ポケットモンスターNAVY ~暴投モンスターボール~   作:サンダーゴリラ

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レポート6 地下水脈の穴/正しい道と信じて

『夢の跡地』でバオップを貰って、サンヨウジムに挑戦する前日の夜。サンヨウシティポケモンセンターにて。

「いいでしょ。バオップ」

 アクタは宿泊施設にて、チェレンとベルに新たな仲間を紹介した。

 というか自慢だった。

「わあ! 捕まえたの?」

 ベルの残酷な問いに、アクタは露骨に目を泳がせる。

「え、えーとね……。自分で捕まえたとかじゃ、ないかな」

「……バオップ、このあたりには生息していないよね」

 チェレンは、あくびをしているバオップをじっと見つめる。

「他人から貰ったの?」

「うん」

 アクタはバツが悪そうに、しかし正直に頷いた。

 ポケモンを貰うことは、後ろめたいことでも恥ずべきことでもない。ただアクタには、ポケモントレーナーの後輩であるチェレンとベルにとって、誇らしい先輩でありたいという、幾分かの見栄は持っていた。

 ポケモンのゲットくらい、鮮やかにこなしたいものである。

「まあ、ノーコンのアクタの場合はしょうがないと思うけど」

 チェレンは肩をすくめる。

「とりあえず、あしたのジム戦はそのバオップで切り抜けられそうだね」

「だといいけど。いまのうちにちゃんとバオップに慣れとかないと。──じゃ、バオップ。ちょっとだけ運動しよっか?」

 などと言って、アクタは夜のポケモンセンターの庭で、バオップと遊び始めた。バトルの訓練ではなく、だ。

 チェレンはそんなアクタが、不安を通り越して不思議だった。

 彼はほんとうに、()()アクタなのだろうか。それともやはり、人違いなのだろうか。

 

 

「バオップ、“やきつくす”!」

 ほのおタイプの技を二度喰らって、ツタージャは倒れた。

「……なるほど。そういう戦い方ね」

 タイプ相性の不利が前提にあったので、チェレンにとって敗戦自体は予想通りであったが、予想よりも決着は速かった。

「ナイス! 良い動きだったよ、バオップ!」

 アクタの労いに、バオップはそこそこ誇らしげだ。観戦していた園児たちもまばらに拍手して両者を称える。

「ポケモンの数も、ジムバッジの数も同じなのに……。アクタ、きみはやはり──」

 アクタがバオップを手にしてまだ丸一日も経過していないはずなのに、もう息が合っている。チェレンの感心の言葉と指摘は、残念ながら今回も、第三者によって遮られる。

「どけどけーッ!」

 怒号とともに、3番道路を男たちが駆けていく。

「なんだよいまの……?」

「あ! あいつら!」

 アクタは走り去っていった男たちの服装に見覚えがあった。騎士を思わせる制服は、つい数時間前に揉めたばかりのプラズマ団だ。

「『夢の跡地』にいたやつらとは……、別のひとかな? こんどはなにをやらかしたんだろう」

「アクタ、彼らとなにか……って、ベル?」

 続いて3番道路を、緑の帽子の少女がぱたぱたと走ってきた。

「おーい、ベル? どうして走ってるの?」

 ベルの走るスピードは遅かったので、呼び止めるのは容易かった。アクタとチェレンは幼稚園に別れを告げて、息を切らす少女に駆け寄る。

「あ、チェレン……とアクタ……! ねえねえ、いまの連中、どっちに向かった!?」

「あっちだけど……。だからどうして走ってるのさ?」

「ああもう! なんて速い逃げ足なの!!」

 ベルの足の遅さには、とりあえずアクタとチェレンは触れないでおく。

「……おねえちゃん。……あたしのポケモン?」

 ふと気がつくと、アクタたちよりも幼い──それこそ幼稚園児ほどの年齢の女の子が、遅れて駆け寄ってきた。女の子の目には涙が溜まっている。

「大丈夫! 大丈夫だから泣かないで!!」

「……あのねベル。だから、どうして走って……」

「ポケモン、盗られたの?」

 アクタの問いに、ベルと女の子は重々しく頷く。

「そ、それを早く言いなよ!」

「よしわかった。チェレン、幼稚園でポケモンを回復させてもらおう。それで、急いでやつらを追いかけよう。ベルは、その子のそばにいてあげて」

 アクタは冷静である。

「あいつらをとっちめる。もしかしたら危ないかもしれないけど、チェレン、一緒に戦ってくれる?」

「あ……ああ、もちろん! ひとのポケモンを奪うような酷い連中を見過ごすなんて、ぼくのプライドが許さない!」

 アクタは冷静である。しかしその怒りは、その場のだれにでも伝わった。

 それゆえに、チェレンは確信した。

 間違いない。この少年は、『白銀の怪物』だ。

 

 

 アクタとチェレンは、夕暮れの3番道路を駆ける。道行く目撃者の証言によると、プラズマ団たちは『地下水脈の穴』というダンジョンに逃げ込んだらしい。

「え、チェレンってぼくのこと、知ってたの?」

 道中、アクタはチェレンに自身の経歴について指摘された。

「一応、名前はね」

 ポケモントレーナーを夢見ていたチェレンは、情報収集に余念がない。各地方のポケモンリーグで殿堂入りを果たしたトレーナーは、名前と手持ちポケモンが公式サイトにも記録される。それが自分と同い年で、しかも二年続けてふたつの地方のポケモンリーグを制覇したとなれば、名前も頭に入ってしまうものだ。

「同名の別人かと思ったけど……。やっぱり本人だよね」

「あはは……。ぼく、ノーコンだし、すごいトレーナーには見えないよねー……」

 ノーコンだけが理由ではない。

 普段のアクタは、雰囲気が優しすぎるというか、覇気がないというか、温厚というか無邪気というか人畜無害というか──弱そうとまでは思わないが、すくなくとも「すごいトレーナー」という印象は見いだせない。

 しかしただ者ではないことはこの数日の付き合いでわかるし、なにより行動力と決断力が場慣れしている。

「人違いの可能性も考えたけど、きみが『白銀の怪物』だと仮定したほうが、納得できることが多い」

「そのあだ名、イッシュ地方にも伝わってんの!? しかもなんだか表記ゆれしてるし!」

 およそ12歳の少年に不似合いな異名には、アクタ本人は気に入っていなかった。

「でも……。勝手な話だけどさ、ぼくのことは特別視してほしくないんだ。アララギ博士はぼくに先輩としての振る舞いを期待しているようだけど、ぼくはきみたちと、おなじ日におなじ町から旅立った、対等な同輩でいたいな」

「……まあ」

 チェレンは、たしかに勝手な話だと思ったが。

「いいよ。ぼくもきみへの態度を変えるつもりはない。ベルにもきみの正体は話さないでおくよ」

「そっか。助かる」

 少年ふたりは薄暗い『地下水脈の穴』に入ると、すぐに二名のプラズマ団に遭遇した。

「いたいた。やい、あんたら。女の子からポケモン盗っただろ。返せよ」

 アクタは一切臆さず、大の大人二名に詰め寄る。『夢の跡地』で出会ったプラズマ団たちとは別人だった。

「なんだ貴様らは!」

「ふん! あんな子供にポケモンは使いこなせない。それではポケモンがかわいそうだろう?」

「……こいつら話が通じない。メンドーな連中だね」

 チェレンはアクタの隣に並ぶ。

「なんだ、やる気か? かわいそうなのはお前らのポケモンもおなじだな。我々プラズマ団に差し出せ。──というか、奪ってやるよ!」

 少年ふたりとプラズマ団ふたりは、それぞれバトルを始める。

「ツタージャ、“つるのムチ”!」

「ミジュマル、“みずでっぽう”!」

 決着は早かった。

 アクタとチェレンは両者ともにサンヨウジムを制したトレーナー。大人と子どもである以前に、プラズマ団たちに比べてたしかな実力を持っていた。

「おいおいおい! 子どもに負けて、ショックでかいぞ!」

「なぜだ! なぜ、正しき我々が負ける!?」

「正しき……?」

 首を傾げるアクタをよそに。

「さあ、あの子から取り上げたポケモンを返しなよ」

 こんどはチェレンがプラズマ団たちに詰め寄ろうとするが──

「返す必要はないぜ!」

 洞窟の奥から、またべつのプラズマ団二名が現れた。

「大変だよな。理解されないばかりかジャマされるなんて」

「相手はふたり。我々もふたり。こちらの結束力を見せつけ、我々が正しいことを教えてやるよ」

「また正しいって言った……」

 アクタはさらに首を傾げる。

「まだいたとはね……。それにしても、ポケモンドロボウがなにを開き直っているんだか。アクタ、まだやれるよね? こいつらの実力なら、ふたりも四人も変わらない!」

「ねえねえ、それならさ」

 アクタは一度、ミジュマルをモンスターボールに収めてその場の全員に呼びかける。

「こんどはタッグ組んで、マルチバトルでやろうよ。あんたらも()()()とやらを見せつけたいんなら、そっちのほうがいいでしょ?」

 まるで遊びの提案でもするかのような気軽さで。

 なおかつ、相手に拒否を択ばせない挑発も含めて、チェレンも含む三人を広いバトルフィールドに誘った。

「ふん! おもしろい!」

「いいだろう!」

 案の定、プラズマ団たちは少年の無防備な挑発に乗る。

「よし、じゃあこっちが勝ったら、こんどこそ女の子のポケモンを返してもらうからね。──そっちの負けたふたりもそれでいいよな? 逃げんなよ?」

 先に少年たちに負けたプラズマ団たちは、一瞬肩を震わせて硬直した。

「まったく、勝手に決めて……」

「まあまあ、チェレン。マルチバトルって大事な経験だよ。ぼくたちカノコタウン組のコンビネーションを、やつらに思い知らせよう」

「きみはよその出身だろ」

 

 

 ダブルバトルとは、各トレーナーが2体ずつのポケモンを戦わせるバトル形式である。

 対して、マルチバトルとはふたりのトレーナーがタッグを組み、各々のポケモンに指示して2対2の戦いを繰り広げる。

「バオップ、“ふるいたてる”!」

「チョロネコ、“ねこのて”!」

 正直、アクタはマルチバトルが得意というわけではない。シンオウやカントーでの修行中、それこそレクリエーションで友人たちと何度か楽しんだくらいだ。

「チェレン、オフェンスとサポート、どっちがいい?」

 得意ではないからこそ、パートナーに耳打ちしてバトルの方針を確認する。

「じゃあオフェンス──いや」

 チェレンは冷静に思案する。

 アクタのバオップは先ほど、“ふるいたてる”で攻撃力を上げた。自分のチョロネコは現状、オフェンスよりもサポートのほうがまだ役立てる。

「サポートに回るよ。“すなかけ”で相手の命中を下げる!」

「あ、いいねそれ! じゃあバオップはほのお技でがんがん攻めるよ!」

 少年たちがベストを尽くした結果。

「「“みだれひっかき”!!」」

 2匹の同時攻撃により、勝負が決した。

「プラーズマー! 負けちまった!?」

「こんな奴らにプラズマ団が敗れるとは……」

 圧勝だった。

 プラズマ団たちは決して弱くはなかったのだが、バオップとチョロネコの息を合わせた挙動が、1足す1を2以上の力とした。

「さすがだね、アクタ。すごく戦いやすかったよ」

「いやあ、ぼくはオフェンスが慣れてたからさ。チーちゃん……よく組んでた友だちがすっごくサポートが上手だったんだ。そういう経験のおかげだね」

 さて。

 アクタとチェレンは、悔しがるプラズマ団たちに改めて向き合う。

「ポケモン、返してもらいます。……ってか、あんたたちなんで、ポケモンドロボーなんかしてんの?」

「ポケモンの解放のためだ!」

「そうだ! おれたちはポケモンを解放するため、愚かな人間どもからポケモンを奪っていくのだ!」

「……やれやれ。本当にメンドーくさいな」

 チェレンは深いため息をつく。

「どんな理由があろうと、他人のポケモンを盗っていいわけないよね?」

 それはそうだ。アクタは黙って、しかし深く頷く。

「お前たちのようなポケモントレーナーが、ポケモンを苦しめているのだ……」

「……なぜトレーナーがポケモンを苦しめているのか、まったく理解できないね!」

 チェレンはプラズマ団の言葉を跳ねのけるが、アクタはひとり静かに、首を傾げて彼らの言葉を咀嚼した。

 プラズマ団の女は、そんなアクタに歩み寄る。

「ポケモンは返す……」

「あ、うん。どうも」

「だがこのポケモンはひとに使われ、かわいそうだぞ。……いつか自分たちの愚かさに気づけ」

「……あなたたちが正しいことをしたがってるのは、ちょっとわかる」

 去り行くプラズマ団に、アクタは穏やかに反論した。

「でもやり方が強引で、乱暴だ。それじゃだれにも理解してもらえない。翻弄されるポケモンたちも、かわいそうだよ」

「………………」

 プラズマ団たちは足を止めないまま、それでも恨めし気に少年を一瞥し、そのまま姿を消した。

「正しいことを? あれで?」

 こんどはチェレンのほうが首を傾げていた。

「悪いことをやっている人間が、みんなただの悪人だったら、物事は単純に済むんだろうけど……」

 アクタは、若干12歳。他人の感情を読む力は、そう正確なものでもない。

 しかしふたつの地方の制覇と、厳しい修行を乗り越えたその感受性は、常人よりも優れたレベルに達していた。──当人にその自覚はないが。

 だから、感じ取ってしまった。

「きっとあのひとたちは、自分たちのやってることが正しい道に繋がってるって、信じてるんだ。──信じてしまってるんだ」

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