ポケットモンスターNAVY ~暴投モンスターボール~ 作:サンダーゴリラ
プラズマ団の背中がある建物のなかに消えたので、アクタは急ブレーキかけて停止した。
「アクタ! プラズマ団はどこだい!?」
やがてアーティも駆けつける。アクタは息を切らしながら、最後にプラズマ団の女を見たビルを指さした。
そのビルの入り口には、いつの間にか3人のプラズマ団員が立ちふさがっていた。
「……間違いなくココだね」
「は、はい……、はあ、はあ……っ、よしっ! 落ち着いた。さあ行きましょう」
「たくましいねえ、キミ」
アーティは一旦、ライブキャスターで連絡を取り、そしてアクタを連れて例のビルへと不敵に歩み寄って行った。
「いないいない! この中に仲間とか七賢人さまはいない!」
「七賢人もいるんだ……」
動揺しているプラズマ団たちは、あまりにもわかりやすい。
「……やっぱり勝負して中に入るしかないのかな」
アーティが目配せをすると、アクタは彼の隣に並ぶ。
「3対2ですね。どうやって戦う?」
「キミがみんなやっつけてくれると楽なんだけど……」
サボろうとするアーティをよそに。
「くそー! おれはこっちの弱そうなヤツの相手をするから、お前らまとめてあっちの強そうなヤツに向かえ!」
プラズマ団3人は、アクタのもとにひとり、アーティにふたりと別れた。
「……ったく! というわけでアクタくん。そっちの相手はお任せするよ」
「はーい。──ぼくとしても、3人かかってこられて構わなかったんだけど」
そのぐらいにテンションは上がっている。
というより、怒りを発散させたい気分だ。
「行け、メグロコ!」
「フタチマル」
アクタの投げたボールは大通りのほうに飛んで行ったが、そこはノーコンに慣れ始めたフタチマル。「予想通り」と言わんばかりに、即座に人混みのあいだを縫ってアクタのもとに戻ってきた。
「“シェルブレード”」
そしてメグロコを倒した。
「なっ……!? じゃあもう1匹!」
2匹目のメグロコが現れる。
「“みずでっぽう”」
そしてバトルは終了した。
「──んだよ! 他人のポケモン奪ったぐらいでマジかよ!!」
「冗談でベルからムンナを奪ったのかよ」
悪態をつくプラズマ団員を、アクタは厳しく睨みつける。プラズマ団員は思わず後ずさりした。
「あ、そっち終わったかい?」
おなじタイミングで、アーティはほか2名のプラズマ団員を打ち倒していた。彼のかたわらには、さながら葉っぱで構成された人型のポケモンが。──アーティは相棒をモンスターボールに戻し、呑気にこちらに手を振った。
「どっちが速かったかな?」
「アーティさんはふたり相手だったし……」
仮にアクタの決着のほうが速かったとしても、見事な手際だ。
「マズイ……」
プラズマ団たちは3人分の不安な顔を見合わせる。
「マズイマズイマズイマズイマズイマズイ。プラズマ団としてマズイ。ちぢめてプラズマズイ!」
アクタはイラっとした。
「とりあえず七賢人さまに報告しないと……!」
プラズマ団たちはビルの中へ。
「行きましょう、アーティさん」
「まあ待って。えーと……あ、来た来た」
大通りの奥から、アイリスとベルがやって来た。どうやら先ほど、アーティはアイリスたちに連絡を取っていたらしい。
「……はあ、まよっちゃった。ライブキャスターでせつめいされても、チンプンカンプンだよ!」
「ここにプラズマ団がいる。もしかしたら奪われたポケモンもいるかもしれない」
アーティの言葉に、アイリスは勇んで進み出る。
「よーし! こんどはあたしもたたかう!!」
アクタの印象として、このアイリスという少女は戦えるし、しかも強い気がする。
「さあ、ベルおねーちゃんも!」
「ちょ、ちょっとお……」
「行こう、ベル。ムンナを迎えに行くんだ」
そして四人は、ビル内へ。
:
「これはこれは。ジムリーダーのアーティさん」
ビルに乗り込んで早々、ロビーにて豪奢なコートの3人の老人たちに出迎えられた。七賢人だ。そのうちの中央のひとりには見覚えがある。
長髪に、片目には仮面のようなモノクル。カラクサタウンでスピーチをしていた、ゲーチスという男だ。
「………………」
彼を目にするのは、二度目。『夢の跡地』での幻を含めると、三度目だ。
七賢人たちの背後では、先ほど逃げ出したプラズマ団員たちが縮こまっている。
「プラズマ団って、ひとが持っているものが欲しくなると、盗っちゃうひとたち?」
穏やかながらも、アーティは詰め寄るように進み出る。
「ポケモンジムの眼前に隠れ家を用意するのも面白いと思いましたが、意外に早くばれましたな」
七賢人のひとりがゲーチスに耳打ちする。
「たしかに……、まあワタクシたちの素晴らしきアジトは既にありますからね」
「アーティさんのこと無視してんじゃねーよ」
アクタが威圧的に口をはさむと、ゲーチスは緩慢に、そして余裕な笑みを湛えて少年に目を向けた。
「『白銀の怪物』……、あなたのことも心得てますよ。ようこそイッシュ地方へ」
挑発的な歓迎に、アクタは睨むことで返答する。
「さて、アナタがた」
ゲーチスは、カラクサタウンのときのように演説の姿勢に入る。
「イッシュ建国の伝説はご存じですか?」
「しってるよ! しろいドラゴンポケモンでしょ!」
アイリスが答える。この場で心当たりがないのは、よその地方から来たアクタだけのようである。
「そう……。多くの民が争っていた世界をどうしたらまとめられるか……? その真実を追求した英雄のもとに現れ、知識を授け、刃向う存在には牙を剥いた……、白いドラゴンポケモン。英雄とポケモンのその姿、その力が、みんなの心をひとつにしてイッシュを造り上げたのです」
このあたりで、アクタはプラズマ団の目的に察しがつく。
「いま一度! 英雄とポケモンをこのイッシュに甦らせ、人心を掌握すれば! いとも容易く……プラズマ団の望む世界にできるのです!」
「このヒウンには、たっくさんのひとがいるよ」
演説のさなかで突然、アーティが切り出した。
「それぞれの考え方、ライフスタイル、ほんっとバラバラ。正直なにを言ってるかわからないこともあるんだよねえ」
「はて」「なにを?」とゲーチスのかたわらの七賢人たちが不思議そうにしている。ゲーチスの話とのつながりが見えないので、アクタたちもアーティの言い分がまだ理解できない。
「だけどみんなに共通点があってね。──ポケモンを大事にしているよ」
アーティの穏やかな目は、まっすぐにゲーチスに向けられている。
「初めて出会うひとともポケモンを通じて会話する。勝負をしたり交換したりね。──カラクサの演説だっけ?」
不意にアーティはその目を少年に向けた。
「アクタ、聞いたんだろ? どう思った?」
「え? えーと……」
唐突に話を振られて戸惑うものの、ここは率直に。
「あの演説は、聞けて良かったなって思いました」
ゲーチスを持ち上げるかたちになってしまうのはシャクだ。老人は「それはどうも」と得意そうに微笑む。
「ぼくはポケモンが好きです。この二年以上、ポケモンと付き合ってきて、その思いはポケモンに伝わっているって……、そう信じていました」
腰元のモンスターボールを撫でる。
「でも、どこかで甘えてたのかもしれない。ぼくがポケモンを好きなように、ポケモンにもぼくを好きになってもらえるように、もっともっと、真剣に向き合わないと。──あの演説を聞いて、そんなふうに身が引き締まりました」
ゲーチスの目は、もはや笑っていなかった。
「──んうん、ありがとうアクタ。さて、聞いてのとおりだよプラズマ団」
アーティは少年の肩に手を置く。
「あなたたちのやっていることは、このようにポケモンとひとの結びつきを強めるんじゃないの?」
「──フハハハ!」
その反論を、ゲーチスは一笑に付す。
「掴みどころがないようで、存外キレ者でしたか。ワタクシは頭の良い人間が大好きでしてね。王のため世界各国から知識人を集め、七賢人を名乗っているほどです。──よろしい! ここはアナタ方の意見に免じ、引き上げましょう」
カツン、とゲーチスは手にした杖を打ち鳴らす。それを合図に、プラズマ団員たちはモンスターボールからムンナを放した。
「そこのお嬢さん……、ポケモンは返してやろう」
ムンナはベルの姿を認めると、まっすぐに彼女のほうに浮遊していった。ベルもムンナに駆け寄って抱き締める。
「あっ、ありがとう! ムンナちゃん! おかえり!!」
「ベル……、ありがとうじゃないでしょ」
「そーだよおねーちゃん!! こいつら、ひとのだいじなポケモンとっちゃったわるものなんだよ!?」
アクタとアイリスが口を尖らせるも、
「で、でもお、ムンナが無事で嬉しくて」
ベルは泣きながらムンナを抱き、撫でる。
怒りよりも、安心感がずっと強いのだ。アクタにも気持ちは理解できるが。
「これは麗しいポケモンとひとの友情!」
その光景を嘲笑するように、ゲーチスは余裕綽々だ。
「ですがワタクシは、ポケモンを愚かな人間から自由にするため、イッシュの伝説を再現し、人心を掌握しますよ……!」
「やらせない」
アクタは冷たく、しかし熱く、ゲーチスたちを睨みつける。
「ひとの心は、だれのものにもならない。そもそも、ひととポケモンを無理やり離れさせようとするようなやつらに、だれも従うもんか」
「そーよそーよ!!」
アイリスは跳びはねて同意してくれるが──
「ふたりとも、道を開けるんだ」
アーティに襟を引かれて、プラズマ団たちの前から退けさせられた。
「いずれ理解する日が来ますよ。ワタクシたちこそが、真実です。──では、ごきげんよう……」
プラズマ団たちは、ビルから去って行った。
ムンナはベルのもとに取り返した。プラズマ団の隠れ家もひとつ潰した。この結果はひとつの「勝利」と呼べるものであろう。
しかしアクタは、胸中に清々しいものを感じていなかった。プラズマ団が自分の「敵」であると、はっきりしてしまったからだ。
:
「どーしてわるいヤツをみのがしちゃったの!?」
事件が解決してビルから出たあとも、アイリスは不満な様子だった。
「……んうん。だって奪われたポケモンにもしものことがあれば、ボクたちはどうすればいいのさ?」
「大丈夫だよ。アイリスちゃん、ありがとう! みんなケガなかったし、なにより大事なポケモンと、こうやってまた会えたんだもん!」
ベルはムンナが入ったモンスターボールを、それこそ大事そうに胸に抱いている。
「そっか……、だったらいいんだけど……」
「で、みんなはこれからどうするのさ?」
アーティの問いに、ベルは不安そうな表情を見せる。
「……あたしはヒウンシティをいろいろ見て回りたいけど……」
「あんなことがあったあとだし、ちょっと不安だよね」
アクタは、しばらく自分と一緒に行動するよう、提案しようとしたが──
「だいじょーぶ!! あたしがベルおねーちゃんのボディーガードするから!!」
アイリスに先を越されてしまった。
「アイリスちゃん……、いいの?」
「んー、いいねえ。アイリスはとびっきりのポケモントレーナーだけど、この街は苦手みたいだし。それにほら、ひともポケモンも、助け合い、助け合い!」
満足そうに頷くアーティ。
「あと、おにーちゃん!」
アイリスは、ぐっとアクタに詰め寄る。吸い込まれてしまいそうな大きな瞳が、近い。
「な、なんですか……!?」
思わず敬語になってしまった。
「おにーちゃんって、ポケモンジムに挑戦してるんだよね?」
「うん、そうだけど……」
「えへへ……、それじゃあ、またね!」
アイリスは機嫌が良さそうに跳びはねて、ベルの手を引いて大通りの奥に走って行った。ベルは「ちょ、ちょっとお」と戸惑いながら付いていく。
「……あれじゃ、どっちが保護者かわかったもんじゃないね」
「そ、そうですね……」
「んうん? どうかしたのかい?」
「いや、アイリスちゃんが、なんだか──知り合いに似てて」
具体的には、あの師匠とか、あの妹分とか。
「気に入られたみたいじゃないか。うんうん、良かったね」
「良かったんですかね……?」
「さて、なんだかいろいろ大変だったけど」
ぽん、とアーティはアクタの肩に手を置く。
「じゃあアクタくん。ボクはジムで待ってるよ」
まだ、この街で戦うべき相手は残っている。
:
「いやあ、ヒウンシティはどうですか? ひとが多くてジムに来るだけで
「どうも」と、ヒウンジムにてガイドーから『おいしいみず』を受け取る。
へたばっている理由は、街の人口密度だけではない。
時刻はとっくに夕方。基本的にはのんびり屋のアクタ。プラズマ団の件がなかったとしても、きょうは休んで挑戦はあしたに延期してもよかったのだが。
──しかしいまは戦いたかった。
プラズマ団の件があったから、と言えよう。下っ端ひとりと戦って、その後は幹部とも呼べる七賢人たちと対峙したものの、バトルには発展せず。
彼らに対して大いに怒りはあるものの、振り上げた拳を下ろす先もなく。──要するに、
「案外アーティさんも、おなじようにムカついているから、誘ってくれたのかな」
さて、奇抜なジムへのチャレンジが始まる。
アクタの目の前には、黄金色に輝く半透明の壁。驚くべきことに、この壁はミツでできている。
「あ、甘い匂いが……、ほんとにミツなのかな……?」
恐る恐る、少年は壁に触れる。ゴムのように弾力がある。ミツといっても、口に入れていいような代物ではなさそうだ。
「──よし」
意を決する。
壁から距離を取って、十分に助走をつけたうえで──
「ままよ……!!」
ミツの壁の中央を目がけ、突撃した。
「ひっ、いいい、いいいいいい……!?」
壁は少年を包み込むように伸びる。伸びて、伸びて、徐々に膜は薄くなって、やがて──
「──おあっ!?」
すぽん、と少年を通り抜けた。
勢いあまって、転倒する。
「ほ、ほんとうに壁を突き抜けられた……。しかもベタベタしてない! どういう仕組みで……!?」
アクタは思わず身体中を撫でる。イッシュ地方に渡る前に新調した服はキレイなままだった。
この、ミツの壁を通り抜けることがヒウンジムの仕掛けである。
ジムはハチの巣状の迷路になっており、ところどころに設置された仕掛け扉やミツの壁が挑戦者の行く手を阻む。
時おり
「さっきはありがとー!」
ひらひらと手を振って少年を迎えるアーティ。これから戦うというのに、まるで緊張感がない。つまりいつもどおりだ。
「疲れているだろうに悪いねー。ボクのむしポケモンが、きみと戦いたいって騒いでさ」
「いえいえ。ぼくもプラズマ団の下っ端相手じゃ物足りなかったので、ちょうど良かったです」
アーティは満足そうに頷く。
「ではでは、早速だけど勝負だね」
余計な挨拶は抜きだ。アクタはモンスターボールを投げる
「あ」
真後ろに飛んでいった。ボールは階段を転げ落ちて、ミツの壁に貼りついた。
「んうん? 芸術的だねー」
「す、すいません……」