ポケットモンスターNAVY ~暴投モンスターボール~   作:サンダーゴリラ

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レポート16 ライモンシティ/よそはよそ、きみはきみ

「フタチマル、“シェルブレード”!」

 ホタチに切り裂かれ、Nのメグロコが倒れる。

「……ズルッグ」

「フタチマル、交代。──バオッキー!」

 追っていたプラズマ団員たちはとっくに遊園地から姿を消しているが、アクタは彼らを逃したことに気づいていない。むしろ、彼らの存在すら頭から消え去っていた。

「ズルッグ、“いばる”だ」

「あ、『こんらん』に……! 攻撃が上がったけど……、とりあえず“みだれひっかき”!」

 いつものようにバトルに熱中するアクタと、対照的にNは静かに戦う。彼の頭脳は、この戦いの結果を『敗北』と計算した。が、手を抜いているつもりはない。

 プラズマ団たちの逃亡という目的はすでに達成されている。新たな目的は、このアクタというトレーナーの未知数の実力を、すこしでも多く収集することだ。

「“はじけるほのお”!」

 2匹目同士の戦いを制したのは、アクタのバオッキーであった。しかし『こんらん』により何度かわけも分からず自分を攻撃して、体力の消耗が激しい。

「これはバオッキーも交代だね。──アーケン、行ってみよう」

「ダルマッカ」

 アーケンとのバトルはいまだに不慣れな点もあるが、このバトルには勝機があった。アーケンはいわタイプも持っているので、ほのおタイプのダルマッカに対しては相性が良い。

「アーケン、“げんしのちから”だ!」

「──ダルマッカ、“ずつき”」

 それに、いわタイプならばノーマルタイプの技にも耐性がある。大きなダメージを負うことなく、再度の“げんちのちから”にでダルマッカを倒した。

「よし! ナイスだよ、アーケン!」

「不思議だ」

 呟きながら、Nは最後のポケモンを繰り出す。それは、鳥を模していることは明らかながらも、とても生物的には見えない多彩な体色を持つポケモン、シンボラー。

「負けるにしても、視えていた未来と違う? キミは?」

「……あんたが未来を視える、っていう話は信じちゃいないよ。だいたい、なんでもかんでも予想通りなんて楽しくないだろ」

 アーケンはひこうタイプを持つシンボラーを、“げんちのちから”で迎え撃つ。

「楽しい? そんなものに意味があるとは思えない。──シンボラー、“サイケこうせん”」

 きらめく光線を受けて、それまではしゃぐように戦っていたアーケンだったが、途端に動きが鈍り、そして弱々しい声で鳴き始める。

「ど、どうしたの、アーケン!? ──あ、これって特性の……!」

 アーケンの特性は『よわき』。体力が半減すると攻撃と特攻が下がる、デメリットでしかない珍しい特性である。

「体力の管理には気を遣わなきゃ……。回復したいところだけど、ここは交代しよう」

 アクタは弱気に鳴くアーケンを引っ込めて、フタチマルを繰り出した。

「シンボラー、“エアカッター”」

 空気の刃に切り裂かれながらも、フタチマルはシンボラーから目を離すことなく、主人の合図を待つ。

「“みずのはどう”!」

 空気を震わせる水の超音波が、シンボラーを打ち落とす。

「続けて“シェルブレード”!」

 追撃のホタチの斬撃にて、勝負は決した。

「結果は一緒だった……」

 戦闘不能になったシンボラーを見下ろすN。ポケモンを心配している様子でも、敗北を嘆いている様子でもない。

「だがキミは……何者だ?」

「たまに()()って呼ばれるけど……。べつに、ただのポケモントレーナーだよ」

 アクタはフタチマルを撫でて労う。しかしすぐにフタチマルは主人の手を振り払う。

「N。きっとあんたもそうだよ。チェレンも、ベルも、なにかを求めて旅しているうちは、みんな()()()ポケモントレーナーだ。だからこそ、みんなこれから強くなるんじゃないか」

 フタチマルをモンスターボールに戻す。Nもシンボラーを収め、この場にはポケモントレーナーふたりだけが対峙している。

「……キミは強いな。だがボクには変えるべき未来がある。そのために……!」

 Nはアクタにぐっと詰め寄る。

 背の高いNの灰色の瞳が、少年を見下ろす。

「ボクはチャンピオンを超える」

「………………」

「だれにも負けることのない唯一無二の存在となり、すべてのトレーナーにポケモンを解放させる! キミがポケモンと『いつまでも一緒』……! そう望むなら各地のジムバッジを集めポケモンリーグに向かえ! そこでボクを止めてみせるんだ」

 いつもの早口ながら、いつもより熱のこもった言葉に聞こえた。やがてNは少年から距離を取る。

「──それほどの強い気持ちでなければ、ボクは止められないよ」

「わかった。そうする。あんたはぼくが止める」

 迷いなく頷くアクタ。

 少年の表情に満足したのか、Nは、踵を返してその場から去って行った。

「……思わずわかった、なんて言っちゃった。もともと、今回もポケモンリーグは目指してみるつもりだったけど──」

 Nを止める。

 そう約束してしまったのだから、もう気楽な目標ではない。

()()()、ポケモンリーグに行かなくちゃなんだ」

 さしずめこれは、使命。

 

 

 使命ができたとはいえ、旅のペースを速めるつもりはない。

 なにも、Nと競争しているわけではないのだ。彼との旅はいずれ、ポケモンリーグで交わるだろう。それはまるで、Nに対する信用にも似た感覚であった。

「というわけで、引き続き旅を満喫するために……」

 翌日、アクタはライモンシティ北東のミュージカルホールを訪れた。

「こういうところも行っとかないとね!」

「やっぱりミュージカルが気になるよね! じゃあ入ろうっ!」

 ベルも一緒である。彼女はきのうもミュージカルに来たらしいが、きょうはアクタを案内してくれるという。

「でも、ちょっと意外かな。アクタってライモンジムの挑戦はまだなんでしょ? てっきり観光よりもそっちを優先するかと思ってた」

「バッジを集めるのも大事だけどさ、最近はバトル、バトルが続いているし……。ぼくもポケモンも、たまにはバトル以外でリフレッシュしないと」

 きらびやかなミュージカルホールで、さっそくベルが受付前まで案内してくれる。

「ミュージカルは観劇する以外にも、実際に自分で参加したりできるんだって! ドレスアップさえできれば、だれでもミュージカルに参加できるらしいけど……」

「へえ。ドレスアップ?」

 ポケモンをグッズで着飾ることを、ドレスアップというらしい。

 アクタはシンオウ地方での旅で、「ポケモンスーパーコンテスト」に参加したことがある。そのコンテストでも、アクセサリーでポケモンをドレスアップした後に、ダンスや演技で審査されるというものだった。

「ポケモンを『魅せる』っていうパフォーマンスも、なかなか楽しいよね。まあ、実際に上手くできるかはべつだけど……。あと、ポケモンたちが乗り気でやってくれるかどうかも問題だ」

 とりあえずアクタたちは、試着室にてドレスアップを試してみることにした。

 3つのモンスターボールを開けて、手持ちのポケモンたちを呼び出す。フタチマル、バオッキー、アーケンの3匹が、少年の前に並ぶ。

「アクタ、これがドレスアップのグッズだけど……」

 ベルからグッズケースを受け取る。頭、耳、顔、腕、胴体、腰。各所に装着できる装飾品がいくつか入っている。

「さ、だれからやってみる?」

 アクタが顔を上げると、フタチマルとバオッキーが、一歩退いた。

 アーケンだけが、状況を分かっていないようにアクタや仲間たちを見渡す。

「じゃあアーケン、着けてみよっか」

 リボンや眼鏡などの装飾品や、スカート、あるいは手に持つようなアイテムなど、様々なグッズを代わる代わるにアーケンに装着した。最初はされるがままにされていたアーケンだが、次第に鬱陶しくなったのか、やがて主人の手を振り払うようになった。

「ああ……っ!」

 ポケモンにも、物事に対して好き嫌いはあるわけで。

 現在の仲間である3匹は、残念ながらミュージカルに対して乗り気ではないらしい。

「しょうがない。ベルだけ参加してきてよ」

「ええ!? なんで!? だって、あ、あたしは……」

 意外そうに狼狽するベル。どうやら、自分がミュージカルに参加すること自体が発想になかったらしい。

「ムンナなんかかわいいから、似合うと思うんだけど」

「いやあ、うーん……。でも、あたしはいいよお」

 もちろん人間にも、物事に対して好き嫌いはあるわけで。

「まあいっか。今回は観劇だけにしよう」

「う、うん……。なんかごめんね?」

 なぜ謝るのだろうか。ベルの様子を不思議に思いながらも、アクタたちは観客席へと向かった。

 

 

「良かったー! ユニークで最高!」

「ね! あたしはキュートだと思った!」

 上機嫌でアクタとベルは、観客席を後にする。

「やっぱりぼく、フタチマルを説得してミュージカルに出てみようかな。クール系でコーディネートすれば絶対、良い感じだと思うんだよね。ベルも参加してみればいいのに」

「うーん、どうしようかなー?」

 実際に観劇したあとだとテンションが上がっているのか、まんざらでもなさそうな様子である。

「ミュージカルもステキだけど、他にも気になるところあるし」

「まあ、それはそうだろうけど」

「決ーめた! 先にライモン見物しちゃお。じゃあね、アクタ!」

 ミュージカル参戦を先延ばしにして、ベルはホールから去って行った。

「……さて、フタチマル」

 モンスターボールから出すと、フタチマルはアクタの要求を理解しているのか、ジトっとした目で主人を一瞥し、出口のほうへと歩いて行った。

 言葉は通じないが、雄弁な答えであった。

「やっぱりミュージカル、イヤか……。しょうがないね」

 そういうわけで、アクタもミュージカルホールを後にする。

 と、建物から出たところで。

「パパ!? どうしたのこんなところで?」

 ベルが、壮年の男性と対峙していた。

「どうもこうも、おまえを連れ戻しに来たんだよ。ママから聞いたけれど、ここまで旅をしたんだ。もう充分じゃないか」

「やだあ!!」

 ベルは男性──自身の父親から距離を取る。

「アクタやポケモンと一緒に旅するんだもん!」

「アクタ? だれなんだいそれは!」

「あのお、ぼくです」

 さすがに見過ごせず、自分の名前が出たタイミングで、アクタは親子に割って入ることにした。

「はじめまして、ぼくはアクタです。あの、パパさん」

「きみにパパさんと呼ばれる筋合いはない!」

「………………」

 少年は、困った。

 ベルを助けてあげたい。しかしこの『親子の事情』に口を出せるほどの弁舌を振るえる自信もない。

「その、ぼく、カントー地方から来ました。トレーナーとしての経験があるので、アララギ博士から頼まれて、ベルとチェレンと一緒に旅してサポートしています」

 とりあえず自分の立場を説明することにした。

「そ、そうだよ! アクタは先輩トレーナーだよ! とっても頼りになるんだから!」

 ベルは父親から隠れるように、アクタの背中にすがりつく。

「ボール投げるのは下手っぴだけど!」

 余計なことも言いながら。

「サポートがいるからって、安心できないね! きみのようなどこの馬の骨ともわからない子に、うちの娘を任せられるか!」

「………………」

 少年は、さらに困った。

 この父親がすこしおもしろく思えてきてしまったからだ。

「だいたい、なんであたしだけ帰らなくちゃいけないの!? チェレンだって一緒なのに! みんなで最後まで旅したいよお!」

「ダメだ! よそはよそ、うちはうち、だよ」

「だったらアタシはアタシ! パパはパパ、だもん!」

 口論する親子。その間に挟まれ、どうにか言葉を探すアクタ。

 しかしすぐに場を収められそうな言葉は、少年の人生経験からは導き出されない。親子喧嘩は平行線をたどるばかりだったが──

「お嬢さん。旅を続けなさいな」

 ──そこに、ひとりの女性が現れた。

 眩しいほどの金髪に、おさげのようにコードが伸びたヘッドホン。そしてスレンダーな体型、毅然とした立ち姿に、アクタは雷に打たれたかのように衝撃を受け、目を奪われた。

「ちょ……、ちょっと! どなたです? 親子の話に」

 しばらくクエスチョンマークを浮かべていたベルの父だが、ようやく女性に反論する。

「カミツレと申します。このライモンのジムリーダーや、モデルをしています」

「ジムリーダー……!」

 反射的にアクタは意を正す。カミツレと名乗った女性は、少年を一瞥し、そしてベルの横に立つ。

「もちろん、世界にはいろんな人がいます。自分とは考えがまったく異なる人もいて、ときには傷つくこともあるかも」

「そうでしょうとも! そうなんです! わたしはそれが心配で……」

「ですが──」

 カミツレは、父親に向き直る。

「そうしたことを繰り返し、自分と他人は違うことを、そして違っていて当然だと知っていくのが大事ですよね」

「……むむっ」

「それに心配しなくとも、トレーナーのそばにはいつもポケモンがいてくれます。いつもはかわいいのに、いざとなればすごく頼れる、素敵なポケモン……」

 ベルは、ふところのモンスターボールに触れた。旅のなかで、いつだってチャオブーたちはベルの味方だった。旅を続けたい、続けられると信じているのは、アクタやチェレンよりも、チャオブーたちを頼りにしているからだ。

 そう確信したベルは、アクタの背中から離れ、父親に駆け寄る

「お願い! パパが心配するように、大変なことがあるのは知ってるよ……。知ってるもん!」

 旅のなかで、何度かプラズマ団のトラブルに巻き込まれた。ベル自身がポケモンを奪われたこともあった。

「だけど! いい人もいるし、ポケモンと一緒に、あたしもちょっとは強くなったんだよ! だから!」

「……むむっ」

 父親は、閉口して考え込む。

「………………」

 やがて、口を開くと同時に、深くため息をついた。

「…………そうだよねえ」

 それは辟易というよりも、安堵した様子だった。

「旅を続けたいのがベルのワガママというなら、旅をやめさせたいのはわたしのワガママだ。──しかもどう考えてもわたしのほうが子供っぽい」

「パパ……!」

 納得したらしい父親の様子に、ベルの表情も明るくなる。

「ジムリーダーさんに言われて気づいたよ。そうだね、ベル。いまは君がしたいことをしたほうがいいんだよ、きっと。──パパは君の旅が、楽しいものであるよう祈るさ」

 そしてベルの父親は、アクタのほうに向き直る。

「アクタくんと言ったね。ベルをよろしく頼むね」

「……はい」

 少年がしっかりと頷いたことを確認し、ベルの父親はカミツレに会釈を残し、その場から立ち去って行った。

「──パパ! あたし、やりたいことを見つけたら、ちゃんと家に帰るから!」

 そんな背中に、ベルが励ますように声を投げかける。

 ひとまず、解決したようだ。大して役に立てなかったアクタだが、安堵して息をつく。

「あの人もきっと、昔はトレーナーとして旅をしてたはずなのに……。親って大変なのね」

「みたいですね」

 たまには親にも電話しないと、しみじみ思いながらも、アクタははっとして緊張感を取り戻す。

「──あ! カミツレさん、でしたよね! あの、ありがとうございました!」

 あらためて彼女を意識すると、なんだか身体が痺れるような思いだ。良い匂いまでしてくる。

 どぎまぎする少年をよそに、カミツレは、どこか寂しそうなベルに歩み寄る。

「おせっかいだった? なんだか困っているように見えたから声をかけちゃった」

「あ、いえ! ありがとうございました!」

「あなたたち、トレーナーならポケモンジムにいらっしゃい。わたしが旅の厳しさ、教えてあげるから」

 カミツレは少年少女にウインクを残し、ミュージカルホール前から颯爽と立ち去って行った。

「……かっこいい!!」

「かっこいい!!」

 少年少女は興奮していた。

「モデルさんだって! キレイで良い匂いがするわけだ!」

「あたし、カミツレさんのようなステキな女性になりたい!」

 しかしひとしきり盛り上がったところで、ふとベルはため息をついた。

「……はあ、あたしになにができるのかな?」

「そりゃあ、なんでもできると思うけど──いや」

 励まそうとするアクタだが、どうしても綺麗ごとのようになってしまう。

「なんでもできるうちに、いろいろやってみるといいよ。そしたらきっと、やりたいことが見つかると思う」

「……うん、そうだね! ライモンシティはいろいろあるから、いろいろやってみる! まずは……!」

 ベルは、先ほどまでいたミュージカルホールを振り返る。

「あたし、やっぱりミュージカルやってみようかな!」

「お、いいねえ! ぼくもぜひ観たいところだけど……」

 いま、アクタにはやりたいことがある。

「ぼく、カミツレさんと戦うよ」

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