ポケットモンスターNAVY ~暴投モンスターボール~   作:サンダーゴリラ

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レポート42 オツキミ山/月に踊る

「……守りを上回る、強烈な攻撃……おれの予想以上だ……!」

「じつはわたしも、ちょっと予想以上だった。──やるじゃんカポエラー」

 ステップがふらつくカポエラーを労いつつ、モンスターボールに戻す。

「さあ、このバッジを持っていってくれ!」

 タケシから灰色に輝く八角形のバッジを受け取った。これでカントー地方のバッジも6つ目だ。

「世の中は広いな……こんなに強いトレーナーがまだまだたくさんいるんだ。おれももっともっと、強いトレーナーになるよ!」

「どうぞがんばってね。わたしも最強になるから」

「最強……それはすごいな。……そういえば」

 ふと、タケシはなにかを思い出す。

「最近、オツキミ山のほうで強いトレーナーが修行をしていると聞いたな。それはきみ……じゃないよな? 男の子だと聞いたし」

「オツキミ山には行ったことない。修行場になるようなダンジョンなの?」

「そうだなあ……すこし前まで複雑な構造だったが、最近は整地されて、4番道路に行きやすくなったな。広場なんかも造られた。修行というならば、道中の3番道路にはトレーナーがたくさんいるな」

「ふーん……野宿する羽目にはならなそうね。行ってみようかな」

 無事にニビジムを去り行くチリアに。

「さすがは未来のレジェンド!」

 眼鏡のジム男が勝利を祝う。

「危なげない戦いだったぜ! 感動したよ、いやホント!」

「わりと危なかったわよ。ちゃんと見てた?」

 ポケモンセンターで、休憩しつつタウンマップでつぎの目的地を検討する。

 ニビシティか南下し、「トキワの森」を抜ければトキワシティ。ここにはジムがあるので目的地としては最適だが──

「やっぱり、オツキミ山に行こうかな」

 

 

「宇宙からの隕石……ね。これが? 眉唾物だな」

 3番道路の入り口付近にある、四つの岩石。博物館で聞いた噂では、宇宙から落下した隕石らしいのだが、「不思議なエネルギーが放出されているため運び出せない」だそうだ。バクフーンはくんくんと隕石のにおいを嗅ぐが、特別な様子はない。

「デマなのかマジなのか……どっちにしてもわたしには関係なさそうね。行くわよバクフーン」

 タケシの言ったとおり、3番道路にはたくさんのトレーナーがいた。なるほど、このあたりを修行の拠点とした場合、バトルには困らなさそうだ。

 十人近いトレーナーを容易く突破し、ご丁寧にダンジョンの手前に設けられたポケモンセンターで休憩をはさみ、チリアたちはオツキミ山に入山した。

 ──すると。

「よお、チリアじゃないか。お前もカントーに来てたのか」

 先客がいた。

「シルバ……シルっちょ」

「変な呼び方をするな! わざわざ! いまふつうに名前言いかけただろ!」

 赤髪の少年と最後に会ったのは、チャンピオンロードのゴールだ。まさかカントー地方で再会するとは思っていなかったので、チリアは珍しく驚いてしまった。

「久しぶりね、シルバー。カントーには観光で? ……なわけないよね。修行かしら」

「まあな。こっちのトレーナーにもけっこう強いやつがいるからな。ポケモンを育てるのに都合がいいぜ」

 タケシが言っていたオツキミ山で修行しているというトレーナーは、十中八九シルバーのことだろう。

 それにしても──「ポケモンを育てる」とは。なんてことはないセリフだが、シルバーの口から発せられた言葉には、いままでの彼とは違った柔らかさがあった。

「チリア!」

 そんなシルバーの瞳が、強い炎を宿したものに代わる。

「お前が強いのは、もうオレにもわかってる……だけどオレは……」

「やろう、シルバー」

 久しい再会とはいえ、旧交を温めるような優しい関係性でもない。

 チリアの言葉とともに、バクフーンが少女に並んだ。

「あなたとわたしがこうして出会ったら、戦わずにはいられない。そうよね?」

「ああ! 前に言ったとおり、オレの持てる力をすべて出して、お前を負かしてやる!」

「前に言ったとおり、またわたしが勝つけどね」

 

 

「ゲンガー、“あやしいひかり”!」

 影のような身体から発せられる光に、カイリューは『こんらん』状態となってしまう。

「しっかりしなさいカイリュー! “ドラゴンダイブ”!」

「反撃だ! “シャドーボール”!」

 シルバーとの戦いは後半戦に突入していた。白熱するバトルにチリアは額に汗すら浮かべている。彼は強くなっている。

 ゴーストからゲンガーに進化しているのは目に見える成長だが──やはり最たる成長は、シルバーとポケモンの戦い方そのものだ。

「さっきから思ってたけど、なんだかポケモンと息が合ってるわね。よほど修行したと見える」

「当然だ! お前に勝つことを目標に、いろいろと慣れない努力をやってきたんだ! ゲンガー、もう一発“シャドーボール”!」

「“そらをとぶ”!」

 カイリューは上空に飛び上がって、“シャドーボール”自体は回避に成功するものの、『こんらん』のためか天井に衝突してしまった。オツキミ山が揺れる。

「くっ……『こんらん』が解けるまでは“そらをとぶ”だと却ってリスクがあるかな……だったら“ドラゴンダイブ”!」

 しかし、カイリューの突撃はゲンガーに避けられてしまい、またもや壁に衝突してしまう。

「す……すげえカイリューだな……」

 壁面の一部が砕ける様に、シルバーは戦慄した。もしカイリューが正常な状態だったならば、とっくにゲンガーは倒されていただろう。

「ワタルのカイリューにも負けてないつもりよ。だから、『こんらん』なんかにやられてたまるか」

 カイリューの再度、“そらをとぶ”。

 さんざん自分を痛めつけたおかげか、ようやく『こんらん』を振り払っていた。上空からの翼の一撃を喰らい、ゲンガーは戦闘不能となる。

「チッ! 交代だ! フーディン!」

 ナツメも使っていた、両手にスプーンを構えた強力なエスパーポケモンだ。きっとすぐにカイリューにとどめを刺しにくるだろうが──

「“しんそく”!」

 フーディンが攻撃に入る前に、カイリューは超高速で突撃した。

 進化したことにより、いままでよりただでさえ神速の攻撃がさらに速くなっている。

「ぐっ……! フーディン、“サイコキネシス”だ!」

 反撃の念波を浴びて、カイリューは『ひんし』となってしまった。

「いい感じだったわ。じゃあエスパー相手だし──ブラッキー!」

 チリアが投げたボールは洞窟の壁にぶつかったが、黒い影は素早くバトルフィールドに駆けた。

「 “あくのはどう”!」

「やっぱりあくタイプで来るか……だったらせめて、つぎの戦いにつなげる! フーディン、“リフレクター”だ!」

 物理攻撃を軽減するバリアが貼られる。もしフーディンが倒れてもこの“リフレクター”は継続する。

「ふうん、伊達にカントーまで来てないわね。──とりあえずとどめ。“あくのはどう”」

 黒い波に呑まれ、フーディンは戦闘不能となった。

「つぎで最後のポケモンよね?」

 チリアは、ブラッキーをボールに戻す。

「ああ。でも、追い詰めた気になるなよ。こいつはオレのエースだ!」

「だったらこっちも」

 両者、ボールを投げる。

 チリアが投げたモンスターボールは、天高く、飛んで──

 落下地点は、

「危ねっ!」

 シルバーは、自分の頭を目がけて飛んで来たボールを避けた。

「ああ、ごめん」

「お前はもうボールを投げるな!」

 バクフーンはずいぶん遠くに出てきてしまったが、急いでチリアのもとに戻る。

 そしてオーダイルと対峙する。

 この2体は友であり、同時にライバルでもある。戦うときはいつだって、互いの誇りをかけている。

「バクフーン、“にほんばれ”」

 従来の戦いと同様に、バクフーンは洞窟内を小太陽で照らして、みずタイプの威力を弱める。

「やっぱりそうくるか……でも関係ない! とにかく攻めろオーダイル! “たきのぼり”!」

 効果抜群の一撃だが、日差しにより期待した威力は出ない。

「 “ソーラービーム”!」

 そしてさらに前回同様、バクフーンは日差しによりチャージ時間が短縮された、くさタイプの光線を発射する。

「これで……!」

「まだだ!」

 ここからが、前回の戦いと筋書きが異なった。

 オーダイルは耐えた。震える脚で立ち上がり、牙はまだバクフーンに向けられている。

「すごいね……いや、感心してる場合じゃないわ。たしかオーダイルの特性は……」

「もう一度、“たきのぼり”だ!」

 特性『げきりゅう』。体力がピンチを迎えた際、みずタイプの威力を増大させる特性だ。水流をまとった突撃は、先ほどよりも高威力であり──

「バクフーン……!」

 ボディに“たきのぼり”の直撃を受けたバクフーンは、踏ん張ることができず、倒れて『ひんし』となってしまった。

「よし! よくやったぞオーダイル!」

「お見事。これはわたしの戦略ミスだわ。ポケモンとタイプが一致していない“ソーラービーム”に頼り切っていた。慢心ともいえる」

 バクフーンをボールに戻す。

 そしてアーボックを繰り出す。

「あ……お、オーダイル! まだだ!」

「“どくづき”」

 アーボックの尾に突かれて、オーダイルは『ひんし』になった。

「楽しかったわよ。シルバー」

「ちくしょう!!」

 

 

 オツキミ山広場。

 山の中腹にある屋外の庭園だ。売店を訪ねるつもりだったのだが、すでに閉店していた。

「もう夜だもんね。けっこう長いこと戦ってたんだ」

「しょうがねえ。手持ちのアイテムを使うか」

 夜風を浴びるチリアとブラッキー。その隣のシルバーは、『ひんし』のポケモンたちにぶっきらぼうな手つきながらも、手早く確実に回復を行う。

「まだまだ育て方が足りねえか……こいつら弱いから、負けちまうとムカつくけど……戦い繰り返すうちにちょっとずつ成長してるのがわかるんだよな……」

「……そっか」

 微笑ましく自分たちを見つめる少女の視線に、シルバーは照れ隠しのように、アイテムを使う手が乱暴になる。

「……ちっ! それでもこいつらまだまだ弱っちいんだよ!」

 空には金色の満月。

 月を映す湖の周りに、いつしか山に棲むピッピたちが集まってきた。儀式のように踊るピッピ。遠目に自分たちを眺める少年少女には、どうやら気づいていない。

「ピッピねえ……お前もああいう、カワイイ系のポケモンが好きなのか? 女ってそうだろ」

「偏見ね。そんなわけないじゃない。わたしは無類のポケモン嫌いよ」

「……そういえばそうだったな」

 たまに失念してしまう。手持ちポケモンと強い信頼関係を結んでいるようなチリアだが、彼女はポケモン嫌いだった。

 きっかけとなる大きなトラウマまであるという──失念どころか失言だったかも、とシルバーは不安を覚えるが、チリアはまるで気にしていないように、つまらなさそうにあくびをしながら、踊るピッピたちを眺めている。

「お前は、ほんとうに最強になるんだな」

 チャンピオンロードでのバトル。そして今回のバトルで、シルバーにははっきりと分かった。

 チリアは自分より強い。それだけではなく、最強という目標にまっすぐ向かって行っている。

 敗北感を通り越して、清々しいくらいだ。

「当然じゃない。あなたは違うの、シルバー?」

「……オレが?」

「初めて会ったとき、わたしに勝って言ったじゃない。『……オレがだれだか知りたいか? それは……世界でいちばん強いポケモントレーナーになる男さ』って」

 そこまで鮮明に記憶されていては、気恥ずかしさすら覚えてくる。

「わたしは天才だからさ、なんでもかんでも上手くできた。それまでだれかに負けたことなんてなかった。──まあ、ポケモンでバトルするのも初めてだったんだけどさ。とにかく、負けるってことを初めて経験したわ」

「………………」

「悔しかったし、なにより敗北を体験した『ポケモンバトル』に興味が湧いた。そういうわけで、あなたへの対抗として『最強になる』って目標を設けてみた」

 もしもあのとき、チリアとシルバーが出会っていなかったら。

 あるいは──チリアがシルバーに勝利していたのならば。

「あの日の敗北が、いまのわたしを作った」

「……とんでもないことしちまったな、オレは」

 シルバーは、深く、深く、ため息をついた。

「オレのせいで……『ジョウトの魔女』と呼ばれるようなトレーナーが……」

「なにそれ?」

「いや、なんでもない。そういうことなら……オレも最強のトレーナーを諦めるわけにはいかないな」

 敗北は、きっかけにもなれば、糧にもなる。

 シルバーは口元に、かすかに笑みを浮かべた。

「いつかオレが、お前を引きずり下ろす。だから──遠慮せずに、先になっていいぜ。……最強にな」

「……そうする」

 チリアも、思わず笑った。晴れやかな笑みだった。

 月明かりの下で、ピッピたちは踊り続ける。

「ポケモン嫌いが最強のポケモントレーナーになったら、痛快だぜ。……きっと、お前が失ったひとも報われるだろう」

「……報われる? なに? どういう意味?」

「…………?」

 少女と少年は、顔を見合わせて、互いに首を傾げる。

 チリアが、ポケモン嫌いになった理由。

 大切な者を、ポケモンに奪われた、と。

 一体彼女に──というか、その「大切な者」になにがあったのか、想像に難くない。そう思っていたシルバーなのだが……

「あ、あのー、チリア……さん。つかぬことをお伺いしますのだが」

「なんで急に敬語? 似合わないわ」

「いや、その、なんだかオレの認識に誤解があるかもしれないから、ちょっと確認したいんだが……でも、たぶんデリケートな話だから、言いたくないのなら、無理に聞き出すつもりはなくて……」

 チリアはおさげを指でいじって、その目が嘲笑するように妖しく光る。

「まどろっこしいわ、シルバー。はっきり言いなさい。男でしょ」

「つまり──」

 意を決して、尋ねた。

「お前がポケモンを嫌いになった理由って……具体的に、なにがあったわけ?」




バクフーン ♂
 おくびょうな性格

トゲチック ♂
 さみしがりな性格

アーボック ♀
 しんちょうな性格

ブラッキー ♂
 まじめな性格

カイリュー ♀
 なまいきな性格

カポエラー ♂
 ようきな性格
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