ポケットモンスターNAVY ~暴投モンスターボール~ 作:サンダーゴリラ
数日前、サンヨウシティポケモンジムにて。
「なあなあ、バオップってどうやったら進化するか知ってるか!?」
ジム戦終了後。紅茶を振る舞ってくれるというので、席に案内されたアクタに、赤い髪のウェイター・ポッドが話しかけた。
聞くところによると、彼の相棒もバオップらしい。つまりアクタにとってはバオップ使いの先輩だ。
「レベルを上げればいいんじゃないですか?」
「へへッ、そう思うだろ? 違うんだなー、これがッ!」
「へえ……、じゃあ『ほのおのいし』とか?」
ポッドは、ぐっと押し黙った。
「ええ!? 正解!?」
「参ったぜ……。お前、勘が良いんだな……」
「なんかごめんなさい……。でも、石の進化はけっこう想像しやすいところだと思うんですけど」
アクタもかつて、イーブイを『かみなりのいし』で進化させたことがある。
「次点で通信交換かな。道具を持たせる必要があるパターンもしばしば……」
「へー! お前ってけっこう物知りだなッ!」
褒められて悪い気はしなかった。
「進化させるなら気をつけろよッ! 自力で技を覚えなくなるからなッ!」
「ああ、石進化だとそういうポケモンっているらしいですね」
わざマシンでカバーする手もあるが、習得している技が弱いうちは、すぐに進化させるべきではない。
「教えてくれてありがとうございます、ポッドさん」
「いいってことよッ! こんどは、オレのバオッキーともバトルしようなッ!」
「あ、名前のネタバレを……」
:
ヒウンジム挑戦の直前、アクタはバオップに『ほのおのいし』を使った。
アーティはむしタイプ使い。もともとほのおタイプは有利なのだが、だからこそ火力が重要になると判断した。
プラズマ団との戦いで、アーティはアクタよりも速く、プラズマ団の下っ端をふたりも倒した。ジムリーダーだから強いのは当然。すこしでもその差を埋めなければ、その実力に呑まれかねない。
「バオッキー!」
倍近く成長した体格は、フタチマルよりも大柄だ。たくましくなった手足。首元にはファーのような体毛。しかしその目線は、変わらぬマイペースなものだ。
「バオッキーか……、これは強敵だね」
「街の海沿いでバオップを連れ歩いてたら、白衣のお兄さんから『ほのおのいし』を貰ったんです。アーティさんの言ってたとおり、この街ってポケモンを大事にしている、良いひとばっかりなんですね」
「だろ? ──さて、頼んだよホイーガ!」
アーティが繰り出したポケモンは、さながらトゲ付きのタイヤ。見るからに頑丈そうなむしポケモンである。
「バオッキー、“はじけるほのお”!」
火球はホイーガに命中した途端、弾けて周囲に飛び散った。
申し分ない威力。この技を習得したことも、バオップからの進化を決意したきっかけだったのだが──
「ビシィッ!! いまの技で、スイッチ入ったよ!!」
アーティが嬉しそうに声を上げる。効果抜群の技に、ホイーガはまだ倒れていない。
「ホイーガ、“むしのていこう”!!」
羽虫のように舞う光線がバオッキーを襲う。効果はいまひとつだが、技の効果でこちらの特殊攻撃が下げられてしまう。
「あ、ちなみに『むしのしらせ』っていう特性も発動してるから。言ったろ? スイッチ入ったってさ」
たしか、体力が一定割合に減ることで、むしタイプの技の威力が上がる特性だ。
「くっ……! いや、大丈夫だ。落ち着け」
深呼吸するアクタ。バオッキーは動揺の色を見せず、ホイーガに視線を向けたままだ。
「特性が発動するほど体力は減らせている。こっちの技の威力が十分ってことだ──」
ならば、攻めて間違いはない。
「もう一度、“はじけるほのお”!」
二発目の火球。“むしのていこう”で特殊攻撃を下げられたものの、ホイーガは耐えきれず、戦闘不能となった。
「どうやら冷静だね、アクタくん。結構結構。じゃ、おつぎは──イシズマイ!」
現れたのは、石をヤドに背負ったむしポケモン。
「おっと、これはいけない……!」
ジムトレーナーが使っていたので、イシズマイがむしタイプだけでなく、いわタイプを持っていることをアクタは知っている。
「それならバオッキー、交代。フタチマル、よろしく!」
みずタイプで迎え撃つことにする。フタチマルがアクタの足元に颯爽と降り立った。
「“シェルブレード”!」
水流ほとばしるホタチの斬撃は、効果抜群。
──だが、特性『がんじょう』のためイシズマイの体力はわずかに残る。
「“ロックカット”。そして──」
素早さが上がったイシズマイは、そのままフタチマルに照準を定め。
「“うちおとす”!」
岩の弾丸を喰らう。いまだに優勢ながらも、アクタは戦慄を禁じ得ない。
やはり、アーティは強い。
アクタもバトルにおいては、二年の旅と修行で自信を持っているつもりだが、アーティはまるで、特殊な視点でバトルフィールドを俯瞰しているようだ。
「芸術家ならではの……なのかどうかはわかんないけど、物事をいろんな視点で見れるのってすごいな。──ぼくもがんばらないと」
それはそうと、再度フタチマルに“シェルブレード”の指示を出す。こんどこそイシズマイは倒れた。
「うーん、美しい太刀筋……! サムライって感じだね」
フタチマルに感心する余裕を見せつつ、アーティはイシズマイを戻す。
「そうそう、剣士ならうちにもいるんだよ。相手をする勇気はあるかな?」
アーティが放り投げる最後のモンスターボールからは、すらりとした、葉っぱで構成された人影のポケモンが飛び出した。
ハハコモリ。見た目のとおりにくさタイプを持っているとすれば、フタチマルには相性が悪い。アーティの口ぶりは挑発ともとれるが──
「フタチマル、やってみようか」
まんまとフタチマルは闘志に燃えているようなので、挑発に乗ることにした。フタチマルは勇ましく鳴いて、ホタチを構える。
“シェルブレード”──ではない。その太刀筋は、むしタイプのものだった。
「“れんぞくぎり”!」
ホタチがハハコモリを斬る。くさタイプも持っているハハコモリには効果抜群だが、傷は浅い。
「おっと、これは余裕をかましてられない……! ハハコモリ、“はっぱカッター”!」
ハハコモリの反撃に、フタチマルは身をひるがえす。さすがに完全に回避することは叶わなかったが、急所は避けた。
「フタチマル! キツイだろうけど、こうなったら止まらず攻めるよ! “れんぞくぎり”!」
むしタイプのジムリーダーであるアーティは、当然、“れんぞくぎり”という技の性質を知っている。一発目こそ弱いが、技が当たるたびに威力が倍増する技だ。
何発も喰らうわけにはいかない。勝負を急ぐか、それとも──
「いや。ここは厳しく対応するよ」
二発目の“れんぞくぎり”がヒットする瞬間。
「“まもる”」
ホタチを、ハハコモリの腕のカッターが防いだ。
「っ……!」
「そして、“はっぱカッター”!」
返す刀をまともに急所に喰らって、フタチマルは倒れた。
「うーん……、そう都合良く“れんぞくぎり”を連続で喰らってくれませんか」
「ふふっ、ちょっとヒヤッとしたねー。危うく
上手いことを言うなあ、と思ったが、冗談に乗っている場合ではない。戦闘不能のフタチマルをボールに戻して、ふたたびバオッキーをバトルフィールドに呼び出す。
「さあ、また来たねほのおタイプ。正直、めちゃくちゃ苦手だけど」
「ほんとに正直ですね」
「まさか降参するつもりはないからね。徹底的に、相手をさせてもらうよ!」
:
「ぬうん……!? ひょっとして終わり!?」
“いとをはく”や“むしのていこう”をものともせず、バオッキーの炎は、一撃でハハコモリを倒した。むしとくさの両方のタイプを持つハハコモリに、ほのおタイプは4倍の威力を発揮するのだ。
「あうう、負けちゃったよ……。それにしてもきみ、聞いてたとおりすっごく強いんだねえ」
清々しく笑うアーティ。そしてふところから、虫の翅を模したバッジを取り出す。
「これ、ジムバッジ! ボクに勝ったから上げる。ビートルバッジ、かっこいいでしょ?」
「は、はい。かっこいいです」
若干、言わされた感もあるが。アクタにとっては、ポケモンたちとともに勝ち取ったジムバッジは、どれも格好良い。
「そういえばきみ、旅をして長いんだってね?」
「ええと、長いというか……、じつは初めてポケモンと旅立ったのは二年ほど前です」
二年。長い二年だったが、おとなのジムリーダーに誇れる期間ではないだろう。
「きみは旅に出てから、どれだけの発見をした? ボクはね。子供のころにむしポケモンの美しさに純情ハートを奪われ、絵を描いたり勝負したりをずっと繰り返して……。それでもいまだに発見があるんだ」
「わかります!」
アクタは大いに頷いた。
「ポケモンって、飽きないですよね。ぼくは二年間、ずっと楽しいです」
「んふふっ。それがわかっているなら素晴らしい。ポケモンと暮らす世界は、ほんと不思議で満ちているんだー」
バトルを終えて、ようやくアクタは、アーティと気が合うことを自覚した。
それからふたりは、夜まで語り合った。ジムの人間から注意されるまで。
:
翌朝。
清潔だが狭い宿泊施設から早起きして、アクタはモードストリートに繰り出す。
「ああっ……!」
目当てのヒウンアイスの販売所には、すでに行列ができていた。
とにかく並ぶ。
しばらく並ぶ。
けっこう並ぶ。
並んで、耐えて、やがて。
「ヒウンシティ名物、ヒウンアイスになりまーす! 1個100円です」
「安い……!」
買えた。
「このキュートな色とナイーブな味が良いんです!」
「な、ないーぶ?」
店員の意見はよくわからなかったが、とにかくアクタはベンチに腰かけて、純白に輝くアイスを目で堪能する。
「……ん?」
腰のモンスターボールが震える。無視するわけにもいかず、片手でモンスターボールを開けてフタチマルとバオッキーを出す。
2匹は、アクタの手にあるアイスクリームをじっと見つめる。
「わ、わかった。みんなで分けよう。まずはひと口……」
口をつけようとしたところで突然、手首のライブキャスターが鳴った。
「あ……っと」
バオッキーは、笑顔で手を差し伸べる。
ライブキャスターは鳴り続ける。
「……ちゃんと分けて食べるんだからね!」
ヒウンアイスをバオッキーに預けて、ライブキャスターに応答する。
「はいもしもし!」
『ねえねえ、いまどこお?』
ベルだった。
「いま街に出てるけど、どうしたの? またなにか困りごと?」
『ううん、そうじゃなくて……。お願いがあるんだけど、ポケモン勝負しようよ!』
意外、というわけでもないが唐突な提案に、アクタは言葉に詰まる。
『アイリスちゃんに鍛えてもらって、ちょっとは強くなったんだよ。もう自分のポケモンを守れるはずだから……』
「そっか。偉いな、ベルは」
安心した。
プラズマ団にポケモンを盗られたことが、ベルを傷つけたのではないか、旅にネガティブな思い出になってしまったのではないか、心配だったのだ。
でも、泣いているだけだった少女は、もういない。
ベルはちゃんと、ひとりで立ち上がろうとしている。
「いいよ、やろう。ぼくは手加減しないからね」
『う、うん! それでお願い! ──じゃあ4番道路に繋がるゲートで待ち合わせしようね。それだけなんだけど……、じゃあまたねえ』
通話は終了する。
「アイリスちゃんに鍛えられたって? だったら……、もしかするとぜんぜん油断できないかも」
他人を見る目に自信があるわけではないが、経験上、知り合いの強者と似た雰囲気をアイリスから感じた。
「よし。フタチマル、バオッキー、行くよ。ベルと……」
2匹は、いままで見たことないような満足そうな顔で、自分の指や口の周りを舐めていた。
「……ああそうですか! 仲良く分けて食べたみたいでなにより! 2匹でさ!」
ヒウンアイスは
チーちゃんへ
最近、忙しくてあまり手紙を書けませんでした。ごめんね。
ぼくはとても元気です。
ミジュマルはフタチマルに、
バオップはバオッキーに進化しました。
まだ2匹のパーティだけど、はたからは十分、強そうに見えると思います。
実際、強いしね。
その証拠に、ジムバッジも3つ目をゲットしました。
ジムリーダーのアーティさんは絵描きさんで、独特な感性を持っているひとでした。
ぼくもいつか、絵を描けるように勉強しようかな。
チーちゃんはすごく上手だよね。写真みたいに描くもん。
さて、今夜は早めに寝ます。
あしたは早起きして、ヒウンアイスっていう、大人気のアイス屋さんに行きます。
ほんとに大人気なので、買えるといいな。
アクタより
ヒウンシティにて