ポケットモンスターNAVY ~暴投モンスターボール~ 作:サンダーゴリラ
横殴りの砂嵐のなかで、チェレンと4匹のポケモンと戦った。
新たに加わっていたのは、マメパトとヒヤップ。さらにチョロネコはレパルダスに進化しており、苦戦を強いられた。
「バオッキー、“はじけるほのお”!」
しかしどうにか、ツタージャの進化系、ジャノビーをバオッキーの炎が打ち倒し、勝負は決した。
「……さすがだね──だけどなぜぼくは勝てない……!?」
「よし、がんばったねバオッキー! ──おっと、砂嵐が痛いよね。ポケモンは人間と違って服着ないから。さあ、ボールに戻って」
アクタはバオッキーを風上から庇いつつ、モンスターボールへ戻す。
「……なるほど。きみが強い理由は、ポケモンとの信頼関係かもしれない」
「え? なに?」
「だけど問題ない。ぼくだってジャノビーたちから、もっと強さを引き出せるよ」
なにやらひとりで納得しているチェレン。まあ、納得しているのならば良いか、とアクタが肩をすくめたところで、腕のライブキャスターが鳴り響いた。
チェレンのライブキャスターも鳴っていた。ふたりに通話を呼び掛けているのは、もちろんおなじ人物である。
『ハーイ! アクタ、チェレン。ちょっと付き合ってくれない?』
「博士だ。急ですねぇ」
「アララギ博士。なにかご用ですか」
『……ベルは呼び出しに気づいていないのよねー。なにに夢中なのかしら? あとで個別に連絡するしかないわねー』
「博士。用件は?」
『じゃ! おふたりさん、ライモンシティの手前のゲートで待ってるわね!』
「あ、あの!? 用件……」
通話は終了した。
「……だって」
質問を無視され続けたチェレンは不満そうである。
「あのひとは相変わらず……」
「まあまあ、こっちは砂嵐の真っただ中なんだし」
ゆっくりご挨拶なんてしてたら、全身砂まみれになってしまう。
「ライモンシティのゲートなら、この4番道路をまっすぐ進むだけさ。……とりあえず、行こうか?」
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もっと4番道路を探検したかったが、アララギ博士に呼び出されてしまった以上、いまはライモンシティへと急ぐ。
作業員たちが働く工事現場を横切って、トラックが行き交う道路の下を通り抜け、ふたりはライモンシティへ繋がるゲートへ。
「ハーイ! アクタ、チェレン!!」
ゲートではアララギ博士が待ち構えていた。
「お久しぶりです。えと、きょうはどうしたんですか?」
「カミツレに呼ばれて、でんきタイプのポケモンのこと、いろいろ訊かれてるときにきみたちのこと思い出して……」
アクタは隣のチェレンに耳打ちする。
「カミツレさんってのは……、どなた?」
「博士の友人らしくて、この街の──」
「で、用事というのはこれ! ドドーンとサービスよ!!」
アララギ博士はふたりの少年に、モンスターボールを差し出した。
ただのモンスターボールではない。黒地に黄色のラインが入った、モンスターボールとしては高品質のものだ。
「あ、ハイパーボールだ!」
アクタとチェレンはそれぞれ、ハイパーボールを複数貰う。
「一緒にいたいポケモンと出会ったら、惜しむことなく良いボールを使いなさいな。そのポケモンとの出会いは、それが最初で最後かもしれないんだから!」
「ありがとうございます、博士」
「……あの、はい。ぼくも……、ありがとうございます。……大事に使います」
アクタだけが気まずそうにしていた。頭を下げているのか、目を伏せているのか。
「……それと、ポケモン図鑑の完成をお願いしたわたしがこんなことをいうのも、ちょっとおかしいけど」
アララギ博士はアクタの様子に気づかずに。
「旅を楽しみなさいね!」
少年たちに、快活にウインクをした。
「……あっ! ポケモン図鑑のこと、なにもしなくていいって意味じゃないのはわかってるよね」
「そ、それはもちろんです」
「うん。旅も楽しみながら、ポケモン図鑑のデータを集めます」
捕獲はしなくとも、出会うことでデータの記録はできる。そういった意味では、アクタのポケモン図鑑は順調である。
「うんうん、がんばって。さてと……、ベルに会わなきゃね」
ベルの分のハイパーボールも準備しているのだろう。アララギ博士はふたりに手を振りながら、ゲートから去って行った。
「優しいなあ、アララギ博士。ちゃんとぼくらの旅のこと、気にかけてくれてるみたいで安心したよ」
「……ぼくたちを旅立たせるため、ポケモンと図鑑をくれた……。そういうことらしいね」
チェレンは、ふところからポケモン図鑑を取り出した。
「母さんが教えてくれたよ。ぼくたちに世界を見せたいからって、ベルのママと一緒にアララギ博士に頼んでね」
「そうなんだ。博士も優しいけど、みんなのお母さんも優しいね」
「アクタが旅に出たきっかけって、訊いてもいい?」
「え? ぼくはポケモンが好きだから、10歳になってからできるだけ早く飛び出したけど……」
愚問だったな、とチェレンは密かに反省した。
「さてアクタ。これからどうしようか」
「そうだな……、ライモンシティにも行きたいけど、4番道路をもっと探索したいな。リゾートデザート? っていうところに遺跡があるそうじゃん」
「うん、同感だな。4番道路でまだ捕まえていないポケモンを捕まえることで、博士への感謝の気持ちとさせてもらうかな」
「……嫌味?」
「違うよ」
ノーコンによる被害妄想である。
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アクタとチェレンは別れ、それぞれで4番道路を冒険する。
野生ポケモンやトレーナーは順調に退けることはできるが、砂嵐により徐々にポケモンたちが体力をすり減らしていくのが気になる。
「回復しようね。いわ、はがね、じめんタイプがいたら、余計なダメージを気にせず戦えるんだけど……」
ないものねだりだ。きょうもまた、ノーコンを呪う。
「それにしても……。広いなあ、リゾートデザートって」
4番道路北西のゲートを抜けた先には、広大な砂漠が広がっていた。舗装された道路などどこにもない。しかもここもまた、トレーナーが多い。
「こりゃあ良い修行になる。負けないぞ……。あの頃に比べたら……、最初のころのシロガネ山に比べたら、まるで天国だ。寒くないし。野生ポケモンもじつに穏やかだ」
そう自分に言い聞かせながら、フタチマルとともに野生のダルマッカを倒す。ほのおポケモン相手なので楽勝だ。
「よしフタチマル。そろそろ休憩と回復をしよう。どこか風を防げるような場所があればいいんだけど……」
とはいえ辺り一面、うんざりするほどの砂丘だらけ。都合よく岩壁などは見つからず──
「ん? あれは……」
代わりに、アクタの身の丈ほどの大きさの岩──というより、石像を見つけた。
「……だるま?」
青銅色の丸い石像だ。だるまのように、押せば転んでしまいそうなほど丸い。
そんな石像が、ひとつではなく数体並んでいる。
「へえ、おもしろいな。そういえば遺跡があるらしいから、それ関係かな?」
だるまたちに近づいてみるアクタ。それと同時に、遺跡の入り口を発見した。
「……てっきり、ピラミッドみたいなのがドーンと建ってるものかと思ってたけど、違ったや。これが遺跡か」
こんな砂嵐のなかでは、周囲を見渡しただけでは気づくはずもない。
だるまたちに囲まれて、石造りの階段が地下へと続いていた。
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結果、『古代の城』というその遺跡は、そう広くない1フロアのみしか探索できなかった。
遺跡は地下へと続いているらしいが、その地下が砂で埋まっているというのだから、行けようもない。
「この先、砂ばかりでまだ進めん! おっさん、がんばって砂を取り除くので待ってくれ!」
作業員に軽快に追い返される。どうやら一般のトレーナーが遺跡を冒険できるようになるには、まだ時間がかかるようだ。
──とはいえ、まったく収穫がなかったわけではない。むしろ遺跡への興味なんて忘れてしまうほど、アクタにとって大きな収穫があった。
「ねえねえ、そこの若いトレーナー」
肩を落として遺跡から引き返そうとするアクタに、バックパッカーの女性が声をかけた。
「アタシ、ポケモンのカセキを2つ持っいるんだけど、重くて……。良ければあなた、どちらか好きなカセキを貰ってくれない?」
「カセキ……?」
女性は石の塊を2つ、並べた。
ポケモンのカセキ。
その可能性を、アクタはかつての旅の経験でよく知っている。
「あの!! このカセキってポケモンの復元すること、できます!?」
「う、うん……」
女性はアクタの剣幕に圧倒されながらも、首を縦に振る。
「シッポウシティの博物館。あそこでならカセキを復元して、ポケモンに戻せるって話だよ」
「そうか、ここも博物館で……。それで、どちらかのカセキですよね?」
アクタは、置かれた2つのカセキを交互に見つめる。
一方は『ふたのカセキ』。
もう一方は『はねのカセキ』。これはわかりやすい。羽だ。
「ひこうタイプがいてくれたら便利だな。移動にも役立つだろうし。──決めました! こっちで!」
少年は重厚な石塊をひとつ、持ち上げた。歴史。生命。そういった概念的なものすら感じさせる重みだった。
「『はねのカセキ』なんだ! それは大昔の森林で暮らしていた、鳥ポケモンのカセキ」
「やっぱり鳥ポケですか」
「……だけど飛べなかったらしいよ」
「そういうの先に言ってくれません?」
“そらをとぶ”という移動に便利な技を期待していたのだが、一転、その技を使えない疑惑が浮上した。
──しかし一度手に取ってしまった以上、選びなおすのもバツが悪い。それにどんなポケモンであれ、いまのアクタには確実に戦力になる。
「よし、シッポウシティだな」
重いカセキをカバンにしまって。
アクタはその足で、もと来た道を戻ることにした。
リゾートデザートからライモンシティへ──という意味ではない。文字どおり、これまで旅した道のりを
砂嵐の4番道路を駆け抜けて。
大都会、ヒウンシティの人混みをくぐり。
長大にして巨大にして偉大な鉄橋、スカイアローブリッジを歩き続け。
薄暗い『ヤグルマの森』を通って。
そうしてようやく、夕暮れのシッポウシティまで戻ってきた。
「博物館、まだ開いてるよな……」
重厚な扉をくぐると。
「おや、きみは」
さっそく、シッポウ博物館の副館長にして、館長アロエの夫、キダチと遭遇した。彼はきょうもドラゴンポケモンの骨格標本のところにいる。最近、盗まれたのだから注意を向けるのも当然だろうが。
「アクタくん、でしたね。久しぶり──でもないですか。どうしたんですか? てっきり、いまごろはヒウンやライモンあたりを旅している思っていたのですが」
「そうなんですけどね。ちょっと事情があって、アロエさんに用事が……」
「ママ……いえ、アロエでしたらいまは立て込んでまして。急ぎですか?」
「そういうわけでも──あ、じゃあキダチさんはわかりますか? こういうのを手に入れまして」
アクタは鞄から、重い『はねのカセキ』を取り出した。
「ほうほう、これはなかなか立派なカセキで……。寄贈ですか?」
「違わい」
「恐っ……。もしかして、復元でしょうか?」
少年は、思わずキダチを睨んでしまったことを反省しつつ、消え入りそうな声で「はい」と頷いた。
「それなら、うちの博物館のサービスのひとつです! ──おうい、きみ。ちょっといいかな?」
キダチは、受付の女性のもとにカセキを持って行った。
女性は奥の部屋に下がって、数分後。
「はい、お預かりしたカセキはポケモンに戻りました!」
「速い……!」
「これがアーケンですよ! 大事にしてあげてください」
アクタは、新たなポケモンの入ったモンスターボールを受け取った。
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モンスターボールの開閉スイッチを押して、そっと足元に落とす。
飛び出してきたのは、赤、青、黄色の羽を持つ小さな鳥ポケモン。羽根をパタパタ羽ばたかせたかと思うと、こんどは博物館の周辺をバタバタと走り回る。
「おお、元気なポケモンですね」
なぜか見学に来たキダチが、アーケンの様子に感心する。
「元気なのは良いけど、興奮してるみたいです。というか、状況に困惑してるのかな。──アーケン、こっちにおいで」
アーケンはまったく反応せずに走り回っている。もう一度「アーケン」と呼ぶと、それが自分のことだと悟ったのだろう。主人であるアクタのもとまでやって来た。
「羽根、キレイだね。これからよろしくね」
そう声をかけるアクタの靴のにおいを嗅いだかと思うと、突然、彼の足に噛みついた。
「あ痛」
アーケンの牙はそれなりに鋭いが、噛む力はまだ弱く、黒いカーゴパンツ越しなので、痛みは耐えられるものだ。しばらくしたいがままに噛ませていると、アーケンはズボンから口を離し、こんどは頭をこすりつけた。
「ん、よしよし。落ち着いたかな」
アクタはアーケンを撫でる。アーケンは心地よさそうに目を細めた。
「……なるほど。アロエが目をかけるわけです」
アクタのポケモンの扱いに、キダチは深く感じ入った。キダチ自身、シッポウジムの関係者として様々なポケモントレーナーを見てきたが、まだ少年であるアクタの振る舞いは、ベテラントレーナーの風格すらあった。
「ふふふ……。リゾートデザートから走ってきた甲斐があった」
「そ、それはご苦労様です」
しかしどうやら、腕白で純粋な少年であることも間違いないようだ。
チーちゃんへ
3匹目のポケモンを手に入れました。
アーケンという、いわ・ひこうタイプの綺麗な羽根のポケモンです。
まあ飛べないみたいなんだけどね。
手持ちが3匹にもなると、なんとなく余裕が出てくるものです。
チーちゃんにもこの気持ちわかるかな。
つまるところ、ぼくの旅はとっても順調です。
というか、ぼくたちの旅だね。
チェレン、ベルと一緒に、アララギ博士や優しい大人たちに支えられ、楽しく旅ができています。
できるだけ、順調な状態が続けばいいんだけど……、どうでしょうか。
いくつかの不安もありますが、ポケモンたちと一緒に、がんばっていきます。
アクタより
ふたたび、シッポウシティにて