ポケットモンスターNAVY ~暴投モンスターボール~   作:サンダーゴリラ

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レポート48 マサラタウン/博士の評価

「あのさ、グリーン」

 3日前。

「ぼく、まだ後悔しているんだ。あの日、この島に駆けつけなかったことを」

 赤い帽子を深めにかぶった親友は、似合わない神妙な面持ちでグレン島を見渡す。

「その話は終わったはずだ」

 グリーンはすげなく吐き捨てた。

 友の気持ちがわかっていたからこそ。

「あの日、オレたちはワタルさんから待機を命じられた。それじゃなくても、考えりゃわかるだろ。いくら()()()()()()()()()()()()、オレたちは素人だ。災害に対して『なにもしない』という判断に、後悔なんてしてんじゃねえよ」

 あの日、グレン島が噴火して町が無くなった。

 レスキューチームによる素早い救助活動の甲斐もあり、人間の犠牲者はゼロ。怪我人も最小限で済んだといえる。

 ポケモンに関しては、野生ポケモンも含めて不明。──というか、ポケモンリーグからは未発表である。

「でも、ぼくたちがいれば……」

「オレたちがいれば、もっと多くのポケモンを助けることができていた? それは都合のいい仮定の話だ。レスキューの足を引っ張って、もっと状況が悪くなっていたかもしれない」

「……うん。そうかもね」

 そうかもしれない。

 しかし、そうじゃないかもしれない。

 グリーンの言うとおり、より都合のいい結果を想像してしまうからこそ、彼は後悔してしまっているのだ。

「1年前、ロケット団とやり合って無事に済んだのも、偶然に過ぎないんだからな」

「それを蒸し返す……?」

「シンオウでもいろいろ暴れたらしいし……おかげでお前は、カントーに戻ってきてもトラブル処理係だ。この前、ロケット団が復活しようとしたときも裏で動いたんだろ? それと直近だと、リニアの部品が盗まれたときか」

「よく知ってるねえ」

「……べつにお前が心配なわけじゃない。お前が強いって知ってるからな。でも、忘れるなよ」

 グリーンは、赤い帽子の少年をにらむ。

 すこしだけ慈愛を込めて。

「お前は、ほんとうは『怪物』じゃない。ふつーのガキだ。だからなにもかも救えると思うなよ」

 彼は咀嚼するように、グリーンの言葉に何度も頷く。

「わかってる。そうだよね。そこはよくわかってる。でも──」

 言いかけたところで。

「──あ。もうこんな時間!」

「なんだよ!」

 ふとポケギアに目を落とした彼は、モンスターボールを投げる。

 ボールはなぜか真後ろに飛んで行った。プテラが現れて少年の肩を掴む。

「ごめん! マキシさんの見送りに行くんだ」

「えーと……シンオウのジムリーダーだったか」

 シンオウ地方の旅を経て、彼の交友関係はずいぶんと拡大された。グリーンは親友ではあるが、なぜか寂しいという感覚が湧いてこない。

「『ナエトルおめん』のお礼もしないとだし。──じゃあまたね、グリーン。ありがとう!」

 ”そらをとぶ”で去っていく親友。グリーンは深くため息をついて、ふたたびグレン島を見渡す。

「なにがありがとうなんだか……ちっともわかってないくせに」

 きっと彼は、まだ後悔を引きずるだろう。後悔を抱えて今後を過ごしていくだろう。そういうやつだ。

「まあ……オレも似たようなもんか」

 なぜか、すっかりナーバスになってしまったグリーンに、しばらくして白い帽子の少女が話しかけてきた。

「あなた、グリーンでしょ」

 

 

「アーボック、“どくづき”!」

「ギャラドス、“たきのぼり”!」

 さながら、絡み合う2尾の蛇。

 かなり粘ったアーボックだが、“りゅうのまい”の効果が決定打となり、ギャラドスの技の前に倒れた。

「さあ、つぎだ! どんどん来い!」

 高揚しているグリーンの声色だが、チリアはそれすらも挑発かと疑った。

 ギャラドスがどんなポケモンであるか、どんなタイプの技を使うのか、これまでの度で学んでいる。

「なんとなく狙いはわかるな。しかしあえて──カイリュー!」

 足元でバウンドしたボールから、ふたたびカイリューが現れた。体力に懸念点はない。相手のギャラドスはアーボック戦でなかなかのダメージを負っているが、“りゅうのまい”で能力が上がっている。

「来たなカイリュー!」

 ギャラドスのキバに冷気が漂うのを、チリアは見逃さなかった。というか予想どおりだった。

「“こおりの”──」

 “キバ”、言い終わる前に。

「“しんそく”」

 カイリュー突撃が、ギャラドスを吹き飛ばした。

「なっ……!?」

「最近知ったんだけど、カイリュー……というかミニリュウって、ふつうは“しんそく”を習得しないらしいわね」

 倒れるギャラドスをしり目に、少女は語る。

「とはいっても、フスベ産まれのちょっと特別な個体、ってだけだから、インチキじゃないわよ。文句ならワタルに言ってよね」

「……はっ! 文句があるわけじゃねえよ」

 最後のモンスターボールを握るグリーンの言葉は、なかば強がりであった。

「ちょーっと油断しただけさ! お前こそ油断するなよ!」

「してないわよ。最初から」

 またチリアはカイリューを引っ込めて、6体目のポケモンを選択する。

「ピジョット!」

「トゲキッス!」

 2体のひこうタイプのポケモンが、トキワジムを舞う。

「“エアスラッシュ”!」

 トゲキッスが放つ真空刃を。

「“かげぶんしん”!」

 ピジョットは回避する。

「そして“おんがえし”!」

 ピジョットの放つ攻撃は重かった。懐いているほど強い技──どれほどグリーンとピジョットの間に信頼関係があるのか、否が応でも理解させられる。

「でもいける。トゲキッス、進化してきみは強くなった。技もいろいろ覚えさせた。空中戦も達者になった。つまり、負ける理由はない」

 “かげぶんしん”で回避を上げられてしまったが、関係ない。

「トゲキッス、“でんげきは”!」

 わざマシンで覚えさせた、でんきタイプの必中技だ。自らの残像を残しつつ飛ぶピジョットだが、電撃は確実に本体を射抜く。

 効果は抜群。

「ちっ……ピジョット! もう一度、“おんがえし”だ!」

「おなじ技を繰り返すということは、万策尽きたと考えていいのよね?」

 思わず挑発的な口調になってしまう。

 やはりグリーンにシルバーを重ねてしまっているのだろうか。嗜虐心を刺激される。

「“でんげきは”」

 ピジョットが地に落ち、最後のジムリーダー戦が終了した。

「油断したのはオレか……?」

 

 

「それがジョウトで最強の実力……」

 戦闘不能のピジョットをボールに収めて、グリーンはじつに悔しそうに肩を落とした。

「……なんてこった! オレがこんなヤツに負けちまうなんてっ!!」

「だれが『こんなヤツ』よ」

 まあ、侮辱めいたグリーンの発言は聞き逃していいだろう。これはただ、素直に悔しがっているだけだ。よほどの罵倒でなければ、追及するべきワードではない。

 しばらく彼の悔恨を見守った後。

「……ちっ、しょうがねえ。ほらグリーンバッジだ、おまえにやるよ!」

 木の葉を模した緑色のバッジを受け取った。

「……オレが間違ってたよ。お前はほんものだよ」

「なんの偽物だと思ってたの?」

「あー、つまり……強いトレーナーだ! 素直に認めるぜ!」

「……それはどうも。でももうちょっと素直になってもいいんじゃない?」

 チリアはずい、とグリーンに近づく。少女の大きな目が接近し、思わずグリーンは緊張する。

「どうして本気の手持ちじゃなかったの?」

「………………」

 天才の目は誤魔化せない。

「わたしはけっこうフスベで修行したけど、それにしたって、想定していたよりちょっとだけあなたは弱かったな」

「弱っ……!?」

「ほんとはもっと強いんでしょ?」

 グリーンは後ずさりして、やがてため息を吐いた。

「ちっ……ワタルさんから連絡が来たんだよ。あくまでもジムリーダーとしてのレベルで戦え、と」

「ワタルめ……余計なことを」

 まあ、本気のグリーンと戦うという情報は、チリアがワタルに漏らしてしまったのだが。

 あるいはワタルは、そんなにチリアに勝たせたかったのか。

「ワタルさんは正しいよ。たしかにリザードンやバンギラスを使っていれば、お前に勝つ確率はかなり高かったが……それじゃダメなんだ。ジムリーダーとしてお前と戦うならば、定められた水準(ルール)は守らなきゃならない。ジムリーダーとしてのプライドをかけてな」

「ふーん……じゃあ、これからもう一回やる? プライベートで」

「……ははっ!」

 グリーンは、吹き出した。

「はははは! いやいや、もう一回とか、勘弁してくれよ! きょうはもう疲れた!」

「そう? じゃ、きょうはやめとこっか……」

 チリアはバッジケースにグリーンバッジを着けた。これにて8つ。ジョウトで獲得したものを含めて、総数は16個。

「近いうちにわたしは最強のポケモントレーナーになる。そしたらやろっか」

「……ああ、いいぜ」

 グリーンは腕を組んで、挑発的に少女を見下す。

「つぎは、オレがお前を倒すからなっ!」

 最強のトレーナー。

 グリーンにとって、その過程でチリアと()が衝突することは想像に難くなかった。

 チリアならば、()に勝ってしまうかもしれない。そう考えると、胸に小さな小さな嫉妬心が芽生え、思わずグリーンは笑ってしまった。

「なにニヤニヤしてるの? やな感じ……」

「気にすんな! とっとと行け!」

 

 

「さすが強いねっ! あまりにも感動的な勝負を見せてもらって、オレっち涙が出ちゃったよ!」

 滂沱の涙を流すジム男を「はいはい」とあしらっていると、チリアのポケギアに着信が入った。

『わしじゃ! オーキドじゃよ!』

「お久しぶり。いまちょうど、あなたの孫をやっつけたところ」

『わっはっは! きみは相変わらずじゃのう!』

 オーキド博士も相変わらず、好々爺だ。

 グリーンを負かしたことに恨み言が欲しかったわけではないが、すこしは驚けばいいのに。

『カントーでバッジを集めているという噂はほんとうじゃったか! いまはトキワかな? ちょうどいい。いまからマサラタウンの我が研究所に来れるか?』

「えー……」

『待っとるぞ!』

 一方的に約束を取り付けられて、通話が終了した。

「強引だなあのジジイ……まあ近いからいいか。無視したい気もあるけど、ナナミやグリーンの顔も立てないと」

 ポケモンセンターで回復を済ませて、チリアたちはマサラタウンへ南下する。

 以前立ち寄ったナナミの家──正確にはオーキド博士の自宅。そのすぐそばに、オーキド博士のポケモン研究所が建っている。

「やあ、来た来た!」

 来訪したチリアの姿を認めるや否や、なんとも快くオーキドは少女を歓迎した。

 ワカバのウツギ博士の研究所に比べ、倍ほどは広い。助手らしき研究員は三人もいる。設備もさながら、この資料や蔵書の数ならばヒマつぶしに困らなさそうだ。

「ちょうどお茶が入ったところじゃ。まあ、適当に座ってくれ」

「お構いなく。用が済んだらすぐに出るわ」

「そう寂しいことを言うな! どうじゃ? カントーのジムバッジ集めは?」

 チリアはバッジケースを取り出して、老人に中身を示した。

「ちょうどさっき終わったわ。グリーン相手が最後だったの」

「なんと! ジョウトのものだけでなく、きみはカントーのジムバッジもすべて集めてしまったのか!」

 感心するオーキド。彼の手元のお茶がこぼれないか、心配になった。

「ううむ……さすがはわしが見込んだだけのことはある!」

「自分にも手柄があるみたいに言うのね。たしかにわたしに目をつけたのは慧眼だったかもしれないけど、こっちのほうはどうかしら」

 チリアは、あの日ワカバタウンでなかば無理矢理押しつけられた、白いポケモン図鑑を差し出す。

「ポケモンを調べるのにはちょっとだけ役に立った。でも、データ収集のほうは惨憺たるものよ」

「ふむふむ……」

 チリアのポケモン図鑑を調べるオーキド博士。

「捕まえたポケモンが15! ……まあこんなもんじゃろう」

 ちっとも驚いていない様子の評価に、逆にチリアのほうが引いた。

「見つけたポケモンの数はかなりのものじゃのう。さすが! ふたつの地方を股にかけて旅をしただけのことはある!」

「……文句はないの? わたしがぜんぜんポケモンを捕まえることができてないことに」

「きみがボールを投げるのは不得手であることは知っておる。そのハンデともいえる体質ながら、よくぞここまでの成果を挙げたものじゃ。賞賛はせども、文句なんぞあろうはずもない!」

「……あっそ」

 予想外の『賞賛』に、悪い気はしないものの素直にリアクションが取れなかった。

「そうじゃ! ノーコンといえば」

 オーキドはポケモン図鑑を閉じて、チリアに返す。

「シロガネ山を目指していると聞いた」

「ワタルね。あの男、口が軽い……」

「ジョウトとカントーのバッジを揃えたことだし、チリアちゃんがシロガネ山に入れるよう手配しておこう!」

 チリアは首を傾げる。

「そんな権限が? ……ねえオーキド博士。あなたってポケモンリーグの人間でもあるの?」

「まあな! 及ばずながら役員のひとりでもある」

 ラジオのパーソナリティといい、手広くやっているようだ。

「シロガネ山は野生ポケモンがたくさいいる大きな山じゃ! ふつうのトレーナーはキケンだから入れないようにしているのだが、チリアちゃんなら大丈夫!」

「『怪物』ってのもいるんでしょう?」

 チリアの問いに、オーキドは意味ありげに無言で頷く。

「ワタルに聞いたわ。最強のトレーナーになるならば、それに勝たなきゃいけない」

「なるほど……まあ、『怪物』呼ばわりされているあの子は、ある種、到達点のひとつかもしれんな。──しかし、最強か」

 老人は、難しそうな表情で少女をじっと見つめる。

「前々から思っていたことがある」

「なに?」

「きみは、無理して最強を意識していないかい?」




バクフーン ♂
 おくびょうな性格

トゲキッス ♂
 さみしがりな性格

アーボック ♀
 しんちょうな性格

ブラッキー ♂
 まじめな性格

カイリュー ♀
 なまいきな性格

カポエラー ♂
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