ポケットモンスターNAVY ~暴投モンスターボール~   作:サンダーゴリラ

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レポート46 竜の穴/四人そろえば

「これが最後のポケモンだ。きみたちはたしかに()()()が、わしらだって負けてられん!あなぐらジムの意地を見せてやるわい!」

 白い巨躯に、炎のたてがみ。洞窟内にはもったいないほどの麗しいギャロップに、思わずチリアは「へえ」と感嘆した。

「さすがにボロボロのバクフーンは戦わせられないわね。じゃ、いよいよこっちも切り札を……」

 チリアが投げたボールは高く舞い上がり、空中でカイリューを呼び出した。

 カイリューはぐるりと洞窟内を飛び回った後、ギャロップと向かい合う。

「強そうなカイリューじゃないか」

「実際、強いわよ。そっちのギャロップも、戦い甲斐のある相手だといいんだけど」

「言うなあ、お嬢さん! 心配せずとも、痛い目に──否、熱い目に遭わせてやるさ!」

 ギャロップは軽やかにカイリューから距離を取って、やはりあの技を発射した。

「“オーバーヒート”!」

「“そらをとぶ”!」

 カイリューは空中に飛び上がることで回避する。熱線は洞窟内の岸壁を舐めた。

「むむ! ならば着地の瞬間を狙え!」

 ギャロップもまた、低下した特殊攻撃を『しろいハーブ』で回復させる。やがて“そらをとぶ”の翼の一撃を喰らうも、反撃でまた“オーバーヒート”を発射した。

 二発目の“オーバーヒート”はさすがに命中してしまう。ドラゴンタイプを持つカイリューに効果いまひとつだが、そもそもの技の威力が高いので、とてもじゃないが余裕とは言えない。 

「せめてもの救いは、こんどこそとくこうが下がったことで、このダメージの再現性がないことね。さ、こんどはこっちがキツイのをくれてやるわ。カイリュー、“じしん”!」

 カイリューは思い切り足踏みをする。『ふたご島』が揺れる。

 わざマシンで覚えさせたじめんタイプの技だ。タイプは一致していないが、攻撃が高いカイリューが使えばかなりの威力だ。

「まだ……まだいけるわい!」

 大幅に体力を削られ、よろめくギャロップだが、倒れない。

「こちらも物理で、しかも空中から攻めるぞ! “とびはねる”!」

 跳び上がったギャロップだが。

「遅い。“しんそく”」

 空中で、カイリューの弾丸のような突撃を受けた。

「戦い甲斐はあった。でもやっぱりわたしたちのほうが強かったわね」

 ギャロップは地に落ち、戦闘不能となった。

「気迫では負けていなかった……否! 静かながら燃えるきみの気迫でも、敗北を認めよう!」

「いや、べつに気迫とかはないけど……」

 

 

「み……見事! わしは燃え尽きた……! クリムゾンバッジを受け取れ!」

 炎を模したバッジを受け取る。これでカントーのバッジも7つ目。

「氷のジジイも厄介だったけど、炎のジジイもなかなかだったわ」

「ほほう! 口が悪いなお嬢さん! 察するに、氷のジジイは……ヤナギ老かな? きみはジョウトから来たのかい?」

 帽子を脱ぎ、パタパタと禿げ上がった頭を扇ぐカツラ。汗ばんで輝く頭皮が眩しかった。

「ええ。ジョウトのジムを制覇したから、いまはカントーの制覇中。残りはトキワだけ」

「それはすごい! トキワのリーダー、グリーンといい、最近の子どもは強者ばかりで困るわい……」

 などと弱気な発言のわりに、カツラの目には、いまだに炎が宿っている。

「じゃが、まだまだ若いもんには負けーん! 今回はわしの負けだが、グレンジムを作りなおしてつぎこそは勝つ! そしたらまた来いよ!」

「え? もう一回ジムチャレンジをやれってこと? 嫌よ」

「まあまあそんなこと言わずに! ほんとのグレンジムは楽しいぞ! クイズは好きか!?」

「やらないってば。……戦うだけなら、いいけど」

「そうか? はっはっは! よしよし! いつかまた戦おう!」

 最後まで暑苦しかった老人に別れを告げて、チリアは突貫工事のジムから去って行く。

「失ったジムを執念で建て直そうとするジムリーダー。そこへ挑戦するジョウトからきたトレーナー……」

 去り際に、ジム男が感慨深げにつぶやく。

「熱い戦い、しっかりと見せてもらったぜ!」

「ばいばい」

「冷たいなー!」

 

 

 さて、チリアは最後のジムに挑戦するために、トキワシティを目指す。

 ──ことはなく。

「オーダイル、“アクアテール”!」

「バクフーン、“ふんえん”!」

「キングドラ、“りゅうのいぶき”!」

「リザードン、“エアスラッシュ”」

 ジョウト地方はフスベシティ、『竜の穴』にて。

 シルバーを隣に、イブキ・ワタルのコンビとダブルバトルをしていた。

「どうしてこんなことに……!」

「シル公! 集中しなさい」

「うるせえ!」

 どうしてこんなことになったかというと。

 3日前に遡る。

 カントー地方のジムリーダー7人に勝利したチリアだが、本来は底の知れない実力を持つ彼らに、若干の力不足を感じていた。

 8人目のジムリーダーであるグリーンとは、本気のバトルを期待している。いまの手持ちに不満はほぼないが、もう一段上のステージに行く必要がある。

 そういうわけで、チリアは修行に入った。

 というか『竜の穴』に入った。

「シル公、やってるー?」

「変な呼び方すんな! ……なんだ? オレがトレーニングしてるのを冷やかしに来たか?」

 洞窟内にはクロバットを連れた赤髪の少年がいた。チリアの薦めでここにはシルバーも修行に来ていたのだ。実際にこの場にいるということは、どうやらイブキか長老かには認められたようである。

「ま、そんなところ。けっこう真面目にやってるじゃん?」

「フン! 強くなる秘訣を教えてもらいに、わざわざこんなところまで来てやったのに。長老のやつ、もったいつけてなにも教えてくれない……」

「どーせそんなの無いわよ。強くなるのに近道がないってことは、ほんとはわかってるくせに」

「……だからここでこうしてポケモンを鍛えてるのさ……でもあのワタルってやつ、なかなか現れなくて……」

 少年が悪態をついていたところ。

「やあ、チリアちゃん」

 マントの男が現れた。

 ワタルと、その後ろにはイブキが控えている。イブキはそれがあいさつ代わりのようにチリアに目配せをした。

 ワタルはシルバーに気づいて。

「そして……きみはロケット団のアジトで会ったね」

「お前っ! いままでどこに隠れていた!!」

 噂をしていた張本人が現れたので、驚いた勢いのままにシルバーは臨戦態勢に入る。

「ん? いや、いま来たところ……」

「こんどこそ倒してやるからオレと勝負しろ!!」

 チリアは一歩下がって、ニヤニヤしながら少年の様子を見守る。

「まあそう怒らないで。あのときは急いでいたから、きみにも悪いことをしたね」

 チョウジのロケット団アジトでは、シルバーはよほど雑にあしらわれたのだろう。

「でも……勝負するのはおれも大賛成だな! そうだ!」

 ワタルはチリアと、振り返ってイブキを一瞥して、その場の全員に向けた提案をした。

「せっかくだから、2対2で戦ってみるのはどうだい?」

「ダブルバトルってこと? わたしはいいけど」

 とりあえずチリアはやぶさかではない。

「フン! やっぱりひとりじゃオレには勝てないんだろ……」

「まあそう言うなよ。2対2で戦うのもなかなか楽しいもんだよ」

 強がるシルバーだが、ワタルは彼の実力を看破しているのか、穏やかなおとなの対応である。

「よし! チリアちゃん。またおれと組もう!」

「じゃあそこのあなた、わたしと組みましょうか?」

 シルバーに歩み寄るイブキだが。

「ふざけんな! そんなおかしな格好のやつといっしょに戦えるかよ!」

「なっ……!?」

「こらシルバー!」

 なぜかチリアが激昂し、少年の胸倉を掴んだ。

「イブキのファッションになんの文句があるっていうのよ!」

「ええ……?」

「イブキがあのボディラインを保つのにどれほど努力しているのか知らないくせに! きっと眠れない夜もあったでしょう! あんたみたいなノンデリクソガキが気軽に踏み入って良い領域じゃないの!」

「ちょっ……チリア。わたしはいいから、落ち着いて?」

「あのおかしな格好は素晴らしいものよ!」

「あなたもおかしいとは思ってるの……!?」」

 口が滑ってしまった。

「シルバー、一回イブキに謝罪しなさい」

「え!? あーっと……ごめん、なさい?」

「シルバーは許すわ。チリアとはもうちょっと話を……」

「では本題に戻りましょうか。軌道修正、軌道修正」

 チリアは、シルバーの胸倉から手を離し彼の襟を正す。イブキは舌打ちとため息が混ざったような息を吐く。

「それでは……シルバーはワタルと戦いたい。イブキとは組みたくない。ならばダブルバトルの組み合わせは決まったわね?」

「なるほど……チリア! お前はオレと組もう! そしていっしょにワタルをぶっ倒そうぜ!!」

「そういうことわざわざ言っちゃうのね。ま、そこがシルバーの良いところかな」

 

 

 チリア・シルバーVSワタル・イブキのダブルバトルが始まって3日後。

 まさかバトルが三日三晩続いたわけではない。4人はそれぞれの修行の合間に、ある種のレクリエーションとして──もしくは修行の一環として、ダブルバトルを行っていた。

「しかしすごいな、彼らは」

 もう10回以上も行ったダブルバトルの後、ワタルはチリアとシルバーに感心した。

「ええ、ほんとうに……」

 イブキも同じく。

「このふたり、こんなにも相性が悪いとは……」

 呆れを通り越した、感心だった。

「さっきのはキングドラを狙うところだったでしょう。考えて戦いなさいよね」

「どう考えても違うだろ! おれはワタルに集中して良かったはずだ! だいたい、作戦があるんならそう言えばいいだろうが!」

「自分勝手なことを……口に出せば相手に作戦が漏れる。だいたい、あなたバトルの情勢も読めないの?」

「読めてるね! ぜんぜん読めてる!」

「それであの体たらく? そもそもあなたもポケモンも、ちょいちょい立ち位置がジャマなのよ。いい加減わたしに合わせなさい。わたしのほうが強いってことはわかってるでしょ?」

「お前のほうが自分勝手じゃねえか!!」

 ワタルは肩をすくめ、イブキと顔を見合わせる。

 チリア・シルバーペアは全戦全敗を更新し続けていた。

「ふたりとも修行の成果は現れている。シルバーはめきめきと力をつけているし、チリアちゃんにしもパーティの完成度が高まっており、しかもまだ伸びしろが見える。……なのに組んだ途端、お互いの足を引っ張り合っている」

「まるで磁石だわ。おなじ極同士が反発し合うように……結局、あのふたりってすごく似た者同士なのですね」

「ああ……なにより相手はチリアちゃんだ。あの子は、アレだもんな……」

 シルバーはともかく、チリアのことはワタルもイブキもよく知っている。空気を読むことはできても、生半可に他人に合わせたりはしない孤高の少女だ。

「『魔女』だなんてあだ名されるだけあるよ。このダブルバトルが『負けても構わない』ってことをよくわかっている。これはレクリエーションだ。真剣勝負であっても、今後の進退に関わることはない。だから心置きなく、あの子は奔放に戦っている。おれたちのことも、シルバーのことも、どこかでおちょくって遊んでいるのかもしれないな」

「……お許しください、お兄様」

 イブキは一歩下がって、ワタルに頭を下げた。

「友としてあの子を教育できなかったわたしの責任で……」

「それは違う。チリアちゃんはあれでいいのさ。だからこそ──シロガネ山の()に出会ったとき、どんな化学反応が起こるのか楽しみだ」

 ワタルは快活に笑った。

「さあ、遊びは終わりだ。修行に戻ろう。──おーい、少年少女」

 ののしり合う子どもふたりを、おとなふたりは適当なタイミングで諫めた。チリアの修行は、間もなく完成のときを迎えようとしていた。




バクフーン ♂
 おくびょうな性格

トゲチック ♂
 さみしがりな性格

アーボック ♀
 しんちょうな性格

ブラッキー ♂
 まじめな性格

カイリュー ♀
 なまいきな性格

カポエラー ♂
 ようきな性格
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