ポケットモンスターNAVY ~暴投モンスターボール~   作:サンダーゴリラ

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レポート47 トキワシティ/16番目

「グリーンを倒したら、つぎはシロガネ山に向かうつもりよ」

 フスベシティ。

 竜の穴への入り口を背にした池のほとり。今回もまた、チリアとワタルはふたりで真剣かつ神妙な面持ちで語り合う。

 チリアの往く最強の道について。

「公式戦扱いでポケモンたちが覚える4つの技、なかなか上手いことまとまったと思う。この完成度なら最強と称して過言ではない。それに……」

 夜空を、白いポケモンが飛んでいた。

「ようやく手に入れた“ひかりのいし”で、トゲチックはトゲキッスに進化した。その戦いに慣れるために、あなたたちとの修行は必須だった。」

 腕と一体化した大きな白い翼を持つトゲキッスは、気持ちが良さそうに夜空を滑空していた。

「ほかのポケモンたちもかなり育った。いまのわたしの手持ち6体は──6体合わせて最強、といったところかな」

「異論はないよ。見事なものだ」

 仮に、ワタルやイブキが本気の手持ちで戦ったとして、それでも勝利を確信できないほどにチリアは実力をつけていた。

「ワタル。あらためて修行に付き合ってくれたことを感謝してる。ありがとう」

「ははっ、珍しいこともあるものだ。きみが素直に感謝の言葉をくれるなんて」

「わたしのことをなんだと思っているのよ」

「魔女」

「そう呼ばれるのが嫌だから、フスベに来たんじゃない」

 チリアの冷徹な視線がワタルを射抜く。10歳の少女に睨まれて、ワタルは確実にひるんだ。

 自分のあだ名に気づかないほど、チリアは鈍感ではない。カントー地方でも広まっているとなればなおさらだ。

「その異名が的確であるか、オレにはよくわからないが──きみには魔性を帯びた雰囲気(オーラ)があると思うよ。どんな分野にしても、実力は自信となり、自信は大きな雰囲気(オーラ)となり、周囲にその存在感を知らしめる」

 そしてこれはとても口には出せないが──この少女は、美しい。

 強烈な光を感じるほど凛々しい。冷やりとするほど儚い。彼女の旅のなかで、きっとだれもが目を留めて、思わず見蕩れたことであろう。

 会うたびにチリアは美しくなっている。それはつまり──

「きみはどんどん強くなっている。異名はその証だと思うよ」

「……代償ともいえるわね」

 苦々しく、少女はため息を吐いた。

「シルバーにしても『目つきが悪い』くらいしか噂は聞かないのに……そういえば、よくシルバーの『竜の穴』での許したわね?」

「……彼がウツギ博士の研究所で犯した罪は、知っている」

 ワタルは、南のほうに目を向ける。ワカバタウンがある方向だ。

「ここに来る前、彼はウツギ博士に謝罪に行ったらしい」

「そうなの?」

 すこし意外だったが、考えてみれば不思議なことではない。

 なんどもシルバーと戦ったチリアには、彼がけっこう素直であり、根っこから邪悪ではないことは知っていた。

「博士本人に確認したから間違いない。盗んだポケモンを返却しにきたそうだが……オーダイルはすっかりシルバーに懐いていたから、そのまま譲ることにしたそうだ」

「ウツギ博士もおひと好しだものね……そこが良いところだけどさ」

「本人同士で示談が成立したんだ。罪には問うまい。──ポケモンにも愛を持って接していることは、この3日でよくわかった。フスベはああいう子を歓迎するよ」

「おひと好しばっかり」

 チリアは空を見上げ、短く口笛を吹く。トゲキッスはさっと地上に降り立って、少女の足にすり寄った。

「あした、グリーンと戦う」

「……そうか。彼は強いよ」

「一時期、チャンピオンをやってたんでしょ。本人から聞いたわ」

「会ったのかい」

「グレン島にいたわ」

「そうか。()()はまだ、あの噴火にショックを受けているんだな」

 彼らということは、グリーン以外にも感傷的になっている者がいるらしい。どうでもいい。

「本気で戦うように取り付けたから、しっかり修行させてもらったわ。お世話になったわね」

「本気で、って……手持ちまで本気なのはいただけないんじゃないか? 一応、ジム戦なんだから」

「べつにいいでしょ。本気の元チャンピオンに勝つくらいにならないと、例の『シロガネ山の怪物』? それに挑むのは厳しいんじゃないの」

「しかしなあ」とワタルは釈然としない様子で唸る。

「大丈夫よ。わたし、最強レベルに天才だから」

「ああ……そういえばそうだったね」

 最強。

 その果てしない目標(ゆめ)に、少女はほんとうにたどり着くことができるのか。

 もしも彼女が、『シロガネ山の怪物』と出会い、そして戦ったときにどうなるか──そればかりは予想できない。

「ねえチリアちゃん」

 あるいはこれが最後かもしれない。

 ならば。

「最後に一度、オレとバトルしないか。本気の手持ちで戦ってやるから」

「いいわよー」

 彼女が真に最強と呼べるのか、自分の手で確かめたい。

 

 

「おーす! 未来のレジェンド!」

 トキワジムは開かれていた。いつものジム男は、いつものように鬱陶しいほど陽気に少女を迎える。

「このジムは足場が不安定でキケンだから、ポケモンしまっておいてくれよな」

「……足場が移動するパネルね」

 矢印が描かれた電光の床を見て、チリアはジムの仕掛けを理解する。ジム男の勧めどおり、バクフーンをモンスターボールに収めた。

「……さて。1年前チャンピオンと戦った男が、このジムのリーダーだ。手強いぜ! くじけずがんばれよ!」

「わたしはこれまで、くじけたことなんてなかったわ。知っているでしょ?」

 厳密には幼少期、大失恋をによりくじけにくじけたのだが、それはポケモンバトルとは関係ない。

「そうだったな! お前なら絶対に大丈夫だ!」

 ジム男に適当に手を振って、チリアの最後のジムチャレンジが始まる。

「………………うん」

 ざっとジムを見渡して、矢印の迷路を看破した。

 迷いなく歩き続け、ジムトレーナーたちを素通りしていく。

「ええ!? もう来た!」

「早くない!?」

 一番最後のダブルチームとは強制的に戦うことになった。シルバーと一緒だとあれだけ手こずったダブルバトルも、自分ひとり、自分のポケモン2体にかかれば楽勝だった。

「よぉ、来たな」

 つまり楽勝に、グリーンのもとにたどり着いた。

「来たわ。きょうは元気そうね」

「ああ、元気いっぱいさ。グレンじゃちょっとばかりナーバスになっちまったけど、いまは無性に戦いたい気分だぜ!」

 好戦的にグリーンは笑う。

「なのにお前、来るの遅かったよな」

「そうかしら? 我ながら、かなりスムーズに床の仕掛けを解いたと思うけど」

「あー、そっちは早かったけど。最速記録だけど。──ジムに来るまでは遅かったって言ってんだよ。グレン島で別れてから3日くらい経ってるぜ? よほどカツラさんに苦戦したのか?」

「まさか。ジョウトに戻って修行したのよ。わたしジョウト出身で、あっちのジム制覇したからカントーに来たの」

「………………」

 目を丸くして、グリーンは少女をじっと見つめる。

「……お前がジョウトのジムをぜんぶ制覇したって?」

「したわよ」

「はははっ、ジョウトのレベルはその程度のもんかよ!」

 挑発のつもりだろうか。チリアを貶めるとしたら遠回しだし、ジョウトのジムリーダーを貶されても、特にチリアに怒りの感情は湧かない。

「デカい口叩くってことは、あなたのレベルは彼らより上?」

「はっ! やっぱりお前、気持ちの良い女だな」

 グリーンは手にしたモンスターボールを投げる。

「戦えばわかることだ。オレのレベルも──お前の実力がホンモノかどうかもな!」

 そのモンスターボールからは、二足歩行するヤシの木のようなポケモン、ナッシーが現れた。

「じゃあこっちも……」

 モンスターボールを握りしめる。

「行きなさい」

 チリアが投げたモンスターボールは。

 指先から真横に逸れて飛び、ジムの壁にバウンドした。

「はあ?」

 現れたバクフーンは、軽く周囲を見渡した後、素早くチリアのもとに戻ってくる。

「さ、バトル……」

「待て待て待て!」

 思わず制止するグリーン。

「お前も、すっげえ()()()()なんだな」

「べつにいいでしょ」

 およそチリアとは真逆に思える性格の、親友の姿が少女に重なる。

 グリーンは目の前の現象が悪夢かと思った。

 

 

「“ふんえん”!」

 さっそく先手を取り、効果抜群の大ダメージを与えるバクフーン。

「ナッシー、“トリックルーム”!」

 しかしナッシーの反撃で、バトルフィールド全体が不思議な空間に包まれる。攻撃技ではない。

「“トリックルーム”……素早さが遅いポケモンほど、行動が早くなるようになるんだっけ」

「そっちのバクフーン、なかなか良いスピードだな。だからこそ効くのさ! ナッシー!」

 歪んだ空間のなかで、ナッシーは素早く技を発する。

「“さいみんじゅつ”!」

「バクフーン」

 チリアの声に合わせて、波動を回避する。

「うん……実際のスピードや反応までは正常。あくまでも変化したのは行動順か」

 ならばとりあえず、ナッシーはこれで終わりだ。

「もう一度、“ふんえん”!」

 噴き出す炎を再度浴びて、ナッシーは戦闘不能となった。

「上出来だ。じゃあつぎ! サイドン!」

 鼻先にドリルのような角を持つ、頑丈なポケモンだ。バクフーンには不利なタイプだ。

「“じしん”!」

 すこしでもダメージを与えたいところだったが、いまのバトルフィールドではバクフーンは素早さが低い。“ソーラービーム”を発射する間もあるはずもなく、強力な“じしん”により倒れてしまった。

 チリアは2体目のポケモンに、カポエラーを選択する。そしていきなり。

「“ねこだまし”」

 必ず先制攻撃になる技で、微弱なダメージとともにサイドンをひるませる。

「うざってえ! “じしん”!」

「“トリプルキック”!」

 タイプ相性ではカポエラーの格闘技はたしかな効果があるのだが、いかんせんサイドンの攻撃力は高い。キック技でどうにか猛攻をさばき、時間を稼ぐ。

「いま! “インファイト”!」

 約5分。“トリックルーム”の効果が切れたタイミングを見計らって、カポエラーが激しい連撃を見舞う。

「……やるな」

 サイドンの巨体が沈んだ。

「やるわよ。舐めないでよね」

「舐めちゃいなかったが、期待以上だ。──ウインディ!」

 オレンジの毛並みのほのおタイプのポケモンは、まるでさっきの“ねこだまし”の意趣返しといわんばかりに──

「“しんそく”!」

 先制技を発動した。さすがにサイドン戦のダメージは大きく、カポエラーはそのまま戦闘不能になる。

「ほのおタイプか……ここは、頑丈なブラッキーに任せるわ」

 手元のボールから飛び出す黒い影。四足歩行同士のポケモンだが、体格はウインディのほうが上だ。だからといって、臆するブラッキーではない。

「“フレアドライブ”!」

「“あやしいひかり”!」

 2体のポケモンは二筋の光となって、バトルフィールドを駆け巡る。

「“あくのはどう”!」

「“りゅうのはどう”!」

 ほとんど互角の戦い。勝負を分けたのは──“あやしいひかり”による『こんらん』だった。

「ちっ……競り負けたか」

 長い時間を経て、ウインディは足を止めて倒れた。

「だがこいつならどうだ!? カイリキー!」

 筋骨隆々の四本腕が立ちはだかる。

「ブラッキー、“あやしいひかり”……」

 が、先の戦いの反動でブラッキーは一瞬、ふらつく、グリーンはその隙を見逃さなかった。

「カイリキー、“ばくれつパンチ”!」

 渾身のパンチ。──本来は当たりづらい技であるが、疲弊したブラッキーはまともに喰らってしまい、バトルフィールドの外まで吹き飛ばされてしまった。

「ブラッキー……がんばらせすぎちゃったかな」

 戦闘不能のブラッキーをボールに戻す。

「そのカイリキー……特性は『ノーガード』?」

 それは、自分の技も相手の技も必中にする、まさに回避という概念を無用にする特性だ。

「よくわかったな」

「“ばくれつパンチ”は命中が低いからね。そんな賭けみたいな技を採用してるってことは、当てる算段があるんでしょ。──さて」

 互いにこれで4体目。痛み分けの戦いを続けるのも嫌いではないが、勝利のためにはそろそろアドバンテージが欲しいところだ。

「行きなさい、カイリュー」

「カイリューだと!?」

 カントーに生息する唯一のドラゴンタイプの種類だ。育成のハードルが特に高いことでも有名である。

 君臨するカイリューの姿に、グリーンもカイリキーも気圧される。その存在感に、いかにチリアがトレーナーとして優秀か理解させられた。

「ことごとくお前はオレの想像を超えるな……カイリキー! “ストーンエッジ”だ!」

 鋭い岩の群れは、しかし空を切る。カイリューは天井すれすれほどの高さまで飛び上がっていた。

「“そらをとぶ”」

 上空から急降下する翼の一撃で、カイリキーは戦闘不能となった。

「……良いカイリューだな。ワタルさんを思い出す」

「当然でしょ。ワタルにはフスベで修行に付き合ってもらったわ」

「どおりで! つまりお前はチャンピオンクラスってわけだ!」

 いよいよチリアを格下に扱うことは許されない。グリーンも一度はチャンピオンとして君臨した。

 彼に負けるまでは。

「お前を見てると奴を思い出すよ」

「だれのことよ」

「オレにとっちゃ、ただの友だちさ。ライバルとも呼べるかな」

「つまりわたしにとっちゃ、どうでもいいひとね。バトルに集中してくれる?」

「お前っ……ほんと、良いなあ!」

 チリアは一旦、カイリューをボールに収める。

 ふたりは互いに、5体目のポケモンを呼び出した。




バクフーン ♂
 おくびょうな性格

トゲキッス ♂
 さみしがりな性格

アーボック ♀
 しんちょうな性格

ブラッキー ♂
 まじめな性格

カイリュー ♀
 なまいきな性格

カポエラー ♂
 ようきな性格
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