ポケットモンスターNAVY ~暴投モンスターボール~   作:サンダーゴリラ

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レポート20 冷凍コンテナ/逢魔が時

「さっさと中を調べようか」

「うん。──寒うっ!!」

 冷凍コンテナに入ったアクタは、さっそく悲鳴を上げた。

「たしかにすごく寒いけど──アクタ、寒さには慣れてるんじゃなかったの?」

「前言撤回! 寒さに()()とかない! 寒いと寒い!」

 震える手で、バオッキーが入ったモンスターボールを投げる。

 いつものとおり、ボールはあらぬ方向へ飛んで行って、遠くに現れたバオッキーは、凍った床をつーっと滑っていった。

「ああ! バオッキー、戻ってきて! ぼくを抱き締めて!」

「……はあ」

 チェレンは慌ただしい友人をしり目に、冷凍コンテナを見渡す。

 視界に映る範囲では、特に異常な様子はない。厚着した作業員だって何人かいる。どうやらこのコンテナにもプラズマ団はいなさそうだが──

「ここもハズレかな。出ようか?」

「い、いや、ちゃんと探そう」

 バオッキーに抱き着きながらも、アクタの目は決して弱気なものではない。

「ここ、寒いし、二度と探さなくていいように、いまのうちにすみずみまでチェックしよう。もしプラズマ団がいたら、風邪を引いてないか心配だ」

「……うん」

 再度の探索をしないために、という意見には納得できるが、敵を心配する点についてはチェレンにはまったく理解できなかった。

「……それにしても」

 共に冷凍コンテナ内を歩きながら、ふとチェレンは口を開く。

「チャンピオンが言っていた、トレーナーにとって強い以外に大事なことって、なんだろうね? やっぱり優しさ?」

「ケチャップ」

「は?」

「──あ、ごめん。ボーっとしてた。大事なことだよね。──そんなん、いっぱいあるからわかんないよ」

「強さの優先度は、そんなに低いのかい」

「ううん。強さも含めて、大事なものはいっぱいあると思うな」

「………………」

「ぼく、チャンピオンになったことないけどさ、なんていうか──強ければいい、っていうのは違うと思うな。すくなくともぼくの知っているチャンピオンたちは、もっといろいろすごかった」

「………………」

「チャンピオン──というか、トレーナーにとって大事なこと。それは一生かけてもわからないんじゃ……いや。一個だけはっきり言える」

「それはなんだい?」

「ポケモンが、大事」

「……その答えはズルいでしょ」

 

 

 作業員たちとのポケモンバトルで冷える身体を暖めながら、やがてたどり着いた最奥のコンテナに。

「お前たち、もっとワタシをくるめ。寒くて敵わんぞ……」

 プラズマ団たちが()()()()()()()()()をしていた。

 中心にいるのは、服装から七賢人と見える。

「……やれやれ。本当に隠れていたとは」

「まー、楽しそうなことで……」

 そんな彼らに、どこか冷ややかな様子で歩み寄るふたりの少年。

「寒いなら、メンドーだけど外まで案内するよ?」

「!」

 紫色の衣をまとった七賢人がこちらに気づく。

「貴様らは……!?」

「ヤーコンさんに言われて、あんたたちを探してました。おじいちゃんにこの寒さは堪えるでしょ。あとポケモン返せよ」

「今、預かっているのは王の友達であるポケモン。こんなところで傷つけるわけにはいかぬ。──お前たち、こやつらを蹴散らせ」

「わかりました、七賢人さま!」

 七賢人を囲んでいたプラズマ団員八名が、おしくらまんじゅうを解いて、こんどは少年たちを取り囲む。

「というわけでオレたちが相手だ!」

「……ポケモンを傷つけるつもりはないってのになあ」

 アクタとチェレンは背中合わせになって、モンスターボールを構える。

「それじゃチェレン──二、三人ほど任せてもいい?」

「馬鹿にしてる? 半分ずつ片付けよう。アクタはそっちのプラズマ団を頼む!」

 

 

「オレはこのなかで、なかなか強いプラズマ団!」

 ミルホッグとズルッグを、バオッキーで倒す。

「……ひとと共に働くポケモンたち。楽しそうに見えるが、きっと苦しんでいるのだ! そうに違いない!」

「そうかな? 見たとおりに楽しんでると思うな」

 

 

「アタイこのなかで、それなりに強いプラズマ団!」

 ヤブクロンを、アーケンが打ち破る。

「……なぜかしら。なんだか眠くなってきた」

「早く出たほうがいいですね! もうすぐだから、がんばって!」

 

 

「オレはこのなかで、結構強いプラズマ団!」

 メグロコとミルホッグを、アーケンとフタチマルで退ける。

「奪われたら奪い返す……。いいか、忘れるなよ……!」

「こっちのセリフだ。その行為が悪いことだって、忘れるなよ」

 

 

「アタクシこのなかで、かなり強ーいプラズマ団!」

 レパルダスを、フタチマルが切り裂く。

「……奪い集めたポケモンをまとめて運ぶため、夜中のコンテナ前に集まっていたところ……、ヤーコンのおっさんに見つかり、捕えられていたのよ……」

「そっちの計画より、ヤーコンさんのほうが上手だったわけだ。ポケモンたちが無事ならなによりだけど」

 

 

 チェレンのほうも、苦戦した様子もなく四人のプラズマ団を無力化していた。そんな、ちょうど少年たちが完全に勝利したタイミングで。

「おお! こんな寒いところに身を潜めていたとはな!」

 ジムリーダーにして、このコンテナの責任者でもあるヤーコンが、部下の作業員たちを引き連れて現れた。

「あ、ヤーコンさん。ちょうど落ち着いたところです」

 言葉のとおり余裕そうなアクタたちと、反対に追い詰められた様子のプラズマ団たちを一瞥し、ヤーコンは「フン」と頷いて、部下たちに振り返る。

「お前たち、このポケモンドロボウを連れていけ!」

「ラジャー!!」

 そういうことで。

 七賢人、ヴィオを含むプラズマ団たちは、もはや抵抗する気力もなく、非常にスムーズに作業員たちに連れて行かれた。

「お前たち、ちょっとはやるな。まさか日のあるうちに奴らを見つけ出すとは」

 ヤーコンが金の腕時計に目を落とし、少年たちに背を向ける。

「さて約束だ! オレさまのジムに挑戦しに来い!」

 ジムチャレンジは許されたらしい。──もともと、ポケモントレーナーである時点でポケモンジムへの挑戦権は持ち合わせているのだが。

「ふー、これで一件落着かな。良かったね」

 アクタのため息は、寒さで白くなる。

「まあね。それにしても、プラズマ団にも困ったものだね。やれやれ……」

 チェレンは肩をすくめる。

「そうだね。ぼくが気になっているのは、あのひとたち、自分たちが正しいと思って活動していることだ。どんな理由があっても、ポケモンを奪うなんて悪いことなのに。自分たちの理想ばかりを優先しちゃダメでしょ」

 物憂げなアクタに、チェレンもふと、考え込む。

「プラズマ団の理想──それはポケモンとひとが離れ離れになること……。それってこの世界からポケモンがいなくなることと同じじゃないか……」

「……ああ、なるほど。人間の社会からポケモンから消えるってことだから──うん。そうとも言えるよね」

「まったく、メンドーな連中だな。寒いから外に出るよ」

「うん。あったかいスープが飲みたいな。ケチャップ入りの」

 少年たちはすっかり、事件の解決と自分たちの勝利を確信していたのだが。

 それは、思い違いであった。

「あ」

 ポケモンセンターに立ち寄ろうとしたアクタとチェレンは、ふと、街の北東の道を歩くプラズマ団たちに気づいた。

 捕えられたプラズマ団──ではない。彼らとはまた違った顔ぶれ。そして彼らの先頭を歩く豪奢なマントは、忘れようもない。

「ゲーチス……!?」

 思わずアクタは走り出す。チェレンも続く。

 やがて到着したのは、ホドモエジムの前である。

「ヤーコンさん、はじめまして。ワタクシ、プラズマ団のゲーチスと申します」

 並んだプラズマ団員。その中央に、仮面のようなモノクルを装着した長髪の男、ゲーチス。カラクサタウンの演説を彷彿させる整列だったが──雰囲気はひりつくように緊張している。

「お世話になった同志を引き取りに来ました」

 ホドモエジムの扉の前にて彼らと対峙するのは、ジムリーダー、ヤーコン。そのかたわらには先ほど捕まった七賢人とプラズマ団員がいる。

「いやいや、礼はいらんよ。あんたのお仲間がポケモンを奪おうとしていたんでね」

「おや、誤解があるようで。ワタクシどもは、ポケモンを悪い人間たちから解放しているだけですよ」

 思わずアクタは口をはさみたくなったが、チェレンに肩を掴まれて制止する。

「そうだといいがね」

 ヤーコンは「フン」と鼻で笑う。

「ワシは正直者ゆえ、言葉遣いが悪い。──それに反して、あんたの言葉は奇麗だが、どうもきなくさくてな。──で、なんだというんだ?」

 ゲーチスに負けず劣らず貫禄のある態度のヤーコン。さすが、相手の言葉に一切の隙を見せない。

「こいつらはポケモンを窃盗した犯罪者だ。あんたらに返すより、もっと適切な場所に突き出したほうが、世のなかのためになるだろうよ」

「──良い街ですね」

 ふと。

 ゲーチスは振り返って、高台からホドモエシティを見下ろす。

「賑わうマーケット。世界中から運ばれる貨物を保管するコンテナ。『イッシュ地方の玄関』と呼ばれるのも、じつに得心のいく表現です」

「それがなんだというんだ?」

 眉をひそめるヤーコン。ゲーチスはふたたび、彼に向き直る。

「いえね。プラズマ団としても、ホドモエシティに興味がありまして──ここにいる以外にも()()()()()()()()()()()()()()……」

 ゲーチスが背にした夕日はどんどん沈んでいき、街の色は薄暗くなっていく。

「……その言葉、ウソかほんとかわからんが」

 ヤーコンはテンガロンハットを押さえて、浅くため息をつく。

「戦わずして勝つとはね。大したもんだよ──フン! わかった。こいつらを連れて帰りな!」

「さすが『鉱山王』と呼ばれる商売人……。状況を見る目に優れておられる」

 渋い表情のヤーコンに、ゲーチスは穏やかな笑顔で返した。

「では……、そちらの七賢人を引き取らせていただきます……」

 捕まっていた七賢人ヴィオと、プラズマ団たちはゲーチスのもとへ速足で駆けつけ、そしてひざまずく。

「ゲーチスさま……。ありがとうございます……」

「よいのです。共に王のため働く同志……、おなじ七賢人ではないですか」

 ゲーチスの笑顔は優しい。

 甘く、柔らかく、そして、毒々しい。

「それではみなさん。またいつの日か、お会いすることもあるでしょう」

 プラズマ団たちは、街から去って行った。

 悪事は防いだ。

 しかして、犯人たちは逃した。──否、()()()()

 これではまるで、敗北だ。

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