ポケットモンスターNAVY ~暴投モンスターボール~   作:サンダーゴリラ

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レポート8 シッポウシティ/本の森のなかで

「うーむ! この骨格はいつ見ても……ホレボレしますな」

 シッポウ博物館に入館してさっそく目に留まるのは、大きなドラゴンポケモンの骨格標本だ。白衣の男が満足そうな表情いっぱいで標本を見上げている。

「カイリューかな? 大きいなあ」

 その骨の持ち主はすぐに予想がついた。

 つい数日前まで、アクタはカイリューのことを世話していた。カントー地方でほとんど共同生活状態だった友人の手持ちに、カイリューがいたのだ。

「お! わかりますか!」

 白衣の男は耳ざとく、少年に振り向く。

「どうもわたくし、副館長のキダチです。せっかくいらしたのです。館内を案内いたしましょう!」

「いいんですか? じゃあ、お願いします」

 さっそくキダチと名乗った男は、ふたたびドラゴンポケモンの骨格標本を見上げる。

「こちらの骨格……ドラゴンタイプのポケモンですね。きみのおっしゃる通りカイリューと見て間違いないでしょう。おそらく世界各地を飛び回っているうちに、なんらかの事故にあってそのままカセキになったようです」

「かわいそうに……」

 つぎに岩石に埋まった甲羅のポケモンの化石へ。

「とても頑丈な甲羅に、鋭い爪を持ったポケモンの化石です。非常に攻撃的なフォルムですね。海中をも自由に泳いだと言われています」

「かっこいい……」

 つぎに岩の塊に。

「この石は凄いですよ。隕石なんですよ! なにかしらの宇宙エネルギーを秘めています」

「なにかしらの……」

 ふと、アクタはその付近に展示されていた黒い石を目に留めた。

「あれも隕石ですか?」

「ああ、こちらはただの古い石です。砂漠付近で見つかったのですが、古いこと以外にはまったく価値がなさそうなものでして……」

「ふうん……。でも、なんかキレイですね」

「ええ。とてもキレイですので展示しております」

 ちょっといい加減だな、と思ってしまった。

 一通りの説明を終えて、キダチはアクタを連れて階段を上り、奥の間を示す。

「この先がポケモンジムとなっております」

「──なあんだ」

 アクタは苦笑する。

「ぼくがジムチャレンジャーってわかってたんですね」

「わたくしもここに勤めて長いですから!」

 得意そうに、キダチは眼鏡の位置を正す。

「一番奥で、強くて優しいジムリーダーが待ってます。ちなみにジムリーダーのアロエは、わたくしの奥さんなのです」

「そ、そうですか……」

 強くて優しい。

 そんなさりげないノロケに、少年は反応に困った。

 

 

「博物館のその奥で、挑戦者を待つポケモンジム……なんだか雰囲気あるっすよね」

 ジムの間に来ると、サングラスの男が話しかけてきた。

「あ、ガイドーさんだ」

「というわけで、これを差し上げるっす!」

 今回も『おいしいみず』を貰ってしまった。

「このジムはですね、ノーマルタイプのポケモンを使うトレーナーばかりです」

「ノーマルですか……」

「ここだけの話……。ノーマルタイプってかくとうタイプが苦手なんすよ。近くじゃ『ヤグルマの森』辺りにかくとうタイプのポケモンが出現したりするんすよ……」

 恐らくドッコラーのことだ。野生の個体と何度か戦ったが、もちろん、捕まえることはできなかった。

「ではジムそのものについて説明するっすよ!」

 広いジムは図書室になっていて、数多の本棚に囲まれている。ポケモンを戦わせるにも気を遣う必要がありそうだ。

 ガイドーの話では、本に隠された問題を解いていくことで、ジムリーダーのいる部屋に進むことができるらしい。

「本か……。あんまり読まないからなあ。難しそうだ」

「ちなみに最初の本は『はじめましてポケモンちゃん』です」

「そ、それなら大丈夫かも!」

 タイトルだけで本のジャンルに察しがついた。アクタは児童書のコーナーの本棚のなかから、すぐにその本を見つけ出した。

『はじましてポケモンちゃん』。

 それは、生まれて初めてポケモンと出会った男の子の童話だった。

「……なんていい話なんだ」

 すっかり話を読み終えたアクタ。鼻をすすりながら最後のページをめくると、ひらりと一枚のメモが舞い落ちた。

「おっと、これは……」

 ジムリーダーからのメッセージだった。

『ポケモントレーナーの諸君! ジムリーダーのアロエだよ! この図書館に問題を書いたメモを4つ隠しました。その問題を解いて、私の所まで来れるかな!?』

 アクタはジムを見渡す。図書室にいる数人の利用者は、読書しつつもアクタのほうに注意を向けている。彼らの正体はジムトレーナーだろう。

「ジムトレーナーに勝って、謎を解いて、か……。ほんとうに難しそうだけど、おもしろそうだ。ひとつがんばってみますか!」

 

 

「お、『ミジュマルの生態』? ………………ああ、いま探してる本とは違うみたい。読みたいけど後にしよう」

 

 

「『Q,体内で炎が燃え上がり頭から煙を出して走る』──そんなポケモンいたっけなあ?」

 

 

「わかった!! 機関車だ!! ──あ、すいません、大声出しちゃって……」

 

 

「『Q,おなべでぐつぐつ温めて食べるとおいしいもの、なんだ?』──そんなのだいたいおいしいでしょ。えーと、ポケモンに関連してるとして………………ポフィンとか? シンオウでめちゃくちゃ作ったっけ」

 

 

 謎解きとバトルを経て。アクタが最後に手に取ったのは、『ポカブの生態』。本棚からその本を抜くと、空いたスペースにスイッチがあった。

「これだ」と迷わず、スイッチを押す。その途端、なんと本棚が動き出して、地下への階段が現れた。

「よし、ようやくだ」

 関門をクリアして一瞬、気が抜けそうになったが、本番はこれからだ。アクタは一層の緊張感を胸に、階段を下る。

 そこは資料室。少年を待ち受けていたのは──

「いらっしゃい!」

 意外にも、快活な声。

「シッポウ博物館の館長にして、シッポウジムのジムリーダー。それがこのあたし、アロエだよ!」

 ボリュームのあるドレッドヘアに、褐色の肌。薄桃色のエプロンからは母性すら伝わってくる。

 博物館の館長というのだから、アクタは勝手に、チェレンのようなインテリジェンスな人物をイメージしていたのだが、アロエと名乗った彼女はむしろアクティブな印象だった。

「ど、どうも。ぼくはアクタです」

「アクタだね! あんた、真面目にちゃーんと謎を解いて来てくれたね。楽しかったかい?」

「はい。でも難しかったです……」

「ははは! でも自力で解いたんだから、ちょうどいい難易度だったってことさ!」

 それもそうか。少年は静かに納得した。

「さあて挑戦者さん。愛情込めて育てたポケモンでどんな戦い方をするのか、研究させてもらうよ!」

 挨拶もそこそこに、アロエはモンスターボールを構える。アクタも、1匹目のポケモンを繰り出すべくモンスターボールを投げた。

 モンスターボールは放物線を描き、ポケモンの骨などの研究資料が並んだショーケースに直撃した。

「ちょっと! 危ないじゃないか!」

「ごめんなさいごめんなさいほんとにごめんなさい」

 物を壊してしまっては、ノーコンも笑って済まされない。幸いにも、ショーケースは分厚い強化ガラス製だったので被害はゼロだったが。

 ショーケースの奥から、ひょこひょことバオップが歩いてきた。

「まったく、よっぽど緊張してんだね? もっとリラックスしな! さ、行くよハーデリア」

 アロエの1匹目は、ヨーテリーの進化系。大きくなった身体をマントのように黒い体毛が覆っている。バトルが始まって、ハーデリアはさっそくバオップに飛びかかる。

「ハーデリア、“かみつく”!」

 牙を受けつつ、バオップは反撃するように口を大きく開ける。

 こちらも噛みつく──わけではない。

「“あくび”」

 眠気を誘う技だ。ほどなくすれば、ハーデリアは『ねむり』状態に陥るだろう。

「おっと、そうくるかい」

「どうします? 交代します?」

 アロエの使うポケモンは、アクタと同様に2匹。『ねむり』を避けるためにポケモンを交代させるならば、もう1匹の姿も拝めるだろう。

「ふっ──いいや、まだまだ! ハーデリア、もう一度“かみつく”!」

 そう簡単に手の内は明かしてくれないようだ。

「じゃあ……、念のためバオップ、“やきつくす”」

 火炎弾を発射する。ハーデリアの持ち物に影響はないようなので、木の実は持っていないようだ。

「一発喰らわせたところで、バオップはもうけっこう体力を持って行かれちゃったね。こっちが交代しようか」

 バオップを下げて、アクタはそっと、もうひとつのモンスターボールを足元に落とした。こちらの2匹目は、もちろんフタチマルだ。

「ふーん……。緊張してるかと思ったら、なかなかどうして冷静に動くじゃないか。いまのでアンタがどんなトレーナーなのか見えてきたよ!」

 ハーデリアは“あくび”の眠気に負けて、『ねむり』の状態となっていた。こうなれば、この瞬間(ターン)はアクタの思うがままである。

「さて。手も足も出ない相手にアレだけど、こういうのもポケモンバトルだからね、フタチマル」

 アクタに言い聞かされて、フタチマルは太ももの貝──ホタチを手にする。

「“シェルブレード”!」

 斬撃。

 急所を切り裂かれ、ハーデリアは眠りながら倒れた。

「……強いフタチマルだね。ノーダメージのまま2匹目にたどり着かれたのが悔やまれる」

 アロエはハーデリアを戻し、もうひとつのモンスターボールを開く。

「だけどね、強敵だからって諦めないよ! こんな状況でも勝つ手段を探るのさ!」

 現れたのは、まっすぐに縦に立ち上がった影。なにもかもを見透かすような大きな目に、身体には薄っすらと発光するライン。ミネズミの進化系である、ミルホッグだった。

「うーんと……、よしフタチマル。あの技を使おう」

 主人の言葉の意図を理解し、フタチマルはホタチを太ももに戻す。その代わりに、拳をぎゅっと握って腰を落とす。

「“いわくだき”!」

「おっ……!?」

 それは技マシンで習得した、かくとうタイプの技だ。威力だけなら“たいあたり”よりも劣るが、ノーマルタイプのミルホッグには効果抜群だし、なにより──

「ちっ! 防御を下げられちまったかい!」

 高い確率で相手の能力を下げることができる。

「よし、もう一発……」

「そうそう好きにさせてたまるかい! ミルホッグ、 “さいみんじゅつ”!」

 ミルホッグの目から放たれる催眠光線に、フタチマルはぐらりと頭を揺らしたかと思うと、そのまま目をつむってしまった。

「さっきの『ねむり』の仕返しさ」

「うわ……」

 思わずアクタは言葉を失う。

 まさか。

「……まさか、こんな大事な場面で役立つなんて」

 フタチマルは睡魔に抱かれながらも、無意識に──むしろ本能的に、袴のような体毛のなかから、『カゴのみ』を取り出した。

「あ」

 アロエとミルホッグがハッとする。

 ミジュマルは眠りながらも『カゴのみ』をかじると、その刺激的な()()に、覚醒した。

「“いわくだき”!」

 目を覚まして即座に攻撃に移る。ミルホッグは効果抜群の攻撃によろめくが。

「まさか、『ねむり』対策してるなんて……! ミルホッグ、こうなりゃとことん攻撃だよ! “かたきうち”!」

「“シェルブレード”!」

 すれ違うように技を交差させる2匹。

 倒れたのは当然、負っているダメージが大きいミルホッグだった。

「チェレンに助けられちゃった。──ありがとう」

 アクタは小さな声で、『カゴのみ』をくれたライバルに礼を述べた。

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