ポケットモンスターNAVY ~暴投モンスターボール~   作:サンダーゴリラ

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レポート13 タマムシシティ/たとえば花のように

 負けた。

 あまつさえ、()()()()()

 子どもとはいえ、その屈辱は計り知れない。

 

 

「にひひ! このジムはええ! 女の子ばっかしじゃ!」

 老人は嬉しそうに、タマムシジムの窓に貼りついていた。アクタは愛想笑いをして、タマムシジムに入る。

 あの眼鏡の男はいなかった。きょうもスロットで遊んでいるのだろうか。気にせず、ジムチャレンジの手続きを進める。

 ジムバッジ所持数、3。ポケモン、3。使う技を登録する。

「まあ、あれだ」

 控室で、ポケモンたちに語りかける。

「若干、へこんでるけど、切り替えていこう。上には上がある──それ以前の問題だ。ぼくはまだまだ新米トレーナーなんだ。世の中には強いトレーナーがいっぱいいることくらい、わかってた」

 自分と、ポケモンたちを鼓舞して──あるいは、誤魔化して。

 タマムシジムへの挑戦が始まった。

 木々に囲まれたエリア。ときおり現れるジムトレーナーと戦いつつ、アクタは奥を目指す。

 タマムシジムは、くさタイプポケモンを専門としている。フシギソウもくさタイプだし、ギャラドスはみずタイプだがひこうタイプも持っているので、効果抜群は取られない。

 厄介なのは、状態異常だった。

 “どくのこな”、“ねむりごな”、“しびれごな”を使いこなす相手のポケモンには、どうしても苦戦を強いられた。タマムシマンションで買った回復アイテムも尽きてしまいそうだ。

 ようやく奥までたどり着く。広いバトルフィールド。天井はガラス張り。地面は芝生。まるで温室だった。

「あの、エリカさんですか?」

 木陰に着物姿の女性が座っていた。

「はあーい……」

 女性は気の抜けた返事をする。タマムシジムのジムリーダー、エリカ──のはずだ。

「良いお天気ね。気持ちいい……」

「へ? ああ、そうですね」

「…………」

「……あのお」

「……すー……すー……」

「寝た!?」

 思わず出てしまったアクタの大声に、エリカは目を覚ます。

「あらいけない。寝てしまったわ……」

 ようやく、エリカは立ち上がって、試合場に足を踏み入れる。

「ようこそ。わたくし、タマムシジムのエリカと申します。お花を生けるのが趣味で、ポケモンはくさタイプばかり……」

「あ、ご丁寧に……ぼくはアクタです。ええと、好きなものはケチャップです」

「まあ、アクタさん。どうぞよろしくお願いいたします」

「こ、こちらこそ」

「…………」

「…………」

 謎の間。

「──あらやだ、試合の申し込みですの?」

「あ、はい! そうです!」

 どうやらエリカは、これがジムチャレンジとすら認識していなかったようだ。

「そんな……わたくし、負けませんわよ」

 途端に、彼女の目つきが鋭くなる。彼女は着物のたもとからモンスターボールを取り出し、優雅に放った。

 袋のような身体。大きな口を持つ食虫植物のようなポケモン、ウツボット。甘く、毒々しい蜜の匂いがする。

「──フシギソウ!」

 アクタは冷静に、足元にボールを放った。いつものように変な場所に投げられなかったので、フシギソウはむしろ心配そうだった。

「……いや、もう4回目ともなると、学ぶからね」

「まあ、かわいらしいフシギソウですね。──それでは、始めましょう!」

 バトル開始。さっそくフシギソウが動く。

「“あまいかおり”!」

 背中のつぼみから、独特な香りが漂う。最近覚えた、相手の回避率を下げる技だ。フシギソウの状態異常の技や、“はっぱカッター”を当たりやすくするための作戦である。

「ええと、まずはどうしましょう……」

 呑気に思案するエリカ。アクタは構わず、つぎの技を繰り出す。

「“やどりぎのタネ”!」

 種が撃ち出される。動きが鈍ったウツボットに命中した──が、種は発芽しない。

「あら、くさタイプのポケモンに、“やどりぎのタネ”は効きませんよ」

「えっ……」

 知らなかった。赤面するアクタをよそに、エリカはウツボットに指示を出す。

「“しびれごな”」

 粉末をかぶったフシギソウは、身体が痺れる。

「そ、それは効くのかよ! じゃあ──“ねむりごな”!」

 マヒに屈せず、意趣返しの粉を放つ。ウツボットは眠ってしまった。

「あら、ヒントを与えてしまいましたね」

「よし、じゃあ“はっぱカッター”で……! あ、痺れてる? 大丈夫?」

 ウツボットには眠り状態をキープさせつつ、効果は薄いが急所に当たりやすい“はっぱカッター”で攻める。だが、フシギソウ自身もマヒ状態なので、どうにもテンポの悪いバトルになってしまった。

「──もしかしてウツボットって、フシギソウと一緒で、くさとどくタイプじゃ……」

 その複合タイプには、くさタイプの技の威力は4分の1だ。“はっぱカッター“の威力が想像以上に振るわないのも納得できる。

「じゃ、ギャラドス!」

 ポケモンを交代させる。

「“りゅうのいかり”!」

 衝撃波は確実なダメージを与えた。しかし、ウツボットは眠り状態から目を覚ましてしまう。

「ウツボット、“どくのこな”」

「あ……が、がんばれ! “りゅうのいかり”!」

 ウツボットは倒れた。が、毒による継続的なダメージは辛い。アクタはギャラドスを交代させることにした。

「ではおつぎは──モンジャラ!」

 飛び出してきたのは、青い蔓が絡み合い、塊となった姿のポケモンだ。

「…………」

 このひとの使うポケモン、可愛らしい見た目ではないな、とアクタは思った。間違っても口にはしないが。

「ええと、もう一回フシギソウ!」

 毒を受けているギャラドスと交代。だが、フシギソウのほうもマヒ状態で動き辛そうだ。

「モンジャラ、“からみつく”!」

 蔦がフシギソウの身体を絞めつける。

「フシギソウ、“はっぱカッター”! ──っと、痺れちゃってるか」

「それでは続けて、“ねをはる”」

 モンジャラの蔦は、地面に伸びる。フシギソウには一定の確率で動けなくなり、モンジャラはすこしずつ回復できるという構図が出来上がってしまった。

「負けるな、“はっぱカッター”!」

 もはや“ねむりごな”を使う間が惜しい。アクタは覚悟を決めて、攻めに集中することにした。

「モンジャラ、こちらも手を緩めずに。“ギガドレイン”」

 くさタイプの技がぶつかり合う。勝ったのは──

「あら」

 モンジャラの蔓がほどけて、倒れた。

「よくやったね、フシギソウ」

 モンジャラに打ち勝つも、息も絶え絶えのフシギソウをボールに戻す。

「モンジャラは、どくタイプ持ってないでしょ。“はっぱカッター”は急所に当たりやすいから、さっきのウツボットに比べて、まだ威力があると思ったんです」

「お詳しいのですね」

「地元に、野生のモンジャラがいたんです。遠巻きにしか見たことなかったですけど、友だちのおじいちゃんに、ちょっと教わりました」

 ローカルな情報を披露しつつ、つぎのポケモンを構える。エリカも、最後の1匹を出すようだ。

「毒で苦しいだろうけど──ギャラドス!」

「ラフレシア!」

 巨大な花を頭部に持つ、ポケモンだった。

「“かみつく”!」

 ギャラドスは牙を突き立てるが、ラフレシアはひるまない。

「“ようかいえき”」

 花から強酸が発射される。

「ギャラドス!」と思わず声を上げるが、ギャラドスはアクタに気丈な表情を向ける。毒で辛いだろうに──が、『どくけし』を使っても恐らくいたちごっこだ。ラフレシアは確実に、こちらを状態異常にする技を持っている。

 だから、ギャラドスに命じられるのは、ひたすら攻撃することだった。

「“りゅうのいかり”!」

「“ギガドレイン”」

 養分を吸い取る技だ。与えたダメージの数割は打ち消されてしまう。

「もう一回、“りゅうのいかり”!」

 衝撃波を放つ。その攻撃を最後に、ギャラドスは倒れた。毒のダメージがとうとう体力を奪い尽くしたのだ。

「……おつかれさま」

「3匹目はどんなポケモンですの? それとも、もう一度フシギソウを出しますか?」

「3匹目で決めます。ぼくの、自慢のポケモンです」

 アクタは最後のボールを投げた。真横に飛んで行った。

「あ、ごめんイーブイ。こっちおいで」

「自慢の……なんでしたっけ?」

「自慢のポケモンです!」

 ノーコンは断じて自慢ではない。

 ちなみにイーブイの自慢ポイントは、かわいさだった。

「それでは──」

 先ほどのギャラドスの攻撃で、ラフレシアが受けたダメージは大きかった。しかしイーブイが相手ならば、一発でも“ギガドレイン”を繰り出せば、十分に持ち直せる。エリカはそう確信し、技を命じた。

「“ギガドレイン”──あら?」

 イーブイは消えていた。

「いないいない……“あなをほる”!」

 真下からの衝撃。イーブイは地中から現れて、ラフレシアに襲いかかった。それは、ハナダシティで泥棒のロケット団から取り返し、持ち主から譲り受けたわざマシンだった。

「まあ……」

「“でんこうせっか”!」

 続けざまに高速の一撃を受けて、ラフレシアは力尽きた。

「……! 参りましたわ」

 

 

 バトルを終えて、エリカはアクタのポケモンたちを回復させてくれた。回復マシンの作業が完了するまでの待ち時間、お茶までごちそうになる。

 なお、タマムシジムは挑戦者は例外とはいえ、基本的には男子禁制。ここまでの歓待は稀である。

「どうぞ、ハーブティーです」

「……おいしいです」

 ほんとうは渋くて良さがわからなかったが、子どもなりに気を遣った。

「良かった」とエリカもハーブティーを口にする。やがて、顔をしかめる。

「お砂糖を入れ忘れましたわ」

「…………」

 アクタは、だんだんとこの女性が気に入ってきた。

 お茶の後、ジムに併設された庭園を案内される。ジムチャレンジ中は気にもならなかったが、色とりどりの花が美しい。

「ここの花は、生け花に使いますの。──男の子は、お花には興味はないでしょうか」

「正直、好きってわけじゃないです。でも、改めて見てみると……いいものですね」

「ふふ、それは良かった。──そのように、落ち着くことが大切だと思いますよ」

「え?」

 顔上げるアクタ。エリカは鋏を片手に、花を剪定する。

「失礼。なんだかあなたが、焦っているように見えたもので」

「見えますか」

「どことなく」

「見えますかあ」

 ふたたび、花々に目を落とした。

「最近、バトルできつい負け方をしちゃって──そんなの、切り替えていこう、忘れちゃおう、て思ってたんですね」

「まあ。それは焦ってしまいますわね」

 エリカは口元を隠して、優雅に笑った。

「敗北から学ぶことも、もちろん大切です。だけど、ご自分を見失わないで」

「…………」

「あなたの戦い方は、いささか力押しなところもありましたが、最後は冷静に勝負を決めました。ほんとうのあなたは、冷静で賢いのではないですか?」

「い、いやあ……」

 面と向かって賢いなどと言われて、アクタは照れてしまう。

「自然体でいることが、大切だと思いますよ」

「……エリカさん、ありがとうございます。ひょっとして、ぼくが落ち込んでるって、最初からわかってました?」

「ふふ、わたくし、お節介だったかしら?」

 お茶を振る舞ったのも、花を見せたのも、アクタを気遣ってのことだったのか──そう思うと、アクタ本人は急に気恥ずかしくなった。

「あなたはお強くなりますよ。──いけない。忘れていましたわ」

 エリカはふところから、花びらの形をした虹色のバッジを取り出す。

「このレインボーバッジ、差し上げなくてはなりませんね」

 アクタの手を取って、丁寧に握らせた。

「あ……ありがとうございます」

 こんどこそ、恋をしてしまいそうだった。

 




フシギソウ
 れいせいな性格
 くさタイプポケモンばかりのタマムシジムは、なんだか落ち着く。

ギャラドス
 がんばりやな性格
 最近はイーブイに先輩面をしているが、ぜんぜん敬ってくれない。

イーブイ
 きまぐれな性格
 暮らしている環境で突然変異する、不安定な遺伝子を持つポケモン。石の放射線が進化を引き起こす。
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