ポケットモンスターNAVY ~暴投モンスターボール~ 作:サンダーゴリラ
「グリーンを倒したら、つぎはシロガネ山に向かうつもりよ」
フスベシティ。
竜の穴への入り口を背にした池のほとり。今回もまた、チリアとワタルはふたりで真剣かつ神妙な面持ちで語り合う。
チリアの往く最強の道について。
「公式戦扱いでポケモンたちが覚える4つの技、なかなか上手いことまとまったと思う。この完成度なら最強と称して過言ではない。それに……」
夜空を、白いポケモンが飛んでいた。
「ようやく手に入れた“ひかりのいし”で、トゲチックはトゲキッスに進化した。その戦いに慣れるために、あなたたちとの修行は必須だった。」
腕と一体化した大きな白い翼を持つトゲキッスは、気持ちが良さそうに夜空を滑空していた。
「ほかのポケモンたちもかなり育った。いまのわたしの手持ち6体は──6体合わせて最強、といったところかな」
「異論はないよ。見事なものだ」
仮に、ワタルやイブキが本気の手持ちで戦ったとして、それでも勝利を確信できないほどにチリアは実力をつけていた。
「ワタル。あらためて修行に付き合ってくれたことを感謝してる。ありがとう」
「ははっ、珍しいこともあるものだ。きみが素直に感謝の言葉をくれるなんて」
「わたしのことをなんだと思っているのよ」
「魔女」
「そう呼ばれるのが嫌だから、フスベに来たんじゃない」
チリアの冷徹な視線がワタルを射抜く。10歳の少女に睨まれて、ワタルは確実にひるんだ。
自分のあだ名に気づかないほど、チリアは鈍感ではない。カントー地方でも広まっているとなればなおさらだ。
「その異名が的確であるか、オレにはよくわからないが──きみには魔性を帯びた
そしてこれはとても口には出せないが──この少女は、美しい。
強烈な光を感じるほど凛々しい。冷やりとするほど儚い。彼女の旅のなかで、きっとだれもが目を留めて、思わず見蕩れたことであろう。
会うたびにチリアは美しくなっている。それはつまり──
「きみはどんどん強くなっている。異名はその証だと思うよ」
「……代償ともいえるわね」
苦々しく、少女はため息を吐いた。
「シルバーにしても『目つきが悪い』くらいしか噂は聞かないのに……そういえば、よくシルバーの『竜の穴』での許したわね?」
「……彼がウツギ博士の研究所で犯した罪は、知っている」
ワタルは、南のほうに目を向ける。ワカバタウンがある方向だ。
「ここに来る前、彼はウツギ博士に謝罪に行ったらしい」
「そうなの?」
すこし意外だったが、考えてみれば不思議なことではない。
なんどもシルバーと戦ったチリアには、彼がけっこう素直であり、根っこから邪悪ではないことは知っていた。
「博士本人に確認したから間違いない。盗んだポケモンを返却しにきたそうだが……オーダイルはすっかりシルバーに懐いていたから、そのまま譲ることにしたそうだ」
「ウツギ博士もおひと好しだものね……そこが良いところだけどさ」
「本人同士で示談が成立したんだ。罪には問うまい。──ポケモンにも愛を持って接していることは、この3日でよくわかった。フスベはああいう子を歓迎するよ」
「おひと好しばっかり」
チリアは空を見上げ、短く口笛を吹く。トゲキッスはさっと地上に降り立って、少女の足にすり寄った。
「あした、グリーンと戦う」
「……そうか。彼は強いよ」
「一時期、チャンピオンをやってたんでしょ。本人から聞いたわ」
「会ったのかい」
「グレン島にいたわ」
「そうか。
彼らということは、グリーン以外にも感傷的になっている者がいるらしい。どうでもいい。
「本気で戦うように取り付けたから、しっかり修行させてもらったわ。お世話になったわね」
「本気で、って……手持ちまで本気なのはいただけないんじゃないか? 一応、ジム戦なんだから」
「べつにいいでしょ。本気の元チャンピオンに勝つくらいにならないと、例の『シロガネ山の怪物』? それに挑むのは厳しいんじゃないの」
「しかしなあ」とワタルは釈然としない様子で唸る。
「大丈夫よ。わたし、最強レベルに天才だから」
「ああ……そういえばそうだったね」
最強。
その果てしない
もしも彼女が、『シロガネ山の怪物』と出会い、そして戦ったときにどうなるか──そればかりは予想できない。
「ねえチリアちゃん」
あるいはこれが最後かもしれない。
ならば。
「最後に一度、オレとバトルしないか。本気の手持ちで戦ってやるから」
「いいわよー」
彼女が真に最強と呼べるのか、自分の手で確かめたい。
:
「おーす! 未来のレジェンド!」
トキワジムは開かれていた。いつものジム男は、いつものように鬱陶しいほど陽気に少女を迎える。
「このジムは足場が不安定でキケンだから、ポケモンしまっておいてくれよな」
「……足場が移動するパネルね」
矢印が描かれた電光の床を見て、チリアはジムの仕掛けを理解する。ジム男の勧めどおり、バクフーンをモンスターボールに収めた。
「……さて。1年前チャンピオンと戦った男が、このジムのリーダーだ。手強いぜ! くじけずがんばれよ!」
「わたしはこれまで、くじけたことなんてなかったわ。知っているでしょ?」
厳密には幼少期、大失恋をによりくじけにくじけたのだが、それはポケモンバトルとは関係ない。
「そうだったな! お前なら絶対に大丈夫だ!」
ジム男に適当に手を振って、チリアの最後のジムチャレンジが始まる。
「………………うん」
ざっとジムを見渡して、矢印の迷路を看破した。
迷いなく歩き続け、ジムトレーナーたちを素通りしていく。
「ええ!? もう来た!」
「早くない!?」
一番最後のダブルチームとは強制的に戦うことになった。シルバーと一緒だとあれだけ手こずったダブルバトルも、自分ひとり、自分のポケモン2体にかかれば楽勝だった。
「よぉ、来たな」
つまり楽勝に、グリーンのもとにたどり着いた。
「来たわ。きょうは元気そうね」
「ああ、元気いっぱいさ。グレンじゃちょっとばかりナーバスになっちまったけど、いまは無性に戦いたい気分だぜ!」
好戦的にグリーンは笑う。
「なのにお前、来るの遅かったよな」
「そうかしら? 我ながら、かなりスムーズに床の仕掛けを解いたと思うけど」
「あー、そっちは早かったけど。最速記録だけど。──ジムに来るまでは遅かったって言ってんだよ。グレン島で別れてから3日くらい経ってるぜ? よほどカツラさんに苦戦したのか?」
「まさか。ジョウトに戻って修行したのよ。わたしジョウト出身で、あっちのジム制覇したからカントーに来たの」
「………………」
目を丸くして、グリーンは少女をじっと見つめる。
「……お前がジョウトのジムをぜんぶ制覇したって?」
「したわよ」
「はははっ、ジョウトのレベルはその程度のもんかよ!」
挑発のつもりだろうか。チリアを貶めるとしたら遠回しだし、ジョウトのジムリーダーを貶されても、特にチリアに怒りの感情は湧かない。
「デカい口叩くってことは、あなたのレベルは彼らより上?」
「はっ! やっぱりお前、気持ちの良い女だな」
グリーンは手にしたモンスターボールを投げる。
「戦えばわかることだ。オレのレベルも──お前の実力がホンモノかどうかもな!」
そのモンスターボールからは、二足歩行するヤシの木のようなポケモン、ナッシーが現れた。
「じゃあこっちも……」
モンスターボールを握りしめる。
「行きなさい」
チリアが投げたモンスターボールは。
指先から真横に逸れて飛び、ジムの壁にバウンドした。
「はあ?」
現れたバクフーンは、軽く周囲を見渡した後、素早くチリアのもとに戻ってくる。
「さ、バトル……」
「待て待て待て!」
思わず制止するグリーン。
「お前も、すっげえ
「べつにいいでしょ」
およそチリアとは真逆に思える性格の、親友の姿が少女に重なる。
グリーンは目の前の現象が悪夢かと思った。
:
「“ふんえん”!」
さっそく先手を取り、効果抜群の大ダメージを与えるバクフーン。
「ナッシー、“トリックルーム”!」
しかしナッシーの反撃で、バトルフィールド全体が不思議な空間に包まれる。攻撃技ではない。
「“トリックルーム”……素早さが遅いポケモンほど、行動が早くなるようになるんだっけ」
「そっちのバクフーン、なかなか良いスピードだな。だからこそ効くのさ! ナッシー!」
歪んだ空間のなかで、ナッシーは素早く技を発する。
「“さいみんじゅつ”!」
「バクフーン」
チリアの声に合わせて、波動を回避する。
「うん……実際のスピードや反応までは正常。あくまでも変化したのは行動順か」
ならばとりあえず、ナッシーはこれで終わりだ。
「もう一度、“ふんえん”!」
噴き出す炎を再度浴びて、ナッシーは戦闘不能となった。
「上出来だ。じゃあつぎ! サイドン!」
鼻先にドリルのような角を持つ、頑丈なポケモンだ。バクフーンには不利なタイプだ。
「“じしん”!」
すこしでもダメージを与えたいところだったが、いまのバトルフィールドではバクフーンは素早さが低い。“ソーラービーム”を発射する間もあるはずもなく、強力な“じしん”により倒れてしまった。
チリアは2体目のポケモンに、カポエラーを選択する。そしていきなり。
「“ねこだまし”」
必ず先制攻撃になる技で、微弱なダメージとともにサイドンをひるませる。
「うざってえ! “じしん”!」
「“トリプルキック”!」
タイプ相性ではカポエラーの格闘技はたしかな効果があるのだが、いかんせんサイドンの攻撃力は高い。キック技でどうにか猛攻をさばき、時間を稼ぐ。
「いま! “インファイト”!」
約5分。“トリックルーム”の効果が切れたタイミングを見計らって、カポエラーが激しい連撃を見舞う。
「……やるな」
サイドンの巨体が沈んだ。
「やるわよ。舐めないでよね」
「舐めちゃいなかったが、期待以上だ。──ウインディ!」
オレンジの毛並みのほのおタイプのポケモンは、まるでさっきの“ねこだまし”の意趣返しといわんばかりに──
「“しんそく”!」
先制技を発動した。さすがにサイドン戦のダメージは大きく、カポエラーはそのまま戦闘不能になる。
「ほのおタイプか……ここは、頑丈なブラッキーに任せるわ」
手元のボールから飛び出す黒い影。四足歩行同士のポケモンだが、体格はウインディのほうが上だ。だからといって、臆するブラッキーではない。
「“フレアドライブ”!」
「“あやしいひかり”!」
2体のポケモンは二筋の光となって、バトルフィールドを駆け巡る。
「“あくのはどう”!」
「“りゅうのはどう”!」
ほとんど互角の戦い。勝負を分けたのは──“あやしいひかり”による『こんらん』だった。
「ちっ……競り負けたか」
長い時間を経て、ウインディは足を止めて倒れた。
「だがこいつならどうだ!? カイリキー!」
筋骨隆々の四本腕が立ちはだかる。
「ブラッキー、“あやしいひかり”……」
が、先の戦いの反動でブラッキーは一瞬、ふらつく、グリーンはその隙を見逃さなかった。
「カイリキー、“ばくれつパンチ”!」
渾身のパンチ。──本来は当たりづらい技であるが、疲弊したブラッキーはまともに喰らってしまい、バトルフィールドの外まで吹き飛ばされてしまった。
「ブラッキー……がんばらせすぎちゃったかな」
戦闘不能のブラッキーをボールに戻す。
「そのカイリキー……特性は『ノーガード』?」
それは、自分の技も相手の技も必中にする、まさに回避という概念を無用にする特性だ。
「よくわかったな」
「“ばくれつパンチ”は命中が低いからね。そんな賭けみたいな技を採用してるってことは、当てる算段があるんでしょ。──さて」
互いにこれで4体目。痛み分けの戦いを続けるのも嫌いではないが、勝利のためにはそろそろアドバンテージが欲しいところだ。
「行きなさい、カイリュー」
「カイリューだと!?」
カントーに生息する唯一のドラゴンタイプの種類だ。育成のハードルが特に高いことでも有名である。
君臨するカイリューの姿に、グリーンもカイリキーも気圧される。その存在感に、いかにチリアがトレーナーとして優秀か理解させられた。
「ことごとくお前はオレの想像を超えるな……カイリキー! “ストーンエッジ”だ!」
鋭い岩の群れは、しかし空を切る。カイリューは天井すれすれほどの高さまで飛び上がっていた。
「“そらをとぶ”」
上空から急降下する翼の一撃で、カイリキーは戦闘不能となった。
「……良いカイリューだな。ワタルさんを思い出す」
「当然でしょ。ワタルにはフスベで修行に付き合ってもらったわ」
「どおりで! つまりお前はチャンピオンクラスってわけだ!」
いよいよチリアを格下に扱うことは許されない。グリーンも一度はチャンピオンとして君臨した。
彼に負けるまでは。
「お前を見てると奴を思い出すよ」
「だれのことよ」
「オレにとっちゃ、ただの友だちさ。ライバルとも呼べるかな」
「つまりわたしにとっちゃ、どうでもいいひとね。バトルに集中してくれる?」
「お前っ……ほんと、良いなあ!」
チリアは一旦、カイリューをボールに収める。
ふたりは互いに、5体目のポケモンを呼び出した。
バクフーン ♂
おくびょうな性格
トゲキッス ♂
さみしがりな性格
アーボック ♀
しんちょうな性格
ブラッキー ♂
まじめな性格
カイリュー ♀
なまいきな性格
カポエラー ♂
ようきな性格