ポケットモンスターNAVY ~暴投モンスターボール~   作:サンダーゴリラ

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レポート44 マサラタウン/さらばスイクン

 夜中に4番道路を抜けて、そのままハナダシティに宿泊した。

 ハナダジムのバッジは取得済み。すでに用がないはずのこの街を訪れた理由は──

「北のほうの……水辺を好み……高台になったところ……といったらやっぱり、『ハナダの岬』よね」

 街から北上し、25番道路。

「いたいた。お待たせしちゃったかしら」

 ハナダの岬の高台。少女の目の前には、水晶の角を持つポケモン、スイクンが立ちはだかっていた。

「エンジュの焼けた塔で出会って以来、ライコウ、エンテイ……そのうちきみだけは、やけに鉢合わせる機会が多かったわね。それだけわたしのことが気になったってことかしら?」

 スイクンは、こちらを睨みつけたまま動く気配はない。

「逃げないってことは……こんどこそ、やる気?」

 チリアは背後で構えているポケモンに目配せをする。

「ミナキほどきみに執着はないけど、興味自体はあるわ」

 バクフーンが少女の前に出る。

「じゃあ、やろっか。きょうは()()()()()()もいないみたいだし……」

「スイクン! チリアー!!」

 心配していたマントの男が、全力疾走で駆けつけた。

 チリアは大きくため息をついた。心なしかスイクンもおなじ様子であったようだ。

「来たかオジャマム……じゃなくてミナキ……」

「ああ、もちろん! スイクンあるところに……」

 しかし今回、ミナキは相対する少女とスイクンを見比べて、口をつぐんだ。

 おとななだけあって、さすがに空気を読める能力は備わっているらしい。

「……いいんだ、気にするな。エンジュの焼けた塔で初めて会ったときから、なんとなくわかっていたんだ。スイクンはきっときみを選ぶだろうってね」

「え、なに?」

 たしかにチリアは、スイクンとの決着をつけるためにこの『ハナダの岬』に来た。すなわちバトルするつもりではあるのだが、選ぶなんて──ゲットするようなことなんて毛頭ない。

「ねえミナキ……」

「ほら見てごらん! スイクンは待ってるぜ! 自分の身を預けるだけの 力を持ったトレーナーと、全力で戦えるのを!」

 どうやら彼は聞く耳を持たない。いつものように。

「まあ、べつにいいんだけど。この戦いの当事者はわたしたちだけだし」

 あらためて、チリアとバクフーンはスイクンに向かい合う。

 彼の主──ホウオウとの戦いは、勝利とは言い難い結果だった。

 チリアは数匹のポケモンでかかって、その上で相打ち──というのもおこがましい。なんとなく満足したところで、途中終了。なんならチリアの降参といってもいい。

 だが、ホウオウと戦ったときよりも、チリアはより最強に近づいた。今回は勝つつもりで挑む。

「みずタイプ……だけかしら? だったらバクフーンは不利だけど」

 交代はさせない。バクフーンに目配せして、先手を取る。

「“にほんばれ”!」

 みずタイプの技の威力を下げるべく、岬に太陽を呼ぶ。

 ──が。スイクンの紫のたてがみが、煙と化して空に昇っていく。

「おっとこれは……」

 煙は雨雲となり、岬に雨が降った。

「“あまごい”か!」

 感心したようにミナキが叫ぶ。

「負けるなチリア! もう一度“にほんばれ”だ!」

「するわけないでしょ。そんないたちごっこは時間の無駄よ。バクフーン、“きあいだま”!」

 かくとうタイプのエネルギー弾を放つ。が、命中が高い技ではないので避けられてしまった。

 スイクンは“しろいきり”で身体を覆う。能力を下げられなくする技だ。これで、“きあいだま”により特殊防御を下げることも期待できなくなったわけだ。

「ホウオウもそうだけど、こいつも頭良いな……まるでバクフーンに対策してきたみたい」

 バクフーンはもう一度、“きあいだま”を放つ。今度は命中するが、一発では倒れない。

「おっと、こおりタイプは入ってないか」

「なに!? スイクンはみずタイプ単体なんだぞ! たしかにあの美しい水晶は氷みたいに見えるかもしれないが……」

「ミナキ、黙れる?」

 “きあいだま”をメインとして使っていきたいところだが、命中に不安があるし、そろそろみずタイプの攻撃が来るだろう。そうなったらバクフーンは一撃で倒れるかもしれない。

 雨が降っている状態では、ほのおタイプの技だけではなく“ソーラービーム”の威力も下がる。現在、バクフーンは使える4つの技のうち最後の1つは──

「“ふんえん”!」

 いつもよりずっと威力が低い噴炎。狙いは追加効果の『やけど』だ。スイクンは炎に警戒しつつ、羽衣のような尾から風を巻き起こす。

「これは……“かぜおこし”?」

 ひこうタイプの特殊攻撃。旅の初めのほうでよく目にした、あまり高威力の技ではない。

 続いてスイクンは虹色の光線を発射する。光線はバクフーンに直撃するも、効果はいまひとつ。

「“オーロラビーム”かな。なんか……」

 チリアは、バクフーンに一旦距離を取らせる。そしておさげを指でいじって、思考する。

「なぜみずタイプの技を使わない……?」

「どうしたチリア! がんがん攻めろ!」

「黙れミナキ」

 スイクンは再度、“オーロラビーム”を発射する。追加効果で攻撃が下げられてしまったが、バクフーンは特殊攻撃を主に使うので支障はない。

「“あまごい”、“しろいきり”、“かぜおこし”に“オーロラビーム”……これまで見せた技は4つ。まさかみずタイプの技を習得していないなんてことはないでしょう」

 やがて、“あまごい”の効果が終了して雨雲が晴れる。

「公式試合のつもり? 野生ポケモンのくせに……まあいい」

 とにかく、チリアはバクフーンに“ふんえん”を指示する。灼けつく炎は、こんどこそスイクンに『やけど』状態を負わせた。

「バクフーン、“ソーラービーム”を使うよ」

 太陽の光をチャージする。スイクンは“かぜおこし”で妨害を試みるも、バクフーンはひるまない。

「発射」

 太陽光線は、スイクンに直撃する。その青い身体は、膝からぐらりと崩れ落ちた。

「やった! すごいぞチリア!」

「………………」

 少女は、倒れたスイクンに近づく。

「どういうつもりか知らないけど、勝つ気もなくかかってこられるのはやな感じよいい感じじゃないわ」

 スイクンは弱々しい目で少女を見上げる。

「わたしの力量を知りたいのなら、全力でかかってくることね。1匹じゃ心細いなら、ほかの2匹も連れて来なさい。なんならホウオウもね」

「ええ……それはさすがに無茶だろ……」

 静かに引くミナキ。

「負けないわよ。近いうち、わたしは最強になってるはずだから」

 傲岸不遜なチリアの態度になにを納得したのか、スイクンは立ち上がり、そして踵を返した。

 最後に少女を一瞥して、風のように去って行った。

「チリア……見事なもんだぜ……」

 ミナキは拍手をしながら少女に歩み寄ってくる。

「これほどの戦いを見せてもらったら、なにも文句はないよ……」

「大したバトルじゃなかったでしょ。スイクンはわたしを試したかっただけで……」

「ひょっとして、捕まえてほしかったんじゃないか?」

 ミナキの言葉に、少女は首を傾げる。

「まさか」

 鼻で笑うチリア。

「さ、スイクンがほんとうに仲間たちを連れて来るか知らないけど、とりあえずやつとの因縁もひと区切りついたでしょ。あなたともね」

「……そうだな」

 ミナキはマントをたなびかせ、ハナダの岬から去って行く。

「さらばスイクン! さらば……チリア!」

 これでもう二度とミナキと会うことはないかもしれない。

 そう思うと──ほっとした。

 

 

 “そらをとぶ”でニビシティまで戻って、街から南の『トキワの森』へ。

「うわ……草むらだらけ。むしポケモンばっかりだし」

 高い木々が迷路のように並んでおり、日差しの入りも少なく、薄暗い。

 トゲチックとともに草むらを歩く少女の前を、黄色い影が横切る。

「あ、ピカチュウだ」

 鮮やかな黄色い身体を持つ、でんきタイプのポケモンは、一瞬だけ少女を見つめたかと思うと、さっと姿を消した。

「あれって人気らしいわね。……どこがいいのかしら」

 ひどいことを言いながら、時間をかけて森を抜ける。日暮れまでにはトキワシティに到着することができた。

 

────

 ここはトキワシティ。

 永遠なる緑の街。

────

 

 ジムリーダーは不在だった。

「出たわね不在パターン。だったら、あとジムのある街は、えーと……さらに南下して海を渡らなくちゃいけないのか。面倒ね」

 1番道路で数人のトレーナーと戦ったのち、マサラタウンという小さな町に到着した。

 すっかり日が落ちている。が、困ったことに。

「ポケモンセンターが……ない……!?」

 町にはいくつかの民家と、ポケモン研究所があるのみ。宿泊施設を兼ねたポケモンセンターは存在しない。

「嘘でしょ……いまどきポケセンがないド田舎町が存在するの……? もはや人間の住む場所ですらないと言っても過言ではないわ」

 ワカバタウンを棚に上げて、ぶつぶつと文句を言う。“そらをとぶ”でべつの街に戻るしかないか──とカイリューを呼ぼうとしたところに。

「あら、旅のトレーナーさん?」

 不意に、緑色のカチューシャを着けた若い女性が話しかけてきた。

「……ええ。あなたはこの町のひと?」

「そうよ。マサラにはポケモンセンターがないけど……ひょっとして、そのことで困ってる?」

 そんなにチリアのことが途方に暮れているように見えたのか。もしくはこの町ではよくある光景なのか。とにかくチリアは「まあね」と頷いた。

「良かったら、うちに泊まっていかない?」

 女性の唐突な申し出に、思わずチリアは「は?」と聞き返す。

「遠慮しないでいいのよ。女の子がこんな時間に外を出歩くのは危ないわ。それにちょうど夕飯時だしね」

「いや、さすがに……迷惑でしょう」

「いいのいいの! うちの弟もおじいちゃんも、最近、仕事の都合であんまり帰って来ないから、寂しいんだ。ね、旅の話を聞かせてちょうだい!」

 半ば強引に手を引かれ、チリアは彼女──ナナミという女性の家にお邪魔することになった。

「じゃあチリアちゃんはカントー地方のバッジを集めてるのね」

 夕食をいただいた後、お茶をともに旅について話す。

「トキワジムには行った?」

「きょう行ったんだけど、ジムリーダーが不在だった。困ったものよ」

「うん……ほんとうにごめんね。わたしの弟がトキワシティのジムリーダーなんだけど、チリアちゃんのおっしゃる通り、しょっちゅうジムを留守にしてみんなを困らせてるみたい」

 まさか身内だったとは。「困ったものよ」とは言わなかったほうが良かったかもしれない。

「きょうとあしたはグレンの様子見に行くって言ってたわ。遅くても、明後日にはトキワに戻る……といいんだけど」

「グレン……何ヶ月か前に、火山が噴火したとかで大変なことになってなかった?」

「そうそう。で、その後の様子を見に行っているの」

 ジムリーダーは、ポケモンリーグに属する公的な活動が認められたトレーナーだ。所属する地方、街で事件が起ころうものならば、その秩序を守るために活動する義務がある。

 とはいえ。

「自然災害まで対応するなんて、たいへんね。……ん? トキワシティのジムリーダーなんだから、グレン島は管轄が違うんじゃないの?」

「うーん……あの子の場合、お仕事とはちょっと違うかな。もちろんボランティアってわけでもなくてね」

 一瞬、ナナミの表情が切なそうに曇る。

「つらい現実に、向き合いに行ってるのかも」

「………………」

 だとしたら奇特な男だな、と思ったが、さすがに口には出さなかった。

「チリアちゃん。よかったら、ポケモンたちに毛づくろいをしてあげましょっか?」

 話題を変えるためなのか、ナナミの提案は少々突然であった。

「毛づくろいをすれば毛づやが上がって美しくなり、さらに懐いてくれると思うわ。どう? こう見えてもわたし、旅をしていたころはポケモンコーディネーターだったの」

「コーディネーターっていうと、たしかポケモンコンテストの選手?」

 バトルとは異なり、育てたポケモンの容姿や技をショー形式で魅せることにより競う大会。それがポケモンコンテストだ。チリアの正確な記憶では、ホウエン地方とシンオウ地方で盛んな分野であったはずだ。

「そうそう。カントーとジョウトでは開催されてないから、ちょっと馴染みは薄いかしら? ──さ、まずはどの子から毛づくろいしましょうか?」

「じゃあ……お言葉に甘えようかしら」

 手持ちのなかでもっとも体格が小さく、かつ比較的人見知りしないトゲチックを預けることにした。

「良い毛並み。普段からちゃんとブラッシングしているわね。毛づやもいい。チリアちゃんは、愛情を持ってポケモンを育ててるのね」

「そうでもないわ」

 ナナミのブラシを受けるトゲチックは、やがていままでに見せたことがないような、恍惚としたとろけた表情になった。

「なんてテクニシャン……」

 トゲチックの毛並みは格段に美しく仕上がり、まるで身体が輝いていくようだ。ナナミはポケモンコーディネーターとして、相当な実力を持っているに違いない。

 チリアは戦慄する。たいていの技術であれば一度の観察で習得できるチリアだが、ナナミの毛づくろいに関しては模倣可能な範疇を超えていた。

「あなたもまた天才なのね」

 ため息交じりにつぶやいて、手持ち無沙汰になった少女はリビングを見渡す。

 ふと、戸棚の上の写真立てに目を引かれた。家族写真だろうか。ナナミと、彼女の弟らしき気が強そうな少年。そして白髪で白衣の老人は、チリアの知った顔であった。

「……ねえナナミ。あなたのおじいちゃんって、もしかしてオーキド博士?」

「ええ、そうよ。おじいちゃんのこと知ってるの? ──そっか、最近はジョウトでもラジオをやってるもんね。おかげさまでけっこう好評らしいわ」

 知っている、というより知り合いなのだが、特にこの話を広げるつもりはないので「うん」とだけ返答する。

「なかなか天才ぞろいの家系なのね。もちろんあなたも含めて」

「うふふ、そんなことないわ」

 ナナミは照れて謙遜する。

「だけど、このマサラタウンっていう土地には助けられたと思う。気候に恵まれていて、野生ポケモンたちも穏やかなの。……まあ、ポケモンセンターもなければ特別な観光地もないけど」

「それは問題よね」

「あと、すごいトレーナーなら隣の家にもいるのよ。うちの弟よりひとつ年下なんだけど、カントーとシンオウ、ふたつの地方のポケモンリーグを制覇したの。いまはリーグ関係の手伝いをしてるんだって。たまにマサラに帰ってくるのよ。よくうちにも遊びにくるわ」

「ふーん」

 少女は興味なさげにお茶を飲む。

「ジムリーダーってわけでもないんでしょ? だったらそのひととは縁がなさそうね」

 写真のなかのナナミの弟をじっと見つめて、顔を覚えておく。

「──はい! トゲチックの毛づくろいは終わったわ。つぎは?」

「つぎって……」

「夜は長いわ。せっかくだから、6匹ぜんぶやってあげる!」

 あまりにも優しい提案。

 言うなれば、深い母性と包容力。おなじ女性として、あらためてチリアはナナミに畏怖を覚えた。




バクフーン ♂
 おくびょうな性格

トゲチック ♂
 さみしがりな性格

アーボック ♀
 しんちょうな性格

ブラッキー ♂
 まじめな性格

カイリュー ♀
 なまいきな性格

カポエラー ♂
 ようきな性格
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