ええ。負けず劣らず手ごわいキャラをしているわ」

「そ、そうか……今回で6つ目のジムだっけ!? がんばれよ!」

 男に適当に返事をして、少女はさっそくジムチャレンジを始める。

 ニビジムには──見たところ、仕掛けらしきものは見受けられない。真っすぐに進めばふたりのジムトレーナーが待ち構えているが……チリアは細い道を迂回して、最奥のジムリーダーの前に立った。

「ほう、いきなりおれに挑戦とはな! ウォーミングアップは要らないのかい?」

 体格の良い細目の男が、不敵な笑みで少女を迎えた。

「結構。新人トレーナーと思わないで。こう見えて、ジョウトを制覇して来たのよ。いつだって万全に戦える」

「ジョウトから挑戦とは珍しい! おれはニビポケモンジムリーダーのタケシ! いわタイプのエキスパートさ!」

 タケシは、目を一層細めて笑みを浮かべる。

「いわタイプのこともよく知ってると思うが、ちょっとやそっとの攻撃じゃ、おれのポケモンたちは平気。痛くもかゆくもないぜ! かかってこい!」

 タケシはゴローンを繰り出した。チリアの背後に控えていたカポエラーが、ステップを踏みながらバトルフィールドに躍り出る。

「“ねこだまし”」

 いきなりカポエラーはフェイントで相手をひるませる。ほとんどダメージにはならないが、相手は確実にひるむので「使い得」なのだ。

「で、“トリプルキック”!」

 回転の勢いに任せたキックを放つ。徐々に威力が上がる、最大三連撃のキック──が、今回は二回しかヒットしなかった。

「反撃だ! ゴローン、“じしん”!」

 先日はアンズ相手に圧勝といえる戦いぶりを見せたものの、それはポケモンのタイプ相性がたまたま有利だったからだ。

 そして今回はたまたま、不利なほうだった。

 バクフーン、トゲチック、カイリューはいわタイプの攻撃を大きく受けてしまう。タケシのゴローンやサイホーンはじめんタイプの技も使うので、アーボックも不利だ。

 こうなると、ブラッキーが特殊攻撃である“あくのはどう”で攻めるか、カポエラーのかくとう技で攻めるか──

 ──そうして四苦八苦して戦っているうちに、いよいよ戦いはクライマックスへ。

「オムスター、“げんしのちから”!」

「カイリュー、“ドラゴンダイブ”!」

 なんとかオムスターを倒したが、カイリューの体力もギリギリだった。

「いわタイプだけだったら“アクアテール”で押し切れたものを……くさタイプの技が必要だったわね。バクフーンは“ソーラービーム”を撃つ余裕もなくやられちゃったし」

「さて、こちらはつぎで最後のポケモンだ。きみのポケモンたちの攻撃は見事だったが……はははっ、かゆいかゆい!」

「追い詰められておいて、()()()で済むわけないでしょ。──ま、追い詰められてるのはこちらもかもだけど」

 チリアの手持ちで、満足に戦えそうなのは残り1体。それでもダメージを負っている。

「さあ、イワーク! お前の力を見せてやれ!」

「カポエラー! がんばんなさい」

 カポエラーはゴローンとの初戦でまあまあ体力を削られてしまっており、万全とは言い難い。しかしいまはかくとうタイプが頼りだ。

「“ねこだまし”!」

 いつもどおり、ほんのすこしだけダメージを与える。そして。

「これでとどめに……! “インファイト”!」

 イワークに急接近し、防御を捨てた拳と脚のラッシュ。高威力だがリスクがあるだけにカポエラーにとっては必殺技であった。

「うっ、いたたた……」

 タケシは苦々しく唸る。

 イワークは、倒れなかった。隠し持っていた『オボンのみ』で体力まで回復させている。

「耐えるか……さすがの硬さね」

「そうとも! おれのポケモンは硬くて我慢強い! “アイアンテール”だ!」

 硬質化したイワークの尾が、カポエラーを襲う。チリアはかつて、アサギジムでミカンのハガネールと戦った。イワークはハガネールの進化前であるが、決して見劣りしない。

 カポエラーは前の戦いのダメージが残っているし、“インファイト”の反動で防御が下がっている。

「あ」

 倒れたかと思われたカポエラーだが──そのまま頭の突起を支点に、回転を始めた。

「そっか。きみも根性あるよね。いい感じ」

 カポエラーはこの試合で、自分が切り札であるという自覚があった。

 いつも陽気で、手持ち6体のなかでもっとも新顔であるカポエラーだが、最強を目指すというチリアの趣旨を理解している。責任感だってある。

 ならば倒れるわけにはいかない。主人に失望されたくはない。

 チリアのために、回転する。

「“トリプルキック”!」

 その脚撃は、こんどこそイワークを打ち破った。




バクフーン ♂
 おくびょうな性格

トゲチック ♂
 さみしがりな性格

アーボック ♀
 しんちょうな性格

ブラッキー ♂
 まじめな性格

カイリュー ♀
 なまいきな性格

カポエラー ♂
 ようきな性格
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