ポケットモンスターNAVY ~暴投モンスターボール~ 作:サンダーゴリラ
「大したもんだよアンタ、惚れちゃうじゃないか!」
「えっ……、そ、そんないけません。副館長が……」
アクタは赤くなってアロエから顔を背ける。
「ジョークもわからないのかい……、ほんとに真面目な子だこと」
アロエはふところからバッジを取り出す。
「ま、バトルの腕前に惚れたのはホントだけどね。ウットリするほどの得も言われぬ戦いっぷり! このベーシックバッジを受け取るのに相応しいポケモントレーナーだね、アンタ!」
シンプルなデザインの長方形のバッジ。しかし実力で勝ち取ったバッジはいつだって特別に輝いて見える。
受け取って、「ありがとうございます」と口に出したところで。
「ママー!!」
突然、副館長のキダチが資料室に飛び込んできた。
「あ、違っ……、ぼくに
アクタの謎の釈明をその場の全員が無視して。
「ママ!! 大変! 大変だよ!! プラズマ団という連中がホネをいただく!、って──」
「なんだって! どういうことだい!?」
アロエ、キダチの夫婦は揃って資料室を飛び出していく。アクタも迷わず続く。
ジムである図書室から出る際、ガイドーからすれ違いざまに話を聞く。
「聞いたっすか? 変なやつらが博物館にどかどか来て……あ、ジムバッジは!?」
「貰いましたよ。バッチリ勝ちました」
「おめでとうございます! ……で、博物館ですよ! ああどうしましょう!?」
「どうにかします」
博物館スペースに到着する。アロエ、キダチの後ろに付くアクタ。展示スペースには、数人のプラズマ団が集まっていた。彼らの騎士のような制服は、それだけでほかの客を威圧している。
「ちょっとアンタたち! おふざけはよしとくれ!!」
アロエの叱りつけるような怒声に、プラズマ団たちはこちらを振り向く。
「来たかジムリーダー。我々プラズマ団はポケモンを自由にするため、博物館にあるドラゴンのホネをいただく」
「我々が本気であることを教えるため、あえてお前の目の前で奪おう」
言うが早いかプラズマ団たちは、博物館の目玉ともいえる大きなドラゴンポケモンの骨格標本を取り囲んで。
「では煙幕!」
制止する間もなく、「プラーズマー」「プラーズマー」という妙な掛け声とともに、博物館中が白い煙で覆われた。
「うっ……させるか!」
アクタは咄嗟に、壁を伝ってプラズマ団たちに追いつこうとするが。
「きゃあっ!?」
なにかにぶつかって転んでしまった。
──やがて煙幕が晴れる。
「なんてこったい……」
アロエは、呆然としながら階段を降りる。
ドラゴンポケモンの骨格標本。
その大きな影から、頭骨が失われていた。
「……待ちなっ!!」
我に返ったアロエは、走って博物館から飛び出す。
「あっ、あっ!? 追いかけないといけないですよね。あのホネは……アロエが大好きなもの……」
狼狽する副館長、キダチ。彼は慌てながらも、アクタの様子を二度見する。
「……どうして観葉植物に頭から突っ込んでるんです?」
「た、助けてください!」
:
博物館の外では、アロエが周囲を見渡していた。
「すばしっこいやつらだね! 見失っちまったよ」
「手分けして探しましょう。ほんとはもっと、戦えるトレーナーの手が欲しいところですけど」
提案するアクタを、アロエは不思議そうに見つめる。
「アンタ、当たり前のように手伝う気でいるけど……」
「? 当たり前のようにって……、当たり前じゃないですか」
「……そうかい」
はにかむアロエ。顔を見合わせるジムリーダーと少年の、ふたりのもとに──
「やあアロエねえさん」
長身の男が歩み寄ってきた。ウェーブが掛かった長髪。首には赤いスカーフを巻いた、物腰柔らかな男だった。
「なにかいいカセキは見つかったかい?」
「アンタ、また創作に行き詰まったのかい?」
アロエは呆れた様子で肩をすくめる。どうやら知り合いらしい。
「……んうん? なんとなく気分転換かな?」
「アクタ! こいつさ、こう見えてもヒウンジムのジムリーダーで、アーティっていうんだよ!」
「あ、ジムリーダーさんなんですか! はじめまして。ぼくはアクタです」
アーティは自己紹介に応える代わりに、アクタの爪先から頭まで、舐め回すように観察する。
「ふーん……」
「え、えーと……」
「でさ、なんとなく大変そうだけど、ひょっとしてなんかありまして?」
急にアーティのほうから本題に戻ってくれる。
「そうなんだよ!! 展示品を持って行かれてさ!」
「それはそれは……」
顔を見合わせるジムリーダーと少年の、三人のもとに──
「ねえねえアクタ、みんな集まってどうしたの?」
ベルが来た。さらに四人のもとに──
「……アクタ、なにか問題でも?」
チェレンも来た。
「ベル、チェレン。それがさあ、ちょっと困ってて──」
「なんだいなんだい? この子達は……? アンタの友だちかい?」
「そうなんですよアロエさん。カノコタウンから一緒に旅を始めた、友だちで──帽子の彼女がベル。眼鏡の彼がチェレン」
「ベルにチェレン……。なるほど、トレーナーなんだね!」
友人たちを紹介したところで、アクタははっとする。
「チェレン! “カゴのみ”のこと助かった! ありがとう!」
「ど、どういたしまして……。ところで、いまはそういう雑談してる場合じゃないのでは?」
「そうだった! アロエさん、ベルもチェレンも頭数に入れていいですよね? ちゃんと戦えるし、強いんです」
「な、なに? どういう状況……?」
戸惑うチェレンとベルをよそに。
「それなら手分けするよ。あたしゃ街と、3番道路方面ね──そしてアンタたち! チェレンとベルは博物館に残ってちょうだい!」
状況がわかっていないふたりだが、アロエの指示に背筋を伸ばして「はい!」と良い返事で承諾する。
「で、アーティとアクタは『ヤグルマの森』を探しておくれよ! いい? アーティ、アンタが案内してやんな」
「じゃ、頼んだよ!」とアロエは駆け足で街の東側へ。
「……事情がわからないけれど、博物館を守ればいいんだね?」
「あ、うん。またあいつらが戻ってこないともわからないし……、詳しくは副館長のキダチさんってひとに話を聞くといいよ」
「やれやれ……」と嘆息しながら、チェレンは靴物館へ入っていく。「あっ、あたしも!」とベルも続いた。
「さてさて……、きみ、アクタくんだっけ?」
長身の男、ジムリーダーのアーティはアクタの肩に手を置いた。
「じゃあ行こうか。ドロボウ退治とやらにさ」
穏やかな目だが、どこか状況を楽しんでいるような色が見える。アクタはすこしだけ、彼に恐怖を覚えた。
:
「この先が『ヤグルマの森』だよ」
アクタとアーティは、木々が立ち並ぶ森の入り口に立つ。
「確かにここに逃げられると厄介かもね」
「ぼく、まだこの森には来たことないんですけど……、複雑な道なんですか?」
「まあまあかな」
さっそく森に入っていくアーティ。アクタもそれに続く。
木々に囲まれているせいか森は薄暗く、しかし足元は舗装された道が続いている。トレーナーたちの人影も多い。ダンジョンといえど、道路として開拓されているようだ。
「いませんね、プラズマ団……」
「いま、スカイアローブリッジのほうに確認を取ったんだけど」
アーティは腕のライブキャスターを操作している。
「そっち方面にはプラズマ団らしきやつらは来てないそうだ。──ということは、もしプラズマ団が街より西に逃げ込んでいるとすれば、まだこの森のなかにいるかもね」
スカイアローブリッジ──というのはたしか、イッシュ地方で有名な橋のひとつだ。アーティの口ぶりから、この森を抜けた先にあるのだろう。
「だったら急がないと……!」
「まあまあ落ち着いて。あのね、ヤグルマの森を抜けるには2通りあるんだ」
分かれ道で、アーティは足を止めた。
「まっすぐ行く道と、森の中を抜ける道」
彼は道路で舗装された道を指さす。
「ボクはこのまままっすぐ進み、あいつらを追いかけるよ。いなかったとしても、逃げられないよう出口を塞ぐつもりさ」
「じゃあ、ぼくはこっちに?」
もうひとつの道は舗装されておらず、その先には草むらが見える。ようやく、ダンジョンらしい森だ。
「そ。きみはこっちのルートにプラズマ団が隠れていないか、探してくれないかな。野生ポケモンもトレーナーも多いけれど、基本一本道だから迷うことはないよ、きっと」
「わかりました」
アクタは深い森に身体を向ける。
「んうん? 快諾だね。てっきり、面倒そうな道を任せられて、嫌な顔をすると思ったのに」
「え? だって、アーティさんはジムリーダーだから超強いでしょ。だったらアーティさんが出口を塞ぐほうが確実だ」
アクタは野生ポケモンに備え、足元にバオップを呼び出す。
「それにぼく、ダンジョン抜けるのは好きですよ」
「頼もしいね。──それじゃあ、アロエねえさんのためやりますか!」
:
結論、アクタはプラズマ団を発見した。
「やい。ドラゴンのホネを返せ」
「しつこい子供め! 追いかけられないよう、ここで痛めつけてやる!!」
プラズマ団の男は仲間たちを逃がし、メグロコというじめんタイプのポケモンを繰り出す。アクタはフタチマルで迎え撃ち、すぐに退けた。
「あら? なにかお探しかしら?」
さらにプラズマ団の女を発見する。からかうような口調な彼女のチョロネコを、バオップで打ち倒す。
「ここまで来たか! 同志が逃げられるよう、おれが足止めしてやるよ!」
プラズマ団の男に捉えた。男のミネズミと相対するが、フタチマルにて排除する。
「追っ手だと? まさか仲間が倒されたのか。こんな子供に!?」
やがて走るアクタは、大荷物を抱えた男に追いついた。
「そ、その荷物……、はあ、はあ……、ちょっ……、走り疲れた……!」
「疲れているようだが、だったらいっそ……! おれが相手だ!」
男は逃げるよりも、アクタを倒す選択を取ることにした。
「ミネズミ!」
「ば、バオップ!」
息を切らしつつも、少年はバトルに向き合う。
バオップやフタチマルも、回復をはさんでも、シッポウシティのジム戦から戦い詰めなので、疲労の色は濃い。
しかしいくらトレーナーやポケモンが疲れていようが、バトルが始まってしまえば、それは負けの言い訳にはならない。特に今回は、自分に害意のある悪党。そもそも負けるわけにはいかない。
「バオップ、“やきつくす”!」
何度目かの攻撃で、ミネズミは倒れる。
「くっ……、メグロコ! “かみつく”!」
つぎの相手はバオップにとって相性の悪い、じめんタイプのメグロコだ。しかしすぐに交代はさせない。疲れているバオップだが、今回は普段より戦いのノリが良い。
「バオップ、もしかして『ヤグルマの森』って地元なの? ──だからかな。なんだかテンションが良い感じだね」
バオップは肯定するように、アクタを一瞥して短く鳴いた。
「じゃ、もうちょっとがんばってみよっか……、“あくび”!」
眠気を誘い、メグロコの動きを封じる。
「“みだれひっかき”!」
猛攻の末、メグロコは倒れた。戦うポケモンを失ったプラズマ団の男は膝をつく。
「プラーズマー! これではポケモンたちを救えない!」
「その掛け声はちょっとおもしろくなってきたけど……、ドロボー行為がなにかを救うとは思えない」
アクタは息を切らしつつ、男に詰め寄る。
「返せ。そのホネは、アロエさんにとって大切なものなんだ」
「……わかった。盗んだホネは返す!」
荷物を受け取る。中身を検めると、たしかに例の骨格標本の頭部だった。
プラズマ団の男は肩を落として、少年から距離を取る。
「これで我らの……、そして王様の望みが叶わなくなるのか……」
「王様?」
男の言葉を理解する前に、ふたりが対峙する深い森に、緑色のコードをまとった老人が現れた。
「大丈夫ですか。王様に忠誠を誓った大切な仲間よ」
老人はどうやらプラズマ団の仲間らしい。アクタは身構える。
「七賢人さま! せっかく手に入れたホネをみすみす奪われるとは、無念です……!」
「いいのです。ドラゴンのホネですが、今回は諦めましょう。──調査の結果、我々プラズマ団が探し求めている、伝説のポケモンと無関係でしたから」
はっきり言った。この老人もプラズマ団だ。アクタの警戒レベルが上がる。
「ですが」
アクタの警戒に応えるように、老人はギョロリと少年に目を遣る。
「我々への妨害は見逃せません。二度と邪魔立てできないよう、痛い目に遭ってもらいましょう」
「………………」
これはマズい。アクタはとりあえず、バオップをモンスターボールに収める。
アクタ自身も、ポケモンたちも、ジム戦からまるで休息を取らずに戦い詰めなので、体力的に限界が近い。バトルならまだしも、ルールのない暴力という手段を択ばれたら対抗できない。
最悪、自分だけなら暴力に耐えるとして、なんとかポケモンだけでも逃がせないだろうか。──逃げ道を模索するアクタだが。
「ああ、よかった!」
助けがやってきた。
森が似合う長身の男、アーティだ。
「むしポケモンが騒ぐから来たら、なんだか偉そうな人いるし。さっきボクが倒しちゃった仲間を助けに来たの?」
そして。
「アクタ! アーティ! ほかの連中はなんにも持ってなくてさ……」
シッポウシティからアロエも駆けつけてきた。
「アーティさん! アロエさん! 助かったあ……!」
安堵する。涙さえ出てしまいそうだ。
「よしよし、がんばったね。──で、なんだい。こいつが親玉かい?」
「わたしはプラズマ団七賢人の1人、アスラです」
「七賢人……?」
不思議そうなアクタに、老人は得意そうに語る。
「おなじ七賢人のゲーチスは言葉を使い、ポケモンを解き放たせる! 残りの七賢人は仲間に命じて実力でポケモンを奪い取らせる!」
「………………」
結局、この老人が強いのかどうかわからなかった。
「だがこれはちと、分が悪いですな。むしポケモン使いのアーティに、ノーマルポケモンの使い手アロエ。『敵を知り己を知れば百戦して危うからず』……、ここは素直に引きましょう」
アスラとプラズマ団の男は、アクタたちに背を向ける。
「ですが我々は、ポケモンを解放するためトレーナーからポケモンを奪う! ──ジムリーダーといえど、これ以上の妨害は許しませんよ」
「許さないってのはこっちのセリフだ」
アクタは汗を流しながらも、プラズマ団たちに食って掛かろうとする。思わずアロエは少年の肩を抱いた。
「だれかから、なにかを奪うなんて……、それは許されることじゃない」
「……いずれ決着をつけるでしょう。ではその時をお楽しみに……」
「待ちな!」
アロエの制止も虚しく、プラズマ団たちは速足で去って行った。
「──素早い連中だね。どうするアーティ。追いかけるかい?」
「いやあ……、盗まれたホネは彼が取り返してくれてみたいだし、それに──」
アクタは、ゆっくりと膝をついて。
「彼、限界みたいだし」
「すいません、なんかすっごく眠くて……」
この夜、アクタが記憶しているのは、そんな弱音を吐露したところまでであった。