ポケットモンスターNAVY ~暴投モンスターボール~   作:サンダーゴリラ

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レポート10 ヒウンシティ/大都会

「……──ふがっ」

 目が覚めると、ポケモンセンター宿泊施設のベッドの上だった。

 寝ぼけまなこのアクタの顔を、フタチマルとバオップが覗き込む

「お──はよ。なんかすっごい寝た気がする。心配かけた?」

 2匹は、撫でようとするアクタの手を適当にあしらう。フタチマルはぷいっと顔を逸らし、バオップはあくびをする。

「きみたちはいつもどおりか。良かった。──そうだ、例のカセキ!」

 2匹をモンスターボールに入れ、ジャケットと帽子を身に着け、荷物をまとめてポケモンセンターから飛び出す。

 シッポウ博物館の扉をくぐり、ドラゴンポケモンの骨格標本を見上げると──そこには、しっかりと頭部が備わっていた。

「戻ってる……。そっか、ちゃんと取り返したんだった」

 気を失うように眠ってしまったものだから、前後の記憶が曖昧なので不安だったのだ。プラズマ団員からこのホネを取り返し──その後、七賢人などという老人との邂逅。アーティとアロエの到着。プラズマ団をそのまま逃がして──といったところまでは記憶しているのだが。

「アクタ!」

 骨格標本を見上げるアクタに、博物館館長のアロエが驚いた様子で声をかけた。館内なのに、大声で。

「アロエさん。えっと、きのうは──」

「きのうはおつかれさま! 見てのとおり、アンタが必死になって取り返してくれたドラゴンのホネは、うちに帰って来てくれたよ!」

 あらためて、骨格標本を見上げる。

 カントー地方で別れたカイリューを思い出す。あのカイリューは主人に似ず(あるいは似て)、いささか我が強い性格だったが、だんだんアクタにも慣れてくれた。

「良かったです……」

「アクタ、本当にありがとうよ。アンタのように優しいトレーナーなら──」

 安堵したアクタの下腹部から、まるで大型ポケモンの唸り声のような低い音が、博物館内に鳴り響いた。

「ご、ごめんなさい……、さっき起きたばっかりで……」

「お腹空いてんだね? もうお昼過ぎだからねえ。そうだ、お弁当食べるかい?」

 博物館の奥、シッポウジムのさらに最奥。アロエの資料室に案内される。この部屋を訪れるのは、ジムリーダー戦以来の2回目だ。

「そうそう、午前中にあのチェレンって子が挑戦に来たよ。あの子にもバッジを上げる結果になっちゃった。なかなか素質のあるトレーナーだねえ」

「そっか、勝ったんだ。……それで、チェレンとベルはどこに?」

「もうこの街からは旅だったよ。アンタのことは心配してたけど、いびきかいてぐっすり寝てるから大丈夫だろ、だってさ」

 よほどアクタは熟睡していたようだ。さすがに恥ずかしくなる。

「さ、おあがりよ」

 手作りらしきサンドイッチ入りのボックスがテーブルに広げられた。空腹だったので、「いただきます!」と手を合わせて間もなく、アクタはサンドイッチを平らげてしまった。

「ごちそうさまです!」

「ふふふ、よっぽどお腹減ってたんだねえ。まあ、当然か。きのうはあんなにがんばってくれたんだからね」

「……あれ? このお弁当ってもしかして、アロエさんのランチじゃ……」

「ん? いいのいいの、アタシはあとで適当に済ませるからさ」

「す、すいません……、おいしかったです」

「そりゃよかった。きょうの弁当はダンナが担当だったからね。伝えとくよ」

「……ケチャップをたっぷり使ってほしい、とも言っといてください」

 アロエのお手製でないとわかるや、急に注文を付けた。

「それにしても」

 アロエは、少年とじっと見つめる。

「ひとは見かけによらない、とは言うけれど。きのうのアンタの様子じゃ、納得もできるね」

「な、なんの話ですか?」

「カントーとシンオウで殿堂入りしたんだろ? それ以外にもいろいろ活躍したとか」

 アクタはバツが悪い表情になる。

 新米トレーナーの振りをしていたわけじゃないが、悪目立ちしたくないので、過去の経歴は隠していたかったのだ。

「カワイイ顔して、『白銀の怪物』だって?」

「そのあだ名はぼくも不本意です!」

「きのうも言ったけど、あんたは真面目だよ。そして苛烈で、執念深い。だからぶっ倒れるほどまでがんばれるんだね。──でも怪物呼ばわりされるってことは、度が過ぎるということでもあるよ」

「……はい。そこは、返す言葉もないです」

 引き際を見誤るのは、師匠にも注意された悪癖でもある。

「ぼく、過去の旅で悪いひとたちを何人か見てきました。それで、我慢ならないんです。──だれかが、だれかから奪うことが」

「その悪を正すために、あんたが傷つくんじゃ本末転倒だよ。それに、傷つくのはあんただけじゃない。一緒に戦う、あんたのポケモンもだ」

「………………」

 うつむくアクタの頭を、アロエは優しく、それでいて力強く撫でる。

「そんな悲しい顔をしなさんな! 説教くさくなっちゃったけどさ、あんたは正しいよ。あんたのように優しいトレーナーなら、一緒にいるポケモンも幸せだよ」

 率直に褒められて、アクタは一変して顔を赤くする。

「これからは自分のことも大事にしな。大丈夫! あんたのためなら、アタシたちはいつだって力になるからね」

「……はい。ありがとうございます、アロエさん

 アクタは、恋をしてしまいそうだった。

 人妻なのに。

 

 

「そういや、アーティが言ってたよ。『ヒウンシティのポケモンジムで、きみの挑戦を待ってるよ。うん、楽しみ楽しみ』だってさ!」

 アロエから伝言を聞いて、アクタはつぎに戦うジムリーダーがアーティであることを確信した。

「さて、もう一度『ヤグルマの森』の森に挑戦だ。──でもたしか、森を抜けるだけなら一本道なんだっけ」

 大変なのはそこから先だった。舗装された道に沿ってスムーズに『ヤグルマの森』を踏破すると、視界に飛び込んできたのは、息を呑むほど巨大な鉄橋。

「こ、これが──スカイアローブリッジ……!?」

 歩行者用の通路の先には、摩天楼の街が霞んで見える。真下の道路にはつぎつぎと車両が行き交う。

「……おっと、圧倒されてる場合じゃないや。こんな長い橋、のんびり歩いてたら日が暮れちゃう」

 駆け足で通路に臨む。やはり、道は長い。景観が良いので飽きはしないものの、のんびり歩いているとまさに日暮れまで時間がかかってしまいそうだ。

 数十分の駆け足で、ようやく。

「ぜえ……、ぜえ……、はあっ……、しんど……!!」

 

────

 ヒウンシティ。

 ヒウンは飛ぶ雲、めでたい雲。

────

 

「この前、船で到着したときから思ってたけど……、おっきい街だよなー」

 巨大なビルが並ぶ大都会。看板の地図を見るに、街の規模も相当なものだ。大通りに足を踏み入れると、スーツ姿の人々が速足で行き交っている。

「みんなよくぶつからないな……、ぼくも気をつけて歩かないと」

 ポケモンの連れ歩きは困難だろう。アクタは足元のバオップをモンスターボールに戻した。

 ヒウンストリートに立ち並ぶビルには、数々の企業が居を構えている。

 モードストリートはまたビジネス街とはまた違った賑わい方を見せ、行列ができるヒウンアイスの屋台や、絵や美術品が並ぶアトリエがある。

 スリムストリートは、打って変わってひと気のない裏路地だった。寂しく不気味な雰囲気が漂うも、穏やかな音楽を流すカフェも建っていた。

 セントラルエリアには大きな噴水と、その前で三人のダンサーが躍っている。

 ほかにも、カントー地方から船で来た際に降りた波止場や、とてもアクタには縁がなさそうな豪華客船への乗り場がある。

「うーん、とても一日じゃ回り切れないな。とりあえずアーティさんのところに挨拶でもしに行こうかな。そのままジム戦できればいいんだけど」

 今回、ジムのある場所はすぐに分かった。看板通りの位置であったのはもちろんのこと、ジムであるビルのデザインが非常に奇抜だったからだ。

「うわ……、なんというか、アーティさんらしいというか……」

 幾何学模様のビルの壁面が、多彩な光を放っている。

『ヒウンシティポケモンジム。リーダー、アーティ。モストインセクトアーティスト』

 なぜか、このビルに入ること自体が恥ずかしく思えてきた。

「き、気にしない気にしない! だれも気にしてないし!」

 勇気を出してヒウンジムに踏み込もうとすると。

「! やあ、アクタ」

 眼鏡の少年、チェレンが奇抜なビルから出てきた。

「たったいま、ジムリーダーのアーティさんに挑んだところさ」

「そうなんだ。結果は?」

 チェレンはジムを振り返り、その前衛的なデザインに改めて眉をひそめる。

「さすがジムリーダーだね。ジムバッジを入手するのにちょっと手こずったけれど──まあ、ぼくにかかればむしタイプも問題なしだね」

「勝ったんだ! やるねえ」

 自分のことのように喜ぶアクタに、ふたたびチェレンは向き直る。その面持ちは、勝者のものとは思えないほど神妙な表情であった。

「このままイッシュ地方のジムリーダー全員に勝利し、そしてポケモンリーグに向かい、チャンピオンを超える! そうすればだれもがぼくを強いトレーナーとして認めてくれる……」

 チェレンの目線は、アクタではなくその向こうを見据えていた。アクタはその様子を不思議に感じつつも、真面目な表情を崩さずに眼鏡の少年に問う。

「チェレンにとっては、その目標を叶えることが大事なんだね?」

「愚問だね。当然じゃないか! それでこそぼくは、生きていると実感できるはず……」

 チェレンは、すれ違いざまにアクタの肩を軽く押しのけて、ヒウンジムから去って行った。

「生きている……?」

 死んでおらず、生きているのだから、生きている。生の実感を失ったことさえないアクタにとって、その事実を疑うなど考えにも及ばなかった。

「チェレン……、旅してて楽しくないのかな……? うーん、それは理解できないけど、他人の考えには寄り添うよう、シロナにも言われたし──わかってあげられるようになりたいな」

 しかしいま、ポケモンジムの入り口で立ち止まってまで思考することではない。あらためてジムに向き直ったところで。

「うおわ?」

「あ」

 こんどは、ジムリーダーであるはずのアーティが出てきた。

「きみ……、ヤグルマの森でプラズマ団と戦ってくれた……、たしか名前は……」

「アクタです」

「そうそう、アクタくん! ……自分で思い出せたよ?」

 アーティは困った様子で首を傾げる。

「ひょっとしてジムにチャレンジ? あうう……、申し訳ないけど、ちょいと待ってくれるかな?」

「なにかあったんですか?」

「それが、連絡があってさ! プラズマ団が出たらしいんだ!」

 アーティははっとして、少年の肩を掴む。

「というか、きみも来てよ!」

「え──は、はい!」

 頷いてしまった。

「プライムピアって波止場に行くよ!! こっちこっち!」

 急展開ながらも、アーティに連れられつつ、「まあ良いか」と思った。

 ──否、良いことではないか。

 

 

 波止場に着くと、そこには見知った少女がいた。

「あ、ベルだ」

「……アクタ」

 ベルは、目に涙を溜めてアクタを迎える。アーティは肩をすくめる。

「プラズマ団……、このコのポケモンを奪ったって」

「……アクタ、どうしよう。あたしのムンナ……、プラズマ団に盗られちゃったあ」

「ムンナが──そっか。あのあと、『夢の跡地』で捕まえたんだね」

「あたしね、おねーちゃんのひめいをきいて、ひっしにおいかけたんだよ!」

 ベルと一緒にいたのは、腰まで伸びた長髪に、褐色の肌を持つ少女。アクタやベルよりも年頃は幼い。

「……でもこのまちおおきいし、ひとばかりで、みうしなっちゃったの」

「アイリス……、きみはできることをしたんだから」

 アーティの知り合いらしい。長身のアーティはかがんで少女を慰める。しかし少女は納得がいかないらしく、

「……でも、ダメだもん! ひとのポケモンをとっちゃダメなんだよ!!」

 飛び跳ねて憤慨する。

「ポケモンとひとは、いっしょにいるのがステキなんだもん! おたがいないものをだしあって、ささえあうのがいちばんだもん!」

「だよなー!」

 思わずアクタは激しく頷いて同意する。

「良いこと言うなーきみ! アイリスちゃんって言ったっけ? まだぼくらより幼いだろうに……、なんて育ちが良いんだろう!!」

「アクタ。そういうのは後にしようね」

 感動していたら、アーティにたしなめられてしまった。

「うん、たしかにアイリスの言うとおりだよね。だからボクたちがポケモンを取り返す。ね、アクタくん」

「はい。もちろんそうしましょう」

「……とはいえ」

 アーティは憂鬱そうに振り返る。

「このヒウンシティでひと探し・ポケモン探しなんてまさに雲をつかむ話」

「あー……、それはたしかに。ふたりで手分けしたって……」

 超広大にして超人口密集地での『犯人追跡』の手段に悩み始めたところで。

「!」

 波止場に、プラズマ団がひとり現れた。

「なんでジムリーダーがいるの!? せっかく上手くいったからもう1匹奪おうとしたのに……」

 アクタはプラズマ団の女性目がけて走り出す。

「って逃げなきゃだわ……!!」

「アイリス! きみはそのコのそばにいて」

 遠く背後からアーティの足音も聞こえてくるが、大通りに入るとすぐに雑踏に紛れて離れ離れになる。

 が、アクタはプラズマ団の背中だけは見失わなかった。

「ベルを泣かせた落とし前は、絶対につけさせてやる……!」

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