ポケットモンスターNAVY ~暴投モンスターボール~   作:サンダーゴリラ

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レポート12 ヒウンシティ/うたかたの氷菓

 数日前、サンヨウシティポケモンジムにて。

「なあなあ、バオップってどうやったら進化するか知ってるか!?」

 ジム戦終了後。紅茶を振る舞ってくれるというので、席に案内されたアクタに、赤い髪のウェイター・ポッドが話しかけた。

 聞くところによると、彼の相棒もバオップらしい。つまりアクタにとってはバオップ使いの先輩だ。

「レベルを上げればいいんじゃないですか?」

「へへッ、そう思うだろ? 違うんだなー、これがッ!」

「へえ……、じゃあ『ほのおのいし』とか?」

 ポッドは、ぐっと押し黙った。

「ええ!? 正解!?」

「参ったぜ……。お前、勘が良いんだな……」

「なんかごめんなさい……。でも、石の進化はけっこう想像しやすいところだと思うんですけど」

 アクタもかつて、イーブイを『かみなりのいし』で進化させたことがある。

「次点で通信交換かな。道具を持たせる必要があるパターンもしばしば……」

「へー! お前ってけっこう物知りだなッ!」

 褒められて悪い気はしなかった。

「進化させるなら気をつけろよッ! 自力で技を覚えなくなるからなッ!」

「ああ、石進化だとそういうポケモンっているらしいですね」

 わざマシンでカバーする手もあるが、習得している技が弱いうちは、すぐに進化させるべきではない。

「教えてくれてありがとうございます、ポッドさん」

「いいってことよッ! こんどは、オレのバオッキーともバトルしようなッ!」

「あ、名前のネタバレを……」

 

 

 ヒウンジム挑戦の直前、アクタはバオップに『ほのおのいし』を使った。

 アーティはむしタイプ使い。もともとほのおタイプは有利なのだが、だからこそ火力が重要になると判断した。

 プラズマ団との戦いで、アーティはアクタよりも速く、プラズマ団の下っ端をふたりも倒した。ジムリーダーだから強いのは当然。すこしでもその差を埋めなければ、その実力に呑まれかねない。

「バオッキー!」

 倍近く成長した体格は、フタチマルよりも大柄だ。たくましくなった手足。首元にはファーのような体毛。しかしその目線は、変わらぬマイペースなものだ。

「バオッキーか……、これは強敵だね」

「街の海沿いでバオップを連れ歩いてたら、白衣のお兄さんから『ほのおのいし』を貰ったんです。アーティさんの言ってたとおり、この街ってポケモンを大事にしている、良いひとばっかりなんですね」

「だろ? ──さて、頼んだよホイーガ!」

 アーティが繰り出したポケモンは、さながらトゲ付きのタイヤ。見るからに頑丈そうなむしポケモンである。

「バオッキー、“はじけるほのお”!」

 火球はホイーガに命中した途端、弾けて周囲に飛び散った。

 申し分ない威力。この技を習得したことも、バオップからの進化を決意したきっかけだったのだが──

「ビシィッ!! いまの技で、スイッチ入ったよ!!」

 アーティが嬉しそうに声を上げる。効果抜群の技に、ホイーガはまだ倒れていない。

「ホイーガ、“むしのていこう”!!」

 羽虫のように舞う光線がバオッキーを襲う。効果はいまひとつだが、技の効果でこちらの特殊攻撃が下げられてしまう。

「あ、ちなみに『むしのしらせ』っていう特性も発動してるから。言ったろ? スイッチ入ったってさ」

 たしか、体力が一定割合に減ることで、むしタイプの技の威力が上がる特性だ。

「くっ……! いや、大丈夫だ。落ち着け」

 深呼吸するアクタ。バオッキーは動揺の色を見せず、ホイーガに視線を向けたままだ。

「特性が発動するほど体力は減らせている。こっちの技の威力が十分ってことだ──」

 ならば、攻めて間違いはない。

「もう一度、“はじけるほのお”!」

 二発目の火球。“むしのていこう”で特殊攻撃を下げられたものの、ホイーガは耐えきれず、戦闘不能となった。

「どうやら冷静だね、アクタくん。結構結構。じゃ、おつぎは──イシズマイ!」

 現れたのは、石をヤドに背負ったむしポケモン。

「おっと、これはいけない……!」

 ジムトレーナーが使っていたので、イシズマイがむしタイプだけでなく、いわタイプを持っていることをアクタは知っている。

「それならバオッキー、交代。フタチマル、よろしく!」

 みずタイプで迎え撃つことにする。フタチマルがアクタの足元に颯爽と降り立った。

「“シェルブレード”!」

 水流ほとばしるホタチの斬撃は、効果抜群。

 ──だが、特性『がんじょう』のためイシズマイの体力はわずかに残る。

「“ロックカット”。そして──」

 素早さが上がったイシズマイは、そのままフタチマルに照準を定め。

「“うちおとす”!」

 岩の弾丸を喰らう。いまだに優勢ながらも、アクタは戦慄を禁じ得ない。

 やはり、アーティは強い。

 アクタもバトルにおいては、二年の旅と修行で自信を持っているつもりだが、アーティはまるで、特殊な視点でバトルフィールドを俯瞰しているようだ。

「芸術家ならではの……なのかどうかはわかんないけど、物事をいろんな視点で見れるのってすごいな。──ぼくもがんばらないと」

 それはそうと、再度フタチマルに“シェルブレード”の指示を出す。こんどこそイシズマイは倒れた。

「うーん、美しい太刀筋……! サムライって感じだね」

 フタチマルに感心する余裕を見せつつ、アーティはイシズマイを戻す。

「そうそう、剣士ならうちにもいるんだよ。相手をする勇気はあるかな?」

 アーティが放り投げる最後のモンスターボールからは、すらりとした、葉っぱで構成された人影のポケモンが飛び出した。

 ハハコモリ。見た目のとおりにくさタイプを持っているとすれば、フタチマルには相性が悪い。アーティの口ぶりは挑発ともとれるが──

「フタチマル、やってみようか」

 まんまとフタチマルは闘志に燃えているようなので、挑発に乗ることにした。フタチマルは勇ましく鳴いて、ホタチを構える。

 “シェルブレード”──ではない。その太刀筋は、むしタイプのものだった。

「“れんぞくぎり”!」

 ホタチがハハコモリを斬る。くさタイプも持っているハハコモリには効果抜群だが、傷は浅い。

「おっと、これは余裕をかましてられない……! ハハコモリ、“はっぱカッター”!」

 ハハコモリの反撃に、フタチマルは身をひるがえす。さすがに完全に回避することは叶わなかったが、急所は避けた。

「フタチマル! キツイだろうけど、こうなったら止まらず攻めるよ! “れんぞくぎり”!」

 むしタイプのジムリーダーであるアーティは、当然、“れんぞくぎり”という技の性質を知っている。一発目こそ弱いが、技が当たるたびに威力が倍増する技だ。

 何発も喰らうわけにはいかない。勝負を急ぐか、それとも──

「いや。ここは厳しく対応するよ」

 二発目の“れんぞくぎり”がヒットする瞬間。

「“まもる”」

 ホタチを、ハハコモリの腕のカッターが防いだ。

「っ……!」

「そして、“はっぱカッター”!」

 返す刀をまともに急所に喰らって、フタチマルは倒れた。

「うーん……、そう都合良く“れんぞくぎり”を連続で喰らってくれませんか」

「ふふっ、ちょっとヒヤッとしたねー。危うく()()()だ」

 上手いことを言うなあ、と思ったが、冗談に乗っている場合ではない。戦闘不能のフタチマルをボールに戻して、ふたたびバオッキーをバトルフィールドに呼び出す。

「さあ、また来たねほのおタイプ。正直、めちゃくちゃ苦手だけど」

「ほんとに正直ですね」

「まさか降参するつもりはないからね。徹底的に、相手をさせてもらうよ!」

 

 

「ぬうん……!? ひょっとして終わり!?」

 “いとをはく”や“むしのていこう”をものともせず、バオッキーの炎は、一撃でハハコモリを倒した。むしとくさの両方のタイプを持つハハコモリに、ほのおタイプは4倍の威力を発揮するのだ。

「あうう、負けちゃったよ……。それにしてもきみ、聞いてたとおりすっごく強いんだねえ」

 清々しく笑うアーティ。そしてふところから、虫の翅を模したバッジを取り出す。

「これ、ジムバッジ! ボクに勝ったから上げる。ビートルバッジ、かっこいいでしょ?」

「は、はい。かっこいいです」

 若干、言わされた感もあるが。アクタにとっては、ポケモンたちとともに勝ち取ったジムバッジは、どれも格好良い。

「そういえばきみ、旅をして長いんだってね?」

「ええと、長いというか……、じつは初めてポケモンと旅立ったのは二年ほど前です」

 二年。長い二年だったが、おとなのジムリーダーに誇れる期間ではないだろう。

「きみは旅に出てから、どれだけの発見をした? ボクはね。子供のころにむしポケモンの美しさに純情ハートを奪われ、絵を描いたり勝負したりをずっと繰り返して……。それでもいまだに発見があるんだ」

「わかります!」

 アクタは大いに頷いた。

「ポケモンって、飽きないですよね。ぼくは二年間、ずっと楽しいです」

「んふふっ。それがわかっているなら素晴らしい。ポケモンと暮らす世界は、ほんと不思議で満ちているんだー」

 バトルを終えて、ようやくアクタは、アーティと気が合うことを自覚した。

 それからふたりは、夜まで語り合った。ジムの人間から注意されるまで。

 

 

 翌朝。

 清潔だが狭い宿泊施設から早起きして、アクタはモードストリートに繰り出す。

「ああっ……!」

 目当てのヒウンアイスの販売所には、すでに行列ができていた。

 とにかく並ぶ。

 しばらく並ぶ。

 けっこう並ぶ。

 並んで、耐えて、やがて。

「ヒウンシティ名物、ヒウンアイスになりまーす! 1個100円です」

「安い……!」

 買えた。

「このキュートな色とナイーブな味が良いんです!」

「な、ないーぶ?」

 店員の意見はよくわからなかったが、とにかくアクタはベンチに腰かけて、純白に輝くアイスを目で堪能する。

「……ん?」

 腰のモンスターボールが震える。無視するわけにもいかず、片手でモンスターボールを開けてフタチマルとバオッキーを出す。

 2匹は、アクタの手にあるアイスクリームをじっと見つめる。

「わ、わかった。みんなで分けよう。まずはひと口……」

 口をつけようとしたところで突然、手首のライブキャスターが鳴った。

「あ……っと」

 バオッキーは、笑顔で手を差し伸べる。

 ライブキャスターは鳴り続ける。

「……ちゃんと分けて食べるんだからね!」

 ヒウンアイスをバオッキーに預けて、ライブキャスターに応答する。

「はいもしもし!」

『ねえねえ、いまどこお?』

 ベルだった。

「いま街に出てるけど、どうしたの? またなにか困りごと?」

『ううん、そうじゃなくて……。お願いがあるんだけど、ポケモン勝負しようよ!』

 意外、というわけでもないが唐突な提案に、アクタは言葉に詰まる。

『アイリスちゃんに鍛えてもらって、ちょっとは強くなったんだよ。もう自分のポケモンを守れるはずだから……』

「そっか。偉いな、ベルは」

 安心した。

 プラズマ団にポケモンを盗られたことが、ベルを傷つけたのではないか、旅にネガティブな思い出になってしまったのではないか、心配だったのだ。

 でも、泣いているだけだった少女は、もういない。

 ベルはちゃんと、ひとりで立ち上がろうとしている。

「いいよ、やろう。ぼくは手加減しないからね」

『う、うん! それでお願い! ──じゃあ4番道路に繋がるゲートで待ち合わせしようね。それだけなんだけど……、じゃあまたねえ』

 通話は終了する。

「アイリスちゃんに鍛えられたって? だったら……、もしかするとぜんぜん油断できないかも」

 他人を見る目に自信があるわけではないが、経験上、知り合いの強者と似た雰囲気をアイリスから感じた。

「よし。フタチマル、バオッキー、行くよ。ベルと……」

 2匹は、いままで見たことないような満足そうな顔で、自分の指や口の周りを舐めていた。

「……ああそうですか! 仲良く分けて食べたみたいでなにより! 2匹でさ!」

 ヒウンアイスは()()()()()()のように、消えてなくなってしまっていた。




チーちゃんへ

最近、忙しくてあまり手紙を書けませんでした。ごめんね。
ぼくはとても元気です。

ミジュマルはフタチマルに、
バオップはバオッキーに進化しました。
まだ2匹のパーティだけど、はたからは十分、強そうに見えると思います。
実際、強いしね。

その証拠に、ジムバッジも3つ目をゲットしました。
ジムリーダーのアーティさんは絵描きさんで、独特な感性を持っているひとでした。
ぼくもいつか、絵を描けるように勉強しようかな。
チーちゃんはすごく上手だよね。写真みたいに描くもん。

さて、今夜は早めに寝ます。
あしたは早起きして、ヒウンアイスっていう、大人気のアイス屋さんに行きます。
ほんとに大人気なので、買えるといいな。

アクタより
ヒウンシティにて
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