ポケットモンスターNAVY ~暴投モンスターボール~ 作:サンダーゴリラ
「……守りを上回る、強烈な攻撃……おれの予想以上だ……!」
「じつはわたしも、ちょっと予想以上だった。──やるじゃんカポエラー」
ステップがふらつくカポエラーを労いつつ、モンスターボールに戻す。
「さあ、このバッジを持っていってくれ!」
タケシから灰色に輝く八角形のバッジを受け取った。これでカントー地方のバッジも6つ目だ。
「世の中は広いな……こんなに強いトレーナーがまだまだたくさんいるんだ。おれももっともっと、強いトレーナーになるよ!」
「どうぞがんばってね。わたしも最強になるから」
「最強……それはすごいな。……そういえば」
ふと、タケシはなにかを思い出す。
「最近、オツキミ山のほうで強いトレーナーが修行をしていると聞いたな。それはきみ……じゃないよな? 男の子だと聞いたし」
「オツキミ山には行ったことない。修行場になるようなダンジョンなの?」
「そうだなあ……すこし前まで複雑な構造だったが、最近は整地されて、4番道路に行きやすくなったな。広場なんかも造られた。修行というならば、道中の3番道路にはトレーナーがたくさんいるな」
「ふーん……野宿する羽目にはならなそうね。行ってみようかな」
無事にニビジムを去り行くチリアに。
「さすがは未来のレジェンド!」
眼鏡のジム男が勝利を祝う。
「危なげない戦いだったぜ! 感動したよ、いやホント!」
「わりと危なかったわよ。ちゃんと見てた?」
ポケモンセンターで、休憩しつつタウンマップでつぎの目的地を検討する。
ニビシティか南下し、「トキワの森」を抜ければトキワシティ。ここにはジムがあるので目的地としては最適だが──
「やっぱり、オツキミ山に行こうかな」
:
「宇宙からの隕石……ね。これが? 眉唾物だな」
3番道路の入り口付近にある、四つの岩石。博物館で聞いた噂では、宇宙から落下した隕石らしいのだが、「不思議なエネルギーが放出されているため運び出せない」だそうだ。バクフーンはくんくんと隕石のにおいを嗅ぐが、特別な様子はない。
「デマなのかマジなのか……どっちにしてもわたしには関係なさそうね。行くわよバクフーン」
タケシの言ったとおり、3番道路にはたくさんのトレーナーがいた。なるほど、このあたりを修行の拠点とした場合、バトルには困らなさそうだ。
十人近いトレーナーを容易く突破し、ご丁寧にダンジョンの手前に設けられたポケモンセンターで休憩をはさみ、チリアたちはオツキミ山に入山した。
──すると。
「よお、チリアじゃないか。お前もカントーに来てたのか」
先客がいた。
「シルバ……シルっちょ」
「変な呼び方をするな! わざわざ! いまふつうに名前言いかけただろ!」
赤髪の少年と最後に会ったのは、チャンピオンロードのゴールだ。まさかカントー地方で再会するとは思っていなかったので、チリアは珍しく驚いてしまった。
「久しぶりね、シルバー。カントーには観光で? ……なわけないよね。修行かしら」
「まあな。こっちのトレーナーにもけっこう強いやつがいるからな。ポケモンを育てるのに都合がいいぜ」
タケシが言っていたオツキミ山で修行しているというトレーナーは、十中八九シルバーのことだろう。
それにしても──「ポケモンを育てる」とは。なんてことはないセリフだが、シルバーの口から発せられた言葉には、いままでの彼とは違った柔らかさがあった。
「チリア!」
そんなシルバーの瞳が、強い炎を宿したものに代わる。
「お前が強いのは、もうオレにもわかってる……だけどオレは……」
「やろう、シルバー」
久しい再会とはいえ、旧交を温めるような優しい関係性でもない。
チリアの言葉とともに、バクフーンが少女に並んだ。
「あなたとわたしがこうして出会ったら、戦わずにはいられない。そうよね?」
「ああ! 前に言ったとおり、オレの持てる力をすべて出して、お前を負かしてやる!」
「前に言ったとおり、またわたしが勝つけどね」
:
「ゲンガー、“あやしいひかり”!」
影のような身体から発せられる光に、カイリューは『こんらん』状態となってしまう。
「しっかりしなさいカイリュー! “ドラゴンダイブ”!」
「反撃だ! “シャドーボール”!」
シルバーとの戦いは後半戦に突入していた。白熱するバトルにチリアは額に汗すら浮かべている。彼は強くなっている。
ゴーストからゲンガーに進化しているのは目に見える成長だが──やはり最たる成長は、シルバーとポケモンの戦い方そのものだ。
「さっきから思ってたけど、なんだかポケモンと息が合ってるわね。よほど修行したと見える」
「当然だ! お前に勝つことを目標に、いろいろと慣れない努力をやってきたんだ! ゲンガー、もう一発“シャドーボール”!」
「“そらをとぶ”!」
カイリューは上空に飛び上がって、“シャドーボール”自体は回避に成功するものの、『こんらん』のためか天井に衝突してしまった。オツキミ山が揺れる。
「くっ……『こんらん』が解けるまでは“そらをとぶ”だと却ってリスクがあるかな……だったら“ドラゴンダイブ”!」
しかし、カイリューの突撃はゲンガーに避けられてしまい、またもや壁に衝突してしまう。
「す……すげえカイリューだな……」
壁面の一部が砕ける様に、シルバーは戦慄した。もしカイリューが正常な状態だったならば、とっくにゲンガーは倒されていただろう。
「ワタルのカイリューにも負けてないつもりよ。だから、『こんらん』なんかにやられてたまるか」
カイリューの再度、“そらをとぶ”。
さんざん自分を痛めつけたおかげか、ようやく『こんらん』を振り払っていた。上空からの翼の一撃を喰らい、ゲンガーは戦闘不能となる。
「チッ! 交代だ! フーディン!」
ナツメも使っていた、両手にスプーンを構えた強力なエスパーポケモンだ。きっとすぐにカイリューにとどめを刺しにくるだろうが──
「“しんそく”!」
フーディンが攻撃に入る前に、カイリューは超高速で突撃した。
進化したことにより、いままでよりただでさえ神速の攻撃がさらに速くなっている。
「ぐっ……! フーディン、“サイコキネシス”だ!」
反撃の念波を浴びて、カイリューは『ひんし』となってしまった。
「いい感じだったわ。じゃあエスパー相手だし──ブラッキー!」
チリアが投げたボールは洞窟の壁にぶつかったが、黒い影は素早くバトルフィールドに駆けた。
「 “あくのはどう”!」
「やっぱりあくタイプで来るか……だったらせめて、つぎの戦いにつなげる! フーディン、“リフレクター”だ!」
物理攻撃を軽減するバリアが貼られる。もしフーディンが倒れてもこの“リフレクター”は継続する。
「ふうん、伊達にカントーまで来てないわね。──とりあえずとどめ。“あくのはどう”」
黒い波に呑まれ、フーディンは戦闘不能となった。
「つぎで最後のポケモンよね?」
チリアは、ブラッキーをボールに戻す。
「ああ。でも、追い詰めた気になるなよ。こいつはオレのエースだ!」
「だったらこっちも」
両者、ボールを投げる。
チリアが投げたモンスターボールは、天高く、飛んで──
落下地点は、
「危ねっ!」
シルバーは、自分の頭を目がけて飛んで来たボールを避けた。
「ああ、ごめん」
「お前はもうボールを投げるな!」
バクフーンはずいぶん遠くに出てきてしまったが、急いでチリアのもとに戻る。
そしてオーダイルと対峙する。
この2体は友であり、同時にライバルでもある。戦うときはいつだって、互いの誇りをかけている。
「バクフーン、“にほんばれ”」
従来の戦いと同様に、バクフーンは洞窟内を小太陽で照らして、みずタイプの威力を弱める。
「やっぱりそうくるか……でも関係ない! とにかく攻めろオーダイル! “たきのぼり”!」
効果抜群の一撃だが、日差しにより期待した威力は出ない。
「 “ソーラービーム”!」
そしてさらに前回同様、バクフーンは日差しによりチャージ時間が短縮された、くさタイプの光線を発射する。
「これで……!」
「まだだ!」
ここからが、前回の戦いと筋書きが異なった。
オーダイルは耐えた。震える脚で立ち上がり、牙はまだバクフーンに向けられている。
「すごいね……いや、感心してる場合じゃないわ。たしかオーダイルの特性は……」
「もう一度、“たきのぼり”だ!」
特性『げきりゅう』。体力がピンチを迎えた際、みずタイプの威力を増大させる特性だ。水流をまとった突撃は、先ほどよりも高威力であり──
「バクフーン……!」
ボディに“たきのぼり”の直撃を受けたバクフーンは、踏ん張ることができず、倒れて『ひんし』となってしまった。
「よし! よくやったぞオーダイル!」
「お見事。これはわたしの戦略ミスだわ。ポケモンとタイプが一致していない“ソーラービーム”に頼り切っていた。慢心ともいえる」
バクフーンをボールに戻す。
そしてアーボックを繰り出す。
「あ……お、オーダイル! まだだ!」
「“どくづき”」
アーボックの尾に突かれて、オーダイルは『ひんし』になった。
「楽しかったわよ。シルバー」
「ちくしょう!!」
:
オツキミ山広場。
山の中腹にある屋外の庭園だ。売店を訪ねるつもりだったのだが、すでに閉店していた。
「もう夜だもんね。けっこう長いこと戦ってたんだ」
「しょうがねえ。手持ちのアイテムを使うか」
夜風を浴びるチリアとブラッキー。その隣のシルバーは、『ひんし』のポケモンたちにぶっきらぼうな手つきながらも、手早く確実に回復を行う。
「まだまだ育て方が足りねえか……こいつら弱いから、負けちまうとムカつくけど……戦い繰り返すうちにちょっとずつ成長してるのがわかるんだよな……」
「……そっか」
微笑ましく自分たちを見つめる少女の視線に、シルバーは照れ隠しのように、アイテムを使う手が乱暴になる。
「……ちっ! それでもこいつらまだまだ弱っちいんだよ!」
空には金色の満月。
月を映す湖の周りに、いつしか山に棲むピッピたちが集まってきた。儀式のように踊るピッピ。遠目に自分たちを眺める少年少女には、どうやら気づいていない。
「ピッピねえ……お前もああいう、カワイイ系のポケモンが好きなのか? 女ってそうだろ」
「偏見ね。そんなわけないじゃない。わたしは無類のポケモン嫌いよ」
「……そういえばそうだったな」
たまに失念してしまう。手持ちポケモンと強い信頼関係を結んでいるようなチリアだが、彼女はポケモン嫌いだった。
きっかけとなる大きなトラウマまであるという──失念どころか失言だったかも、とシルバーは不安を覚えるが、チリアはまるで気にしていないように、つまらなさそうにあくびをしながら、踊るピッピたちを眺めている。
「お前は、ほんとうに最強になるんだな」
チャンピオンロードでのバトル。そして今回のバトルで、シルバーにははっきりと分かった。
チリアは自分より強い。それだけではなく、最強という目標にまっすぐ向かって行っている。
敗北感を通り越して、清々しいくらいだ。
「当然じゃない。あなたは違うの、シルバー?」
「……オレが?」
「初めて会ったとき、わたしに勝って言ったじゃない。『……オレがだれだか知りたいか? それは……世界でいちばん強いポケモントレーナーになる男さ』って」
そこまで鮮明に記憶されていては、気恥ずかしさすら覚えてくる。
「わたしは天才だからさ、なんでもかんでも上手くできた。それまでだれかに負けたことなんてなかった。──まあ、ポケモンでバトルするのも初めてだったんだけどさ。とにかく、負けるってことを初めて経験したわ」
「………………」
「悔しかったし、なにより敗北を体験した『ポケモンバトル』に興味が湧いた。そういうわけで、あなたへの対抗として『最強になる』って目標を設けてみた」
もしもあのとき、チリアとシルバーが出会っていなかったら。
あるいは──チリアがシルバーに勝利していたのならば。
「あの日の敗北が、いまのわたしを作った」
「……とんでもないことしちまったな、オレは」
シルバーは、深く、深く、ため息をついた。
「オレのせいで……『ジョウトの魔女』と呼ばれるようなトレーナーが……」
「なにそれ?」
「いや、なんでもない。そういうことなら……オレも最強のトレーナーを諦めるわけにはいかないな」
敗北は、きっかけにもなれば、糧にもなる。
シルバーは口元に、かすかに笑みを浮かべた。
「いつかオレが、お前を引きずり下ろす。だから──遠慮せずに、先になっていいぜ。……最強にな」
「……そうする」
チリアも、思わず笑った。晴れやかな笑みだった。
月明かりの下で、ピッピたちは踊り続ける。
「ポケモン嫌いが最強のポケモントレーナーになったら、痛快だぜ。……きっと、お前が失ったひとも報われるだろう」
「……報われる? なに? どういう意味?」
「…………?」
少女と少年は、顔を見合わせて、互いに首を傾げる。
チリアが、ポケモン嫌いになった理由。
大切な者を、ポケモンに奪われた、と。
一体彼女に──というか、その「大切な者」になにがあったのか、想像に難くない。そう思っていたシルバーなのだが……
「あ、あのー、チリア……さん。つかぬことをお伺いしますのだが」
「なんで急に敬語? 似合わないわ」
「いや、その、なんだかオレの認識に誤解があるかもしれないから、ちょっと確認したいんだが……でも、たぶんデリケートな話だから、言いたくないのなら、無理に聞き出すつもりはなくて……」
チリアはおさげを指でいじって、その目が嘲笑するように妖しく光る。
「まどろっこしいわ、シルバー。はっきり言いなさい。男でしょ」
「つまり──」
意を決して、尋ねた。
「お前がポケモンを嫌いになった理由って……具体的に、なにがあったわけ?」
バクフーン ♂
おくびょうな性格
トゲチック ♂
さみしがりな性格
アーボック ♀
しんちょうな性格
ブラッキー ♂
まじめな性格
カイリュー ♀
なまいきな性格
カポエラー ♂
ようきな性格