ポケットモンスターNAVY ~暴投モンスターボール~   作:サンダーゴリラ

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レポート14 ポケモンタワー/晴れ間に咲く

 恋をしている暇はない。エリカに深く礼を言って、タマムシジムを後にする。そして、タマムシシティに来た道をそのまま戻った。

「忘れてないぞ、ポケモンタワー」

 ふたたびシオンタウン。若干、望まぬかたちではあるものの、シルフスコープは手に入れた。これが幽霊に効果あるといいが……

 一度、フジ老人に相談してみようと、ポケモンハウスを訪れる。

「たいへん! フジじいちゃんが、悪者に連れて行かれちゃったの!」

 訪ねるや否や、少女が泣きついてきた。

「町に来たロケット団に、フジじいちゃんが、ポケモンをいじめるなって言って……」

 どうやらフジ老人は、ロケット団と揉めた末に拉致されてしまったらしい。アクタは不器用ながら、少女の頭を撫でた。

「そっか、恐かったね。どこに連れて行かれたかわかる?」

 少女は一層、顔を曇らせる。

「大人の話し合いをするって、ポケモンタワーに……」

 

 

 少女を落ち着かせて、アクタはポケモンタワーに向かった。

「ロケット団……なんでこう、関わってくるんだ」

 サカキへの敗北が尾を引いて、すこし身がすくんだ。でもフジ老人は助けなければいけないし、幽霊騒動も解決したい。恐怖を振り切り、礼拝の塔を登った。

「……あれ?」

 2階。まだ幽霊の気配がないエリアだが、知っている顔の少年がいた。

「おう! アクタ、こんなところへ何しに来たんだよ?」

 グリーンだった。

「お前のポケモン、死んだのか?」

「いや、そういうわけじゃ……」

 グリーンは、アクタの腰のモンスターボールを覗き込む。

「生きてるじゃん。ていうかむしろ、1匹増えた?」

「へへ、じつはそうなんだよ……見る?」

「じゃあバトルな」

 開けた空間に移動する。ポケモンバトルだ。

「ここはポケモンタワーだが……死なせるにもいかねえな。せめて戦闘不能にしてやるか! かかって来いよ!」

 グリーンはピジョンを繰り出す。アクタは足元にイーブイを放った。

「イーブイか、珍しいの連れてるな! こんどはいくらしたんだ?」

「このっ……! もらったんだよ! 信頼できる筋から!」

「やっぱり自分で捕まえたんじゃないのか」

 口を滑らせてしまった。誤魔化すように、イーブイに指示をする。

「“すなかけ”!」

 グリーンのピジョンには、ポッポ時代にこの技に苦しめられたっけ、と思い出す。

「“かぜおこし”!」

 だが巻き起こされる風を喰らってしまう。

「うっ、“でんこうせっか”!」

 高速の一撃。しかし、そもそも技の威力が高くない。

「おいおい、大したことねえな。まだ育ててる途中だろ? 無理すんなよ」

「うるさいなあ! ほんとはいい技、持ってるのに……」

 とっておきの“あなをほる”は、ひこうタイプのピジョンには効果がない。仕方がなくイーブイをボールに収めて、ギャラドスに交代させた。

「じゃあこっちも──」

 グリーンもピジョンを交代させる。出てきたのは、

「ギャラドス!?」

 まるで鏡写し。青い龍のようなポケモンが向かい合った。──違うのはヒゲの色くらいだ。アクタのギャラドスのヒゲは白い。

「グリーン、真似したな!?」

「真似って……人聞きが悪いこと言うなよ。たまたま釣れたんだよ!」

「コイキングから育てたんじゃないのかよ!」

「『すごい釣り竿』を持ってんだよ! ──ギャラドス、“あばれる”」

 突然、グリーンのギャラドスが吠えた。そしてアクタのギャラドスを目がけて襲い掛かってくる。“たいあたり”や“かみつく”とはわけが違う。明らかに捨て身。むしろ、狂気。

「ちょ、ちょっと待ってグリーン!」

 アクタのギャラドスは防戦一方だ。隙を見て“りゅうのいかり”を放つも、まるで意に介さず、グリーンのギャラドスは暴走を続ける。

 やがて疲れ果てたのか、グリーンのギャラドスは混乱状態となった。こちらも満身創痍だ。

「ギャラドス、攻撃を止めるな! “かみつく”」

 しかしグリーンの指示を聞き入れずに、わけもわからずにギャラドスは自傷し、やがて力尽きた。

「ちっ、まだまだこんなもんか。手間がかかるぜ」

 悪態をついて、グリーンはギャラドスをボールに戻す。アクタは──

「……なんだいまの戦い方は。すっげえ、嫌なやつに見えるよ。グリーン」

 彼のポケモンの扱いに、すこし怒っていた。

「はあ? いまの技に文句でもあるのかよ」

「技自体は──しょうがないさ。でも、ギャラドスの扱いが嫌だ。なんか変だよ」

 たしかにグリーンは昔から、どちらかというと「嫌なやつ」だったが、それは自衛や照れ隠しによるものであり、ほんとうは優しい性格であると、アクタは知っていた。

 いま目の前にいるグリーンは、アクタの知っているグリーンではない。

「はっ! なにを言ってやがる。ポケモンを甘やかしてりゃ、バトルに勝てんのかよ!? おれは勝つためには手段を択ばねえ!」

()()()()()()()だあ!? そんなこと言うなよ!」

「言うさ! じゃないとおれは──」

 不自然に、グリーンは言い淀む。しかし、振り切るように複数のモンスターボールを一斉に放った。ピジョン、タマタマ、ユンゲラー、リザードが現れる。

「選べよ。好きなのと戦わせてやる。フシギソウが控えてるんだろ? 出せよ。それともさっきのイーブイか?」

「……付き合ってらんないよ」

 先を急ぐのだ。ギャラドスをボールに収めて、友に背を向けようとする。「おい!」とグリーンの怒鳴り声。

「…………」

 ふと、違和感を覚えてアクタは振り返った。

「ラッタ、いないの?」

 手持ちに選ばなかったのかと思ったが、持ち歩けるポケモンは一般的には6匹。グリーンの手持ちはまだ空いている。

 それに、ハナダシティでは「コラッタを舐めるなよ」なんて息巻いていた。

「……うるせえよ」

 グリーンは答えなかった。彼はポケモンたちをボールに収めて、こんどはグリーンがアクタに背を向ける。

「もういい。やる気、失せた」

「…………」

「じゃ、おれもう行くわ。お前と違って、忙しいからよ。じゃーな」

 グリーンは階段を下りていく。アクタはとうとう、声をかけることができなかった。

 ここはポケモンタワー。ポケモンの墓を建てる場所だ。

 まるで取り憑かれたように、ひとが変わったグリーン。その理由を察せないほどに、アクタは愚鈍ではなかった。

 

 

 幽霊の気配におびえながら、アクタはポケモンタワーを登る。ときおり、ぬっと影が現れるも──

「出たああ! ──あ、なんだゴースか」

 ゴーストポケモンにはまったくひるまない。捕獲に挑戦するも、当たり前のように失敗する。

「それにしても、あの幽霊はどこに行っちゃったんだろう。このままだと、最上階に着いちゃうぞ……」

 周囲を警戒しつつも道のりを進み、とうとう最上階に到達してしまった。

 そこには4人の男がいた。

 ひとりは、フジ老人だ。

 残りは黒いスーツのロケット団──だが、そのロケット団3人の様子がおかしかった。

「……あの、おじいさん!」

 状況を探る時間を惜しみ、アクタは声をかける。しかし、

「きみは──来ちゃいかん! 危険だ!」

 フジ老人の制止で、3人のロケット団はアクタの存在に気づいた。彼らは、ゆらりと振り返る。その目には生気がなかった。

「も、もしかして、()()()()()()()──って感じ?」

 ロケット団たちは、それぞれポケモンを放った。ゴルバット、スリープといったポケモンたちがアクタに襲いかかる。

「──みんな、よろしく!」

 アクタもポケモンを放つ。

「ギャラドス、“にらみつける”! そして“たいあたり”!」

 ロケット団の3人は、まともな状態ではなかった。

「フシギソウ、“はっぱカッター”!」

 だからポケモンたちともまるで連携できていない。

「イーブイ、“あなをほる”!」

 そんな彼らに、アクタが負ける理由などなかった。

 ポケモンたちを倒すと、男たちも膝から崩れ落ちて意識を失う。彼らの背後にいたのは、あの「影」だった。

「幽霊の、正体見たり、なんとやら──さて、きみは一体だれなんだ?」

 アクタはシルフスコープを装着した。改めて幽霊に目を向ける。それは──

「ガラガラ?」

 厳めしい頭部に、骨を手にしたポケモン。そのガラガラが通常の個体を違うのは、姿がどこか曖昧で、もう()()()()()()ということだ。

「……フシギソウ」

 ガラガラはこちらに敵意を向けていた。もはや「立ち去れ」という命令は聞こえない。“ホネブーメラン”が放たれる。

「“はっぱカッター”!」

 緑の刃はブーメランを突き抜けて、ガラガラの身体を──すり抜けた。

 幽霊だから、当たらない。──そのはずなのに、ガラガラは倒れた。

「現実には、当たっていない。──それでも、技は届いたみたいだね」

 アクタはシルフスコープを外して、フジ老人に駆け寄る。

「き、きみ! 無事なのか!? ……ガラガラは?」

「戦って、勝ちました。ていうかおじいさん、あれがガラガラだってわかってたんですか?」

 フジ老人は、動かない影に語り掛ける。

「ガラガラよ。お前さんの子どもは、わしの家にいる」

 アクタには、ポケモンハウスにガラガラの進化前、カラカラがいたことを思い出した。

「カラカラの面倒を任せてくれ。お前さんを死なせた者たちは、この少年が懲らしめてくれた。あとは、人間のルールで裁こう。じゃから、もうよい」

 影が、徐々に薄くなっていく。

「よう戦ったな、ガラガラ。ゆっくりお眠りなさい」

 その魂は、本来の優しいものに戻った。影は光となって、天に昇って……消えていった。

 

 

 ロケット団は、ガラガラ・カラカラの親子を捕まえようと追いかけ回していた。その際、事故でガラガラが命を落としてしまった。

 カラカラはなんとか逃げおおせて、フジ老人に助けられた。しかしそのことを知らないガラガラは、我が子も殺されてしまったものと恨みを募らせて、その魂を「幽霊」に変えてしまった。

 それが、今回の幽霊騒動の始まり。

「で、おじいさん。きょうはどうして、こんなことに?」

 アクタたちはポケモンタワーを降りた。ロケット団の3人はショック状態で、ふらついた足取りで警察に連行されていく。

「おじいさんが、あのロケット団たちに文句を言った──っていう顛末は聞いてます。ポケモンハウスの女の子、心配してましたよ」

「いやはや面目ない……」

 老人はうつむく。

「彼らはどうやら、幽霊の噂を調べにやって来たそうです。おおかた、悪事に利用しようと思ったのでしょう。やつらは歯向かってきたわたしを、ついでと言わんばかりにポケモンタワーに連れて行きました。幽霊の囮にでも利用するつもりだったのでしょうね」

「皮肉な話だ。当人であるかはわからないにせよ、ガラガラにとって、あいつらが一番の標的だっただろうに」

 フジ老人は、「そのとおりです」と重々しく頷いた。

「わたしはガラガラに同情こそはしているものの、復讐で手を汚してほしくはなかった。ロケット団たちに取り憑いた彼女を、一生懸命に説得していたのですが……」

「そこに現れたのが、ぼく?」

 フジ老人は頷いた。

「きみとの戦いで、ガラガラの鬱憤もすこしは晴れたのでしょう。トレーナーではないわたしには、バトルという手段は思いつきませんでした。──おかげで助かりました。ありがとう」

「…………」

 アクタは、ロケット団のボス、サカキの言葉を思い出していた。

 ──「下っ端の団員を痛めつけたくらいで、良いことをしたなんて思うんじゃないぞ」

 その言葉が引っかかり、これが善行であると確信できなかった。自分は正しいことができたのだろうか、誇って良いのだろうか、と不安に駆られる。

「フジじいちゃーん!」

 ポケモンハウスから、少女とカラカラが走ってきた。カラカラは、フジ老人に抱き着いた。

「ほっほっほ、すまない。心配をかけたね」

「お兄ちゃん! おじいちゃんを助けてくれてありがとう!」

「あ、ああ、いいんだ。当然のことをしたまでだよ。良かったね」

 そう言葉にした瞬間、ふと、アクタのなかの戸惑いが消えた。

「……そうか、()()なんだよな」

 だれかの力になることは、アクタに取って特別なことではない。

 ロケット団と戦うのも、サカキを止めるのも、当然だ。

「──ほお、雲が晴れましたな。いい陽気だ」

 フジ老人は空を見上げた。

「こんなに晴れたのはいつぶりでしょうか」

「最近、曇りが続いてましたからね。──そうだ、フシギソウ」

 アクタは足元にボールを放る。くさタイプのフシギソウは、日光が好物であった。

「きょうはがんばったね。ガラガラと戦うの、怖くなかった?」

 瞬間、フシギソウはぶるりと震える。

「おや? フシギソウの様子が……」

 フジ老人は期待の眼差しで、アクタたちを覗き込む。

 フシギソウは光に包まれる。体格が膨れ上がり、背中のつぼみは開花した。

 太陽の下で、フシギバナは唸り声を上げた。

 




フシギバナ
 れいせいな性格
 花からうっとりする香りがただよい、戦う者の気持ちをなだめてしまう。

ギャラドス
 がんばりやな性格
 グリーンのギャラドスには勝てたものの、オスって恐いな、と思った。

イーブイ
 きまぐれな性格
 撫でられるのは好きだが、長時間撫でられると鬱陶しくなってくる。
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