ポケットモンスターNAVY ~暴投モンスターボール~   作:サンダーゴリラ

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レポート45 グレンタウン/流された町

 夜遅くまで話し込み、女子ふたりのお泊まり会はそれなりに盛り上がった。

「すっかりお世話になっちゃったわね」

 翌朝。朝食までごちそうになった後、チリアはナナミ宅から旅立つ。

「いいのいいの。良かったらまた来てね! いつでもいいのよ」

 チリアのポケモンたちは、名残惜しそうにナナミにすり寄る。昨夜の毛づくろいですっかり骨抜きにされてしまった。

「……ほら、きみたち引っ込みなさい。置いていくわよ」

 ポケモンたちをモンスターボールに戻す。

「グリーンによろしくね」

「……勝つからね。悪く思わないでよね」

「もちろん!」

 ナナミははっきりと頷く。それどころか。

「こてんぱんにしてあげて! あの子、たまには負けないと調子に乗っちゃうから!」

 笑って背中を押されてしまった。

 

 

 カイリューの“なみのり”により、21番水道を渡る。カイリューに進化してから背中が広くなり、乗り心地も悪くない。

 海パン、ビキニ、釣り人のトレーナーと戦っているうちに、すぐに火山の姿が見えた。

「あの山が噴火したのか……もともとどんな町があったのか知らないけど、とんでもないことになっちゃったみたいね。だって、いまは無いんだもの」

 

────

 ここはグレンタウン。

 押し流された過去の町。

────

 

 そんな諦めすら漂う看板が立った土地には、ポケモンセンターがぽつんと一軒あるのみ。本来の町は、流れ、呑まれ、消失してしまったようだ。

 海岸で小さくなった島を見渡すのは、チリアだけではない。黒いジャケットを羽織った、逆立った髪の少年。──その顔だけは、知っていた。

「あなた、グリーンでしょ」

 振り返った少年は、ナナミの家で見た写真のなかにいた顔だった。

「だれだお前?」

「チリア。トキワジムに挑戦するつもりのトレーナーよ」

「へえ」と頷く少年は、値踏みするように少女を見つめる。

「知っての通り、オレの名前はグリーン! カントーを制覇してチャンピオンになった男さ!」

 想像していた自己紹介と違ったが。

「……といっても、アイツにジャマされて、チャンピオンでいられたのはすこしの間だったがな……」

 グリーンもまた、ポケモンリーグを制覇した経験があるらしい。

 その後、間もなく敗北したようだが。

「ところで、このありさまを見てみろよ……」

 グリーンはあらためて、小さなグレン島を見渡す。

「火山がちょっと噴火しただけで、町ひとつなくなっちまった。ポケモン勝負で勝った負けたといっても、自然が身震いしただけでオレたちは簡単に押し流されてしまうんだ……」

「………………」

 チリアは、心のなかで納得した。

 この男、すごくセンチメンタルになっている。

「その話を聞いて、わたしはどう返せばいいのかしら」

 グリーンの独白を聞き流すことなく。

 はっきりと、辛辣に、ため息をついた。

「慰めてほしいの? 悪いけどわたしには、あなたのご機嫌を伺う理由がないな。ジムリーダーとして戦ってくれればそれでいい。それはあなたの義務でしょう」

「お前……」

 グリーンはさらに、じっと少女を見つめる。よほど機嫌を損ねてしまったかと思ったが。

「気持ちの良い女だな」

 真逆だった。

「そうやってはっきり言うヤツは好きだぜ。ああ、たしかにそうだな。おれはジムリーダーで、トレーナーだ。強いヤツがいたら戦いたくなっちまうんだ」

 グリーンは嬉しそうに口角を上げる。意外にも気に入られてしまったらしい。

「わたし、強いわよ。すくなくとも、ジムリーダーの、ジム戦用に調整されたチームには負けないと思う」

「ジム戦ってのは、挑戦者の力量を測るのが目的みたいなもんだ。だからジムリーダーが圧勝するようなことはNGなんだが……そういう意味での『ジム戦』は、もううんざりってところか?」

「……まあね。公式試合といえど、お行儀の良い試合には飽きてきたところ」

 思えば、先日のシルバーとのバトルは独特の楽しさを感じた。シルバーが、必死で自分に勝とうと向かってきてくれたからだろう。

 これでも一応、最強を目指している。故に、本来格上であるジムリーダーの、本気の手持ちと戦ってみたいと望むのは必然だ。

「お前……本気でオレと勝負するつもりなら、カントーのジムバッジをどれだけ集めたか見せてみろ」

 バッジケースを開けてみせる。

「残りはグレンジムとトキワジムよ」

「6個か……そんなんじゃ、まだオレとは戦えないな……」

 グリーンは少女に背を向ける。

「チリアといったな。先にグレンジムに行きな。お前が7つのバッジを集めたら……そのときはオレが、最後にして最強の関門として胸を貸してやるぜ」

 グリーンはモンスターボールから、大型の鳥ポケモン、ピジョットを出す。

「トキワジムで待ってるぜ。──バイビー!」

 “そらをとぶ”で颯爽と去って行くグリーン。

「バイビーって……なーんか、キザなひと……でもちょっとだけシルバーに似てるかな」

 だからといって、好感が持てるわけでもないが。

 

 

 

『ポケモンセンターのお知らせ。グレンタウンのジムはふたご島に移りました。……カツラ』

 その張り紙を信じて、チリアとカイリューは20番水道を進み、その名の通りふたつの山が連なった小島──『ふたご島』に到着する。

『ここはふたご島』

 そう書かれている看板の下に、ガムテープでお知らせが貼り付けてある。

『グレンタウンのジムはここにあります。ジムリーダー、カツラ』

「ダンジョンにしか見えないけど……」

 しかしいざ洞窟に入ってみると、そこがポケモンジムであることの証左を示すように、あの眼鏡の男がいた。

「おーす! 未来のレジェンド!」

 ジムだ。チリアは確信した。

「トッカン工事でできたここは、岩とトレーナーがジャマをして、なかなかカツラのところまでたどり着けない! だが慌てずトレーナーたちを倒していけば、必ず道は開かれることだろう!」

「あなたが神出鬼没なことには、もはやこの際ツッコまないけど……」

 チリアは洞窟──というか、ジムを見渡す。

「突貫工事というか間借りというか……あまりにも急場しのぎね。この空間以外はふつうにダンジョンなんでしょ?」

「まあ……グレン島があんなことになっちまったからなあ。カツラさんも苦肉の策だったろうよ」

「往生際が悪いともいえるわ」

 などと好き勝手にひどいことを言いつつ、ジムチャレンジを開始する。

 ジムとして最低限足場は整えられており、洞窟内には不似合いな『床』の上を歩いて空間の中央を目指す。さすがに凝った仕掛けは用意されていなかったものの、その代わりとでも言いたいのか、しっかりとジムトレーナーたちが立ちはだかって来た。

「うおおーいっ! グレンにあったわしのジムが火山に焼かれてしまった!」

 ジムリーダーらしき、白い中折れハットにサングラスの老人のもとにたどり着くと、いきなり彼は大声で嘆いた。

 チリアは驚きを表情に出さず、黙って男の老人の言葉を待つ。

「だが……わしはへこたれない! どうだ見てみろ、この洞窟を。ご覧のように改良し、ジムリーダーとしての勤めを果たしているのだ!」

「まあ……よくやってるんじゃないかしら」

 入り口では「往生際が悪い」などと言っていたが、それを本人に突き付けるほど無神経ではない。

 挑発する必要もなさそうだし。

「見事わしに勝てれば、ジムバッジだってくれてやろう!」

「そうしてもらえると助かるわ。ごねられると面倒だもん」

 根に持っているわけではないが、フスベジムの一件はいつでも思い出せるようにしている。イブキをからかうために。

「さあ行くぞ! うおおーす!」

 吼える老人。

 ほのおタイプの印象に相応しいと思えるテンションだが、残念ながらチリアはそれに合わせることはできない。

 が、冷めたバトルをするつもりはない。

「アーボック!」

「行け、マグカルゴ!」

 溶岩の身体に、溶岩が固まった殻を背負ったポケモンだ。現れただけで、ただでさえ暑い洞窟内の気温がさらに上がった。

 戦いが始まってさっそく、アーボックの特性『いかく』がマグカルゴの攻撃を下げる。

「おおっと、そんなに見つめられては」

 冗談めかして笑うカツラ。マグカルゴは、持ち物『しろいハーブ』で下がった能力を戻した。

「ふーん……じゃあもっと見つめちゃお。アーボック、“へびにらみ”!」

 まずは『まひ』の状態を負わせる。動きを鈍らせたところで──

「さらに“どくづき”!」

 尾を槍のように突き出す。しかし。

「やっぱり威力はそうでもないか」

 いわタイプを持つマグカルゴには効果いまひとつだし、そもそもマグカルゴは防御が高い。

「ふふふ……ではこちらはいきなり大技を撃たせてもらおう! マグカルゴ!」

 マグカルゴの身体の溶岩が、煮えたぎって泡立つ。

「“オーバーヒート”!」

 熱線が、アーボックを襲う。

「この威力……! “だいもんじ”より上ね」

 高威力の熱線に、アーボックは一撃で戦闘不能となった。

「ま、とくこうがガクッと下がっちゃうのが玉に瑕なんだけどね。その分、威力はすさまじいだろう?」

「ええ、驚いた」

 素直に頷きつつ、チリアはカポエラーのボールを開ける。

「“トリプルキック”!」

 高速回転し、三連キック。

「むう、これは強烈! では──ブーバー!」

 三発すべてがヒットし、倒れたマグカルゴ。カツラはつぎに、角と尻尾から炎を吹き出す、身体まで炎のような模様があるポケモンを繰り出した。

「カポエラー、もう一度“トリプルキック”!」

 再度キック技を発動させる。──が、二発目のキックを浴びせたところで、カポエラーは突然後退し、回転のバランスを崩して倒れ込んだ。

「ふっふっふ……そんなに激しく攻撃しては、ヤケドしちゃうぞ」

「しまった。『ほのおのからだ』ね」

 直接攻撃を喰らった際、相手を低確率で『やけど』状態にする技だ。かくとうタイプのカポエラーは格好のターゲットになってしまったようだ。

「さらに! ブーバーもこの技が使えるぞ! “オーバーヒート”!」

 灼けつく身体に、さらに熱線を喰らうカポエラー。やはり高威力。一瞬、踏ん張ろうとするカポエラーだが、『やけど』のダメージが追い打ちをなってしまい、『ひんし』となった。

「いよし! さらにさらに! 下がった能力は回復しよう!」

 “オーバーヒート”の影響で特殊攻撃は下がったが、ブーバーにも持たせられていた『しろいハーブ』で能力低下はなかったことになる。

「……さっきのマグカルゴでも、ほんとうはその戦法を使うつもりだったの?」

「じつはそうなんだよ。アーボックの思わぬ『いかく』でハーブが無くなっちまったがな!」

「勉強になるわ。憶えとこ」

 3体目。チリアが投げたモンスターボールは壁に当たる。

「お! 投げるのへたっぴだな!」

 気のせいかもしれないが、カントーのトレーナーは──特にジムリーダーたちは、チリアのノーコンにあまり驚かないように見える。それだけ器が大きいということだろうか。

「バクフーン、“きあいだま”」

 バトルフィールドに駆けつけたバクフーンは、エネルギー弾を発射した。バクフーンならばほのおタイプの技を受けても大したダメージにはならない。──問題は、有効打となる攻撃技が当たりづらい“きあいだま”のみだということだ。

「むむ! ほのおタイプか……よし、ブーバー! “あやしいひかり”!」

 揺らめく光に『こんらん』させられてしまう。ほのおタイプ同士でも、これはかなり分が悪い。

「そして“かみなりパンチ”だ!」

 ブーバーの電気をまとった拳に翻弄される。

「しんどいわね、バクフーン」

 しかしチリアも、バクフーンも、不敵に笑う。

 この窮地を楽しむように。──『こんらん』でおかしくなっているわけではない。

「“きあいだま”!」

 それでも、技を命中させる。

「くっ……! ブーバー! “オーバーヒート”だ!」

 効果いまひとつとはいえ、特殊攻撃が下がっていない高威力の熱線。

 それでも、バクフーンは倒れない。

「うおおーす! なんたる根性!」

「そんなんじゃないわよ。一緒にしないで」

 バクフーンの放つ“きあいだま”は、とうとうブーバーを倒してしまった。

「ただ、わたしたちが超強いってだけの話よ」




バクフーン ♂
 おくびょうな性格

トゲチック ♂
 さみしがりな性格

アーボック ♀
 しんちょうな性格

ブラッキー ♂
 まじめな性格

カイリュー ♀
 なまいきな性格

カポエラー ♂
 ようきな性格
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