ポケットモンスターNAVY ~暴投モンスターボール~ 作:サンダーゴリラ
「あのさ、グリーン」
3日前。
「ぼく、まだ後悔しているんだ。あの日、この島に駆けつけなかったことを」
赤い帽子を深めにかぶった親友は、似合わない神妙な面持ちでグレン島を見渡す。
「その話は終わったはずだ」
グリーンはすげなく吐き捨てた。
友の気持ちがわかっていたからこそ。
「あの日、オレたちはワタルさんから待機を命じられた。それじゃなくても、考えりゃわかるだろ。いくら
あの日、グレン島が噴火して町が無くなった。
レスキューチームによる素早い救助活動の甲斐もあり、人間の犠牲者はゼロ。怪我人も最小限で済んだといえる。
ポケモンに関しては、野生ポケモンも含めて不明。──というか、ポケモンリーグからは未発表である。
「でも、ぼくたちがいれば……」
「オレたちがいれば、もっと多くのポケモンを助けることができていた? それは都合のいい仮定の話だ。レスキューの足を引っ張って、もっと状況が悪くなっていたかもしれない」
「……うん。そうかもね」
そうかもしれない。
しかし、そうじゃないかもしれない。
グリーンの言うとおり、より都合のいい結果を想像してしまうからこそ、彼は後悔してしまっているのだ。
「1年前、ロケット団とやり合って無事に済んだのも、偶然に過ぎないんだからな」
「それを蒸し返す……?」
「シンオウでもいろいろ暴れたらしいし……おかげでお前は、カントーに戻ってきてもトラブル処理係だ。この前、ロケット団が復活しようとしたときも裏で動いたんだろ? それと直近だと、リニアの部品が盗まれたときか」
「よく知ってるねえ」
「……べつにお前が心配なわけじゃない。お前が強いって知ってるからな。でも、忘れるなよ」
グリーンは、赤い帽子の少年をにらむ。
すこしだけ慈愛を込めて。
「お前は、ほんとうは『怪物』じゃない。ふつーのガキだ。だからなにもかも救えると思うなよ」
彼は咀嚼するように、グリーンの言葉に何度も頷く。
「わかってる。そうだよね。そこはよくわかってる。でも──」
言いかけたところで。
「──あ。もうこんな時間!」
「なんだよ!」
ふとポケギアに目を落とした彼は、モンスターボールを投げる。
ボールはなぜか真後ろに飛んで行った。プテラが現れて少年の肩を掴む。
「ごめん! マキシさんの見送りに行くんだ」
「えーと……シンオウのジムリーダーだったか」
シンオウ地方の旅を経て、彼の交友関係はずいぶんと拡大された。グリーンは親友ではあるが、なぜか寂しいという感覚が湧いてこない。
「『ナエトルおめん』のお礼もしないとだし。──じゃあまたね、グリーン。ありがとう!」
”そらをとぶ”で去っていく親友。グリーンは深くため息をついて、ふたたびグレン島を見渡す。
「なにがありがとうなんだか……ちっともわかってないくせに」
きっと彼は、まだ後悔を引きずるだろう。後悔を抱えて今後を過ごしていくだろう。そういうやつだ。
「まあ……オレも似たようなもんか」
なぜか、すっかりナーバスになってしまったグリーンに、しばらくして白い帽子の少女が話しかけてきた。
「あなた、グリーンでしょ」
:
「アーボック、“どくづき”!」
「ギャラドス、“たきのぼり”!」
さながら、絡み合う2尾の蛇。
かなり粘ったアーボックだが、“りゅうのまい”の効果が決定打となり、ギャラドスの技の前に倒れた。
「さあ、つぎだ! どんどん来い!」
高揚しているグリーンの声色だが、チリアはそれすらも挑発かと疑った。
ギャラドスがどんなポケモンであるか、どんなタイプの技を使うのか、これまでの度で学んでいる。
「なんとなく狙いはわかるな。しかしあえて──カイリュー!」
足元でバウンドしたボールから、ふたたびカイリューが現れた。体力に懸念点はない。相手のギャラドスはアーボック戦でなかなかのダメージを負っているが、“りゅうのまい”で能力が上がっている。
「来たなカイリュー!」
ギャラドスのキバに冷気が漂うのを、チリアは見逃さなかった。というか予想どおりだった。
「“こおりの”──」
“キバ”、言い終わる前に。
「“しんそく”」
カイリュー突撃が、ギャラドスを吹き飛ばした。
「なっ……!?」
「最近知ったんだけど、カイリュー……というかミニリュウって、ふつうは“しんそく”を習得しないらしいわね」
倒れるギャラドスをしり目に、少女は語る。
「とはいっても、フスベ産まれのちょっと特別な個体、ってだけだから、インチキじゃないわよ。文句ならワタルに言ってよね」
「……はっ! 文句があるわけじゃねえよ」
最後のモンスターボールを握るグリーンの言葉は、なかば強がりであった。
「ちょーっと油断しただけさ! お前こそ油断するなよ!」
「してないわよ。最初から」
またチリアはカイリューを引っ込めて、6体目のポケモンを選択する。
「ピジョット!」
「トゲキッス!」
2体のひこうタイプのポケモンが、トキワジムを舞う。
「“エアスラッシュ”!」
トゲキッスが放つ真空刃を。
「“かげぶんしん”!」
ピジョットは回避する。
「そして“おんがえし”!」
ピジョットの放つ攻撃は重かった。懐いているほど強い技──どれほどグリーンとピジョットの間に信頼関係があるのか、否が応でも理解させられる。
「でもいける。トゲキッス、進化してきみは強くなった。技もいろいろ覚えさせた。空中戦も達者になった。つまり、負ける理由はない」
“かげぶんしん”で回避を上げられてしまったが、関係ない。
「トゲキッス、“でんげきは”!」
わざマシンで覚えさせた、でんきタイプの必中技だ。自らの残像を残しつつ飛ぶピジョットだが、電撃は確実に本体を射抜く。
効果は抜群。
「ちっ……ピジョット! もう一度、“おんがえし”だ!」
「おなじ技を繰り返すということは、万策尽きたと考えていいのよね?」
思わず挑発的な口調になってしまう。
やはりグリーンにシルバーを重ねてしまっているのだろうか。嗜虐心を刺激される。
「“でんげきは”」
ピジョットが地に落ち、最後のジムリーダー戦が終了した。
「油断したのはオレか……?」
:
「それがジョウトで最強の実力……」
戦闘不能のピジョットをボールに収めて、グリーンはじつに悔しそうに肩を落とした。
「……なんてこった! オレがこんなヤツに負けちまうなんてっ!!」
「だれが『こんなヤツ』よ」
まあ、侮辱めいたグリーンの発言は聞き逃していいだろう。これはただ、素直に悔しがっているだけだ。よほどの罵倒でなければ、追及するべきワードではない。
しばらく彼の悔恨を見守った後。
「……ちっ、しょうがねえ。ほらグリーンバッジだ、おまえにやるよ!」
木の葉を模した緑色のバッジを受け取った。
「……オレが間違ってたよ。お前はほんものだよ」
「なんの偽物だと思ってたの?」
「あー、つまり……強いトレーナーだ! 素直に認めるぜ!」
「……それはどうも。でももうちょっと素直になってもいいんじゃない?」
チリアはずい、とグリーンに近づく。少女の大きな目が接近し、思わずグリーンは緊張する。
「どうして本気の手持ちじゃなかったの?」
「………………」
天才の目は誤魔化せない。
「わたしはけっこうフスベで修行したけど、それにしたって、想定していたよりちょっとだけあなたは弱かったな」
「弱っ……!?」
「ほんとはもっと強いんでしょ?」
グリーンは後ずさりして、やがてため息を吐いた。
「ちっ……ワタルさんから連絡が来たんだよ。あくまでもジムリーダーとしてのレベルで戦え、と」
「ワタルめ……余計なことを」
まあ、本気のグリーンと戦うという情報は、チリアがワタルに漏らしてしまったのだが。
あるいはワタルは、そんなにチリアに勝たせたかったのか。
「ワタルさんは正しいよ。たしかにリザードンやバンギラスを使っていれば、お前に勝つ確率はかなり高かったが……それじゃダメなんだ。ジムリーダーとしてお前と戦うならば、定められた
「ふーん……じゃあ、これからもう一回やる? プライベートで」
「……ははっ!」
グリーンは、吹き出した。
「はははは! いやいや、もう一回とか、勘弁してくれよ! きょうはもう疲れた!」
「そう? じゃ、きょうはやめとこっか……」
チリアはバッジケースにグリーンバッジを着けた。これにて8つ。ジョウトで獲得したものを含めて、総数は16個。
「近いうちにわたしは最強のポケモントレーナーになる。そしたらやろっか」
「……ああ、いいぜ」
グリーンは腕を組んで、挑発的に少女を見下す。
「つぎは、オレがお前を倒すからなっ!」
最強のトレーナー。
グリーンにとって、その過程でチリアと
チリアならば、
「なにニヤニヤしてるの? やな感じ……」
「気にすんな! とっとと行け!」
:
「さすが強いねっ! あまりにも感動的な勝負を見せてもらって、オレっち涙が出ちゃったよ!」
滂沱の涙を流すジム男を「はいはい」とあしらっていると、チリアのポケギアに着信が入った。
『わしじゃ! オーキドじゃよ!』
「お久しぶり。いまちょうど、あなたの孫をやっつけたところ」
『わっはっは! きみは相変わらずじゃのう!』
オーキド博士も相変わらず、好々爺だ。
グリーンを負かしたことに恨み言が欲しかったわけではないが、すこしは驚けばいいのに。
『カントーでバッジを集めているという噂はほんとうじゃったか! いまはトキワかな? ちょうどいい。いまからマサラタウンの我が研究所に来れるか?』
「えー……」
『待っとるぞ!』
一方的に約束を取り付けられて、通話が終了した。
「強引だなあのジジイ……まあ近いからいいか。無視したい気もあるけど、ナナミやグリーンの顔も立てないと」
ポケモンセンターで回復を済ませて、チリアたちはマサラタウンへ南下する。
以前立ち寄ったナナミの家──正確にはオーキド博士の自宅。そのすぐそばに、オーキド博士のポケモン研究所が建っている。
「やあ、来た来た!」
来訪したチリアの姿を認めるや否や、なんとも快くオーキドは少女を歓迎した。
ワカバのウツギ博士の研究所に比べ、倍ほどは広い。助手らしき研究員は三人もいる。設備もさながら、この資料や蔵書の数ならばヒマつぶしに困らなさそうだ。
「ちょうどお茶が入ったところじゃ。まあ、適当に座ってくれ」
「お構いなく。用が済んだらすぐに出るわ」
「そう寂しいことを言うな! どうじゃ? カントーのジムバッジ集めは?」
チリアはバッジケースを取り出して、老人に中身を示した。
「ちょうどさっき終わったわ。グリーン相手が最後だったの」
「なんと! ジョウトのものだけでなく、きみはカントーのジムバッジもすべて集めてしまったのか!」
感心するオーキド。彼の手元のお茶がこぼれないか、心配になった。
「ううむ……さすがはわしが見込んだだけのことはある!」
「自分にも手柄があるみたいに言うのね。たしかにわたしに目をつけたのは慧眼だったかもしれないけど、こっちのほうはどうかしら」
チリアは、あの日ワカバタウンでなかば無理矢理押しつけられた、白いポケモン図鑑を差し出す。
「ポケモンを調べるのにはちょっとだけ役に立った。でも、データ収集のほうは惨憺たるものよ」
「ふむふむ……」
チリアのポケモン図鑑を調べるオーキド博士。
「捕まえたポケモンが15! ……まあこんなもんじゃろう」
ちっとも驚いていない様子の評価に、逆にチリアのほうが引いた。
「見つけたポケモンの数はかなりのものじゃのう。さすが! ふたつの地方を股にかけて旅をしただけのことはある!」
「……文句はないの? わたしがぜんぜんポケモンを捕まえることができてないことに」
「きみがボールを投げるのは不得手であることは知っておる。そのハンデともいえる体質ながら、よくぞここまでの成果を挙げたものじゃ。賞賛はせども、文句なんぞあろうはずもない!」
「……あっそ」
予想外の『賞賛』に、悪い気はしないものの素直にリアクションが取れなかった。
「そうじゃ! ノーコンといえば」
オーキドはポケモン図鑑を閉じて、チリアに返す。
「シロガネ山を目指していると聞いた」
「ワタルね。あの男、口が軽い……」
「ジョウトとカントーのバッジを揃えたことだし、チリアちゃんがシロガネ山に入れるよう手配しておこう!」
チリアは首を傾げる。
「そんな権限が? ……ねえオーキド博士。あなたってポケモンリーグの人間でもあるの?」
「まあな! 及ばずながら役員のひとりでもある」
ラジオのパーソナリティといい、手広くやっているようだ。
「シロガネ山は野生ポケモンがたくさいいる大きな山じゃ! ふつうのトレーナーはキケンだから入れないようにしているのだが、チリアちゃんなら大丈夫!」
「『怪物』ってのもいるんでしょう?」
チリアの問いに、オーキドは意味ありげに無言で頷く。
「ワタルに聞いたわ。最強のトレーナーになるならば、それに勝たなきゃいけない」
「なるほど……まあ、『怪物』呼ばわりされているあの子は、ある種、到達点のひとつかもしれんな。──しかし、最強か」
老人は、難しそうな表情で少女をじっと見つめる。
「前々から思っていたことがある」
「なに?」
「きみは、無理して最強を意識していないかい?」
バクフーン ♂
おくびょうな性格
トゲキッス ♂
さみしがりな性格
アーボック ♀
しんちょうな性格
ブラッキー ♂
まじめな性格
カイリュー ♀
なまいきな性格
カポエラー ♂
ようきな性格