ポケットモンスターNAVY ~暴投モンスターボール~ 作:サンダーゴリラ
「うーむ! この骨格はいつ見ても……ホレボレしますな」
シッポウ博物館に入館してさっそく目に留まるのは、大きなドラゴンポケモンの骨格標本だ。白衣の男が満足そうな表情いっぱいで標本を見上げている。
「カイリューかな? 大きいなあ」
その骨の持ち主はすぐに予想がついた。
つい数日前まで、アクタはカイリューのことを世話していた。カントー地方でほとんど共同生活状態だった友人の手持ちに、カイリューがいたのだ。
「お! わかりますか!」
白衣の男は耳ざとく、少年に振り向く。
「どうもわたくし、副館長のキダチです。せっかくいらしたのです。館内を案内いたしましょう!」
「いいんですか? じゃあ、お願いします」
さっそくキダチと名乗った男は、ふたたびドラゴンポケモンの骨格標本を見上げる。
「こちらの骨格……ドラゴンタイプのポケモンですね。きみのおっしゃる通りカイリューと見て間違いないでしょう。おそらく世界各地を飛び回っているうちに、なんらかの事故にあってそのままカセキになったようです」
「かわいそうに……」
つぎに岩石に埋まった甲羅のポケモンの化石へ。
「とても頑丈な甲羅に、鋭い爪を持ったポケモンの化石です。非常に攻撃的なフォルムですね。海中をも自由に泳いだと言われています」
「かっこいい……」
つぎに岩の塊に。
「この石は凄いですよ。隕石なんですよ! なにかしらの宇宙エネルギーを秘めています」
「なにかしらの……」
ふと、アクタはその付近に展示されていた黒い石を目に留めた。
「あれも隕石ですか?」
「ああ、こちらはただの古い石です。砂漠付近で見つかったのですが、古いこと以外にはまったく価値がなさそうなものでして……」
「ふうん……。でも、なんかキレイですね」
「ええ。とてもキレイですので展示しております」
ちょっといい加減だな、と思ってしまった。
一通りの説明を終えて、キダチはアクタを連れて階段を上り、奥の間を示す。
「この先がポケモンジムとなっております」
「──なあんだ」
アクタは苦笑する。
「ぼくがジムチャレンジャーってわかってたんですね」
「わたくしもここに勤めて長いですから!」
得意そうに、キダチは眼鏡の位置を正す。
「一番奥で、強くて優しいジムリーダーが待ってます。ちなみにジムリーダーのアロエは、わたくしの奥さんなのです」
「そ、そうですか……」
強くて優しい。
そんなさりげないノロケに、少年は反応に困った。
:
「博物館のその奥で、挑戦者を待つポケモンジム……なんだか雰囲気あるっすよね」
ジムの間に来ると、サングラスの男が話しかけてきた。
「あ、ガイドーさんだ」
「というわけで、これを差し上げるっす!」
今回も『おいしいみず』を貰ってしまった。
「このジムはですね、ノーマルタイプのポケモンを使うトレーナーばかりです」
「ノーマルですか……」
「ここだけの話……。ノーマルタイプってかくとうタイプが苦手なんすよ。近くじゃ『ヤグルマの森』辺りにかくとうタイプのポケモンが出現したりするんすよ……」
恐らくドッコラーのことだ。野生の個体と何度か戦ったが、もちろん、捕まえることはできなかった。
「ではジムそのものについて説明するっすよ!」
広いジムは図書室になっていて、数多の本棚に囲まれている。ポケモンを戦わせるにも気を遣う必要がありそうだ。
ガイドーの話では、本に隠された問題を解いていくことで、ジムリーダーのいる部屋に進むことができるらしい。
「本か……。あんまり読まないからなあ。難しそうだ」
「ちなみに最初の本は『はじめましてポケモンちゃん』です」
「そ、それなら大丈夫かも!」
タイトルだけで本のジャンルに察しがついた。アクタは児童書のコーナーの本棚のなかから、すぐにその本を見つけ出した。
『はじましてポケモンちゃん』。
それは、生まれて初めてポケモンと出会った男の子の童話だった。
「……なんていい話なんだ」
すっかり話を読み終えたアクタ。鼻をすすりながら最後のページをめくると、ひらりと一枚のメモが舞い落ちた。
「おっと、これは……」
ジムリーダーからのメッセージだった。
『ポケモントレーナーの諸君! ジムリーダーのアロエだよ! この図書館に問題を書いたメモを4つ隠しました。その問題を解いて、私の所まで来れるかな!?』
アクタはジムを見渡す。図書室にいる数人の利用者は、読書しつつもアクタのほうに注意を向けている。彼らの正体はジムトレーナーだろう。
「ジムトレーナーに勝って、謎を解いて、か……。ほんとうに難しそうだけど、おもしろそうだ。ひとつがんばってみますか!」
:
「お、『ミジュマルの生態』? ………………ああ、いま探してる本とは違うみたい。読みたいけど後にしよう」
:
「『Q,体内で炎が燃え上がり頭から煙を出して走る』──そんなポケモンいたっけなあ?」
:
「わかった!! 機関車だ!! ──あ、すいません、大声出しちゃって……」
:
「『Q,おなべでぐつぐつ温めて食べるとおいしいもの、なんだ?』──そんなのだいたいおいしいでしょ。えーと、ポケモンに関連してるとして………………ポフィンとか? シンオウでめちゃくちゃ作ったっけ」
:
謎解きとバトルを経て。アクタが最後に手に取ったのは、『ポカブの生態』。本棚からその本を抜くと、空いたスペースにスイッチがあった。
「これだ」と迷わず、スイッチを押す。その途端、なんと本棚が動き出して、地下への階段が現れた。
「よし、ようやくだ」
関門をクリアして一瞬、気が抜けそうになったが、本番はこれからだ。アクタは一層の緊張感を胸に、階段を下る。
そこは資料室。少年を待ち受けていたのは──
「いらっしゃい!」
意外にも、快活な声。
「シッポウ博物館の館長にして、シッポウジムのジムリーダー。それがこのあたし、アロエだよ!」
ボリュームのあるドレッドヘアに、褐色の肌。薄桃色のエプロンからは母性すら伝わってくる。
博物館の館長というのだから、アクタは勝手に、チェレンのようなインテリジェンスな人物をイメージしていたのだが、アロエと名乗った彼女はむしろアクティブな印象だった。
「ど、どうも。ぼくはアクタです」
「アクタだね! あんた、真面目にちゃーんと謎を解いて来てくれたね。楽しかったかい?」
「はい。でも難しかったです……」
「ははは! でも自力で解いたんだから、ちょうどいい難易度だったってことさ!」
それもそうか。少年は静かに納得した。
「さあて挑戦者さん。愛情込めて育てたポケモンでどんな戦い方をするのか、研究させてもらうよ!」
挨拶もそこそこに、アロエはモンスターボールを構える。アクタも、1匹目のポケモンを繰り出すべくモンスターボールを投げた。
モンスターボールは放物線を描き、ポケモンの骨などの研究資料が並んだショーケースに直撃した。
「ちょっと! 危ないじゃないか!」
「ごめんなさいごめんなさいほんとにごめんなさい」
物を壊してしまっては、ノーコンも笑って済まされない。幸いにも、ショーケースは分厚い強化ガラス製だったので被害はゼロだったが。
ショーケースの奥から、ひょこひょことバオップが歩いてきた。
「まったく、よっぽど緊張してんだね? もっとリラックスしな! さ、行くよハーデリア」
アロエの1匹目は、ヨーテリーの進化系。大きくなった身体をマントのように黒い体毛が覆っている。バトルが始まって、ハーデリアはさっそくバオップに飛びかかる。
「ハーデリア、“かみつく”!」
牙を受けつつ、バオップは反撃するように口を大きく開ける。
こちらも噛みつく──わけではない。
「“あくび”」
眠気を誘う技だ。ほどなくすれば、ハーデリアは『ねむり』状態に陥るだろう。
「おっと、そうくるかい」
「どうします? 交代します?」
アロエの使うポケモンは、アクタと同様に2匹。『ねむり』を避けるためにポケモンを交代させるならば、もう1匹の姿も拝めるだろう。
「ふっ──いいや、まだまだ! ハーデリア、もう一度“かみつく”!」
そう簡単に手の内は明かしてくれないようだ。
「じゃあ……、念のためバオップ、“やきつくす”」
火炎弾を発射する。ハーデリアの持ち物に影響はないようなので、木の実は持っていないようだ。
「一発喰らわせたところで、バオップはもうけっこう体力を持って行かれちゃったね。こっちが交代しようか」
バオップを下げて、アクタはそっと、もうひとつのモンスターボールを足元に落とした。こちらの2匹目は、もちろんフタチマルだ。
「ふーん……。緊張してるかと思ったら、なかなかどうして冷静に動くじゃないか。いまのでアンタがどんなトレーナーなのか見えてきたよ!」
ハーデリアは“あくび”の眠気に負けて、『ねむり』の状態となっていた。こうなれば、この
「さて。手も足も出ない相手にアレだけど、こういうのもポケモンバトルだからね、フタチマル」
アクタに言い聞かされて、フタチマルは太ももの貝──ホタチを手にする。
「“シェルブレード”!」
斬撃。
急所を切り裂かれ、ハーデリアは眠りながら倒れた。
「……強いフタチマルだね。ノーダメージのまま2匹目にたどり着かれたのが悔やまれる」
アロエはハーデリアを戻し、もうひとつのモンスターボールを開く。
「だけどね、強敵だからって諦めないよ! こんな状況でも勝つ手段を探るのさ!」
現れたのは、まっすぐに縦に立ち上がった影。なにもかもを見透かすような大きな目に、身体には薄っすらと発光するライン。ミネズミの進化系である、ミルホッグだった。
「うーんと……、よしフタチマル。あの技を使おう」
主人の言葉の意図を理解し、フタチマルはホタチを太ももに戻す。その代わりに、拳をぎゅっと握って腰を落とす。
「“いわくだき”!」
「おっ……!?」
それは技マシンで習得した、かくとうタイプの技だ。威力だけなら“たいあたり”よりも劣るが、ノーマルタイプのミルホッグには効果抜群だし、なにより──
「ちっ! 防御を下げられちまったかい!」
高い確率で相手の能力を下げることができる。
「よし、もう一発……」
「そうそう好きにさせてたまるかい! ミルホッグ、 “さいみんじゅつ”!」
ミルホッグの目から放たれる催眠光線に、フタチマルはぐらりと頭を揺らしたかと思うと、そのまま目をつむってしまった。
「さっきの『ねむり』の仕返しさ」
「うわ……」
思わずアクタは言葉を失う。
まさか。
「……まさか、こんな大事な場面で役立つなんて」
フタチマルは睡魔に抱かれながらも、無意識に──むしろ本能的に、袴のような体毛のなかから、『カゴのみ』を取り出した。
「あ」
アロエとミルホッグがハッとする。
ミジュマルは眠りながらも『カゴのみ』をかじると、その刺激的な
「“いわくだき”!」
目を覚まして即座に攻撃に移る。ミルホッグは効果抜群の攻撃によろめくが。
「まさか、『ねむり』対策してるなんて……! ミルホッグ、こうなりゃとことん攻撃だよ! “かたきうち”!」
「“シェルブレード”!」
すれ違うように技を交差させる2匹。
倒れたのは当然、負っているダメージが大きいミルホッグだった。
「チェレンに助けられちゃった。──ありがとう」
アクタは小さな声で、『カゴのみ』をくれたライバルに礼を述べた。