ポケットモンスターNAVY ~暴投モンスターボール~   作:サンダーゴリラ

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レポート19 ホドモエシティ/人にやさしく

 チェレンとタッグを組んだ、幼稚園児たちとのマルチバトルの結果は──一応は勝利を収めた。

 園児たちのポケモンは、それぞれハーデリア。チェレンのレパルダスはオフェンスとして積極的に攻撃し、アクタとバオッキーはそのサポートを務めた。──が、正直なところ、上手く戦えたとは言い難い。

 アクタとチェレンのコンビネーションは、以前『地下水脈の穴』で組んだときとは違い、どうにも噛み合わなかった。

「………………」

「………………」

 互いに横目で窺う。

 責め合うなんて、あまりにも醜い。しかし無様なであったコンビネーションに、どう感想を述べるべきか、ふたりとも迷っていた。

 そんな勝者たちとは対照的に。

「あたしのポケモン、すごくかわいかった!」

「ポケモンがぼくのいうことをきいてたたかってくれたよ!」

 敗者側である園児たちは満面の笑みで盛り上がっているものだから、なおさら少年ふたりの立場はなかった。

「お前たち! 勝てなかったが良い勝負だったな! ポケモンも嬉しそうだったし」

 アデクは、負けた園児たちを称える。そしてレパルダスをモンスターボールに戻す、チェレンに向き直る。

「さて若者よ。きみのように強さを求める者がいれば、彼らのようにポケモンと一緒にいるだけで満足する者もいる。いろんな人がいるのだ。答えもいろいろある」

 諭すような口調ではあるが、説教というにはあまりにも、アデクの表情は晴れやかだ。

「きみとわしの考えるチャンピオン像が違っていても、そういうものだと思ってくれい!」

 そうアデクは呵々大笑した。

 チェレンは笑っていない。どこか納得がいっていないように、うつむいていた。

「──まったく、アデクさんは相変わらずね」

 カミツレは苦笑して肩をすくめる。「相変わらず」であるらしいアデクに安堵しているように。

「……さ、行きましょ。ホドモエの跳ね橋はもうすぐよ。──失礼しますね、アデクさん」

 会釈して先を行くカミツレ。

「──強いのがチャンピオン! それ以外の答えはないよ」

 チェレンはアデクに背を向けて、速足でカミツレの後を追った。

「………………」

 アクタは、足を止めたままだった。

「──どうした? きみは行かんのか?」

「あ、はい。行きますけど」

 アクタは、アデクと先行くカミツレたちを見比べて──

「あの、さっきの話」

 すこしの時間だけ、アデクへの興味を優先することにした。

「うん?」

「ぼく、どっちもなんです」

 首を傾げるアデク。さすがに「どっちも」という言葉だけでは伝わらなかったらしい。アクタは慌てて細くする。

「チェレンみたいに、強くなりたいって気持ちも、あの子たちみたいに、ポケモンと一緒にいたいって気持ち──そのどっちも持ってるんです」

「ほう」

 アデクは興味深そうに、無精ひげを撫でる。

「強くなりたい。ポケモンと一緒にいたい。──それは十分、両立することだ。むしろ両立すべきことだな」

「はい。……どこかで、ポケモンと一緒にいられればいい、って思ってました。それさえできれば満足で──でも、それだけじゃダメなんだ」

 アクタの脳裏に浮かぶのは、騎士のような制服をまとった集団。

「ポケモンを奪うひとたちがいる」

 プラズマ団、だけではない。

 ロケット団。ギンガ団。

 ポケモンと人間のあいだを脅かす者たちは、どこにでもいる。

「ぼくはポケモンが好きです。だからポケモンたちとずっと一緒にいるために、強くなります」

 はっきりとした決意に、アデクは神妙な面持ちで頷く。

「──ひととポケモンは違う」

「……はい」

「そんな全然違う存在が、お互いを認め合って一緒にいるのは素晴らしいな!」

「……はい!」

 パフォーマーたちでにぎわう5番道路では、ひともポケモンも、だれもが笑顔で過ごしている。

「アクタといったね。そしてさっきの若者はチェレンか。強くなったきみたちと戦える日が楽しみだ!」

 そしてもうひとり。

 Nという、チャンピオンを超えることを目指すものがいることを、アクタは告げなかった。ネタバレみたいだと思ったからだ。

 

 

「アクタ、こっち」

 チェレンが手招きをする。

「遅いよ。なにを話していたの?」

「んーと、世間話かな? アデクさんって、めちゃくちゃ良いひとだよね」

 アデクだけではなく、マルチバトルをした園児たちにも話を聞いた。

 曰く。

「おじいちゃんはね、とても強いんだ! それにね、ポケモンに優しいよ!」

「あたし、ポケモンってこわいと思っていたけど、優しくてあたたかいこと、おじいちゃんが教えてくれたの」

 アデクはチャンピオンなのに、幼い少年少女には『おじいちゃん』として慕われている。そんな親しみやすい姿勢は、アクタにとっては尊敬に値する。

「ただ優しければ良いとは思わないな」

 しかしチェレンには不満があるようだ。

「強さも優しさも、どっちも両立できると思うよ。だからあのひとは、チャンピオンなんじゃないの?」

「では、どちらかを優先しなければならないとしたら? ──優しさは、強いことから生まれる余裕に過ぎない。……ぼくはトレーナーだ。強くなり勝利することで、ぼくの正しさを証明するよ。──チャンピオンに対しても、きみに対しても」

「それは……」

「アクタも来たことだし」

 言いたいことはあったが、いまは議論(ディベート)をしている場合ではない。アクタが口を開いたあたりで、カミツレの言葉が会話を断ち切った。

「さてと、連絡」

 カミツレは、橋のほうに歩み出てライブキャスターの通話を始めた。

 赤い鉄で組まれた橋は壁のように反り返っていて、ホドモエシティへの道を封鎖していた。

 跳ね橋というものは一般的に、河川を横切る船の通行により上げ下げされるものである。上がったままという状態は、すくなからず異常事態だ。

「これは……、まあ、行けないよね」

 縦になった橋の迫力に、思わずアクタは息を呑んだ。いつもなら引き返すことも考え始めるところだが、今回はカミツレがどうにかしてくれる、らしい。

「わたしです。跳ね橋だけど、降ろしてよ。あなたに挑戦したいってトレーナーがいるの。──はい。──よろしく」

 通話内容こそわからなかったが、ずいぶんあっさりと終了し、カミツレはライブキャスターを切って跳ね橋を指さす。

「さ、見てて!」

 垂直に立ちはだかっていた鋼鉄の壁が、ゆっくりと下がっていく。やがて反対側の壁と連結し、跳ね橋が完成した。

「お、おおー……」

 思わずアクタの口から声が漏れる。

「すごい……。もう一回見たいな」

「勘弁してくれ」

 冷徹に突っ込むチェレン。カミツレは、口元を緩ませながら少年たちに振り向く。

「テレビの仕事があるから、わたし、ここで帰るわね」

「は、はい。いろいろとありがとうございました」

「つぎの街のジムリーダーはクセのあるおっさんだけど、あなたたち、がんばって」

 ふたりの肩を叩いて、カミツレは美しいウォーキングで、ライモンシティの方向に去って行った。

「……あのひとも、優しいひとだったな」

 カミツレの後ろ姿に見惚れるアクタ。

「チェレンの言うとおり、強いひとって優しいひとが多いよね」

「……先に行くよ」

「あ、待って待って。一緒に行くよ」

 きょうだけは、できるだけチェレンと行動をともにしたかった。

 

 

────

 ホドモエシティ。

 ホドモエが表しているのは、

 船の帆と渦巻く水のこと。

────

 

「フン! お前らがカミツレの話していたトレーナーか」

 跳ね橋を渡り、街に足を踏み入れた少年たちを待ち構えていたのは、白いテンガロンハットを被った、西部劇の保安官のような男だった。腕を組んで仁王立ちする姿は、恰幅の良い体格も手伝って、なんとも威厳のある雰囲気である。

「そう言うあなたは──カミツレさんの言ってた、クセのある……」

「アクタ、ストップ」

 チェレンはさっとアクタの口を塞ぐ。

「あの小娘がワシをどう言ってたか知らんが──ワシがこの街のジムリーダー、ヤーコンだ!」

 厳しい顔つきは、まるで崩れない。クセのあるなし以前に、どうやら──

「歓迎なんかしないぞ。なにしろ橋を降ろしたせいで、捕えていたプラズマ団が街中に逃げてしまったからな!!」

 歓迎されていないどころか、事態は悪い方向に動き出していた。

「え、なんで橋を降ろしたせいで?」

「決まっとるだろ。橋を降ろすのにワシは、一時的にヤツらから目を離さなきゃならんかったからだ」

「つまり隙を突かれちゃったわけですね」

「なんだ生意気だな、帽子の坊主」

 どうやら失言だったらしい。アクタはぺこりと頭を下げて。

「ぼくはアクタです。こっちはチェレン」

 ついでに自己紹介をする。

「お前らの名前なんかどうでもいい!」

 ピシャリと言い放つヤーコン。明確に「優しくない」態度に、チェレンはため息をつく。

「……メンドーだな」

 しかも、わざとヤーコンにも聞こえるように呟いて。

「橋を降ろしてくれて感謝してますけど、それとはプラズマ団のことは無関係ですよね?」

「なんとでも言え。大事なのは、お前たちが来た……。そしてプラズマ団が街中に逃げていった、ということだ。自分でも強引だと思うが──」

「じゃあぼくらもプラズマ団を探しますよ」

 ヤーコンが言い終わる前に、アクタは手を挙げた

 ヤーコンはどうやら、おなじことを命じようとしたらしい。どこか満足気に「フン」と鼻を鳴らし、踵を返す。

「そうしろ。お前ら、凄腕のトレーナーなんだろ?」

 街の方向に歩いていくヤーコン。途中で振り返り──

「そうだな……。プラズマ団を見つけ出したら、ジムで挑戦を受けてやるぞ! 人生はギブアンドテイク!」

 指でコインのような形を作って、少年たちに示す。やがてのしのしと再度歩き出し、ヤーコンは去って行った。

「クセのある、か……。あ、ごめんチェレン。プラズマ団のこと──探すって、勝手に決めちゃった」

「きみに言われなくても、プラズマ団は探すつもりだったよ。──メンドーな連中を倒しつつ、強くなれるからね……」

 悪人を相手にするという危険に変わりはないが、なるほど、ポケモントレーナーとのバトルに関しては修行にもなる。

「逃げたプラズマ団か……。エヌがいなけりゃいいけど」

 アクタはぼそりと呟いてから、しかし首を横に振った。

 それはあり得ない。

 ジムリーダーが相手とはいえ、彼が拿捕されるという醜態を晒すわけがない。

 

 

 それからアクタとチェレンは、手分けしてホドモエシティを探索した。アクタには自転車があるので、街の様子を把握するのに時間はかからなかった。

 交易港でもあるこの街は、ホドモエマーケットという市場が賑わっている。賑わっている以上、どうやらいまのところプラズマ団の被害は受けていないようだ。

「あ、モーモーミルクだ」

 マーケットを見回っている途中、見知ったドリンクに遭遇した。シンオウ地方の『カフェ山小屋』で出会ったほか、産地であるジョウトの『モーモー牧場』が産地である、栄養満点のミルタンクの乳である。

「いらっしゃいませ! うちのモーモーミルクは産地直送、搾りたて新鮮なんですよ!」

「へー、じゃあジョウトから……。とりあえず1ダースください」

 それから市場を後にしたアクタは、ポケモンたちと冷たいモーモーミルクでのどを潤す。

「ふー……、どうにも街中にはプラズマ団、いないみたいだね」

 すくなくとも市場や居住区は平和そのものである。

「──まあ、プラズマ団じゃなくても、怪しい男……ていうかおもしろい男のひとがいたけどね」

 

 

「オレは……恋する男──その名もチャールズ。バイクに乗って風になるのが似合う、ツミな男さ──」

 

 

 バイク好きの彼は、普段からホドモエシティの名物男らしいので、要注意人物から除外する。

「ええと、あとこの街で調べてないのは──」

 ポケモンジム──にはヤーコン本人がいるので、まさかそこにプラズマ団が逃げ込むわけはない。ならば怪しいのは、南西にある冷凍コンテナだ。

「おっと、これは……うん。いるとしたら、やっぱりこのあたりかな」

 コンテナ群は入り組んでいる。野生ポケモンが棲む草むらまであるほどだ。

「でもこのコンテナのなかに逃げ込まれてたら、探すのメンドーだな……おっと、チェレンみたいなこと言っちゃった」

 などとひとりでニヤニヤ笑っていると。

「アクタ……」

「うわあ!?」

 背後からチェレンが現れた。

「いや、違っ……、真似してないよ!?」

「なんの話? そんなことより──」

 どうやら独白を聞かれたわけではないらしい。アクタはほっと胸を撫で下ろす。

「まさかこの中に、プラズマ団いないよな……?

 チェレンは、かたわらにある大きな冷凍コンテナを見上げた。

「さっき、ほかのコンテナの中を見て回ってたんだ。でもプラズマ団はいなかった。というわけで残るはこの、冷凍コンテナだけ」

 ため息をつくチェレン。

「……寒いのは苦手なのに調べないといけないのか。ちょっとメンドーだな」

 ご本人から「メンドー」という言葉が聞けて、アクタはすこし嬉しくなった。

「だったらそのぶん、ぼくががんばるよ。ぼく、しばらく雪山で暮らしてたことがあるから、寒いのには慣れてるかも」

「どういう経歴なんだい、『白銀の怪物』って……」

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