ポケットモンスターNAVY ~暴投モンスターボール~   作:サンダーゴリラ

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レポート4 サンヨウシティ/ティーブレイク

 翌日。

「いらっしゃいませ! こちらはトレーナーに合わせたメニューが自慢です!」

 サンヨウジムに入ると、ウェイトレスの女性に出迎えられる。彼女はアクタが「レストランの客」ではなく、「ジムチャレンジャー」であることをわかっていた。

 内装はアクタが知っている「ジム」っぽくない。どこをどう見てもオシャレかつカジュアルなカフェレストランだ。ここがジムだと知らなければ、ひとりで来ることはなかっただろう。

 緊張しつつも、さっそく挑戦の手続きを済ませるアクタに。

「どうも! 自分はポケモンジムに挑戦するトレーナーをガイドする、ガイドーといいます」

 サングラスの男が話しかけてきた。

「こういうひとがいるのは、どこの地方でも一緒なんだな。でも名乗ってもらえたのは初めてです」

「なんの話っすか? まあとにかく、ジムに挑戦ありがとうございます。記念にこれを差し上げますよ」

 ガイドーと名乗った男は『おいしいみず』を差し出した。ポケモンの回復アイテムにもなる、日ごろからお世話になって言う飲料水だ。いくらあっても困らない。

 どうやら、これまでアクタが出会ってきた正体不明のジム男と違って、このガイドーははっきりと、ポケモンジムを管理するポケモンリーグ側の人間のようだ。うさん臭さレベルが低い分、じつに安心できる。

「ありがとうございます。それで、ここはどんなジムなんですか?」

「ずばり、タイプ相性について学べるジムです」

 ガイドーはサングラスの位置を正す。

「ポケモン勝負の基本はタイプの相性なんですよね。相手のポケモンに対して有利なタイプのポケモン、有利なタイプの技を選べば、勝利は目前っすよね」

「たしかに。基本はそうだ」

 あくまでも基本は。

 アクタはこれまでのバトルで、タイプ相性を覆す要素をいくつも見てきた。

「ということでこのジムは、カーテンに描かれたポケモンのタイプに対して、相性の良いタイプのスイッチを踏めば、先に進めるっす!!」

 基本的なことをレクチャーするだけあって、どうやらこのサンヨウジムは、新米トレーナーの入り口のような役割を果たしているらしい。タイプ相性のクイズは初心者ならば足を止めてしまうだろうが、アクタにとっては関門にもならなかった。

 そういうわけで、ジムトレーナーであるウェイターやウェイトレスとのバトルすら手早く終わらせて。

「ようこそ。こちらサンヨウシティ、ポケモンジムです」

 昨日ジムの前で出会った、緑の髪のウェイターがいる部屋にたどり着いた。ジムリーダーである彼がうやうやしくアクタにお辞儀したかと思うと、その背後からふたり分の人影が飛び出してきた。

「オレはほのおタイプのポケモンで暴れる、ポッド!」

「みずタイプを使いこなすコーンです。以後お見知りおきを」

 ウェイターが3人、アクタの前に並ぶ。

「そしてぼくはですね、くさタイプのポケモンが好きなデントと申します」

 3人は、少年を翻弄するかのように身をひるがえす。まるでダンスだ。

「えーと……、アクタです」

 パフォーマンスを楽しむ余裕もなく、アクタは疑問を露骨に表情に出していた。緑の髪のウェイター、デントはすこしだけ申し訳なさそうに苦笑し、説明に入ろうとする。

「あのですね……、ぼくたちはですね、どうして3人いるかといいますと……」

「もう! オレが説明するッ!」

 が、赤い髪のウェイター、ポッドがデントを押しのけた。

「オレたち3人はッ! 相手が最初に手に入れたポケモンのタイプに合わせて、だれが戦うか決めるんだッ!」

「そうなんだよね」

 つぎに青い髪のウェイター、コーンがさらにポッドの前に出る。

「そしてあなたが最初に選んだパートナーは、みずタイプなんだよね」

「そうです。……ということは?」

 ポッドとコーンは頷いて、下がってもうひとりのウェイターに場を譲った。

「はい……、というわけで、くさタイプのポケモンが好きなぼく、デントがお相手します」

「………………」

 アクタは、腰のモンスターボールに潜むミジュマルを一瞥した。

「そのシステム、ちょっとズルくないですか」

「あ、やっぱりそう思います?」

 

 

 思わず苦言を呈してしまったものの、苦手なタイプに向き合うこともまた、ポケモントレーナーとして必要な経験である。

「でも、わかりました。くさタイプ使いのデントさんに挑戦させてください」

 それがよくわかっているアクタは、この不利な戦いを受け容れることにした。

「あっはい。ぼくでよろしければ、真心を込めてお相手させていただきます」

 レストラン内とはいえ、十分な広さのあるバトルステージ。アクタとデントはそれぞれモンスターボールを手に対峙する。

「ヨーテリー!」

 デントが繰り出す1匹目は、くさタイプではなかった。

 どうやらもうひとつモンスターボールがあるようなので、そちらが本命。このヨーテリーは様子見なのだろう。

「まずはウォーミングアップかな。さあ行こう、ミジュマル!」

 アクタの投げたボールは真横に飛んで、テーブルの下に入ってしまった。

「いやなにしてんだよお前ッ!」

「お客様、困りますよ」

 観戦しているポッドとコーンに突っ込まれてしまう。

「ご、ごめんなさい。いつもどおり手元が滑って……」

 クロスが掛かったテーブルの下から、ミジュマルが不満そうに這い出る。アクタをジトっとした目で睨んで、速やかにバトルフィールドに駆けつけた。

「ミジュマルも、ごめんね?」

「えーと、じゃあ始めましょっか!」

 気を取り直したデントの号令にて、イッシュ地方最初のジムリーダー戦が始まった。

「ヨーテリー、“ふるいたてる”!」

 攻撃と特攻が上がる。どうやら様子見の1匹目、と思うのは侮りかもしれない。

「油断せずにやるよ。ミジュマル、“きあいだめ”」

 急所に当たる確率を上げつつ。

「そして“みずでっぽう”!」

 水流を放つ。急所にこそヒットしなかったが、大きなダメージは与えた。

「ああ! ぼくのヨーテリー!」

「よしよし、やっぱり強くなってるね、ミジュマル」

 嘆くデントをよそに、少年は笑みを浮かべる。

 その後、ヨーテリーの“かみつく”の反撃をものともせず、“たいあたり”の一撃でミジュマルは勝利を収めた。

「……あれ? もしかしてぼくのポケモン、あと1匹?」

 デントは腰のモンスターボールに触れて、呑気に首を傾げていた。どうにも掴みどころがないというか──くさタイプのジムリーダーとはみんなこんな感じだろうか。アクタはカントー地方で仲良くなった「お嬢」を思い出した。

「とにかくいってらっしゃい、“ヤナップ”!」

 繰り出されるのは、最後の1匹にしてようやくくさタイプのポケモン。頭に木のような器官を持つ緑色の体毛の、ヤナップというポケモンだった。

「ミジュマル、“たいあたり”!」

 急所に当たれば勝ち目が明瞭に見えるだろうが、理想通りにはいかない。

「“つるのムチ”!」

 反撃のくさタイプの攻撃に、ミジュマルは膝をつく。

「やっぱり効果抜群はキツイよな……、さて」

 不利なタイプのポケモンと戦う際の対処はいくつかある。

 たとえば、道具を使って回復し、無理矢理にでも『ひんし』を避けること。──ミジュマルの体力ならば、そういう戦い方も可能だろう。

 しかしいまはもっとスマートな対処がある。

「ミジュマル、ここまでにしよう」

 アクタの声に、露骨にミジュマルは肩を落とし、しかし主人の足元まで下がる。

 交代だった。ミジュマルをモンスターボールに戻し、もうひとつのボールを手にする。

「あ、もう1匹いるんでしたね。さて、どんな相手が飛び出すんだろう」

「今回の切り札」

 スイッチを押したモンスターボールを、足元に落として開けた。

 それは、見た目こそヤナップと似ているものの、炎のような赤い体毛を持っている。

「バオップ!?」

 見た目のとおり、タイプはほのお。

 バオップはたれ目で主人を一瞥して、すぐにバトルの相手であるヤナップに向き直る。

「う……ヤナップ、“みだれひっかき”!」

 突進してくるヤナップに、アクタとバオップは照準を合わせる。

「バオップ、“やきつくす”!」

 ヤナップは炎に包まれ、その一撃で戦闘不能となった。

「……えーっと。終わっちゃいました?」

 呑気なふうなデントの言葉には、たしかに動揺と落胆があった。

「はい。ぼくらの勝ちだと思います」

 

 

「あ。美味しい」

 紅茶をひと口飲んだ少年の反応に、デント、ポッド、コーンの3人は顔を見合わせて「よし」と頷いた。

「紅茶ってこんなに美味しいんだ……。いつもミルクティーとかレモンティーとか、甘いやつしか飲まないから、知らなかった」

「それ、ペットボトルや紙パックなんかに入っているやつではないですか?」

 呆れてコーンが肩をすくめる。

「ぼくらの淹れる紅茶は、その時々のお客様に合わせて出していますからね。まずはこのぼく、デントが茶葉を選びます」

「茶葉ってそんなに何種類もあるんですか?」

「そうなんです!」

「そしてこのコーンが、茶葉に合う水を選びます」

「水にも種類があるんですか?」

「そうなんです」

「そしてオレ、ポッドが適切な温度に沸かすぜ!」

「温度で変わるんですか?」

「そーなんですッ!」

 アクタは感心してもうひと口、紅茶を飲んだ。やはり、美味い。

「ほかにも、その日の気温や湿度によって選択肢は広がります。ぼくらはそれらからベストなものを選んで、お客様に提供するようにしてるんですよ。──まあ、いまのところ三人揃ってようやく一人前、といったところですがね」

 自嘲気味に肩をすくめるデントたち。素人のアクタには、彼が謙遜する意味さえわからない。

「べつに、ベストな紅茶を出せるのだから、何人がかりでもいいと思いますけどね。ポケモンバトルだって、1匹でずっと勝ち続けることはできない。今回、2匹目を用意できなかったらどうなってたことか」

「いやほんと、驚いた。バオップを用意してくるとは」

 デントはあらためて、敗戦にため息をついた。

「それにきみ、すっごく強いんだね。ポッドやコーンでも勝てない相手だったみたい……」

「なんだとッ!?」

「聞き捨てなりませんね」

 噛みついてくるポッドとコーンを無視し、デントはテーブルの上に、輝くバッジを置いた。

 トライバッジ。縦に長いデザインで、金色のバッジには青、赤、緑と、3人のジムリーダーを象徴するような石が埋め込まれている。

「これでひとつ目……! ありがとうございます」

「知っているでしょうけど、ジムバッジはトレーナーの強さの証です。きみならきっと、そのバッジケースを埋めることができますよ」

 デントはポッド、コーンと横に並ぶ。

「ぼくたち、イッシュ地方ではまだ駆け出しのジムリーダーです。ということは他のジムリーダーはもっと強いってことですよね。──ふう。がんばらないと……、ですね」

「お互いに、ですよ」

 アクタは紅茶を綺麗に飲み干して、高級そうな椅子から立ち上がる。

「ぼくもがんばります。そしてイッシュ地方のジムを制覇したら、また来ます。そのときは本気で戦いましょうね。ポッドさんも、コーンさんも」

「──アクタさま。ありがとうございました。またのご来店をお待ちしております」

 うやうやしい三人のお辞儀に送られて、少年はイッシュ地方最初のジムを退店した。

 

 

「というわけで、お先にジムバッジをゲットさせていただきました」

「ふわあ、すごーい」

 サンヨウジムを出るとベルを見つけたので、さっそくアクタはトライバッジを自慢した。

「ふっふっふ、ちょろいもんよ。──まあ、バオップのおかげだけどね」

「きのう見せてもらったあの子ね? そっかあ。ほのおタイプが有効なら、あたしでも可能性あるかなあ」

 ベルはポカブの入っているモンスターボールを撫でる。しかしサンヨウジムのシステム的に、彼女の相手をするのはみずタイプ使いのコーンだろう。

「……ネタバレは言わないけどさ。ポカブ以外もしっかり鍛えておくといいかもね。──そういえばチェレンは?」

「ついさっき、ジムに入って行ったよ。アクタとは入れ違いだね」

「ふうん。じゃあぼくはどうしよっかな……」

 チェレンとベルと、旅の足並みを揃える必要はないのだが、彼らの初ジムチャレンジを待ってみるのも悪くはない。思案し始めたところで。

「ヤッホー! あなたたち、アララギ博士に送り出されたトレーナーでしょ!?」

 突然、長い黒髪に白衣、眼鏡の女性に話しかけられた。

「は、はい……」

「アタシはマコモ。ちょっとついてきて!」

「え? え? え?」

 アクタとベルは背中を押されて、近くの民家に連れ込まれる。どうやらアララギ博士の知り合いのようだが──ベルも困惑しているあたり、ベルの知り合いではないのだろう。

「あのですね、あなたは一体……」

「アナタたち、イッシュ地方のすべてのポケモンと出会うんだって? あっ、階段はこっちよ! アタシの部屋、この上なんだ。さ、上がって!」

 あれよあれよと民家の二階に押し込まれるふたり。外観は民家ながらもその部屋は、明らかに研究施設であった。

「あらためて自己紹介するね。アタシはマコモ。ご覧のとおりの研究家。ちなみに研究してるのは、ポケモンの夢についてなの!」

「ぼくはアクタです」

 アクタに続いて、「ベルです」と少女も名乗る。

「アララギ博士とはお知り合いですか?」

「うん。大学時代からの友だちでね。アナタたちの旅の手助けを頼まれたんだ!」

 ということは娘のほうの友だちか、とアクタはひとり納得する。

「ということで! アタシからのバックアップよ。この『ひでんマシン』をどうぞ!」

 わざマシン──とはすこし違って、ポケモンを使った移動を補助する技を覚えさせる道具だ。このマシンに記録されているのは“いあいぎり”。細い木を切って道を拓くことができる。

「わあ、ありがとうございます!」

 喜ぶベルとは対照的に、アクタは身構える。

 このマコモという博士を信用していないわけではない。ただし経験上、こういったマイペースなタイプの人物は、こんなにハイテンションで物を譲ってくれない。わざわざ研究所まで連れて来たのにはもっと理由があるはずだ。

「……で、手助けじゃなくて、お願いしてもいいかな?」

「そらきた。でもいいですよ」

 タダより高いものはない。

 つまり、なにごとも助け合いである。




チーちゃんへ

きょうは大きなニュースがあります。
なんと、早くも2匹目のポケモンをゲットしました。

バオップという、ほのおタイプのポケモンです。
そういえばぼくは、ほのおタイプのポケモンを育てるのは初めてです。
チーちゃんはヒノアラシが最初のポケモンだったっけ。バクフーンはとっても良い子だから、見習って育てようと思います。

あしたはバオップとミジュマルと、ポケモンジムに挑戦します。
イッシュ地方で初めてのジムチャレンジ、がんばるぞ!

ちなみに、バオップはひとから貰いました。
まだまだぼくはノーコンです。

アクタより
サンヨウシティにて
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