ポケットモンスターNAVY ~暴投モンスターボール~ 作:サンダーゴリラ
「目の前をチョロチョロうるせえ! ロケット団を舐めるなよ!」
「なんだジロジロ見やがって! あっち行かねえとぶん殴るぞ!」
──などといったふうに。
タマムシシティでは、ちらほらとロケット団を見かけることがあった。隠れもせず、変装もしていない、黒いスーツ姿の団員だ。彼らは威圧するように周囲の人間に絡むが、いまのところ悪事のような行為は働いていない。
「まあ、都会だからな。ああいうのも目立たないのかな」
アクタはポケモンセンターにて、イーブイの健康診断を行った。特に異常はなし。滞りなくイーブイを仲間に加える。
「ついに3匹目か……」
涙をこらえつつ、広場で手持ちを放つ。
フシギソウ、ギャラドス、そしてイーブイ。
「イーブイ、これからよろしくね。フシギソウもギャラドスも強いポケモンだから、しっかり学ぶんだよ」
アクタはイーブイの首の毛を撫でる。しばらく身を任せていたイーブイだが、やがて飽きたのか、アクタの手を前足で払った。
「あん、かわいい」
イーブイは、一般的に「かわいいポケモン」にカテゴリされる。人気度でいえばピカチュウに匹敵するくらいだ。
「もしもし、マサキさん?」
アクタはマサキに、お礼の電話をした。恩義を感じたのだ
「イーブイ、受け取りました。ほんとうにありがとうございます。大切に育てますよ。──これで3匹です。だってぼく、ノーコンですもん。──笑うことないじゃないですか。──ああ、進化先ね。迷いますね。しばらくは様子を見ます。──あ、すいません忙しいのに。じゃあまた、なにかあれば電話します。──改めて、ありがとうございました。ほんとに嬉しかったです。ぼく、マサキさんのためならなんでもしますから。──いや、なんでやねんじゃなくて、ほんとに」
:
ロケットゲームコーナー。スロットマシンで遊べるゲームコーナーである。排出されるコインは、アイテムやポケモンと交換できる。
ポケモンと交換できる。
「いやいや、ポケモンを景品扱いなんて、ちょっと道理に反している。コイキングを買ったのはあくまでも保護だ。だから、今回も仕方がない。保護することにしよう」
なけなしの資金で、数十枚のコインを購入する。タマムシマンションでのショッピングは控えればよかった、とすこし後悔する。
いざ、タマムシゲームコーナーへ。
「おお……! こんなところで油売ってていいのか! 未来のチャンピオン!」
いつもはジムで出会う眼鏡の男が、スロットを打っていた。
「どうですか、調子は」
「この台はぜんぜんダメだな」
「ふうん」
「タマムシのリーダーエリカは、自然と心を通わす植物ポケモンの使い手!」
「え、アドバイスいまですか!?」
「うん。──エリカは、お花なんか活けてるからおとなしそうに見えるが、手ごわい相手になるぞ!」
ゲームの途中だからか、アドバイスは雑だった。
「くさタイプを使うってことしかわかんなかったな……まあいいか」
眼鏡の男から離れた台を選ぶ。
「さあ、目標はポリゴンかミニリュウだ……!」
スロットが回る。
:
圧倒的敗北っ……!
不幸……不運……
不ヅキに見舞われ……
ついに金が底を尽きる……!
ついにアクタは諦める……!
最悪の運命……!
「キンキンに冷えてやがるっ……!」
ゲームコーナーのすみで、アクタは壁にもたれかかって、静かに涙を流した。壁の温度が、火照った身体に心地よかった。
「……まあいいか、ぼくにはきみたちがいるからな」
モンスターボールに手を添える。フシギソウのボールが、責めるように震えた。
「おい、そこのガキ!」
何者かが、アクタの肩を小突く。
「このポスターに近づくな!」
「え、ポスター?」
すぐそばには、なんの変哲もないゲームのポスターが1枚。
「おれはこのポスターを見張ってるのだ。邪魔をすると痛い目に遭わせるぞ!」
ゲームコーナーの従業員かと思ったが──男のジャケットの下の黒いスーツには、見覚えがあった。
「ロケット団」
アクタはモンスターボールを手に取った。
「お? なんだ、痛い目に遭う方向で行くか? 上等だ!」
男はズバットを繰り出した。
アクタはフシギソウを放つ。
ロケットゲームコーナーはスロットの騒音に包まれている。いまのところ、ポケモンバトルに気が付く者はいない。
「“ねむりごな”」
ズバットは沈黙した。
「ち、ちくしょう!」
「続けます?」
アクタが不敵にすごむと、男はズバットをボールに収めた。
「このままではロケット団アジトの存在がバレちまう。ボスに連絡しなくては!」
そのまま踵を返し、逃げ出してしまった。
「……アジト!?」
思わずアクタは追いかける。だが走った先には重厚な扉が立ちはだかっていた。扉のそばにはカードキーの読み取り機。どうやら、鍵を持っていない者でないと「アジト」には行けないらしい。
「そういえばあのひと、ポスターを気にしてたっけ」
アクタは周囲を気にしつつ、先ほどの男が見張っていたというポスターを調べた。
「あ!」
ポスターの裏に秘密のスイッチを見つけた。
「押してみよ。……ポチっとな!」
閉ざされていた扉が開いた。
「非常用のボタンとかかな? で、ここがアジトってわけ?」
アクタはためらいもなく、扉の先を進んだ。
とにかく、スロットに負けて機嫌が悪かったのだ。
:
ロケットゲームコーナー。その名称は偶然の一致ではないようで、ここはロケット団により経営される施設だったのだ。
「道理でことごとくスロットが外れるわけだ……」
愚痴のように呟きながら、地下のアジトを進む。研究施設のようだった。黒いスーツのロケット団員が歩き回っており、アクタは身を隠して進むも、やがて姿を発見されてしまった。
「……お前はだれだ? どうやってここに入った!」
「あ、いや、その……」
「見張りはなにをやってんだ! 追い出してやる!」
ロケット団員はコラッタを出して襲いかかる。
「イーブイ!」
アクタもモンスターボールを投げて応戦する。
ボールは真後ろに飛んで行った。
「あ、ごめんイーブイ! こっち!」
ノーコンの洗礼を受けたイーブイは、戸惑いつつもアクタの足元に戻った。
「おい、どういうつもりだ!?」
「ちゃ、ちゃんと戦うつもりですよ! 行くよ、イーブイ!」
見つかってしまった際は、応戦して逃れる。そうしてアクタはアジトを進んでいった。「侵入者」がいるという情報はすぐにアジトに広まってしまう。床が動く、エレベータに鍵がかかる、という防犯システムの憂き目に遭ったが、それでもアクタはアジトの最奥、地下4階に到達した。
「ふー、けっこう戦ったな。みんな疲れてるかい?」
小部屋に隠れて、ポケモンたちに薬を使って回復させる。
「フシギソウ1匹じゃ、とっくにスタミナ切れてたよな。使えるポケモンが多いって、すごいことだ」
ポケモンを交代させつつ戦うことは、アクタにとって画期的な運用であった。ほかのトレーナーにとっては当然のことなのだが。
「さてと、さっき倒したロケット団員の話じゃ、この奥がボスの部屋か……」
その扉は、アジト内のどの部屋に比べても、威厳のあるデザインをしていた。
「ぼくみたいなのが会ってどうするんだ、って話だけど……べつに、文句を言う権利くらいあるよな──よし」
アクタは挑戦的に、勢いよくドアを開けた。
「……ほほう、早かったな」
その男は、突然開かれたドアに驚く様子もなく、机に向かって書類やコンピュータを相手にしていた。
「まあ、ゆっくりしていけ。なにか飲むか?」
「い、いりません」
「そうか」と男は頷いて、やがて立ち上がった。彼はようやく、アクタのほうに目を向けた。
身なりが良く、背の高い男だった。値踏みするような鋭い目つきに、アクタはたじろいでしまう。
「こんなところまでよく来た。きみのことは報告を受けているよ。うちのしたっばどもを相手に、ずいぶんな大立ち回りだったそうじゃないか」
「……アクタといいます」
とりあえず、少年は名乗った。
「ロケット団、解散してくれませんか。みんなが迷惑しています」
「直球だな。嫌いじゃない」
微笑ましそうに、男は口元を緩めた。
「申し遅れたな。わたしはサカキ。世界中のポケモンを悪だくみに使いまくって、金儲けするロケット団! そのリーダーだ」
「…………」
芝居がかっていて、それでも軽薄なサカキの口調。完全に見くびられていると思い、アクタは静かに苛立った。
「それで? だれに言われて来たんだ?」
「……だれって?」
「ん? どこぞの、力のない大人にそそのかされて来たんじゃないのか? ポケモンバトルが強い子どもなんて、たいがい大人に利用されるものだ」
「べつにそんなことは……」
「隠すことはない。
「…………」
その言葉を「優しさ」と受け取ることはできなかった。むしろ、心の隙を狙うような言葉に警戒心を高めた。
「だれに言われたわけでもありません。ぼくは、ぼく自身の判断でここに来ました」
「ほう、
サカキは少年を嘲笑った。
「なんと眩しいのだろう。目が潰れてしまいそうだな」
アクタは、モンスターボールを投げた。
ボールは部屋中をバウンドして、やがてギャラドスが姿を現した。
「ずいぶん乱暴だな」
「サカキさん、戦ってください。ロケット団のリーダーっていうのなら、強いんでしょ」
「ほほう、これはこれは……」
サカキは、ハンガーラックにかかったカバンを開く。
「バッジはいくつ持っている?」
「3つ」
「ならば、サイホーン」
放たれたのは、全身を灰色の甲殻で覆ったポケモンだった。
「どこからでもかかって来なさい」
「“りゅうのいかり”!」
ギャラドスの放つ衝撃波に、サイホーンはわずかに後ずさる。それだけだった。
「なんだ、みずタイプの技は持っていないのか? それとも様子見のつもりか?」
後者であった。アクタのギャラドスは、カスミから譲られたわざマシンで“みずのはどう”を覚えている。いわとじめんタイプのサイホーンには非常に効果がある技だったが、相手のレベルを推し量るために、アクタはわざと“りゅうのいかり”を選択した。
「若いな。勝ちを狙える好機を逃すな。──“ロックブラスト”!」
サイホーンは岩石を発射する。攻撃を受けると同時に、アクタははっと気づいた。ひこうタイプを持つギャラドスに、効果が抜群だったのだ。
「──いけない、ギャラドス!」
連射される岩石に、ギャラドスは力尽きた。すぐにボールに戻す。
「5連続発射か。ふむ、わたしのほうに運が向いているな。さて、続けるか? 正義の味方くん」
「……それ、やめてください」
つぎのモンスターボールを手に取る。
「他人のためにやってるわけじゃない。さっきも言ったでしょ。ぼくは、ぼく自身の判断でここに来たって」
フシギソウを放った。
「ロケット団に迷惑を被ってるのは、ぼくも一緒だ。なんか絡んでくるし、脅かしてくるしさ。ヤマブキシティに入れないのもロケット団のせいだ。シルフスコープが買えないのもロケット団のせいだ。スロットが当たらないのもロケット団のせいだ。ぼく自身が腹を立ててるから、ここに来たんです」
「そうか。ならばきみは敵だ。わたしも、ロケット団の頭目としてきみに立ちはだかろう。──アクタよ。我らロケット団に歯向かうなら、痛い目に遭ってもらう!」
サカキはサイホーンと交代で、ガルーラを繰り出した。腹の袋に子どもを宿した、大型のポケモンだった。
「フシギソウ、“やどりぎ”……」
「“ねこだまし”」
ガルーラの柏手に、フシギソウはひるむ。
「“ピヨピヨパンチ”!」
強烈なダメージを受け、フシギソウは崩れ落ちる。勝ちを確信したサカキだが、ガルーラの異変に気付く。
「む? ──まさか」
ガルーラの拳に、ツタが絡まっていた。
フシギソウは、息も絶え絶えに立ち上がる。
「……“のタネ”、当たるだけ当たったか」
「バカな。あのタイミングで、“やどりぎのたね”を発動していたと……? ふはは!」
サカキは、ガルーラをボールに収めた。
「え、まだ──」
「いや、もういい。これ以上続けても、そのフシギソウに勝ち目はあるまい。もう1匹持っているようだが、逆転できるようなポケモンではないのだろう?」
アクタは思わず、イーブイのボールに触れた。サカキの指摘は図星だった。
「強いフシギソウだ。さっきのギャラドスもだが……きみはとても大事にポケモンを育てているな。そんな子どもに、わたしの考えはとても理解できないだろう」
「…………」
「さて、そろそろ時間だ。わたしはここを出るが、きみも帰りなさい。見逃してやる」
「み、見逃す? ぼくを? アジトの奥まで攻め入って来たんですよ。ただで帰すなんて……」
「なにか勘違いしているようだが、ここは本拠地ではないよ。ロケット団のアジトは、各地にある。わたしはたまたま、仕事でこの支部に来ていただけだ」
アクタは戦慄した。てっきり、ここを落とせばロケット団は壊滅するものとばかり思っていたからだ。これだけの規模の施設も、ロケット団にとっては支部のひとつだというのか。
「そうだ、これを上げよう」
サカキは机の引き出しから、無骨な双眼鏡なようなものを取り出した。
「シルフスコープだ。欲しかったんだろう?」
「…………」
「子どもが遠慮をするな。うちのスロットで大損したんだって? その詫びだ」
差し出されるシルフスコープ。アクタは逡巡するが、やがて、恐る恐るそのアイテムを手に取った。
同時に、サカキは少年の手首をぐっと掴んだ。
「下っ端の団員を痛めつけたくらいで、
捕まれた手首は、痛いくらいに絞めつけられる。
「生かして帰すのは、お前が子どもだからだ。つぎはない」
「…………」
やがてサカキはアクタを解放し、肩をポンと叩いた。
「きみとは、またどこかで戦いたいものだ」
そのままサカキは、鞄を手にして去って行った。
アクタは、シルフスコープを手にしたまま、しばらく呆然とする。
「──あ、帰らないと」
ようやく、アジトを後にした。
その日は、ポケモンセンターの施設ですぐにベッドに就いた。
「なにが自信だ。ザコノーコン」
頭から毛布を被っても、なかなか眠れなかった。
フシギソウ
れいせいな性格
負けたショックで、アクタを慰めることができなかった。
ギャラドス
がんばりやな性格
負けたショックで、アクタを慰めることができなかった。
イーブイ
きまぐれな性格
不規則な遺伝子を持つ。石から出る放射線によって、身体が突然変異を起こす。