ポケットモンスターNAVY ~暴投モンスターボール~   作:サンダーゴリラ

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レポート15 ライモンシティ/王

 シッポウシティに宿泊し、翌朝。

 3匹目のポケモンを手に入れ、アクタは軽い足取りでライモンシティまでの二度目の旅路に着く。

 朝でも薄暗い『ヤグルマの森』を通り抜け。

 偉大にして巨大にして長大な鉄橋、スカイアローブリッジを歩き続け。

 大都会、ヒウンシティの人混みをくぐり。

 砂嵐の4番道路を駆けて。

 そしてようやく、真昼のライモンシティにたどり着いた。

 

────

 ライモンシティ。

 稲妻きらめく輝きの街。

────

 

「じいさん! あんたが育て屋ってのは知っているんだ! なんたってオレたち、プラズマ団だからさ!」

 街に入っていきなり、ふたりの男が老人に詰め寄る、トラブルの場面に遭遇した。

 男たちの格好は、もはや見慣れたプラズマ団。

「オレたち、人のポケモン奪ってんだよ。育て屋といったら、いろんなポケモン預かってんだろ。それをオレらによこせよ!」

「なんというムチャを!」

 老人は助けを求めるように周囲を見渡す。同時にアクタは歩み出て、この揉め事に首を突っ込んだ。

「やいプラズマ団。おじいさんを困らせるのはやめな」

「おお! 強そうなトレーナーさん」

 老人は少年の助け舟に気づき、すぐにアクタの隣に駆け寄ってきた。

「助けたほうがいいですよね? たぶんバトルになるんで、危ないから下がってて」

「なんだあ? ジャマだてするならオマエのポケモンを奪うぜ!」

 案の定、プラズマ団はこちらにモンスターボールを投げた。出てきたのはミルホッグ。

「アーケン!」

 アクタもモンスターボールを投げる。

 ボールは後方の階段を転げ落ちて、やがて誰もいない場所で、けたたましい鳴き声が響く。

「アーケン! ごめんごめん、こっちだよ!!」

 アーケンは噴水で遊びたそうにしていたが、アクタの呼びかけのほうを優先してくれたようで、残念そうな顔をしつつ、主人の足元に跳ね戻った。

「と、トレーナーさん……。大丈夫かのう?」

 不安そうな老人に。

「大丈夫じゃないですよ?」

 あっけらかんとした様子で少年は答えた。

「なに!?」

「アーケンはまだ、野生ポケモンと何回かくらいしかバトル経験ないから、ちょっと大丈夫じゃないかな。ぼくのそばで見てて。ミルホッグの相手は──」

 こんどは、アクタは手元でモンスターボールを開けた。

「フタチマル!」

 腰にホタチを携えたフタチマルは、ミルホッグが相手と見るや、敵に急接近する。

「“いわくだき”!」

 防御を下げて。

「“シェルブレード”!」

 水流ほとばしる太刀にて、斬り伏せた。

「速っ……! くそっ、ヤブクロン!!」

 深緑色の、袋状の身体を持つどくタイプのポケモンだ。

「じゃあこっちも交代だ。フタチマル、戻って」

 代わりにバオッキーのボールを手に取るが──ここで少年は、足元のアーケンに目を落とす。

「行く?」

 アーケンは嬉しそうに、鳴いて跳びはねた。

 一応、トレーナーとの戦いではアーケンはこれが初陣である。

「ヤブクロン、“アシッドボム”!」

「アーケン、“ついばむ”!」

 爬虫類のような顎の一撃は、なかなか鋭い。

「うん、よしよし。相手の素早さも下げよう。“こわいかお”!」

「お、おい、ビビるなよヤブクロン!!」

「あと避けやすくするために、“かげぶんしん”!」

 指示をしてから技の発動まで、まだ若干のラグはあるものの、そもそもアーケンは素早いので十分にカバーできている。バトルに慣れれば大きな戦力になることだろう。

 アーケンはヤブクロンを翻弄し続け、やがて。

「“ついばむ”!」

 その一撃を持って、ヤブクロンは戦闘不能になった。

「プラーズマー! うひゃあ!!」

「………………」

 アクタは、だんだんと彼らの悲鳴のような掛け声がくせになってきた。笑ってしまわないように口元を押さえる。

「よくやったね、アーケン。──さ、ぼくの勝ちだ。このおじいさんからは手を引きますね?」

 ふたりのプラズマ団は、正体不明のポケモンでも見るような面持ちで少年から距離を取る。

「な、なんだコイツ! ひとまず逃げるとするか!」

「遊園地でやり過ごそう!」

 そして脱兎の如く、ライモンシティの奥へ逃げ去って行った。

「『ひとまず』とか『やり過ごす』って……、あいつらぜんぜん懲りてないな」

 追いかけようとしたアクタだが。

「トレーナーさん、ありがとうよ!」

 助けた老人に呼び止められた。

「あ、おじいさん、気をつけてください。まだあいつらこの街にいるっぽいから……」

「うむうむ。きょうのところは家に帰るとするよ。──それで、こいつは気持ちじゃ。遠慮せずに貰ってくれ!」

 老人は、近くに駐輪してあった明るい色のフレームの自転車を、少年の前に転がしてきた。

「新品の自転車でライモンシティを観光する予定だったが……。結局乗らずじまいでな」

「し、新品!? しかもこれ、折り畳めるやつだ!」

 難なく持ち抱えられるほど軽い。これまでの旅でもアクタは自転車を活用してきたが、なるほどこの自転車も最新型の良いモデルである。

「………………きのう、これがあれば………………!!」

 カセキ復元のため、リゾートデザートからシッポウシティまで駆け抜けたことを思い出し、自身の巡り合わせの悪さに膝をついた。

「お、おお……。泣くほど嬉しいかい?」

「あ、いえ……」

「そうそう、わしは3番道路で育て屋をやっておるんじゃ! 育ててほしいポケモンがいれば、遠慮せずに預けておくれ!」

 そう言って老人は、少年に手を振りながら4番道路のゲートのほうへと緩慢に歩いていった。

「……ふう。観光に来てエライめにあったもんじゃ!」

 などと愚痴を口にして。

「……3番道路? それこそ自転車で帰ったほうがいいんじゃ──」

「おうい! アクタ!」

 入れ替わりに、こんどはベルがやって来た。

「よう、ベル。えーと、その様子だと」

 少女の服は、あちこちが砂で汚れていた。

「……4番道路から?」

「うん、いまライモンシティに着いたところ。砂漠ってすっごく広いね! すっごく迷っちゃった!」

 天真爛漫に笑うベル。彼女の楽天的なところは見習わねば。

「ぼくもカセキ復元とか自転車とかのいきさつは、楽しい思い出にすることにしよう」

「なんの話? あ、自転車だ。買ったの?」

「さっきおじいさんを助けたら貰った」

「へー! アクタはまたひと助けしたんだ! すごい!」

 そう面と向かって感心されると恥ずかしいものだ。アクタは下を向いて「まあ」などと適当な返事をする。

「それがあれば、ライモンシティも楽に回れるね! 博士に教えてもらったけど、ライモンシティって見所いっぱいなんでしょ!」

「そうなんだ? たしかに、ヒウンとはまた違った賑わいの街だけど……」

「遊園地でしょ、ビッグスタジアムにリトルコート、それにバトルサブウェイ!」

 あちこちを指さすベルは、各地に目を配るあまり、くるりと一回転した。

「あたしはミュージカルに行くつもりなの! ──あ、その前にシャワー浴びて、着替えないと。じゃあねえ!!」

 ベルはポケモンセンターの方向へ走って行った。

「……せわしないなあ。元気そうだから良いんだけどね──あ」

 ふと、アクタは思い出す。

「プラズマ団、追っかけるんだった! アーケン、おいで!」

 アーケンは、主人をよそに噴水に入って遊んでいた。

 

 

「遊園地でやり過ごそう!」──と言い残して去って行った、プラズマ団の失言を忘れていない。アクタはさっそく自転車に乗って、素早く遊園地のエリアに到着した。

 門をくぐり抜けた瞬間、黒い帽子の見知った青年を発見する。

「あ、エヌ」

 青年、Nのほうもアクタに気づく。無感情な表情のままこちらに近づいてきて。

「……プラズマ団を探しているんだろう?」

 いつもの早口で、少年に問いかける。

「う、うん。見なかった?」

「彼らは遊園地の奥に逃げて行ったよ。ついて来たまえ」

 踵を返して歩き出すN。協力的な姿勢に、アクタは安堵する。

「エヌも、こういうところに遊びに来るんだね。ちょっと意外かも」

「………………」

「カントーには遊園地って無かったからさ。だからぼく、けっこうワクワクしてて──あ、ぼくがカントーの出身だって言ってなかったっけ?」

「………………」

「………………」

 ピカチュウを模した巨大なバルーン。花壇に、ベンチ。アトラクションが用意してあるのだろう、外壁まできらめく建物。そしてモンスターボール柄のゴンドラがゆっくりと回転する、観覧車。

「……いないね」

 遊園地の最奥までたどり着いて、ようやくNは口を開いた。ふと、彼はのどかに回る観覧車を見上げて。

「観覧車に乗って探すことにしよう」

「え? あ、うん。いいよ」

「ボクは観覧車が大好きなんだ」

「そうなんだ。ちょっと意外だな」

 大がかりな乗り物だが、一応遊具だ。てっきりアクタは、Nは「遊具」などには興味がないと思っていた。

「あの円運動……、力学……、美しい数式の集まり……」

 さらに意外なことに、一般的ではない楽しみ方をしているらしい。

 すくなくともアクタは、観覧車に「数式」を見出せない。

「──ぼく、高いところは好きだと思ってたけど」

 ふたりはチケットを購入し、ゴンドラに乗り込む。だんだんと上昇していく密室。アクタは背筋に冷たいものと感じた。

「こう……、ポケモンの“そらをとぶ”とはぜんぜん違うね。ちょっと恐いな」

「アクタ」

 Nは景色に目もくれず、正面に座るアクタをじっと見据える。

「……最初に言っておくよ。ボクがプラズマ団の王様」

「………………」

 アクタも、Nに向き直る。

「ゲーチスに請われ、一緒にポケモンを救うんだよ」

「……そっか」

「驚かないのかい」

「驚いてるよ。予想も予感もしてなかった。でも……、なんでかな」

 アクタの心中は極めて冷静だった。この動揺の無さは、修行の成果というわけでもない。Nの告白を事実として受け止めることができたのは──

「ただ、納得だ」

 Nが単なるライバルではなく。

 ()であるということに、ただ納得している。

「エヌ。あんたはポケモンのために、プラズマ団にいるの?」

「ああ」

「プラズマ団のやっていることは、ポケモンのためになるの?」

「ああ」

「ほんとうに?」

「ボクたちは、すべてのポケモンを救うんだ」

 Nは、ようやく窓の外の景色に目を遣った。眩しいくらいの西日が少年たちを照らす。

「この世界にどれほどのポケモンがいるのだろうか……」

「………………」

 

 

 ふたりがゴンドラから降りた瞬間に。

「Nさま!」

「ご無事ですか!」

 プラズマ団たちが駆け寄ってきた。遊園地内のどこに隠れていたのだろうか。先ほど老人を脅迫していた団員たちだった。

「Nさま」と呼ばれているあたり、彼がプラズマ団の首魁であることは真実のようだ。──もっとも、アクタは疑っていなかったが。

「問題ない」

 Nは感情のこもっていない目で、プラズマ団員たちを一瞥する。

「ポケモンを救うために集まった人々も……ボクが守るよ」

 そんなプラズマ団員たちは、Nに心酔した視線を向けている。彼はやはり、「王様」なのだ。

「エヌ。そのひとたちは、良くないことをしていた。おじいさんを脅かして、ああいうのは──正義を騙って、暴力を振るっているだけだ」

 アクタはイッシュ地方の旅で、数人のプラズマ団と戦ってきた。そのなかには正義を抱いている者もいれば、それを口実に他者を虐げているだけの者もいる。

「だから、ちゃんと──」

「ボクが戦うあいだにキミたちはこの場を離れたまえ」

 Nは、モンスターボールを手に取った。アクタもその戦意にあてられて、腰のボールに触れる。

「……さてアクタ。ボクの考え、理解できるかい?」

 プラズマ団たちは、ふたりの少年から後ずさりをする。

「理解したいよ。でも──」

 むしろ理解はしているはずだ。だからこそ。

「でも、『奪う』というあんたたちの手段が、許せない」

「そうかい……。それは残念」

 空気が凍りつくほどに緊迫している。

 一触即発という表現があまりにも似つかわしい。

「さて……、ボクに視えた未来。ここではキミに勝てないが、逃げるプラズマ団のため、相手してもらうよ」

「未来? 勝てない? ふざけんな。負けたときの言い訳にでもするつもりかよ。勝つつもりでかかってこい! 本気でポケモンを思っているならさ!」

 アクタが投げたボールは、空高く舞い上がり、観覧車を構成するフレームにゴン、とぶつかった。

「………………」

「……ぼくは本気だからね」

 フタチマルは観覧車のフレームに立ち、ジトっとした目で主人を見下ろしていた。

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