ポケットモンスターNAVY ~暴投モンスターボール~   作:サンダーゴリラ

139 / 161
レポート13 4番道路/ベルの旅

「べつに、アイスなんてちょっと早起きすればいつでも食べれるし」

「え、なんの話?」

 ヒウンシティから4番道路に繋がるゲートにて、ベルと落ち合ったアクタは、脈絡もなく強がりを披露した。

 強がりというか、もはや愚痴だった。

 ヒウンアイスを食べられなかったことは、だれが悪いわけでもない。悪いのは巡り合わせだ。

「そうそう、ポケモンバトルだ。どこでやろっか?」

「うん、それなんだけどね、ここでやって良いんだってさ!」

 ベルは、ゲートの受付嬢に目配せをする。女性はアクタに向かって会釈をした。

「4番道路は砂嵐がございますし、電光掲示板や他のご通行者様に配慮いただければ、このゲート内でバトルしていただいて構いませんよ」

「で、ではありがたく……」

 たしかに、道路と街を繋ぐゲートは決して狭くない。ポケモンバトルのフィールドとして使用するにも申し分ないほどの広さだ。

 それにしても、受付の方から公式に許可が出るとは思わなかった。

「周りを傷つけないように、だね! あたし、ぜんぜん大丈夫だよ!」

「うん、そういうコントロールができるのも大事だと思うけど……」

 アクタは、ベルにこっそりと耳打ちする。

「……あのお姉さんがバトルを見たいだけだったりして」

「ええ……!? まさかあ……」

 ゲート受付の女性は、ニコニコと、そわそわと、なんとも楽し気な様子でこちらを窺っている。

「──まあいいさ。ベル、強くなったんだろ? だったらぼくらのバトルで、見物人を楽しませてやろうぜ」

「え、それは……!? あの、まあ、うん!!」

 ベルは本気に受け取ってしまったかもしれないが、すくなくともアクタは、挑発のつもりだった。とにかくふたりは通路の端に寄って、互いに距離を取る。

「ハーデリア!」

「フタチマル!」

 アクタの投げたモンスターボールは、電光掲示板に当たった。

「ちょっと!?」

 受付嬢から驚愕の声が上がる。

「ごめんなさいごめんなさいごめんなさい!!!」

「く、くれぐれも、電光掲示板を壊さないようにお願いします!」

 叱られてしまった。

 フタチマルは呆れた様子で、ベルのハーデリアと向き合う。

「相変わらずだね、アクタ……」

「まーね……、でもポケモンのほうは相変わって、進化したよね、お互い」

 ベルのハーデリアは、ヨーテリーだったころから知っている。これはポカブにも期待してしまう。

「アクタのミジュマルは……、フタチマルっていうポケモンになったんだね。強そうだけど、負けないよ!」

 ハーデリアがフタチマルに飛びかかる。

「“かみつく”!」

「フタチマル、“いわくだき”!」

 かくとうタイプの技なので、ハーデリアに効果は抜群だ。特性の『いかく』で攻撃を下げられてしまっていた分、この技で防御を下げて負債を返す。

「よしよし、この調子でもっと防御を下げられれば儲けものだ。もう一回、“いわくだき”!」

「うっ……、“とっしん”!」

 ハーデリアの“とっしん”は十分な威力を発揮するが、その分、反動として自身もダメージを受けてしまう。体力が減少したことによる隙を、アクタは見逃さない。

「“シェルブレード”!」

 ホタチによる居合斬り一閃。ハーデリアは倒れ、『ひんし』となる。

「やっぱり強い……! でも、みずタイプに有利なポケモン、持ってるよ! お願い! ヤナップ!」

 サンヨウジムリーダーのデントとの戦いで見覚えがある。くさタイプのポケモンなので、たしかにフタチマルには有利。ならばジム戦のときのように、交代してしまえば楽に勝てるだろうが──

「フタチマル、このまま行けるね?」

 フタチマルは鳴いて同意する。そしてホタチを抜いて、ヤナップに迫る。

「“れんぞくぎり”!」

 むしタイプの技なので、ヤナップには効果抜群。とはいえ一太刀目は威力が低い。

「え、えーと……、“やどりぎのタネ”!」

 一定時間ごとに相手の体力を吸収する技だ。体力を十分に保ったままでフタチマルを倒す腹積もりだろうが──

「“れんぞくぎり”!」

「……あれ? さっきより強い気が……」

「そーだよ。当たるたびに威力が上がるのさ。──というわけで、どんどん“れんぞくぎり”!」

 三発の太刀を浴びて、いよいよヤナップは追い込まれる。“やどりぎのタネ”の回復でも追いつかない。

「負けないでヤナップ! “つるのムチ”!」

 効果抜群ではあるが、フタチマルに膝をつかせるには、いまひとつ威力が足りない。

「“れんぞくぎり”」

 四発目。とうとうヤナップは戦闘不能になった。

「ふわ……」

「よし、いいよフタチマル。──おっと、“やどりぎのタネ”でそろそろヤバいか」

 ベルとおなじく、アクタもポケモンを交代させる。

「バオッキー!」

「こっちは、ムンナ!」

 浮遊するピンク色のポケモン。プラズマ団から取り返したポケモンであり──

「アクタ。この子のこと、憶えてる? アクタが『夢の跡地』で守ってくれたムンナだよ」

 ムンナは、アクタに向かって小さく手を振っている。

「か、かわいい……!」

 危うく戦意を削がれそうになるが。咳払いをして、気を取り直す。

「……プラズマ団には嫌な目に遭わされたね。でも元気そうでなによりだ。これからバオッキーと戦ってもらうけど、手加減しないからね!」

 バオッキーは肩をすくめつつ、ムンナに向かう。

「バオッキー、“あくび”!」

『ねむり』を誘う。

「こっちも、“あくび”!」

 意外にも、ムンナもおなじ技を使ってきた。

「えーと、とりあえず“かみつく”!」

 バオッキーの牙は、エスパータイプのムンナに効果抜群だ。ムンナも反撃で“サイケこうせん”を発射したところで。

「………………」

「………………」

 両者のポケモンは『ねむり』状態になった。

「……バオッキー、がんばれー」

「ムンナ、起きてえー!」

 なんとなく気まずかったので、ふたりは眠るポケモンを応援した。

 しばらくして、先に目を覚ましたのはバオッキーだった。

「よし! “かみつく”!」

 ムンナは眠りながら、戦闘不能になった。

「うう……、こっちも最後のポケモンになっちゃったけど……」

 ベルは4つ目のモンスターボールを投げる。

 現れたのは、ずんぐりとして丸みを帯びた体型ながら、たくましく二足歩行で立つポケモン。

 チャオブー。新たにかくとうタイプを得たポカブの進化系だ。

「“つっぱり”!」

 チャオブーの掌底が、連続してバオッキーを襲う。ヒット数は三回に留まったが、決して軽いダメージではない。

「けっこう効くな……! バオッキー、“あくび”!」

 まずはチャオブーの動きを止めるため、『ねむり』状態へ。

「眠る前に、“つっぱり”!」

 ふたたびチャオブーの掌底が迫る。

「バオッキー、耐えて……!」

 チャオブーの猛攻に、バオッキーは歯を食いしばる。“つっぱり”は連続攻撃としては最多の五回で──

 ──チャオブーは、『ねむり』に落ちた。

「よ、よし。バオッキー、よくがんばっ……」

 しかし同時に、バオッキーは倒れた。

「……たね」

 戦闘不能。アクタは『ひんし』のバオッキーをモンスターボールに収める。

「やった!」

「やられちゃったか……、じゃあ」

 アクタはもう一度、フタチマルを出す。ベルの笑顔が、ピタリと硬直した。

 タイプ相性は、フタチマルが有利。チャオブーは眠っている。

「ううう……、ピンチなのかな……?」

「いや? 終わるところさ」

 “シェルブレード”、一閃。チャオブーもまた、眠りながら戦闘不能となった。

 

 

「アイリスちゃんと鍛えたのに……、やっぱり勝てなかったね……」

 受付嬢が拍手を送ってくれるが、アイリスはアクタに背を向けて、緑の帽子を押さえる。

「やっぱり、なんて言うけど、ベルは凄かったよ。ぼくは油断も手加減もしなかった。それでも、負けるかもって思った」

「ありがとう。でも……」

 少女はアクタに背を向けたままだ。

「……あたしは、アクタやチェレン、それにアイリスちゃんのように強いトレーナーには

なれない」

「………………」

「──けど。カノコタウンを旅立ってからいろいろな人と出会って、あたしのやりたいこと、やれることを考えているの! そういう意味で、ポケモンはあたしにたくさんの()()()()をくれたんだよね!」

 ベルは振り返る。涙目だったが、その表情は明るいものだった。

「……ポケモンを盗られて、大変で、不安でどうしようもなかったけど、それでも言えるの。『旅に出て良かった』って!」

「その言葉がベルから聞けて、嬉しいよ」

 アクタは深く頷いた。

「嫌な目に遭って、旅のこと、ポケモンのことを、嫌いになってしまったとしたら、それはすごく悲しいことだ。プラズマ団の……、ポケモンと人間を引き離すような物言いにも、説得力が増しちゃうし」

「そこは、大丈夫! だってあたし、ポケモンといることがすごく大事だって、わかってるし!」

 少年はさらに安堵する。

 そしてベルに深い尊敬の念を抱いた。

「ベルは、ほんとうに凄いね。凄くて、強くて、偉いよ」

「……えへへ。そんなこと」

 少女は照れるが、アクタは本気でベルを尊敬した。

「あたしはまだ、旅を続けるからさ! じゃ、またどこかで会おうね。バイバイ! アクタ」

 ベルは照れ隠しのように大げさに手を振って、ヒウンシティの方向に去って行った。

 アクタは、ベルとは反対の方向を見据える。

「ぼくも、がんばらないと。やりたいこと。やれること。──そういうの、はっきりできたら素敵だな」

 いくら殿堂入りなどで名を上げようと、アクタもいまだに、道なかばだ。

 未来はだれにだって見通せない。闇のように黒く、霧のように白い。

 

 

 五里霧中なのは未来だけではない。

「うわ、ほんとに砂嵐が……!」

 ゲートの受付嬢が言っていたとおり、4番道路には砂嵐が吹き荒れていて、道の先が見通せないほどだ。

「砂とか小石が飛んできて、鬱陶しいんだよな……。シンオウでも大変だったっけ。たしか228番道路あたりだ」

 アクタの修行の主な舞台であった、バトルゾーンというエリアの一部も、砂嵐が吹く砂漠地帯となっていた。しかしこの4番道路は、228番道路よりずっと広い。砂地では足を取られ、野生ポケモンまで出てくる始末だ。

 たまらずアクタとポケモンたちは、休憩のためにプレハブ小屋に逃げ込んだ。

「やあアクタ」

「あ、チェレンだ」

 砂まみれのアクタを、眼鏡の少年が出迎えた。

「お互い、汚れたね。まあこういうのも旅の醍醐味だよね」

「……そんなことよりアクタ。ビートルバッジは手に入れたかい?」

 ろくに挨拶も許さず、チェレンは眼鏡のレンズを拭いながらアクタに問う。

「う、うん。バッチリ」

「だったらさっそくだけど、ポケモンを回復させて外に行こう。どちらが強いトレーナーなのか、確かめさせてもらうよ」

 目と目が合ったらバトル。そんなポケモントレーナーの慣習(ルール)のように唐突な誘いだったので。

「いいよ。やろう」

 断る理由はなかった。

 アクタだって、チェレンと戦いたい。

「あ、ケチャップのサンドイッチ作るからさ。もうちょっと待っててよ」

「……いいけど」

「チェレンも食べる?」

「要らない」

  1. 目次
  2. 小説情報
  3. 縦書き
  4. しおりを挟む
  5. お気に入り登録
  6. 評価
  7. 感想
  8. ここすき
  9. 誤字
  10. よみあげ
  11. 閲覧設定

▲ページの一番上に飛ぶ
X(Twitter)で読了報告
感想を書く ※感想一覧 ※ログインせずに感想を書き込みたい場合はこちら
内容
0文字 10~5000文字
感想を書き込む前に 感想を投稿する際のガイドライン に違反していないか確認して下さい。
※展開予想はネタ潰しになるだけですので、感想欄ではご遠慮ください。