ポケットモンスターNAVY ~暴投モンスターボール~ 作:サンダーゴリラ
「でんきタイプか……。『まひ』を受けるかもしれないから『クラボのみ』──あと素早いポケモンが多いイメージだな。『せんせいのツメ』なんかもありかな? で、わざマシンは……」
準備を終え、アクタは遊園地へと向かった。
『ライモンシティポケモンジム。リーダー、カミツレ。シャイニングビューティ』
「シャイニングビューティ……」
遊園地内、ある施設前のある看板を読んで、アクタはカミツレの印象に納得する。
外壁まで電飾で輝く、大きなドーム状の建物だ。なかに入るとさらに、少年は驚く。
「ジェットコースターだ!!」
いくつものカラフルなレールに、ひとり乗りのコースターがせわしなく走行している。
「どうっすか? 驚いたでしょう!? このジムは見てのとおりジェットコースターなんすよね!!」
そしていつものようにサングラスの男、ガイドーが話しかけてくる。賑やかなジムの雰囲気も手伝って、こころなしかテンションが高いように思える。
「まあ、とりあえずはこれを差し上げるっす!」
今回も『おいしいみず』を受け取る。
「ありがとうございます。えーと、見たところ、足場はいっぱいあるみたいなんですけど、ジェットコースター以外で奥に進む方法は……」
「このジェットコースタージムでは、コースターを乗り換えてながら、ジムリーダーのいる場所を目指してくださいっす!」
「……ぼく、もしかしたらジェットコースターが苦手かもなー、なんて……」
「ちなみにでんきタイプのポケモンは、じめんタイプの技が苦手なんすよ……」
「………………」
覚悟を決めるしかないらしい。
観覧車にさえ腰が引けたアクタ。施設の遊具、あるいは移動設備なのだから、安全性に関しては担保されているとはいえ──
「うわああああああああ!!」
猛スピードの急カーブ。
「あ──ああああああああ!!??」
急勾配を昇って、降りる、浮遊感。
「きゃああああああああ!!?? うっ!?」
レールを一回転して、一瞬の天地逆転。
「………………」
ジムの最奥までたどり着くころには、立っているのがやっとなほどの、這う這うの体であった。
「……あまりのスピードにクラクラしてない?」
そこには、ステージのようなジムの床に、足を伸ばして座るカミツレの姿があった。
「してるわ!!」
思わず声を荒げるアクタ。
「恐いですよ!! ジェットコースターは!!」
「あらあら。お気に召さなかったようね」
“なみのり”や“そらをとぶ”でポケモンに身を任せ、多少の荒い運転でもまるで平気なアクタだが、機械は話がべつである。
絶叫マシンは、べつである。
「まあ、ちょっと疲れたけど、具合は悪くないんで……。ふう……、うん。戦えます」
「結構。じゃあつぎは、愛しのポケモンたちであなたをクラクラさせちゃうけど」
立ち上がるカミツレ。アクタも威儀を正して、彼女に向かい合う。
「望むところです」
カミツレには魅了されつつあるアクタだが、バトルでは真剣にやらねば、と自分のなかのスイッチを入れた。
:
アクタのパーティはでんきタイプを苦手としている。エースのフタチマルはみずタイプで、期待の新入りであるアーケンもひこうタイプ。でんき技が効果抜群である。
「フタチマル!」
とはいえ、バオッキーにばかり苦労をかけるわけにはいかない。足元でボールを開けて、アクタはフタチマルを呼ぶ。
「エモンガ!」
対するカミツレは、黄色い翼膜で滑空する、頬に電気袋を持つポケモン、エモンガを繰り出した。
「ひこうタイプ……!?」
一瞬、アクタは動揺する。フタチマルにはじめんタイプの技、“あなをほる”をわざマシンで覚えさせていたのだが、ひこうタイプのエモンガには通用しないのだ。
ということで、作戦変更。
「先手必勝で、ガンガン攻めるよ! “みずのはどう”!」
振動する水が、エモンガを撃つ。
「ふうん──素早くて力強くて、なにより美しい動きね。あなたとポケモン……、華やかに輝いている!」
「ありがとうございます!」
「こっちも負けてられないわね。──エモンガ、“ボルトチェンジ”!」
雷をまとった突撃。効果抜群ながらも、フタチマルは耐える。
「よし、これならつぎの攻撃で……!」
身構えるフタチマルだったが、衝突したエモンガの姿は、カミツレの手元のモンスターボールに戻っていった。
「え、なんで──“とんぼがえり”のでんき技版ってこと!?」
攻撃と同時に控えているポケモンと交代する技だ。むしタイプの技である“とんぼがえり”といい、予期せぬタイミングでの交代には翻弄される。
「ご明察。それじゃ交代して──」
カミツレの呼び出す2匹目は、ふたたびエモンガである。先ほどとはべつの個体。もちろんダメージは負っていない。
「し、“シェルブレード”!」
「“ボルトチェンジ”」
ホタチの斬撃の直後、“ボルトチェンジ”によりフタチマルは倒れる。
「……十分な仕事だったよ。エモンガ2匹の体力を削ってくれた」
カミツレが交代させるのは、またエモンガ。ダメージがある様子から、1匹目のエモンガである。
「エモンガ2匹による代わる代わるの攻撃か。でも──複雑に考えるべきじゃないな」
努めて、アクタは冷静になろうとする。
「ふつうの倍くらい大きなエモンガが、1匹いると思えばいい」
「……おもしろいけど、それはちょっと違うんじゃないかしら」
発想すら的外れでも、一応少年は冷静である。
アクタはみずからの2匹目に、アーケンを選択した。
「エモンガ、“ボルトチェンジ”!」
やはり交代戦法は続く。しかしアクタがアーケンに命じたのは、いわタイプの攻撃技ではなく──
「“こうそくいどう”!」
素早さを高める変化技だった。
「速くなったところで──“げんしのちから”!」
交代してきたエモンガに、岩を放つ。先ほどの“ボルトチェンジ”のせいで、特性の『よわき』による弱体化はあったものの、タイプ相性のおかげでエモンガはとうとう、戦闘不能となった。
「よし! えーと、いまのエモンガは……2匹目に出てきたやつ、かな?」
“ボルトチェンジ”の数を指折り数えるアクタ。そんな少年に、カミツレは思わず舌なめずりをする。
「あなた、良いわね……。痺れてきちゃうわ」
お互い、『ひんし』になったのは1匹。そして2匹目は手負い。しかしこの状況は互角ではない。
「アーケンの最初の技に、“げんしのちから”ではなく“こうそくいどう”を選択したことで、あなたが有利に立っている。──エモンガの素早さは知ってたの?」
「ジムトレーナーさんたちも使ってましたからね。勉強させてもらいました。だってうちのパーティ、でんきタイプ苦手みたいだし」
なるほど、と頷いて、カミツレはエモンガ──1匹目に出した個体を繰り出した。
「エモンガ、“でんこうせっか”!」
必ず先制攻撃を取れる技であれば、素早さは関係ない。──ただしいわタイプを持つアーケンには効果いまひとつ。これは悪あがきにしかならなかった。
「“げんしのちから”!」
浮遊する岩に襲われ、エモンガその1も倒れた。
「これで追い詰められた、ってわけね──でも」
カミツレは最後のモンスターボールを手に取る。アクタも、アーケンを交代させることにした。
「ドラマチックに勝つには、ピンチが必要なのよ」
現れたのは、稲妻のようにとげとげしいたてがみを持つ、白と黒の体色のシマウマ型のポケモンだ。ジムトレーナーがシママという小ぶりなポケモンを使っていたが、その進化系だろう。
「ゼブライカ。痺れさせてあげて」
「──バオッキー!」
いよいよアクタは、バオッキーの入ったモンスターボールを投げる。
ボールはジェットコースターのレールの方向に飛んで行った。
「やべっ」
しかし運よく通りかかったコースターに当たって、バトルフィールドまで戻ってきた。
「……華麗なパフォーマンスね」
「いえ、あの、わざとじゃないんです」
バオッキーはいつもどおりの主人に、呆れたように肩をすくめた。
:
「ゼブライカ、“スパーク”!」
帯電したゼブライカの突撃。どうやら素早さは相手のほうがはるかに上らしい。
「バオッキー! “あなをほる”だ!」
わざマシンで覚えさせておいた、じめんタイプの技を使う。床の亀裂に潜行するバオッキー。特に対抗策は無いのか、足を止めたゼブライカに、やがて地中からの一撃が見舞われる。
「よし! 床のことはごめんなさい!!」
「気にしないで。バトルフィールドなんてどうとでも修繕できるわ。──“スパーク”!」
ゼブライカの攻撃は重い。この“スパーク”も何発も耐えれるものではない。そう悟ったアクタは、“あなをほる”に頼る作戦を変更することにした。
「“あくび”!」
バオッキーの吐息が、ゼブライカの眠気を誘う。──が、『ねむり』の状態に陥るには時間がかかる。これにはカミツレも、思わずため息をついた。
「ゼブライカが眠る前に、バオッキーは倒せるわよ。“スパーク”!」
「だとしても──“あなをほる”!」
素早さはゼブライカのほうが高い。なので、ここでバオッキーが負けてしまうことも、アクタにとっては計算せざるを得なかった。
『ねむり』の状態にして、アーケンにより勝負を制する。そのつもりだったのだが──
「あら」
ゼブライカの攻撃は、空振りした。
帯電した突撃よりも速く、バオッキーは地中に潜っていたのだ。
「あ──『せんせいのツメ』!?」
主人であるアクタが、驚愕の声を上げた。
「念のために持たせておいたのが……、こんな都合よく発動してくれるなんて……!」
『せんせいのツメ』。ポケモンに持たせておくと、たまに相手よりも速く行動できるようになる道具である。旅の道中で手に入れたのだが──『こんなこともあろうかと』と言えないほど確実性に欠けるため、期待せず、本気で念のために持たせておいたのだ。
「都合よく──いいえ、きっとあなたとバオッキーは、運を引き寄せたのだわ」
ゼブライカは、“あなをほる”に襲われる前に、『ねむり』の状態となる。
「誇るべきよ。すべてあなたたちの実力だわ」
「はい。──バオッキー!」
“あなをほる”でゼブライカが襲う。そして──
「“はじけるほのお”!!」
続く炎にて、眠り続けるゼブライカはそのまま戦闘不能となった。
「やった! すごい!」
勝利を収めたバオッキーを労う。バオッキーは自分の肩を撫でる主人を、じっと見つめた。
「う……はい、そうです。きみが負けると思って、アーケンに交代させるつもりでした……。そのあと、『げんきのかけら』とかを使って強引にでも……、なんて……」
いささか無情ともいえるアクタの想定に、バオッキーは特に怒ってなどおらず、肩をすくめて小さくため息をついた。
「クラクラさせるつもりが、あなたに痺れさせられたのね」
ゼブライカを収め、カミツレがアクタたちに歩み寄ってくる。
「ステキ……、ホレボレしちゃうファイトスタイル。あなた良いトレーナーね。なんだか感激……」
「そ、それほどでも……」
照れるアクタに、「これを……」とカミツレは稲妻を模したバッジを差し出した。
ボルトバッジ。このライモンジムを制した証である。
「やった!」
はしゃぐアクタ。バトルの功労者であるバオッキーも、誇らしげである。
「あなた……、つぎはホドモエシティには行くの? だってあそこにもポケモンジムがあるもの」
「えっと──」
アクタはタウンマップを開く。
「ぼくら、4番道路の方向から来たので……、つぎは5番道路か16番道路ですね」
「ワンダーブリッジはいま封鎖されてるから、16番道路の先には進めないわ」
「じゃあ5番道路から──はい、たしかにホドモエシティです」
ふと、カミツレは考え込む。
「──あの街も、たまに跳ね橋が封鎖されてるのよね。でもあたしが口を利いて通れるようにしてあげられるから、この街から旅立つときは声をかけて」
「いいんですか? それは助かります」
アクタはカミツレにしっかりと頭を下げて、ジムから去ろうとし──不意に足を止めて、彼女に振り返った。
「このジェットコースターなんですけど」
「なあに?」
「やめたほうがいいと思います。恐いので」
それはさながら、懇願だった。
「カミツレさん、モデルさんだっていうから、こう──ステージのランウェイみたいな? そういうのがいいと思います!」
「………………ま、考えとくわ」
仕掛けの改善には期待できないが、よく考えたら、バッジを手に入れた以上、アクタがふたたびこのジムに来る可能性は低いので、このジェットコースターのシステムが継続されようが関係ないのだが。