ポケットモンスターNAVY ~暴投モンスターボール~   作:サンダーゴリラ

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レポート5 夢の跡地/まぼろし

「あのね、サンヨウシティのはずれに『夢の跡地』っていわれてる場所があるんだけど、そこにいるポケモン、ムンナの出す『ゆめのけむり』が欲しいんだ。それがあれば! いまわたしが制作している『ゲームシンク』というシステムが……あ、説明するね?」

 システムの説明はほとんどよくわからなかったが、とにかく研究のための材料を採ってきてほしいそうだ。

「ムンナの『ゆめのけむり』かあ……。夢を見せるって、どんな仕組みなんだろう?」

 もしかすると、マコモの説明はベルのほうが理解しているのかもしれない。アクタは自身の学のなさが、すこし恥ずかしかった。

 その後、ベルとともに2回目の『夢の跡地』を訪れる。

 前回はバオップを貰ったことで浮かれて、ろくに散策もしなかったが、あらかた崩壊している廃工場に入り、ムンナなるポケモンを探す。

「えーと、ピンクで、浮いてて、花柄で……」

「ねえねえ! なんだか壁の向こうから物音、聞こえなかった!? 行ってみようよ!」

 ベルはアクタよりも楽しそうだ。こういったダンジョンのような場所も初めてなのだろう。気持ちは痛く理解できる。

 ──などと呑気に構えていたが、ベルの言うとおりに進んでみると、そこにはほんとうにピンク色のポケモンがいた。彼女の感覚はなかなか鋭敏らしい。

「あ! ムンナ……」

 ふたりの少年少女がそのポケモンに追いつくより先に──

「ムンナ見っけ!」

 べつのふたりがムンナを取り囲んだ。

「ほらほら! 『ゆめのけむり』を出せ!」

 ふたりの服装には見覚えがある。騎士のような制服。たしか、カラクサタウンの広場で見た──

「ちょっと!! あなたたちだあれ? なにしてるの!?」

 ムンナを囲んだ彼らは、どうにも興奮しているというか、殺気立った様子だ。いち早く、ベルが声をかけて咎める。

「わたしたちか? 我々プラズマ団は、愚かな人々からポケモンを解放するため、日夜闘っているのだ」

「なにをしてるのか? ムンナやムシャーナというポケモンって、『ゆめのけむり』という不思議なガスを出して、いろんな夢を見せるそうじゃない。それを使い、人々がポケモンを手放したくなる……そんな夢を見せて、ひとの心を操るのよ」

「ぜんぶ教えてくれるじゃん」

 アクタは、ベルを庇うように前に出る。

 ポケモンを使って人心を操るなんて、とてもじゃないが聞き逃せない。しかしいま優先すべきは、ムンナの安全だ。

「あなたたちのことは置いといて、一回、ムンナから離れてくださいよ。その子、恐がってますよ」

 トラブルは極力避けるべきだ。数ある選択肢のなかからすこしでも正解に近いものを選び取るために、いつだって冷静でいなければならない。それが師匠の教えだ。

「おら! 『ゆめのけむり』をだせ!」

 が、プラズマ団の男は少年を無視して、ムンナに蹴りを入れた。

「おい!!!!!!」

 アクタは()()()

 冷静さのかけらもない大声に、その場の全員が一瞬、固まる。

「なにしてんだよ!! ポケモンに暴力を振るうとか、どういう神経してんだ!! あんたらも一応はトレーナーなんだろ!?」

「そ……そうよ。ワタシたちもポケモントレーナー」

 激昂する少年に引きつつ、プラズマ団の女は答える。

「だけど戦う理由はあなたたちと違って、ポケモンを自由にするため!」

「そしてわたしたちがポケモンを自由にするとは! 勝負に勝ち、力ずくでポケモンを奪うこと! ──というわけでお前たちのポケモン、わたしたちが救い出してやる!」

 プラズマ団の男はモンスターボールを握り、少年少女に迫る。

「えええ! 助けてアクタ!」

「おうとも! ベル、下がってて!!」

 アクタも構える。

「上等だよ! ムンナを蹴ったことをこれでもないくらい後悔させてやる! ベコベコに負かしてやるから、手ぶらで帰れ!!」

 そうしてアクタが投げたボールは、廃墟の壁に当たった。

 

 

 アクタのノーコンをプラズマ団は「素人だ」と嘲笑したものの。

「プラーズマー……ゆ、夢が!」

 バオップがミネズミを焼き倒し。

「プラーズマー! これは悪夢ね!」

 ミジュマルがチョロネコを打ち破った。

「変な悲鳴……。それはともかく、ぼくの勝ちだ。ムンナに謝れ。そして帰れ」

 勝敗は決した。ポケモントレーナーとして、敗者が勝者に従うことはある種のマナーだ。

 しかし、絶対のルールというわけではない。

「……まさか2人して負けるとはな! だが『ゆめのけむり』は入手せねばならない!」

 プラズマ団たちは止まらなかった。

「おら! 『ゆめのけむり』出せ!」

「──っ!!」

 男がムンナに向き直った瞬間、アクタは駆け出した。

 そして男が蹴り足を振りかぶると同時に、ムンナの前に躍り出る。

「なにっ!?」

 キックは少年に当たった。

「セーフ……、庇えた……!」

 腹に蹴りを喰らって、膝をつくアクタ。

「そ、そんなにムンナが大事なら、まずはお前から痛めつけてやる!」

 プラズマ団たちはたじろぎつつも、とうとう、少年への暴力を決心する。

「やめたげてよお!」

 ベルの悲鳴が『夢の跡地』に響いた。──その瞬間。

「……お前たち。なにを遊んでいるのだ?」

 廃墟には不似合いな、豪奢なコートをまとった品のある老人が、霧のように現れる。カラクサタウンの広場で喋っていた──たしか、ゲーチスという男だ。

「あ、あなたは……」

 愕然とするプラズマ団員二名。しかし彼らの視線とは別方向に、()()()()()()ゲーチスが姿を見せた。

「我々プラズマ団は、愚かな人間とポケモンを切り離すのだぞ!」

「え? え? え?」

 ふたり分のゲーチスの姿に、プラズマ団員のみならずアクタとベルも戸惑う。

 しかしふたりのゲーチスはふっと消えて、やがて戸惑う面々の前に、ひとりの姿で現れた。

「その役目、果たせないというのなら……!」

「こ、これは……!」

 ふたりのプラズマ団員は、引きつった表情を見合わせる。

「仲間を集めるとき……演説で人を騙して操ろうとするときのゲーチスさまじゃないわ!」

「ああ……作戦に失敗したとき、そして処罰を下されるときのゲーチスさま……」

「とにかくいますぐ謝って許してもらいましょう!」

「申し訳ございません!! 申し訳ございませんゲーチスさま!!」

「どうかお許しくださーい!!」

 謝罪の言葉を叫びながら、プラズマ団員たちは脱兎の如く逃げて行った。残されたのは、アクタとベルと、ゲーチス──ではなく。

「あ」

 また消えたゲーチス。代わりに現れたのは、丸い身体の浮かぶ薄紫色のポケモン。ムンナより一回りは大きい。

「ムンナの進化系の……、ムシャーナ?」

 アクタはポケモン図鑑を開く。

「……いまのってなあに? あのゲーチスって人、あちこちにいたし、本物じゃあないよね。……もしかして夢?」

「夢か……、どうやらそうみたいだ」

 ポケモン図鑑によると、ムシャーナの頭部から出る煙は、夢として実体化させることができるらしい。

「え、じゃあムシャーナが夢を見せて、プラズマ団たちを追っ払ってくれたの?」

「きっとそうだ。ムンナとぼくたちを助けてくれたんだね。どうもありがとう」

 ムシャーナとムンナは、少年の礼に特に返事をするわけでもなく、『夢の跡地』の奥のほうへふわふわと去って行った。

「……ぼくたちはムンナのついでかな」

 立ち上がったアクタは、ムシャーナたちがいた場所に残された煙に気がつく。

「いや、そうでもないのかも」

「あ! これって……」

 ふたりは煙を飛ばさないように慎重に、その気体を瓶のなかに詰めた。

「『ゆめのけむり』、ゲット!」

「やったあ!」

 

 

「ふええ、なんだかすっごくドタバタしちゃったねえ。アクタ、お腹は大丈夫なの? 蹴られたでしょ?」

「大丈夫だよ。ちゃんと受けた」

 久しぶりに暴力を受けたものの、まるで痛みなんかは残っていない。

「ぼく、受け身は上手なんだ。──それに、シロナ相手に比べれば軽い衝撃だったよ」

「え? どなただって?」

「な、なんでもない! それじゃあマコモさんの家に行こうか」

 踵を返すアクタだが。

「あ、ごめんアクタ。あたし、もうちょっとここにいる。マコモさんの家にはひとりで行ってもらっていいかな?」

「いいけど……。ベル、ここでなにするの?」

「あたし? あたしはね」

 ベルは、浮足立った様子で『夢の跡地』の奥を向く。

「さっきのポケモン、探すんだから!」

 どうやら、ムンナやムシャーナのことを気に入ったらしい。

 アクタにも気持ちはわかる。彼らは可愛かった。

 そういうわけでベルと別れて、アクタはマコモの家に『ゆめのけむり』を届ける。

「わあ、ありがとう! これがあればアタシの研究が完成するわ!」

 飛び跳ねて喜ぶマコモは、とてもおとなの女性には見えない。

「これで眠っているポケモンの記憶を取り出せるようになるから、世界中のトレーナーの

レポートを集められるわ!」

「へー、そんなことできちゃうんですか」

「あら、興味出た? 詳しく説明聞きたい?」

「い、いえ……、遠慮しておきます」

 後ずさりするアクタ。客人に助け舟を出すように、

「トレーナーさん、お姉ちゃんのお手伝い、どうもありがとうです!」

 小柄な眼鏡の女性が話しかけてきた。

「お姉ちゃん、お客さんの相手はあたしがするから、研究に戻ったら?」

「そうね! よろしく、ショウロ!」

 慌ただしくいくつかの機械に向かうマコモ。ショウロと呼ばれた女性は、アクタの顔を覗き込む。

「あたし、イッシュでポケモン預かりシステムを管理してます、ショウロです。あなたがアクタさんね?」

「はい。あれ? ぼくのこと……」

「マサキさんから聞いてます」

 よく知っている友人の名前が出てきて、アクタの表情はすこし緩んだ。

「そっかあ。あのひと、各地に友だちがいるって言ってたっけ」

「マサキさんは、あなたがボックスを利用することはないだろうって言ってたけど、預かりシステム以外にも、なにか力になれることがあったら遠慮なく言ってくださいね」

「あはは、どうもありがとうございます……。ちくしょう、マサキさんめ」

 あの男は、すでにアクタが2匹のポケモンを連れていることを知ったらきっと驚くだろう。

「きっとイッシュ地方でも6匹以上のポケモンを手にするでしょう。そのときはヨロシクお願いしますね」

 念のため虚勢を張っておいて、アクタはマコモ宅と、そしてサンヨウシティを後にした。

 

 

 綺麗に整備された庭園を抜けて、3番道路。

 そこにはポケモン育て屋と隣り合って、幼稚園が建っていた。

「あら……? あなたのポケモン……、ちょっと元気がないみたい。ここで休んでいきなさいよ!」

 幼稚園でポケモンともども休憩させてもらったのも束の間。

「おいっトレーナー! ボクとしょうぶしろ!!」

「トレーナーさん! あたしがあいてをしてあげましゅね」

「くらえっ! はかいこうせん!」

 園児たちにポケモンバトルを挑まれた。

 もちろん、園児たちのポケモンが“はかいこうせん”を使えるわけでもなく、彼らは幼いわりになかなかの腕前ではあったが、それでも強敵ではなかった。

「くそー! こどもあいてにほんきだしやがって! きらいじゃないぞ! そーゆーの!」

「ど、どうも……。きみたち強いね。同い年だったら勝てなかったかもなー」

「……アクタ、なにやってるの?」

 振り返ると、チェレンがいた。

「お、チェレンだ。元気?」

「……まあね。きみほどじゃないけど」

 ポケモンや園児に囲まれているアクタは、だれよりも元気そうで、幸せそうに見えた。

「ジムは突破したよね?」

「もちろん! だからアクタ。トライバッジを持つ者同士、どちらが強いか確かめるよ」

 チェレンはモンスターボールを構える。アクタは園児たちを離して、ミジュマルとともに対峙した。

「望むところだ。体力なら十分あるから、このまま行けるよ」

「よし! 行け、チョロネコ!」

 身軽な紫色の影が、幼稚園の広い庭に降り立つ。

「トレーナーさんたち、がんばれー」

 園児たちが観戦するなかで、アクタとチェレンのバトルが始まった。

「“ねこのて”!」

 味方のポケモンの技をランダムに使う技だ。発動したのは“にらみつける”。おそらくツタージャの技だ。

「くっ、外れか……」

 チェレンが悔しがっているあたり、期待した技ではなかったのだろう。発動されて困る「当たり」の技は、察しがつく。アクタはこの戦いの決着を急ぐことにした。

「ミジュマル、“みずでっぽう”!」

 激しい水流がチョロネコを撃つ。さすがに一発では倒せない。

「クッ! 相変わらず良い技を選ぶよね……。チョロネコ、もう一度“ねこのて”!」

 こんどはおそらく、「当たり」。“ねこのて”はツタージャの“つるのムチ”に変化し、緑色のエネルギーをまとったチョロネコの尾がミジュマルを打ち据えた。

「むむむ。こうなるとさっきの“にらみつける”が効いてくるな……。ミジュマル、大丈夫だよね?」

 返事の代わりに、ミジュマルはさっと立ち上がってチョロネコに照準を定める。

「“みずでっぽう”!」

 戦闘不能になるチョロネコ。チェレンは悔しそうな素振りを見せつつ、すぐにつぎのポケモンに交代させる。やはり、ツタージャ。

「じゃあミジュマル、交代ね」

 ミジュマルは不満そうな様子だが、アクタの指示に従って下がった。

「バオップ!」

「ああ、そうだよね……」

 つい昨晩。

 ポケモンセンターで散々、アクタからバオップを自慢されたチェレンは、一層に苦々しい顔になった。

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