ポケットモンスターNAVY ~暴投モンスターボール~ 作:サンダーゴリラ
「べつに、アイスなんてちょっと早起きすればいつでも食べれるし」
「え、なんの話?」
ヒウンシティから4番道路に繋がるゲートにて、ベルと落ち合ったアクタは、脈絡もなく強がりを披露した。
強がりというか、もはや愚痴だった。
ヒウンアイスを食べられなかったことは、だれが悪いわけでもない。悪いのは巡り合わせだ。
「そうそう、ポケモンバトルだ。どこでやろっか?」
「うん、それなんだけどね、ここでやって良いんだってさ!」
ベルは、ゲートの受付嬢に目配せをする。女性はアクタに向かって会釈をした。
「4番道路は砂嵐がございますし、電光掲示板や他のご通行者様に配慮いただければ、このゲート内でバトルしていただいて構いませんよ」
「で、ではありがたく……」
たしかに、道路と街を繋ぐゲートは決して狭くない。ポケモンバトルのフィールドとして使用するにも申し分ないほどの広さだ。
それにしても、受付の方から公式に許可が出るとは思わなかった。
「周りを傷つけないように、だね! あたし、ぜんぜん大丈夫だよ!」
「うん、そういうコントロールができるのも大事だと思うけど……」
アクタは、ベルにこっそりと耳打ちする。
「……あのお姉さんがバトルを見たいだけだったりして」
「ええ……!? まさかあ……」
ゲート受付の女性は、ニコニコと、そわそわと、なんとも楽し気な様子でこちらを窺っている。
「──まあいいさ。ベル、強くなったんだろ? だったらぼくらのバトルで、見物人を楽しませてやろうぜ」
「え、それは……!? あの、まあ、うん!!」
ベルは本気に受け取ってしまったかもしれないが、すくなくともアクタは、挑発のつもりだった。とにかくふたりは通路の端に寄って、互いに距離を取る。
「ハーデリア!」
「フタチマル!」
アクタの投げたモンスターボールは、電光掲示板に当たった。
「ちょっと!?」
受付嬢から驚愕の声が上がる。
「ごめんなさいごめんなさいごめんなさい!!!」
「く、くれぐれも、電光掲示板を壊さないようにお願いします!」
叱られてしまった。
フタチマルは呆れた様子で、ベルのハーデリアと向き合う。
「相変わらずだね、アクタ……」
「まーね……、でもポケモンのほうは相変わって、進化したよね、お互い」
ベルのハーデリアは、ヨーテリーだったころから知っている。これはポカブにも期待してしまう。
「アクタのミジュマルは……、フタチマルっていうポケモンになったんだね。強そうだけど、負けないよ!」
ハーデリアがフタチマルに飛びかかる。
「“かみつく”!」
「フタチマル、“いわくだき”!」
かくとうタイプの技なので、ハーデリアに効果は抜群だ。特性の『いかく』で攻撃を下げられてしまっていた分、この技で防御を下げて負債を返す。
「よしよし、この調子でもっと防御を下げられれば儲けものだ。もう一回、“いわくだき”!」
「うっ……、“とっしん”!」
ハーデリアの“とっしん”は十分な威力を発揮するが、その分、反動として自身もダメージを受けてしまう。体力が減少したことによる隙を、アクタは見逃さない。
「“シェルブレード”!」
ホタチによる居合斬り一閃。ハーデリアは倒れ、『ひんし』となる。
「やっぱり強い……! でも、みずタイプに有利なポケモン、持ってるよ! お願い! ヤナップ!」
サンヨウジムリーダーのデントとの戦いで見覚えがある。くさタイプのポケモンなので、たしかにフタチマルには有利。ならばジム戦のときのように、交代してしまえば楽に勝てるだろうが──
「フタチマル、このまま行けるね?」
フタチマルは鳴いて同意する。そしてホタチを抜いて、ヤナップに迫る。
「“れんぞくぎり”!」
むしタイプの技なので、ヤナップには効果抜群。とはいえ一太刀目は威力が低い。
「え、えーと……、“やどりぎのタネ”!」
一定時間ごとに相手の体力を吸収する技だ。体力を十分に保ったままでフタチマルを倒す腹積もりだろうが──
「“れんぞくぎり”!」
「……あれ? さっきより強い気が……」
「そーだよ。当たるたびに威力が上がるのさ。──というわけで、どんどん“れんぞくぎり”!」
三発の太刀を浴びて、いよいよヤナップは追い込まれる。“やどりぎのタネ”の回復でも追いつかない。
「負けないでヤナップ! “つるのムチ”!」
効果抜群ではあるが、フタチマルに膝をつかせるには、いまひとつ威力が足りない。
「“れんぞくぎり”」
四発目。とうとうヤナップは戦闘不能になった。
「ふわ……」
「よし、いいよフタチマル。──おっと、“やどりぎのタネ”でそろそろヤバいか」
ベルとおなじく、アクタもポケモンを交代させる。
「バオッキー!」
「こっちは、ムンナ!」
浮遊するピンク色のポケモン。プラズマ団から取り返したポケモンであり──
「アクタ。この子のこと、憶えてる? アクタが『夢の跡地』で守ってくれたムンナだよ」
ムンナは、アクタに向かって小さく手を振っている。
「か、かわいい……!」
危うく戦意を削がれそうになるが。咳払いをして、気を取り直す。
「……プラズマ団には嫌な目に遭わされたね。でも元気そうでなによりだ。これからバオッキーと戦ってもらうけど、手加減しないからね!」
バオッキーは肩をすくめつつ、ムンナに向かう。
「バオッキー、“あくび”!」
『ねむり』を誘う。
「こっちも、“あくび”!」
意外にも、ムンナもおなじ技を使ってきた。
「えーと、とりあえず“かみつく”!」
バオッキーの牙は、エスパータイプのムンナに効果抜群だ。ムンナも反撃で“サイケこうせん”を発射したところで。
「………………」
「………………」
両者のポケモンは『ねむり』状態になった。
「……バオッキー、がんばれー」
「ムンナ、起きてえー!」
なんとなく気まずかったので、ふたりは眠るポケモンを応援した。
しばらくして、先に目を覚ましたのはバオッキーだった。
「よし! “かみつく”!」
ムンナは眠りながら、戦闘不能になった。
「うう……、こっちも最後のポケモンになっちゃったけど……」
ベルは4つ目のモンスターボールを投げる。
現れたのは、ずんぐりとして丸みを帯びた体型ながら、たくましく二足歩行で立つポケモン。
チャオブー。新たにかくとうタイプを得たポカブの進化系だ。
「“つっぱり”!」
チャオブーの掌底が、連続してバオッキーを襲う。ヒット数は三回に留まったが、決して軽いダメージではない。
「けっこう効くな……! バオッキー、“あくび”!」
まずはチャオブーの動きを止めるため、『ねむり』状態へ。
「眠る前に、“つっぱり”!」
ふたたびチャオブーの掌底が迫る。
「バオッキー、耐えて……!」
チャオブーの猛攻に、バオッキーは歯を食いしばる。“つっぱり”は連続攻撃としては最多の五回で──
──チャオブーは、『ねむり』に落ちた。
「よ、よし。バオッキー、よくがんばっ……」
しかし同時に、バオッキーは倒れた。
「……たね」
戦闘不能。アクタは『ひんし』のバオッキーをモンスターボールに収める。
「やった!」
「やられちゃったか……、じゃあ」
アクタはもう一度、フタチマルを出す。ベルの笑顔が、ピタリと硬直した。
タイプ相性は、フタチマルが有利。チャオブーは眠っている。
「ううう……、ピンチなのかな……?」
「いや? 終わるところさ」
“シェルブレード”、一閃。チャオブーもまた、眠りながら戦闘不能となった。
:
「アイリスちゃんと鍛えたのに……、やっぱり勝てなかったね……」
受付嬢が拍手を送ってくれるが、アイリスはアクタに背を向けて、緑の帽子を押さえる。
「やっぱり、なんて言うけど、ベルは凄かったよ。ぼくは油断も手加減もしなかった。それでも、負けるかもって思った」
「ありがとう。でも……」
少女はアクタに背を向けたままだ。
「……あたしは、アクタやチェレン、それにアイリスちゃんのように強いトレーナーには
なれない」
「………………」
「──けど。カノコタウンを旅立ってからいろいろな人と出会って、あたしのやりたいこと、やれることを考えているの! そういう意味で、ポケモンはあたしにたくさんの
ベルは振り返る。涙目だったが、その表情は明るいものだった。
「……ポケモンを盗られて、大変で、不安でどうしようもなかったけど、それでも言えるの。『旅に出て良かった』って!」
「その言葉がベルから聞けて、嬉しいよ」
アクタは深く頷いた。
「嫌な目に遭って、旅のこと、ポケモンのことを、嫌いになってしまったとしたら、それはすごく悲しいことだ。プラズマ団の……、ポケモンと人間を引き離すような物言いにも、説得力が増しちゃうし」
「そこは、大丈夫! だってあたし、ポケモンといることがすごく大事だって、わかってるし!」
少年はさらに安堵する。
そしてベルに深い尊敬の念を抱いた。
「ベルは、ほんとうに凄いね。凄くて、強くて、偉いよ」
「……えへへ。そんなこと」
少女は照れるが、アクタは本気でベルを尊敬した。
「あたしはまだ、旅を続けるからさ! じゃ、またどこかで会おうね。バイバイ! アクタ」
ベルは照れ隠しのように大げさに手を振って、ヒウンシティの方向に去って行った。
アクタは、ベルとは反対の方向を見据える。
「ぼくも、がんばらないと。やりたいこと。やれること。──そういうの、はっきりできたら素敵だな」
いくら殿堂入りなどで名を上げようと、アクタもいまだに、道なかばだ。
未来はだれにだって見通せない。闇のように黒く、霧のように白い。
:
五里霧中なのは未来だけではない。
「うわ、ほんとに砂嵐が……!」
ゲートの受付嬢が言っていたとおり、4番道路には砂嵐が吹き荒れていて、道の先が見通せないほどだ。
「砂とか小石が飛んできて、鬱陶しいんだよな……。シンオウでも大変だったっけ。たしか228番道路あたりだ」
アクタの修行の主な舞台であった、バトルゾーンというエリアの一部も、砂嵐が吹く砂漠地帯となっていた。しかしこの4番道路は、228番道路よりずっと広い。砂地では足を取られ、野生ポケモンまで出てくる始末だ。
たまらずアクタとポケモンたちは、休憩のためにプレハブ小屋に逃げ込んだ。
「やあアクタ」
「あ、チェレンだ」
砂まみれのアクタを、眼鏡の少年が出迎えた。
「お互い、汚れたね。まあこういうのも旅の醍醐味だよね」
「……そんなことよりアクタ。ビートルバッジは手に入れたかい?」
ろくに挨拶も許さず、チェレンは眼鏡のレンズを拭いながらアクタに問う。
「う、うん。バッチリ」
「だったらさっそくだけど、ポケモンを回復させて外に行こう。どちらが強いトレーナーなのか、確かめさせてもらうよ」
目と目が合ったらバトル。そんなポケモントレーナーの
「いいよ。やろう」
断る理由はなかった。
アクタだって、チェレンと戦いたい。
「あ、ケチャップのサンドイッチ作るからさ。もうちょっと待っててよ」
「……いいけど」
「チェレンも食べる?」
「要らない」