ポケットモンスターNAVY ~暴投モンスターボール~   作:サンダーゴリラ

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レポート3 サンヨウシティ/3つの星

「べつに、三人一緒に旅をする必要はないんだよね?」

 予定より遅めの朝食後。

 チェレンは支度を終えて、すぐにでも席を立ちそうな様子だ。

「もちろん。ぼくはチェレンとベルの旅をサポートするように言われたけど、付きっきりでいるつもりはない。お互い近くにいて、困ってるときは助ける。そうでもないときは助けない」

「じゃあぼくは先に行く。次の街……、サンヨウシティのジムリーダーと早く戦いたいんだ」

 いよいよチェレンは立ち上がった。

「ベル、アクタ。きみたちの旅の目的は知らないけど……とりあえずジムリーダーとどんどん戦いなよ。トレーナーが強くなるには、各地にいるジムリーダーと勝負するのが一番だからね」

 そう言い残して、眼鏡の少年はカラクサタウンのポケモンセンターから去って行った。

「え、えーと……」

 ベルは気まずそうに、口元のケチャップを拭うアクタの顔色を窺う。

「ベルも行っていいよ。好きなところを旅していい」

「……いいの?」

「いいんだよ。あ、ぼくは用事があるから、もうちょっとだけポケモンセンターにいるよ」

「……じゃあ」

 ベルは立ち上がる。足元にいたポカブは、少女の動作に敏感に反応する。

「お先に、アクタ! これからもよろしくね!」

 緊張しつつも元気よく、ベルとポカブは冒険の旅を再開した。

「ぼくにも、ああいう時代が……いや、いまも変わんないよな」

 ほんとうは自分も、すぐにでもスキップしながら冒険を再開したいところだが。

「さて、とりあえずパソコンを借りて、あっちに連絡を取ろう。カントーやジョウトは……いまは夜かな? 時差ってどれくらいって言ってたっけ……」

 

 

 結局カントー地方とは、距離が離れすぎているせいか回線が重く、通話ではまともにやり取りができなかった。

 彼女がなんと言っているのか、ずっとわからなかった。

 なのでフレンドリィショップで手紙(メール)をしたためて送る。そうしているうちに、時刻は昼を過ぎていた。

「ああ、もうこんな時間だ。チェレンとベルに置いていかれちゃう」

 急いで2番道路に繰り出す。

 野生のポケモンは、1番道路に引き続きミネズミやヨーテリー、そして今朝、Nというトレーナーも使っていたチョロネコが出現した。

「しっかし……、ほんとうに知らないポケモンばっかりだ」

 いずれも、カントーにもシンオウにもいない種類のポケモンである。イッシュ地方はポケモンの輸出入が厳しいので、ローカルな種類が多いのだ。

「世界、広いなあ。ほかにも初めて見るポケモンがいっぱいいるんだろうな……、うふふ、楽しみだ」

 足取りが軽いアクタに反応するのは、野生ポケモンだけではない。短パンの少年と目が合うと──

「トレーナーとトレーナーの目が合うってことは……ポケモン勝負の始まりさ!」

「いいよー」

 トレーナーとのポケモンバトルだ。

「行け、ミネズミ!」

「やるよ、ミジュマル!」

 アクタが投げたモンスターボールは草むらに飛んで行く。

「あ、ごめんミジュマル!」

「なんだ!? きみ、新米過ぎるぞ!?」

 野生ポケモンを無視してこちらに戻ってくるミジュマル。アクタをジトっとした目で一瞬睨んで、短パン小僧のミネズミと対峙する。

「これならいただきだな! ミネズミ、“たいあたり”!」

「ミジュマル、さっき覚えた技を。しばらくこの技を中心に戦うよ。──“みずでっぽう”!」

 勝負はすぐに決着した。

「なんだ!? きみ、強過ぎるぞ!?」

 バトルだけならば、アクタの実力は高い。

 その後も。

「アタシ、ポケモン勝負がとっても大好きなの! だってかわいいポケモンがさらにかわいくがんばるんだもん!」

「わかるなあ」

 ミニスカートの少女や。

「ヨーテリー、ヨーテリー、ぼくのヨーテリー! ゴー!」

「ヨーテリーを使うんだね」

 べつの短パン小僧と戦ったが。いずれも楽勝だった。

「“みずでっぽう”もけっこう使い慣れてきたね。やっぱりタイプが一致してると強いや。──あ、ベルだ」

 2番道路も終わりに差し掛かったところで、最近知り合った背中を見つける。ベルのほうもアクタに気づいて、大きく手を振ってこちらに駆け寄ってくる。

「アクタ! ねえねえ、ポケモン勝負しようよ!」

「急だねえ。でもいいよ」

「えへへ……、新しく捕まえたポケモンもちょっと強くなったし!」

 アクタと十分な距離を取ったベルは、さっそくモンスターボールを投げる。現れたのはヨーテリー。1番道路で捕まえていたポケモンだ。

「あっちは2匹だ。頼むぜ、ミジュマル」

 連れ歩いていたミジュマルは、アクタの合図で前に出る。

「き、気合い入れていくよ! ヨーテリー、“たいあたり”!」

 ベルのヨーテリーは、たしかに野生よりはしっかり育っている。

「“みずでっぽう”」

 しかしアクタのミジュマルよりは、いささか劣っている。鋭い“みずでっぽう”を数発浴びて、ヨーテリーは戦闘不能となった。

「うわわわ……じゃ、じゃあ次はポカブで!」

 オレンジ色の影が、文字どおり鼻息荒くミジュマルと対峙する。そういえば、きのうはこのポカブに負けてしまったのだ。アクタが真剣に勝負しなかったせいだが。

「“みずでっぽう”ってすごいけど……ポカブだってね、ほのおタイプの技を覚えたんだよ!」

「へえ、やるじゃん? でもミジュマル相手だと……」

「“ひのこ”!」

 アクタの忠告を聞かず、ベルの指示によりポカブは鼻から火の粉を発射した。

「まあ……、実際にやって覚えるのほうがいいと思うけど」

 こうかはいまひとつ。

 ミジュマルの身体はわずかに焦げたものの、ダメージとしてはほとんど成立していない。

「あれえ!?」

「タイプ相性って10種類以上もあるから、覚えるのもたいへんなんだよね。とりあえず、くさ、ほのお、みずは三すくみになってるから、そこは基礎として押さえとこうね」

「んーと、つまり、みずはほのおに……」

「こうかはばつぐんってわけ。というわけで、“みずでっぽう”!」

 これにて一応、ミジュマルはポカブへのリベンジを果たした。

「ふわあ……やっぱり強いんだね、アクタ」

 ベルは倒れたポカブを心配そうに撫でて、モンスターボールに戻した。

「ベルこそ、ちゃんとポケモンを捕まえて、育てて、すごいよ。きっとすぐに強くなるさ」

「そ、そうかなあ……」

「さて、じゃあポケモンセンターに行こうか。サンヨウシティってこの先でしょ?」

 ふたりは2番道路を抜けて、次なる街に足を踏み入れる。

 

────

 ここはサンヨウシティ。

 サンヨウとは3つ並ぶ星のこと。

────

 

「トレーナーズスクールと……お、この街ってジムあるんだ」

 ポケモンセンターでの休憩中、アクタはタウンマップをチェックする。

「ジムって……ポケモンジム?」

 首を傾げるベル。

「そういえばポケモンジムって、どういう施設なの?」

「えっと……」

 いざ説明を求められると詰まってしまう。

 地元ではあんなにジムリーダーたちと懇意にしているくせに。

「ポケモントレーナーの、バトルの実力とか……、バトルだけじゃなくてなんかこう、知識や機転を求められる仕掛けもあったりするんだけどさ。まあいろんな意味で、『ポケモントレーナー』の資質を試される場所だよ」

「ふええ、難しそう……」

「あー、難しいように聞こえるけど、挑んでみればきっとなんとかなるよ」

 アクタはふたつの地方のジムをクリアしている。簡単でこそなかったが、()()()()なってきたのだ。

「ジムの前に、トレーナーズスクールに行って勉強しよっか。バトルのことも教えてもらえると思う」

「うん! なんかチェレンがいそう!」

「そう? さすが幼なじみ……」

 見た目の印象だが、チェレンは眼鏡だし、きっと勉強熱心なのだろう。

 

 

『ポケモンのために学ぶ、トレーナーズスクール』

 数人の生徒。専門書が並ぶ本棚。そして大きな黒板。いかにも『学び舎』な雰囲気に、アクタとベルはすこし緊張してしまう。

 とはいえ、ここはだれでもポケモンの基礎知識を学べる学習塾。すぐにスクールはふたりの新顔を受け容れたし──

「ポケモンが毒を受けると戦っているあいだ、どんどん体力が減る。ただし体力が減るのは戦っているときだけ、ね……」

 黒板の前には、見知った顔がいた。

「チェレン! やっぱりいた!」

「ベルに……、やあ、アクタ」

 眼鏡の少年が振り向いた。

「よう、チェレン。ばっちり勉強してるみたいだね」

「もちろんさ。──さっきまでここに、ジムリーダーがいたんだ。ポケモンのタイプについて話していたけどね……」

「へえ! どんなひとだった? ──あ、ごめんやっぱり言わないで。自分で会ってからたしかめたい」

「そ、そうかい」

「ねえねえ、チェレン!」

 眼鏡の位置を直すチェレンに、ベルが詰め寄る。

「あたしとポケモン勝負しようよ!」

「急だね。いいけど……」

「えへへ! さっきアクタに、タイプ相性のこと教えてもらったんだ!」

 ベルはアクタに目配せをする。

「つまりベルは、チェレンのツタージャが、ほのおタイプのポカブにとって格好のカモだと言いたいわけさ」

「そうそ……えええ!? そういうわけじゃないよ!?」

 アクタの意地悪な物言いに、ベルはたじろぐ。

「なんでも構わないよ……タイプ相性が不利でもこの際、構わない。ぼくは勝負のとき、どれだけ道具が重要か試したい」

 自信のある様子のチェレンに、アクタは感心した。

 この眼鏡、思っていた以上のレベルを勉強している。

「さて道具の効果がどれほどか……、あるいは道具なしでどれだけ戦えるか試すか……。じゃあやろう、ベル」

「うん! がんばろうね、ポカブ!」

 スクール内のバトルフィールドで、幼なじみふたりが衝突し──

 

 

 やがてベルが負けた。

「うわあ……、また負けたあ……」

「惜しかったねベル。チェレンもすごいよ。不利なタイプによく勝てたね」

「ふっ、当然さ」

 ポカブの“ひのこ”は、くさタイプのツタージャをたしかに追い詰めたのだが、体力の減ったツタージャが持ち物の『オレンのみ』を使った瞬間、一気に情勢が変わった。

「ポケモンにきのみを持たせておけば、戦って体力が減ったとき勝手に食べてくれる。──もっとも、キズぐすりのように人が造った道具は持たせておいても使えないけどね」

 得意そうに語るチェレン。

 まあ観戦していたアクタからしてみれば、きのみを使われた際にベルが動揺したことが、ターニングポイントだと思ったが。

 ポケモンは敏感だ。だからトレーナーの感情も読み取ってしまい、それは良くも悪くもバトルに作用する。──動揺すれば、それも伝わる。

 だからアクタが師匠から最初に教わったのは、メンタルトレーニングだったりする。

「ねえベル」

「よし! あたしも勉強する!」

 アドバイスをする前に、少女は奮起して立ち上がった。

「タイプ相性、状態異常、道具! いろいろ覚えて、チェレンにもアクタにも負けないんだから!」

 奮起したベルは、黒板の方向へ走って行った。

「……まあ、元気ならいいか」

「アクタは、ジムに行くのかい? ベルのことは、まあぼくが見とくよ」

 チェレンはまだスクールに残るようだ。

「ベルはけっこうしたたかで頑丈だからね。あまり世話を焼かなくても、自分でなんとかできる子だよ」

「そう? さすが幼なじみ……」

 アララギ博士(娘)からはサポートを任されてしまったが、どうやらチェレンにしてもベルにしても、思っているより()()()らしい。

 安心して、アクタはポケモントレーナーズスクールを後にした。

 

 

「それにしてもジム、どこだろう……」

 そしていきなり迷った。

 さまよう主人に、連れ歩いているミジュマルも呆れた様子である。

「おかしいなあ。それっぽい建物が見当たらない。おかしいなあ。」

 サンヨウシティも決して大きな街ではないので、見渡せばすぐにでも見つかりそうなものだが、まるで化かされているかのように、目当ての建物が見つからない。よもやタウンマップに嘘が書いてあるわけがないだろうに。

 ただ幸いながら、カノコタウンよりも格段にひと通りが多い。アクタはちょうどカフェレストランの前に立っていた、ウェイターらしき格好の男に声をかけた。

「すいません、この街のポケモンジムってどこですか?」

 緑の髪のウェイターは、少年の問いに不思議そうな顔で応えた。

「……え? ここがこの街のジムですけど」

「え?」

 アクタもまた、不思議そうな──というか、頓狂な顔になってしまう。咄嗟にレストランの看板を見ると、そこにはたしかに『サンヨウシティポケモンジム』と書かれていた。

「あー! ほんとだ! す、すいません! てっきりレストランかと……」

 しかしまたべつの看板には、『サンヨウレストラン』とも書かれている。

「あ、あれ……?」

「ジムであり、レストランなんですよ。きみは……?」

「えと、ジムの挑戦しよっかなって」

 カントー地方でも、シンオウ地方でも、ポケモンジムはわかりやすい専用の建物だった。イッシュ地方のジムは──デザインや立地に関して自由なのだろうか。

「そうですか、ジムに挑戦。それできみ、ポケモンは……」

 ウェイターは、アクタの背後に一歩退いて連れ添うミジュマルに目を遣る。

「ミジュマルか……、なるほど。くさタイプが苦手なんですね。きちんと対策しておいたほうがいいと思いますよ。たとえば『夢の跡地』でポケモンを鍛えるとか」

「は、はあ……、『夢の跡地』って?」

「街の北東にある工場跡地ですよ。野生ポケモンの棲み処になっていて、ポケモントレーナーもよく行っているので、修行にはうってつけだと思いますよ。──では失礼しますね」

 ウェイターは店──ジムに戻ろうとするが。

「あの、あなたは?」

 思わず呼び止めた。

 どう見ても店員(ウェイター)だが、なんとなく、それだけではなく──ただ者ではないと感じた。

「ぼく? ぼくはこの街のジムリーダーですよ」

 

 

「あのひと、くさタイプ使いなのかな」

 アドバイスじみた言動と、彼の雰囲気から推理した。だとすれば、ひこうタイプやむしタイプのポケモンがいれば有利に戦うことができるだろう。

 ──というのは、まとものポケモンを捕獲することができるトレーナーの言い分である。

「ぼくの場合、新ポケモンのゲットは期待できない。──自分で言ってて悲しくなるな……、だからきみにがんばってもらわないと。ここで鍛えてみよう」

 ミジュマルは不愛想ながら、たしかに頷いた。

 夢の跡地。

 夕日に照らされる、躯体がむき出しになった工場跡。廃墟と呼ぶにもおこがましいほどにボロボロに崩れた建造物は、あのジムリーダーが言っていたとおり野生ポケモンの棲み処となっていて、もはや自然の一部に還っている。

『この先、夢の跡地。新米トレーナーの遊び場所』

 そんな看板のとおり、廃工場の目前で数人のトレーナーがバトルを挑んできた。

「アタシたち、ここで修行してるの! ね! アナタも一緒にポケモン鍛えましょ!」

「はい」

 彼らが使うポケモンは、チョロネコ、ミネズミ、ヨーテリーと、ここまで出会った野生ポケモンと同種ばかりだった。できればくさタイプのポケモンと戦ってみたいのだが。

「ねえねえあなた! そのミジュマル、強いのね!」

 バトルを観戦していた少女が、唐突に話しかけてきた。少女の手にはモンスターボールが握られている。バトルだろうかと身構えたのだが──

「きっとこのバオップはぴったりよ。あなたのミジュマルが苦手なくさタイプのポケモンに、有利なタイプのポケモンだもん!」

 ボールを投げるわけでもなく、差し出してきた。

「はあ……。バオップ?」

「ねえねえあなた、このバオップがほしい?」

「はい!!」

 反射的に、はきはきと応えた。

「じゃあ上げるわ」

「やったー!!!」

 イッシュ地方で旅を始めて、2日目が終わるころ。

 アクタは2匹目のポケモンを手に入れた。これは最速である。




チーちゃんへ

無事にイッシュ地方に到着し、旅を始めました。
旅のパートナーは、ミジュマルというみずタイプのかわいいポケモンです。
あと、チェレンとベルという新しい友だちも一緒に旅立ちました。
みんなでイッシュ地方を回って、トレーナーとして大きく成長したいと思います。

そちらは元気にやっていますか?
シロガネ山のことはお願いしたけど、ちゃんとワカバタウンの実家にも定期的に帰ってね。
ポケモンたちのことも任せちゃったけど、あの子たちはチーちゃんに懐いているので、心配はしていません。
でもきつくなってきたら、だれかに頼って良いからね。
そっちにはグリーンもオーキド博士もマサキさんもいるし、きっと声をかければなにかと手伝ってくれると思います。

では、また落ち着いたときに手紙を書きます。

アクタより
カラクサタウンにて
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