ポケットモンスターNAVY ~暴投モンスターボール~ 作:サンダーゴリラ
恋をしている暇はない。エリカに深く礼を言って、タマムシジムを後にする。そして、タマムシシティに来た道をそのまま戻った。
「忘れてないぞ、ポケモンタワー」
ふたたびシオンタウン。若干、望まぬかたちではあるものの、シルフスコープは手に入れた。これが幽霊に効果あるといいが……
一度、フジ老人に相談してみようと、ポケモンハウスを訪れる。
「たいへん! フジじいちゃんが、悪者に連れて行かれちゃったの!」
訪ねるや否や、少女が泣きついてきた。
「町に来たロケット団に、フジじいちゃんが、ポケモンをいじめるなって言って……」
どうやらフジ老人は、ロケット団と揉めた末に拉致されてしまったらしい。アクタは不器用ながら、少女の頭を撫でた。
「そっか、恐かったね。どこに連れて行かれたかわかる?」
少女は一層、顔を曇らせる。
「大人の話し合いをするって、ポケモンタワーに……」
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少女を落ち着かせて、アクタはポケモンタワーに向かった。
「ロケット団……なんでこう、関わってくるんだ」
サカキへの敗北が尾を引いて、すこし身がすくんだ。でもフジ老人は助けなければいけないし、幽霊騒動も解決したい。恐怖を振り切り、礼拝の塔を登った。
「……あれ?」
2階。まだ幽霊の気配がないエリアだが、知っている顔の少年がいた。
「おう! アクタ、こんなところへ何しに来たんだよ?」
グリーンだった。
「お前のポケモン、死んだのか?」
「いや、そういうわけじゃ……」
グリーンは、アクタの腰のモンスターボールを覗き込む。
「生きてるじゃん。ていうかむしろ、1匹増えた?」
「へへ、じつはそうなんだよ……見る?」
「じゃあバトルな」
開けた空間に移動する。ポケモンバトルだ。
「ここはポケモンタワーだが……死なせるにもいかねえな。せめて戦闘不能にしてやるか! かかって来いよ!」
グリーンはピジョンを繰り出す。アクタは足元にイーブイを放った。
「イーブイか、珍しいの連れてるな! こんどはいくらしたんだ?」
「このっ……! もらったんだよ! 信頼できる筋から!」
「やっぱり自分で捕まえたんじゃないのか」
口を滑らせてしまった。誤魔化すように、イーブイに指示をする。
「“すなかけ”!」
グリーンのピジョンには、ポッポ時代にこの技に苦しめられたっけ、と思い出す。
「“かぜおこし”!」
だが巻き起こされる風を喰らってしまう。
「うっ、“でんこうせっか”!」
高速の一撃。しかし、そもそも技の威力が高くない。
「おいおい、大したことねえな。まだ育ててる途中だろ? 無理すんなよ」
「うるさいなあ! ほんとはいい技、持ってるのに……」
とっておきの“あなをほる”は、ひこうタイプのピジョンには効果がない。仕方がなくイーブイをボールに収めて、ギャラドスに交代させた。
「じゃあこっちも──」
グリーンもピジョンを交代させる。出てきたのは、
「ギャラドス!?」
まるで鏡写し。青い龍のようなポケモンが向かい合った。──違うのはヒゲの色くらいだ。アクタのギャラドスのヒゲは白い。
「グリーン、真似したな!?」
「真似って……人聞きが悪いこと言うなよ。たまたま釣れたんだよ!」
「コイキングから育てたんじゃないのかよ!」
「『すごい釣り竿』を持ってんだよ! ──ギャラドス、“あばれる”」
突然、グリーンのギャラドスが吠えた。そしてアクタのギャラドスを目がけて襲い掛かってくる。“たいあたり”や“かみつく”とはわけが違う。明らかに捨て身。むしろ、狂気。
「ちょ、ちょっと待ってグリーン!」
アクタのギャラドスは防戦一方だ。隙を見て“りゅうのいかり”を放つも、まるで意に介さず、グリーンのギャラドスは暴走を続ける。
やがて疲れ果てたのか、グリーンのギャラドスは混乱状態となった。こちらも満身創痍だ。
「ギャラドス、攻撃を止めるな! “かみつく”」
しかしグリーンの指示を聞き入れずに、わけもわからずにギャラドスは自傷し、やがて力尽きた。
「ちっ、まだまだこんなもんか。手間がかかるぜ」
悪態をついて、グリーンはギャラドスをボールに戻す。アクタは──
「……なんだいまの戦い方は。すっげえ、嫌なやつに見えるよ。グリーン」
彼のポケモンの扱いに、すこし怒っていた。
「はあ? いまの技に文句でもあるのかよ」
「技自体は──しょうがないさ。でも、ギャラドスの扱いが嫌だ。なんか変だよ」
たしかにグリーンは昔から、どちらかというと「嫌なやつ」だったが、それは自衛や照れ隠しによるものであり、ほんとうは優しい性格であると、アクタは知っていた。
いま目の前にいるグリーンは、アクタの知っているグリーンではない。
「はっ! なにを言ってやがる。ポケモンを甘やかしてりゃ、バトルに勝てんのかよ!? おれは勝つためには手段を択ばねえ!」
「
「言うさ! じゃないとおれは──」
不自然に、グリーンは言い淀む。しかし、振り切るように複数のモンスターボールを一斉に放った。ピジョン、タマタマ、ユンゲラー、リザードが現れる。
「選べよ。好きなのと戦わせてやる。フシギソウが控えてるんだろ? 出せよ。それともさっきのイーブイか?」
「……付き合ってらんないよ」
先を急ぐのだ。ギャラドスをボールに収めて、友に背を向けようとする。「おい!」とグリーンの怒鳴り声。
「…………」
ふと、違和感を覚えてアクタは振り返った。
「ラッタ、いないの?」
手持ちに選ばなかったのかと思ったが、持ち歩けるポケモンは一般的には6匹。グリーンの手持ちはまだ空いている。
それに、ハナダシティでは「コラッタを舐めるなよ」なんて息巻いていた。
「……うるせえよ」
グリーンは答えなかった。彼はポケモンたちをボールに収めて、こんどはグリーンがアクタに背を向ける。
「もういい。やる気、失せた」
「…………」
「じゃ、おれもう行くわ。お前と違って、忙しいからよ。じゃーな」
グリーンは階段を下りていく。アクタはとうとう、声をかけることができなかった。
ここはポケモンタワー。ポケモンの墓を建てる場所だ。
まるで取り憑かれたように、ひとが変わったグリーン。その理由を察せないほどに、アクタは愚鈍ではなかった。
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幽霊の気配におびえながら、アクタはポケモンタワーを登る。ときおり、ぬっと影が現れるも──
「出たああ! ──あ、なんだゴースか」
ゴーストポケモンにはまったくひるまない。捕獲に挑戦するも、当たり前のように失敗する。
「それにしても、あの幽霊はどこに行っちゃったんだろう。このままだと、最上階に着いちゃうぞ……」
周囲を警戒しつつも道のりを進み、とうとう最上階に到達してしまった。
そこには4人の男がいた。
ひとりは、フジ老人だ。
残りは黒いスーツのロケット団──だが、そのロケット団3人の様子がおかしかった。
「……あの、おじいさん!」
状況を探る時間を惜しみ、アクタは声をかける。しかし、
「きみは──来ちゃいかん! 危険だ!」
フジ老人の制止で、3人のロケット団はアクタの存在に気づいた。彼らは、ゆらりと振り返る。その目には生気がなかった。
「も、もしかして、
ロケット団たちは、それぞれポケモンを放った。ゴルバット、スリープといったポケモンたちがアクタに襲いかかる。
「──みんな、よろしく!」
アクタもポケモンを放つ。
「ギャラドス、“にらみつける”! そして“たいあたり”!」
ロケット団の3人は、まともな状態ではなかった。
「フシギソウ、“はっぱカッター”!」
だからポケモンたちともまるで連携できていない。
「イーブイ、“あなをほる”!」
そんな彼らに、アクタが負ける理由などなかった。
ポケモンたちを倒すと、男たちも膝から崩れ落ちて意識を失う。彼らの背後にいたのは、あの「影」だった。
「幽霊の、正体見たり、なんとやら──さて、きみは一体だれなんだ?」
アクタはシルフスコープを装着した。改めて幽霊に目を向ける。それは──
「ガラガラ?」
厳めしい頭部に、骨を手にしたポケモン。そのガラガラが通常の個体を違うのは、姿がどこか曖昧で、もう
「……フシギソウ」
ガラガラはこちらに敵意を向けていた。もはや「立ち去れ」という命令は聞こえない。“ホネブーメラン”が放たれる。
「“はっぱカッター”!」
緑の刃はブーメランを突き抜けて、ガラガラの身体を──すり抜けた。
幽霊だから、当たらない。──そのはずなのに、ガラガラは倒れた。
「現実には、当たっていない。──それでも、技は届いたみたいだね」
アクタはシルフスコープを外して、フジ老人に駆け寄る。
「き、きみ! 無事なのか!? ……ガラガラは?」
「戦って、勝ちました。ていうかおじいさん、あれがガラガラだってわかってたんですか?」
フジ老人は、動かない影に語り掛ける。
「ガラガラよ。お前さんの子どもは、わしの家にいる」
アクタには、ポケモンハウスにガラガラの進化前、カラカラがいたことを思い出した。
「カラカラの面倒を任せてくれ。お前さんを死なせた者たちは、この少年が懲らしめてくれた。あとは、人間のルールで裁こう。じゃから、もうよい」
影が、徐々に薄くなっていく。
「よう戦ったな、ガラガラ。ゆっくりお眠りなさい」
その魂は、本来の優しいものに戻った。影は光となって、天に昇って……消えていった。
:
ロケット団は、ガラガラ・カラカラの親子を捕まえようと追いかけ回していた。その際、事故でガラガラが命を落としてしまった。
カラカラはなんとか逃げおおせて、フジ老人に助けられた。しかしそのことを知らないガラガラは、我が子も殺されてしまったものと恨みを募らせて、その魂を「幽霊」に変えてしまった。
それが、今回の幽霊騒動の始まり。
「で、おじいさん。きょうはどうして、こんなことに?」
アクタたちはポケモンタワーを降りた。ロケット団の3人はショック状態で、ふらついた足取りで警察に連行されていく。
「おじいさんが、あのロケット団たちに文句を言った──っていう顛末は聞いてます。ポケモンハウスの女の子、心配してましたよ」
「いやはや面目ない……」
老人はうつむく。
「彼らはどうやら、幽霊の噂を調べにやって来たそうです。おおかた、悪事に利用しようと思ったのでしょう。やつらは歯向かってきたわたしを、ついでと言わんばかりにポケモンタワーに連れて行きました。幽霊の囮にでも利用するつもりだったのでしょうね」
「皮肉な話だ。当人であるかはわからないにせよ、ガラガラにとって、あいつらが一番の標的だっただろうに」
フジ老人は、「そのとおりです」と重々しく頷いた。
「わたしはガラガラに同情こそはしているものの、復讐で手を汚してほしくはなかった。ロケット団たちに取り憑いた彼女を、一生懸命に説得していたのですが……」
「そこに現れたのが、ぼく?」
フジ老人は頷いた。
「きみとの戦いで、ガラガラの鬱憤もすこしは晴れたのでしょう。トレーナーではないわたしには、バトルという手段は思いつきませんでした。──おかげで助かりました。ありがとう」
「…………」
アクタは、ロケット団のボス、サカキの言葉を思い出していた。
──「下っ端の団員を痛めつけたくらいで、良いことをしたなんて思うんじゃないぞ」
その言葉が引っかかり、これが善行であると確信できなかった。自分は正しいことができたのだろうか、誇って良いのだろうか、と不安に駆られる。
「フジじいちゃーん!」
ポケモンハウスから、少女とカラカラが走ってきた。カラカラは、フジ老人に抱き着いた。
「ほっほっほ、すまない。心配をかけたね」
「お兄ちゃん! おじいちゃんを助けてくれてありがとう!」
「あ、ああ、いいんだ。当然のことをしたまでだよ。良かったね」
そう言葉にした瞬間、ふと、アクタのなかの戸惑いが消えた。
「……そうか、
だれかの力になることは、アクタに取って特別なことではない。
ロケット団と戦うのも、サカキを止めるのも、当然だ。
「──ほお、雲が晴れましたな。いい陽気だ」
フジ老人は空を見上げた。
「こんなに晴れたのはいつぶりでしょうか」
「最近、曇りが続いてましたからね。──そうだ、フシギソウ」
アクタは足元にボールを放る。くさタイプのフシギソウは、日光が好物であった。
「きょうはがんばったね。ガラガラと戦うの、怖くなかった?」
瞬間、フシギソウはぶるりと震える。
「おや? フシギソウの様子が……」
フジ老人は期待の眼差しで、アクタたちを覗き込む。
フシギソウは光に包まれる。体格が膨れ上がり、背中のつぼみは開花した。
太陽の下で、フシギバナは唸り声を上げた。
フシギバナ
れいせいな性格
花からうっとりする香りがただよい、戦う者の気持ちをなだめてしまう。
ギャラドス
がんばりやな性格
グリーンのギャラドスには勝てたものの、オスって恐いな、と思った。
イーブイ
きまぐれな性格
撫でられるのは好きだが、長時間撫でられると鬱陶しくなってくる。